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4.心強い味方がいるからね
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「ほっといていいよ。学園内の事もそれ以外も全部お父様のとこに報告がいってるからそれほど長くはかからないはず。デイビッドの引き取り先ができて感謝してるしね」
「引き取り先⋯⋯ププッ⋯⋯確かに言えてるわ」
「アイツじゃゴミの収集でも断られそうだもんね」
アーシェと友人2人が笑顔混じりでヒソヒソと話しているとマナー講師が教室に入ってきた。
キャンストル伯爵家に再婚話を含めたいくつかの問い合わせをしているが未だ明確な返答が来ずアーシェの父ケインはとうとう決断を下した。
「ライルは私に領地の視察に行くと言っていたんだが隣国へ言っている上に手紙の返事も返さない。新規の販路開拓がどうとか言っていたと言う者もいたが最大の問題は同行者がアンジー・ケレイブだということなんだ」
夫と離婚して実家のケレイブ子爵家に戻ったアンジーは実家が数年前に立ち上げていた『ソルダート貿易会社』の重役になった。その会社はエマーソン達が経営している『ミーレス貿易会社』とよく似た商品の廉価版を扱う事で知られているが、有名ブランドの模造品を扱って何度も訴えられたり密輸を摘発されたりしているタチの悪い会社として国中に知られていた。
「再婚するという話はどこからも聞こえてこなかったが可能性は否定できん。この旅行が『ソルダート貿易会社』の重役との商談なのか蜜月旅行なのか⋯⋯どちらにしても我が家に一言もないのは愚かとしか言いようがないな。これでは二心ありと我々が考えても仕方ないだろう」
「まだ公にする段階ではないってところかしら。うちに散々迷惑をかけてくる会社の重役と秘密の旅行や再婚となるとこのままにはしておけないわね」
リリベルが『困った人だわねえ』と溜息をつくのを見たアーシェが苦笑いを浮かべた。
「ああ、すでに手を打った。奴が関係したここ数年の書類の再確認と取引先の調査、奴の行動や資産の状況も洗い直ししている。もし会社の機密情報を持ち出していたら息の根を止めてやる」
キャサリンは実母アンジーの離婚に伴って国境に近い伯爵領から王都へ引っ越してきた。幼い頃から才色兼備だと評判だったアンジーは『ソルダート貿易会社』でメキメキと頭角を表し、母親の美貌を受け継いだキャサリンも学園一の美少女と絶賛されている。
「ライルの言い訳を一応聞いてやろうと思ってはいるが、出てくる情報が酷すぎるんだよ⋯⋯ライルを信用しすぎていた」
ケインが顳顬を抑えてため息を漏らした。
「会社やアーシェの婚約はどうされますの? ライルの説明次第では今まで通りと言うことであればそれなりに対応しておかなければなりませんわ」
「⋯⋯正直言ってライルが何を言ってももう信用できない⋯⋯キャンストルと絶縁する事になるのは間違いないしライルの帰国と同時に婚約破棄と会社からの撤退を言い渡す事になるだろうね」
「撤退ってどっちが撤退するんですか?」
黙って両親の話を聞いていたが将来ローゼンタール伯爵家を継ぐと決まっているアーシェとしては確認せずにはいられなかった。
「勿論うちが手を引く。ローゼンタール伯爵家が手を引くと伝えればすぐに 『ソルダート貿易会社』がキャンストル伯爵家に共同経営を持ちかけるだろう。会社が倒産して社員が路頭に迷うよりはマシかもしれんがその後はどうなることか⋯⋯。
共同経営の話が出なければその時点で会社は終わりだな。キャンストル伯爵家ではあの会社を支えるだけの資本を準備できんし撤退するから会社を買い取って欲しいと言い出す可能性もある」
「どちらにしても社員の今後が心配ですね」
「そうだな、アーシェならどうする?」
ここ最近は険しい顔をしてばかりだった父親の口元にほんの少し笑顔が浮かんだ。
「まだ具体案が思いつくほどの知識はありませんが、私ならすぐに新会社設立の準備に入ります。撤退と同時に新会社設立か設立予定だと告知できれば社員の不安は和らぎますし、今までの取引先との交渉もスムーズに行く気がします。ローゼンタールのノウハウ・実績・資金力はブランクがなければ最高に活用できるはずです」
学園を卒業するまでに領地経営の勉強を終わらせるようにと言われ毎日家令に扱かれているアーシェだが、会社の経営には一切関わっていない。
勉強から逃げ出してばかりのデイビッドを戦力のひとりと考えるのを諦めたケインは『ローゼンタールの邪魔にならなければいい』と言うのが口癖になった。
「もう少し情報が集まったら父上に連絡を入れるつもりだがそれまでは報告はできないし行動を起こすのも控えたい。リリベルやアーシェにはもう暫く嫌な思いをさせるが耐えて欲しい」
「わたくしの事はお気になさらず。はしたなく噂を広げているのは低位貴族と新興貴族ばかりですの。高位貴族で我が家を貶める噂に関わろうとする方などおられませんし、当面はお付き合いを減らしてのんびりいたしますわ」
いつでも悠然と構えているリリベルは今日も通常運転で穏やかに微笑んだ。
「私も大丈夫です。サマンサとアリシアは私を信じてくれて学園でいつもそばにいてくれるんです。それに、婚約破棄できるならこの程度のことなんて全く問題ありませんから」
ほんの少し嫌味を入れてアーシェが返事をすると苦笑いと共に『そんなに婚約破棄したかったのか』と言ったケインがアーシェの頭を撫でた。
(すっご~く婚約破棄したかったって言ったらお父様は凹むのかな?)
