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3.坂を転がり落ちるように
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お昼休みにアーシェが仲の良い3人組で食事をしていると周りから聞こえよがしな嫌味が聞こえてくるようになった。その内容はヒートアップするばかりで手の施しようがない。
「凄いよね~、こういうのを手のひら返しっていうのかしら」
「とっとと婚約破棄できたらスッキリなのにね」
騒ぎが一向に収まらない⋯⋯それどころか燃え広がっている理由は元凶のデイビッドとキャサリンにあった。
ラ・ぺルーズの騒ぎの翌日、キャサリンが学園に編入しデイビッドと常に行動を共にするようになり⋯⋯。
「キャサリン様は近々デイビッド様の義妹になられるんですって」
「遠方から越してきたばかりだからお世話しておられるって⋯⋯流石、デイビッド様はお優しいですわ」
「デイビッド様はここ最近学園をお休みされてキャサリン様のお世話をされていたのですって。そんなお義兄様がいたら最高ですわ!」
(あ~、学園で見かけないなって思ったらそう言うことだったんだ。出席日数が足りなくて留年とかになったらヤバいんじゃないの?)
騎士科と淑女科でどうやって時間調整しているのか不思議な程いつも一緒にいるデイビッド達は周りから温かい目で見守られていた。
「例のラ・ぺルーズもデイビッド様のお誕生日とおふたりの親睦を兼ねたランチだったんですって。それをアーシェ様が勝手にキャンセルされたって」
「先日はキャサリン様のお買い物の邪魔をされたそうよ」
「観劇のチケットを取るのも邪魔されたのですって」
「アーシェ、あんなこと言われてるけど心当たりあるの?」
「う~ん、あるといえばあるかなあ。ドレスを仕立てる費用だって我が家に見積書を持参されたから、お母様がお断りになられたのよね~」
「「ドレスを作るのに見積書!?」」
「うん、ローゼンタールの名前は知ってるけど初見のお客様だし、合計すると大人の夜会服並みの金額だから手付けだけでも入れて欲しいって」
リリベルが懇意にしている店はどの店もかなり大人っぽいデザインばかりだが、アーシェの服もそこで年齢相応にアレンジして仕立てていた。
「キャサリン様が行きたがるようなお店とはうちは取引がないからお店としては当然の対応だよね。満面の笑みでやって来た店主はデイビッドと一緒にいたのが私だと思ってたからすっごいショックを受けてた」
『俺はローゼンタール伯爵家を継ぐデイビッド・キャンストルで、最愛の女性に見合うドレスを探していると仰られたので⋯⋯てっきり隣に並んでおられたのはアーシェ様だとばかり思い込んでおりました』
あまりに可哀想に思ったお母様が幾つか商品を購入したのでアーシェにとっては『棚ぼた』だったが。
「アクセサリーを購入した代金の支払いも断っておられたし。
後⋯⋯観劇のチケットは私が断ったの。キャサリン様が観たいって仰ったからチケットを取っておけって言われたからご自分でどうぞって言ったの。ついでに、ローゼンタールへ支払いを回すのはやめてくれって言った⋯⋯どれも手紙でだけどね」
「どれも当たり前のことじゃない! て言うかお店にキャサリン様を連れて行ってそんな説明をしたら誰だってアーシェと来てるって思うし。義妹予定ってまだどちらの家とも他人って事なのに図々しすぎるわ!」
