【完結】亡くなった婚約者の弟と婚約させられたけど⋯⋯【正しい婚約破棄計画】

との

文字の大きさ
24 / 49

24.ライラVSジェラルド

しおりを挟む
 既にハーヴィーに手をかけているのが真実ならジェラルドに躊躇いはないはずだとターニャが柳眉を逆立てた。

「ひとりがいいのです。ジェラルドはノアが強いと知っていますから、彼がそばにいたら警戒して話をしないかもしれません。わたくしは普段彼以外の護衛や侍女を連れていないので、別の人を連れていれば警戒されてしまいます」

「しかし⋯⋯」


「皆さんを信じておりますし、危険だと思えばすぐに退散しますので」

 誰よりもノアを信じているし応接室の外にはデレクもいる。

(2人が応接室を挟んだ状態でいてくれればなんの心配もいらないわ)




 プリンストン侯爵家の馬車と護送用の馬車を連ね、騎乗した騎士団に囲まれてメイヨー公爵家に向かった。

 少し離れた場所で騎士団のメンバーとノアは待機し、デレクが操る馬車に乗ったライラがひとりで公爵家を訪れた。

「突然で申し訳ありません。ジェラルドに教えてもらいたいことができて⋯⋯」

 今朝生徒会の金庫から持ち帰った箱をこれ見よがしに見せて、疲れたように話すライラを心配した執事が玄関脇の椅子を勧めてくれた。

「こちらにお掛けになって少々お待ち下さい」

 急足で階段を登る執事の後ろ姿を眺めながら溜息をついた。

 前回ここにきた時はハーヴィーと一緒の馬車でやって来た。その後ミリセントも交えた4人でお茶をしてボードゲームやトランプを楽しんだ。

(まさかジェラルドがハーヴィーとの付き合いを嫌がってるなんて思いもしなかったわ。理由はなんだったのかしら)

 ハーヴィーが忙しくなったのはターンブリー侯爵家と貿易会社の不正に気付いてからだが、同じ頃ライラも付き合いを減らしプリンストン侯爵の帳簿を調べはじめた。ミリセントとは同じクラスだったのでお昼を一緒に食べ休憩時間も一緒にいることが多かった。

(ハーヴィーはそう言う事に目敏かったから気付いてたのかも⋯⋯私は全然気付いてなくて本当に情けないわ。
メイヨー公爵がターンブリー侯爵家との付き合いを嫌がりはじめたのなら、プリンストン侯爵家との付き合いも嫌がってたのかしら?
ミリセントからはそんな様子は感じなかったんだけどなあ)

 隠し事が苦手で真っ直ぐな性格のミリセントならジェラルドから愚痴を聞いていれば態度に出ていた可能性があるし、距離を置きたい理由に納得していたのなら正直に言ってくれたような気がする。

(それにしても、人の心って分からないものね。あれほどミリセントと仲がいいジェラルドが浮気をしてたなんて⋯⋯それも犯罪に手を染めるほどなら相当めり込んでいたって言うことよね)



 メイヨー公爵家はこの国でもトップクラスの資産家で、それはプリンストン侯爵家のような胡散臭いものではなく代々継承されてきたものや順調な領地経営から生まれたもの。
 はっきりと聞いたことはないが普段の話の様子では小遣いとして毎月与えられている金額もかなりなもののように感じていた。

(かなり余裕があるみたいで、ミリセントが学生らしくない高額のプレゼントを貰ってるってミリアーナおばさまが気にしておられたくらいだもの)



「ライラ、突然どうしたんだい?」

 朝から激動の時間が続き疲れ果てたライラがため息をついていると、少し慌てた様子のジェラルドが階段を駆け降りてきた。


「先触れも出さず突然来てごめんなさい」

 膝に乗せた箱を置き換えながらライラが頭を下げた。

「そんなこと気にしないでいいよ。その箱は今朝の?」

「ええ、一度持ち帰ったけど鍵がなくて」


「そう⋯⋯箱は私が持つから取り敢えず居間に行こう。ノアがいないなんて珍しいね」

「あの、応接室じゃダメかしら⋯⋯その、応接室以外の場所ではハーヴィーの事を思い出しそうで」

「そうか、応接室は使ったことがなかったね。気が利かなくて申し訳ない」

「とんでもない、私こそ⋯⋯ありがとう」



 テーブルの上に箱を置きテラスを一望できるソファにジェラルドと向かい合わせになって腰掛けた。ライラは勿論テラスの方を向いた席を選んで座ったのでジェラルドはテラスに背を向けて座ることになった。