「父上にはギリギリまで知らせないつもりなんだ。ランドルフ殿と一緒におられるから何か知られておかしな横槍を入れられては困るからね」
ランドルフ・キャンストル元伯爵とエマーソン・ローゼンタール元伯爵は適当な理由を考えついては今でも元気に各地を一緒に飛び回っている。
豪放磊落を絵に描いたようなふたりは家族に連絡もせず遠洋航海に出るガレオン船に乗り込み、なんのツテもないまま他国との交易の契約を取り付けてきた強者でこの契約が『ミーレス貿易会社』のはじまりになった。
その後も新しいことを思いついては突然姿をくらますふたりを支え続けた祖母はすでに儚くなった。
ライル・キャンストルとケイン・ローゼンタールはこの2人を反面教師として育ち、大胆な戦略よりも綿密な計算に基づく経営と積み上げ方式の堅実な仕事を尊ぶ⋯⋯エマーソン達とは正反対の性格に育った。
「この問題が解決したらお父様とお祖父様にはきっちりとお話ししたいことがあります。覚悟しておいてくださいね」
アーシェが真剣な目つきでケインを凝視するとなんとなく理由が分かったらしく小さく首を縦に振った。
「覚悟しておこう。アーシェにはそれを言う資格があるからね」
アーシェの『ざまぁ』予定宣言にケインは腹を括りリリベルはクスリと笑いを零した。
「引き取り先⋯⋯ププッ⋯⋯確かに言えてるわ」
「アイツじゃゴミの収集でも断られそうだもんね」
アーシェと友人2人が笑顔混じりでヒソヒソと話しているとマナー講師が教室に入ってきた。
キャンストル伯爵家に再婚話を含めたいくつかの問い合わせをしているが未だ明確な返答が来ずアーシェの父ケインはとうとう決断を下した。
「ライルは私に領地の視察に行くと言っていたんだが隣国へ言っている上に手紙の返事も返さない。新規の販路開拓がどうとか言っていたと言う者もいたが最大の問題は同行者がアンジー・ケレイブだということなんだ」
夫と離婚して実家のケレイブ子爵家に戻ったアンジーは実家が数年前に立ち上げていた『ソルダート貿易会社』の重役になった。その会社はエマーソン達が経営している『ミーレス貿易会社』とよく似た商品の廉価版を扱う事で知られているが、有名ブランドの模造品を扱って何度も訴えられたり密輸を摘発されたりしているタチの悪い会社として国中に知られていた。
「再婚するという話はどこからも聞こえてこなかったが可能性は否定できん。この旅行が『ソルダート貿易会社』の重役との商談なのか蜜月旅行なのか⋯⋯どちらにしても我が家に一言もないのは愚かとしか言いようがないな。これでは二心ありと我々が考えても仕方ないだろう」
「まだ公にする段階ではないってところかしら。うちに散々迷惑をかけてくる会社の重役と秘密の旅行や再婚となるとこのままにはしておけないわね」
リリベルが『困った人だわねえ』と溜息をつくのを見たアーシェが苦笑いを浮かべた。
「ああ、すでに手を打った。奴が関係したここ数年の書類の再確認と取引先の調査、奴の行動や資産の状況も洗い直ししている。もし会社の機密情報を持ち出していたら息の根を止めてやる」
キャサリンは実母アンジーの離婚に伴って国境に近い伯爵領から王都へ引っ越してきた。幼い頃から才色兼備だと評判だったアンジーは『ソルダート貿易会社』でメキメキと頭角を表し、母親の美貌を受け継いだキャサリンも学園一の美少女と絶賛されている。
「ライルの言い訳を一応聞いてやろうと思ってはいるが、出てくる情報が酷すぎるんだよ⋯⋯ライルを信用しすぎていた」
ケインが顳顬を抑えてため息を漏らした。
「会社やアーシェの婚約はどうされますの? ライルの説明次第では今まで通りと言うことであればそれなりに対応しておかなければなりませんわ」
「⋯⋯正直言ってライルが何を言ってももう信用できない⋯⋯キャンストルと絶縁する事になるのは間違いないしライルの帰国と同時に婚約破棄と会社からの撤退を言い渡す事になるだろうね」