「そうよ! それをアーシェの虐めとか意地悪だって言われるなんて絶対におかしい」
学園で遠目に顔を見る以外口を利く事もなくなってから既に3ヶ月。キャサリンが編入してきてからの2ヶ月は坂を転がるようにアーシェの悪評が蔓延し続けていた。
アーシェの母リリベルはお茶会や夜会で懸命に火消しをしてくれているがどこからともなく新しい噂が出てくるのでキリがない。
「お嬢様はご苦労されてるそうですわねえ」
「可愛いヤキモチなど歳をとった時には笑い話になりますわ」
「とてもお美しいお嬢様だと聞きますし⋯⋯あら、アーシェ様もお可愛くていらっしゃいますわよ。ほほほ」
古くから続くローゼンタール伯爵家は領地改革も順調に進み会社経営も右肩上がり。贅沢を嫌い華美な服装やアクセサリーを身につけない生活ぶりを『守銭奴』や『しみったれ』などと陰口を言うものは多い。
「やっかみだと分かっていてもイラついてしまいますわ」
「その陰で我が家に担保なしだの金利なしだのの借金を申し込んでくるんだから⋯⋯逆恨みというやつは本当に情け無いね。領地からの税収をあてにして働かず食べていける時代はとっくの昔に終わったんだ。我が国の王家は借金まみれで青息吐息だし周りの国は軍備を強化しはじめているというのに、呑気に贅沢品を買い漁るなんて愚か者のすることだよ」
アーシェとキャサリンは同じ淑女科だがクラスが違う為、週に数回の合同授業の時くらいしか近くで顔を見ることもないが⋯⋯。
「キャサリン様、こちらの席にいらっしゃいませ。あちらにはあの方がおられますもの」
「ありがとう、とても助かりますわ」
チラリとアーシェを見て慌てたように目を逸らしたキャサリンが友達の陰に隠れた。
「この間は髪飾りを壊されたんでしょう? ちゃんと弁償して下さったのかしら」
「いえ、そんな⋯⋯怖くて言えませんわ。私の家なんてしがない子爵ですもの」
キャサリンが胸の前で小さく振った両手を隣に座っていた女子生徒がそっと握り締めた。
「デイビッド様に言っていただけばいいんだわ。あの方の横暴を止められるのはデイビッド様だけだもの」
「今でもたくさん心配して下さっているのに、そんなご迷惑をおかけするなんてとんでもないです」
少し俯いて寂しそうに笑う美少女の様子に『なんて健気な』『おいたわしい』とあちこちから呟きが漏れた。
「すっごい役者よね~。本人が名前を出せば問い詰めることもできるけど、絶対に曖昧な言い方しかしないもん」
「周りもそれを真似てる感じよね。『あの方』とか言っちゃって誤魔化せてると思ってるんだよね。名前を出さなくても目線が誰のことを言ってるのかバレバレだって文句言いに行こうかしら」
「凄いよね~、こういうのを手のひら返しっていうのかしら」
「とっとと婚約破棄できたらスッキリなのにね」
騒ぎが一向に収まらない⋯⋯それどころか燃え広がっている理由は元凶のデイビッドとキャサリンにあった。
ラ・ぺルーズの騒ぎの翌日、キャサリンが学園に編入しデイビッドと常に行動を共にするようになり⋯⋯。
「キャサリン様は近々デイビッド様の義妹になられるんですって」
「遠方から越してきたばかりだからお世話しておられるって⋯⋯流石、デイビッド様はお優しいですわ」
「デイビッド様はここ最近学園をお休みされてキャサリン様のお世話をされていたのですって。そんなお義兄様がいたら最高ですわ!」
(あ~、学園で見かけないなって思ったらそう言うことだったんだ。出席日数が足りなくて留年とかになったらヤバいんじゃないの?)