 使う予定のなかった応接室は冷え切っており、メイドが慌てて暖炉に火を起こしお茶とお菓子が運ばれてきた。

「ドアを少しだけ開けておいた方が良いかな?」

 ライラが小さく首を横に振ると退出するメイドにドアを閉めるように言ったジェラルドと漸くふたりきりになった。


「⋯⋯それで、今日はどうしたんだい?」

「ええ⋯⋯教室に置いておくのは不安になって⋯⋯あの後ね、屋敷に持ち帰ることにしたの」

 緊張しているライラの態度を疲れだろうと思ったジェラルドがサクサクとした食感のジャンブルクッキーの一種を勧めてきた。

「食べてごらん、今回のはナッツを入れてもらったんだ」

「ええ、ありがとう」


「えっと、帰り道は大丈夫だった? いや、特に理由はないんだけど⋯⋯最近物騒な事件が多いって父上が仰ってたから」

「ああ、雑木林の所で賊が出たけどノアがいたから無事だったわ。なんだか運が悪くて嫌になっちゃうわ」

 とってつけたようなジェラルドの説明だが、何も知らない人が聞けばただの雑談に聞こえたかもしれない。


「あの箱って中はなんだったんだい?」

 ライラの顔を覗き見るようにしてジェラルドが尋ねた。

鍵を持ってないから⋯⋯」

 鍵を持っているのはノアだから嘘は言っていない。表情を変えないライラが箱を見ながら呟くとあからさまにホッとした態度を見せたジェラルドに呆れ返った。

(こんな分かりやすい人だった? それなのに一度も違和感を感じていなかったなんて、私って⋯⋯)


『ライラは鈍感だからなあ』

『えー、そんな言い方って酷すぎるわ』

『私はそこも気に入ってるよ。そのお陰で一緒にいて肩の力が入らずにリラックスできるんだ』

『ぬいぐるみ扱いされてるみたいで納得いかないけど許してあげる』



(ハーヴィーにも認定されてたし、今更かもね)

「これをどうしようかなって考えてて⋯⋯」

「と言うと?」

「ハーヴィーが私に託したものでしょう、そう思うと⋯⋯」

「そうか、よかったら暫くの間私が預ろうか? ライラの気持ちが落ち着くまでとか」

 前のめりになって勢いこむジェラルドを思わず睨みそうになったライラはグッと息を堪えた後溜息をついて誤魔化した。

「そう言う方法もあるのかしら?」

 ライラがぽそりと呟いた時テラスの隅でデレクが手を振っているのが見えた。

(流石騎士団だわ。もう準備できたなんて)



 暖炉の火を入れるのに時間がかかったのがラッキーだったとしても予想以上の速さに驚いた。

 この国では第三騎士団が平民の問題や平民街で起こるトラブルを担当している。第二騎士団は貴族と貴族街の問題を担当している為、非常時には貴族の捕縛や屋敷の強制捜査などを執行する権利を持っている。

(それにしても早い⋯⋯ターニャ様がゴリ押ししたのかしら。メイヨー公爵家くらいの家格になれば王女殿下のお顔も知っていたのかも)




「前に教えてくれたハーヴィーの最後、もう一度教えてもらえないかしら」

しおりを挟む
感想 34

あなたにおすすめの小説

とある虐げられた侯爵令嬢の華麗なる後ろ楯~拾い人したら溺愛された件

紅位碧子 kurenaiaoko
恋愛
侯爵令嬢リリアーヌは、10歳で母が他界し、その後義母と義妹に虐げられ、 屋敷ではメイド仕事をして過ごす日々。 そんな中で、このままでは一生虐げられたままだと思い、一念発起。 母の遺言を受け、自分で自分を幸せにするために行動を起こすことに。 そんな中、偶然訳ありの男性を拾ってしまう。 しかし、その男性がリリアーヌの未来を作る救世主でーーーー。 メイド仕事の傍らで隠れて淑女教育を完璧に終了させ、語学、経営、経済を学び、 財産を築くために屋敷のメイド姿で見聞きした貴族社会のことを小説に書いて出版し、それが大ヒット御礼! 学んだことを生かし、商会を設立。 孤児院から人材を引き取り育成もスタート。 出版部門、観劇部門、版権部門、商品部門など次々と商いを展開。 そこに隣国の王子も参戦してきて?! 本作品は虐げられた環境の中でも懸命に前を向いて頑張る とある侯爵令嬢が幸せを掴むまでの溺愛×サクセスストーリーです♡ *誤字脱字多数あるかと思います。 *初心者につき表現稚拙ですので温かく見守ってくださいませ *ゆるふわ設定です