「撤退ってどっちが撤退するんですか?」
黙って両親の話を聞いていたが将来ローゼンタール伯爵家を継ぐと決まっているアーシェとしては確認せずにはいられなかった。
「勿論うちが手を引く。ローゼンタール伯爵家が手を引くと伝えればすぐに 『ソルダート貿易会社』がキャンストル伯爵家に共同経営を持ちかけるだろう。会社が倒産して社員が路頭に迷うよりはマシかもしれんがその後はどうなることか⋯⋯。
共同経営の話が出なければその時点で会社は終わりだな。キャンストル伯爵家ではあの会社を支えるだけの資本を準備できんし撤退するから会社を買い取って欲しいと言い出す可能性もある」
「どちらにしても社員の今後が心配ですね」
「そうだな、アーシェならどうする?」
ここ最近は険しい顔をしてばかりだった父親の口元にほんの少し笑顔が浮かんだ。
「まだ具体案が思いつくほどの知識はありませんが、私ならすぐに新会社設立の準備に入ります。撤退と同時に新会社設立か設立予定だと告知できれば社員の不安は和らぎますし、今までの取引先との交渉もスムーズに行く気がします。ローゼンタールのノウハウ・実績・資金力はブランクがなければ最高に活用できるはずです」
学園を卒業するまでに領地経営の勉強を終わらせるようにと言われ毎日家令に扱かれているアーシェだが、会社の経営には一切関わっていない。
勉強から逃げ出してばかりのデイビッドを戦力のひとりと考えるのを諦めたケインは『ローゼンタールの邪魔にならなければいい』と言うのが口癖になった。
「もう少し情報が集まったら父上に連絡を入れるつもりだがそれまでは報告はできないし行動を起こすのも控えたい。リリベルやアーシェにはもう暫く嫌な思いをさせるが耐えて欲しい」
「わたくしの事はお気になさらず。はしたなく噂を広げているのは低位貴族と新興貴族ばかりですの。高位貴族で我が家を貶める噂に関わろうとする方などおられませんし、当面はお付き合いを減らしてのんびりいたしますわ」
いつでも悠然と構えているリリベルは今日も通常運転で穏やかに微笑んだ。
「私も大丈夫です。サマンサとアリシアは私を信じてくれて学園でいつもそばにいてくれるんです。それに、婚約破棄できるならこの程度のことなんて全く問題ありませんから」
ほんの少し嫌味を入れてアーシェが返事をすると苦笑いと共に『そんなに婚約破棄したかったのか』と言ったケインがアーシェの頭を撫でた。
(すっご~く婚約破棄したかったって言ったらお父様は凹むのかな?)
「父上にはギリギリまで知らせないつもりなんだ。ランドルフ殿と一緒におられるから何か知られておかしな横槍を入れられては困るからね」
ランドルフ・キャンストル元伯爵とエマーソン・ローゼンタール元伯爵は適当な理由を考えついては今でも元気に各地を一緒に飛び回っている。
豪放磊落を絵に描いたようなふたりは家族に連絡もせず遠洋航海に出るガレオン船に乗り込み、なんのツテもないまま他国との交易の契約を取り付けてきた強者でこの契約が『ミーレス貿易会社』のはじまりになった。
その後も新しいことを思いついては突然姿をくらますふたりを支え続けた祖母はすでに儚くなった。
ライル・キャンストルとケイン・ローゼンタールはこの2人を反面教師として育ち、大胆な戦略よりも綿密な計算に基づく経営と積み上げ方式の堅実な仕事を尊ぶ⋯⋯エマーソン達とは正反対の性格に育った。
「この問題が解決したらお父様とお祖父様にはきっちりとお話ししたいことがあります。覚悟しておいてくださいね」
アーシェが真剣な目つきでケインを凝視するとなんとなく理由が分かったらしく小さく首を縦に振った。
「覚悟しておこう。アーシェにはそれを言う資格があるからね」
アーシェの『ざまぁ』予定宣言にケインは腹を括りリリベルはクスリと笑いを零した。
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