騎士科と淑女科でどうやって時間調整しているのか不思議な程いつも一緒にいるデイビッド達は周りから温かい目で見守られていた。
「例のラ・ぺルーズもデイビッド様のお誕生日とおふたりの親睦を兼ねたランチだったんですって。それをアーシェ様が勝手にキャンセルされたって」
「先日はキャサリン様のお買い物の邪魔をされたそうよ」
「観劇のチケットを取るのも邪魔されたのですって」
「アーシェ、あんなこと言われてるけど心当たりあるの?」
「う~ん、あるといえばあるかなあ。ドレスを仕立てる費用だって我が家に見積書を持参されたから、お母様がお断りになられたのよね~」
「「ドレスを作るのに見積書!?」」
「うん、ローゼンタールの名前は知ってるけど初見のお客様だし、合計すると大人の夜会服並みの金額だから手付けだけでも入れて欲しいって」
リリベルが懇意にしている店はどの店もかなり大人っぽいデザインばかりだが、アーシェの服もそこで年齢相応にアレンジして仕立てていた。
「キャサリン様が行きたがるようなお店とはうちは取引がないからお店としては当然の対応だよね。満面の笑みでやって来た店主はデイビッドと一緒にいたのが私だと思ってたからすっごいショックを受けてた」
『俺はローゼンタール伯爵家を継ぐデイビッド・キャンストルで、最愛の女性に見合うドレスを探していると仰られたので⋯⋯てっきり隣に並んでおられたのはアーシェ様だとばかり思い込んでおりました』
あまりに可哀想に思ったお母様が幾つか商品を購入したのでアーシェにとっては『棚ぼた』だったが。
「アクセサリーを購入した代金の支払いも断っておられたし。
後⋯⋯観劇のチケットは私が断ったの。キャサリン様が観たいって仰ったからチケットを取っておけって言われたからご自分でどうぞって言ったの。ついでに、ローゼンタールへ支払いを回すのはやめてくれって言った⋯⋯どれも手紙でだけどね」
「どれも当たり前のことじゃない! て言うかお店にキャサリン様を連れて行ってそんな説明をしたら誰だってアーシェと来てるって思うし。義妹予定ってまだどちらの家とも他人って事なのに図々しすぎるわ!」
「そうよ! それをアーシェの虐めとか意地悪だって言われるなんて絶対におかしい」
学園で遠目に顔を見る以外口を利く事もなくなってから既に3ヶ月。キャサリンが編入してきてからの2ヶ月は坂を転がるようにアーシェの悪評が蔓延し続けていた。
アーシェの母リリベルはお茶会や夜会で懸命に火消しをしてくれているがどこからともなく新しい噂が出てくるのでキリがない。
「お嬢様はご苦労されてるそうですわねえ」
「可愛いヤキモチなど歳をとった時には笑い話になりますわ」
「とてもお美しいお嬢様だと聞きますし⋯⋯あら、アーシェ様もお可愛くていらっしゃいますわよ。ほほほ」
古くから続くローゼンタール伯爵家は領地改革も順調に進み会社経営も右肩上がり。贅沢を嫌い華美な服装やアクセサリーを身につけない生活ぶりを『守銭奴』や『しみったれ』などと陰口を言うものは多い。
「やっかみだと分かっていてもイラついてしまいますわ」
「その陰で我が家に担保なしだの金利なしだのの借金を申し込んでくるんだから⋯⋯逆恨みというやつは本当に情け無いね。領地からの税収をあてにして働かず食べていける時代はとっくの昔に終わったんだ。我が国の王家は借金まみれで青息吐息だし周りの国は軍備を強化しはじめているというのに、呑気に贅沢品を買い漁るなんて愚か者のすることだよ」
アーシェとキャサリンは同じ淑女科だがクラスが違う為、週に数回の合同授業の時くらいしか近くで顔を見ることもないが⋯⋯。
「キャサリン様、こちらの席にいらっしゃいませ。あちらにはあの方がおられますもの」
「ありがとう、とても助かりますわ」
チラリとアーシェを見て慌てたように目を逸らしたキャサリンが友達の陰に隠れた。
「この間は髪飾りを壊されたんでしょう? ちゃんと弁償して下さったのかしら」
「いえ、そんな⋯⋯怖くて言えませんわ。私の家なんてしがない子爵ですもの」
キャサリンが胸の前で小さく振った両手を隣に座っていた女子生徒がそっと握り締めた。
「デイビッド様に言っていただけばいいんだわ。あの方の横暴を止められるのはデイビッド様だけだもの」
「今でもたくさん心配して下さっているのに、そんなご迷惑をおかけするなんてとんでもないです」
少し俯いて寂しそうに笑う美少女の様子に『なんて健気な』『おいたわしい』とあちこちから呟きが漏れた。
「すっごい役者よね~。本人が名前を出せば問い詰めることもできるけど、絶対に曖昧な言い方しかしないもん」
「周りもそれを真似てる感じよね。『あの方』とか言っちゃって誤魔化せてると思ってるんだよね。名前を出さなくても目線が誰のことを言ってるのかバレバレだって文句言いに行こうかしら」
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