なんでも思い通りにしないと気が済まない妹から逃げ出したい

木崎優
恋愛
「君には大変申し訳なく思っている」 私の婚約者はそう言って、心苦しそうに顔を歪めた。「私が悪いの」と言いながら瞳を潤ませている、私の妹アニエスの肩を抱きながら。 アニエスはいつだって私の前に立ちはだかった。 これまで何ひとつとして、私の思い通りになったことはない。すべてアニエスが決めて、両親はアニエスが言うことならと頷いた。 だからきっと、この婚約者の入れ替えも両親は快諾するのだろう。アニエスが決めたのなら間違いないからと。 もういい加減、妹から離れたい。 そう思った私は、魔術師の弟子ノエルに結婚を前提としたお付き合いを申し込んだ。互いに利のある契約として。 だけど弟子だと思ってたその人は実は魔術師で、しかも私を好きだったらしい。

[完結中編]蔑ろにされた王妃様〜25歳の王妃は王と決別し、幸せになる〜

コマメコノカ@女性向け・児童文学・絵本
恋愛
 王妃として国のトップに君臨している元侯爵令嬢であるユーミア王妃(25)は夫で王であるバルコニー王(25)が、愛人のミセス(21)に入り浸り、王としての仕事を放置し遊んでいることに辟易していた。 そして、ある日ユーミアは、彼と決別することを決意する。

拝啓、元婚約者様。婚約破棄をしてくれてありがとうございました。

さこの
恋愛
 ある日婚約者の伯爵令息に王宮に呼び出されました。そのあと婚約破棄をされてその立会人はなんと第二王子殿下でした。婚約破棄の理由は性格の不一致と言うことです。  その後なぜが第二王子殿下によく話しかけられるようになりました。え?殿下と私に婚約の話が?  婚約破棄をされた時に立会いをされていた第二王子と婚約なんて無理です。婚約破棄の責任なんてとっていただかなくて結構ですから!  最後はハッピーエンドです。10万文字ちょっとの話になります(ご都合主義な所もあります)

田舎者とバカにされたけど、都会に染まった婚約者様は破滅しました

さこの
恋愛
田舎の子爵家の令嬢セイラと男爵家のレオは幼馴染。両家とも仲が良く、領地が隣り合わせで小さい頃から結婚の約束をしていた。 時が経ちセイラより一つ上のレオが王立学園に入学することになった。 手紙のやり取りが少なくなってきて不安になるセイラ。 ようやく学園に入学することになるのだが、そこには変わり果てたレオの姿が…… 「田舎の色気のない女より、都会の洗練された女はいい」と友人に吹聴していた ホットランキング入りありがとうございます 2021/06/17

捨てられた私は遠くで幸せになります

高坂ナツキ
恋愛
ペルヴィス子爵家の娘であるマリー・ド・ペルヴィスは来る日も来る日もポーションづくりに明け暮れている。 父親であるペルヴィス子爵はマリーの作ったポーションや美容品を王都の貴族に売りつけて大金を稼いでいるからだ。 そんな苦しい生活をしていたマリーは、義家族の企みによって家から追い出されることに。 本当に家から出られるの? だったら、この機会を逃すわけにはいかない! これは強制的にポーションを作らせられていた少女が、家族から逃げて幸せを探す物語。 8/9~11は7:00と17:00の2回投稿。8/12~26は毎日7:00に投稿。全21話予約投稿済みです。

【完結】身代わりに病弱だった令嬢が隣国の冷酷王子と政略結婚したら、薬師の知識が役に立ちました。

朝日みらい
恋愛
リリスは内気な性格の貴族令嬢。幼い頃に患った大病の影響で、薬師顔負けの知識を持ち、自ら薬を調合する日々を送っている。家族の愛情を一身に受ける妹セシリアとは対照的に、彼女は控えめで存在感が薄い。 ある日、リリスは両親から突然「妹の代わりに隣国の王子と政略結婚をするように」と命じられる。結婚相手であるエドアルド王子は、かつて幼馴染でありながら、今では冷たく距離を置かれる存在。リリスは幼い頃から密かにエドアルドに憧れていたが、病弱だった過去もあって自分に自信が持てず、彼の真意がわからないまま結婚の日を迎えてしまい――

辺境は独自路線で進みます! ~見下され搾取され続けるのは御免なので~

紫月 由良
恋愛
 辺境に領地を持つマリエ・オリオール伯爵令嬢は、貴族学院の食堂で婚約者であるジョルジュ・ミラボーから婚約破棄をつきつけられた。二人の仲は険悪で修復不可能だったこともあり、マリエは快諾すると学院を早退して婚約者の家に向かい、その日のうちに婚約が破棄された。辺境=田舎者という風潮によって居心地が悪くなっていたため、これを機に学院を退学して領地に引き籠ることにした。  魔法契約によりオリオール伯爵家やフォートレル辺境伯家は国から離反できないが、関わり合いを最低限にして独自路線を歩むことに――。   ※小説家になろう、カクヨムにも投稿しています

処理中です...