5 / 30
5.強気でくるメアリー・トルダーン
しおりを挟む
学年末試験が終わり長期の休みに入る前の学園内は試験の結果にため息をつく生徒と、休み中の計画に舞い上がる生徒で明暗がはっきりと分かれていた。
アーシェ達3人はもちろん試験結果に満足して楽しそうに休みの計画を話し合う側。
午前中の授業が終わりカフェテラスで食事をはじめたばかりのアーシェ達の元に担任から呼び出しがきた。サマンサとアリシアには食事を続けてもらいアーシェがひとりで職員室に行くと困惑した顔の担任とキャサリン親衛隊が待っていた。
「サリスト先生がお呼びだと聞いて参りましたが何かありましたでしょうか?」
「それがちょっと困ったことになっていてね⋯⋯うーん、なんと言うか」
歯切れの悪い担任が居心地悪そうに目を逸らした横で剣呑な目つきで睨みつけていた親衛隊のひとりが声を荒げた。
「誰にも知られてないと思ってそんな態度をしておられるのでしょうが、全て知っておりましてよ!」
(メアリー・トルダーンね⋯⋯侯爵家令嬢でこの中で一番高い爵位⋯⋯親衛隊の会長かしら)
「何があったのか教えていただかなくてはわかりませんわ」
ため息を飲み込んだアーシェが『冷静に、冷静に』と心の中で呪文を唱えながら担任に向き合った。
「サリスト先生、状況をご存知ならお教えいただけますか?」
「ローゼンタールの荷物をだね⋯⋯えー、あの確認させてもら⋯⋯」
「キャサリン様のブレスレットを返してくださるかしら? デイビッド様からの大切なプレゼントを奪うなんて見下げ果てた根性をしておられるのね!」
「ブレスレットと言われても⋯⋯何を仰ってるのか全く分かりません。私が奪った⋯⋯盗んだとケレイブ様が仰っておられるのですか?」
担任の話では2時間目がはじまる前にキャサリンを校舎の裏に呼び出したアーシェがブレスレットを無理やり奪い取ったと言う嫌疑がかかっていると言う。
「ローゼンタール様のお鞄には鍵がかかっておりますでしょう? さっさとここで開けて下さらないかしら!?」
目の前のカウンターに放り投げられたのは傷がついたアーシェの鞄で、蓋の横の辺りも切れてかなりひどい状態になっていた。
「随分と傷だらけになってますけど、無理やり開けようとなさいましたの?」
「学園に鍵付きの鞄で来ている方がおかしいでしょ?」
「中に見られたくないものがあるからよねぇ」
親衛隊のあちこちからボソボソと非難の声が上がり職員室中の教師が黙り込んでアーシェ達を見つめた。
「勝手に中を確認しようとしたら鍵がかかっていたからこんなにボロボロにしてしまわれたんですか?」
「だから、鍵をかける方がおかしいと申しておりますのよ! この期に及んで誤魔化し切れるなどと思わないことね、さっさと開けなさい!」
何人もの教師が凝視しているのを確認したアーシェはポケットから出した鍵で解錠し、荷物を全てカウンターに並べた。
「ご希望のお品はありましたかしら?」
「ど、どう言うこと!? どこへ⋯⋯別の場所に隠したのね、なんて悪質なんでしょう」
「では身体検査をしていただこうかしら? 私が持っていないことを証明しなくては犯罪者扱いは終わらなそうですわ⋯⋯えーっと、女性の先生でどなたか協力していただけますか?」
小さく頷いた女教師と共に隣にある応接室に向かったアーシェは制服を脱いで下着姿になり確認をしてもらった。
「サリスト先生、ローゼンタールは何も持っていませんでしたわ」
「嘘よ! どこに隠したのか仰いなさい!」
「ケレイブ様がブレスレットを奪われたのは2時間目の直前だと仰っておいででしたけど、その時間は医務室におりましたわ。1時間目が終わって教室に帰る途中で誰かに突き飛ばされ、足首を少し捻ってしまいましたので念の為医務室に参りましたの。
医務室の先生もずっとおられましたしアリシア・ブラン様とサマンサ・テルミンス様もずっとそばにいてくださいましたから確認してくださいますかしら?」
「そんな馬鹿な⋯⋯嘘をついても誤魔化せないわ!」
「そう言えばその方が落とし物をされていったのをクラスメイトのランダル様が気付かれて職員室に届けると言っておられましたけど何か届いてませんかしら?」
担任が慌てて振り返ると事務員のひとりが小さく手を上げた。
「ランダル様からでしたら2時間目の直前にブレスレットが落ちていたと届けに来られました。落とし主はブロンドだったことしかわからなかったからと仰られたのでこちらで保管しております」
親衛隊の後ろの方で顔を引き攣らせたのは男爵令嬢のマーシャ・レングストン。
「⋯⋯ローゼンタール様が持っておられたのを落としたんだわ。そうよ! 誰かがぶつかった時落ちた⋯⋯それをランダル様が勘違⋯⋯」
「ケレイブ様が2時間目の直前に呼び出され誰かにブレスレットを奪われたとしても私はその場に行けなかったと納得していただけましたかしら?」
アーシェから目を逸らしたのは低位貴族の令嬢達で、相変わらず睨みつけてきたり『絶対におかしいわ』などと呟いているのは高位貴族の令嬢達。
「それにしても不思議ですわね。職員室に届いているのが問題のブレスレットなら私に後ろからぶつかってきて謝罪もなくいなくなられた方が私の近くでわざわざ落として行ったみたいに感じてしまいますの。私がケレイブ様から奪ったことにしたい方でもおられたのかと疑ってしまいますわね」
アーシェと目があったマーシャ・レングストンは真っ青になって後ずさった。
(レングストン様ならブロンドで身長も近い気はするけど⋯⋯取り敢えず、疑わしきは罰せずだよね)
アーシェ達3人はもちろん試験結果に満足して楽しそうに休みの計画を話し合う側。
午前中の授業が終わりカフェテラスで食事をはじめたばかりのアーシェ達の元に担任から呼び出しがきた。サマンサとアリシアには食事を続けてもらいアーシェがひとりで職員室に行くと困惑した顔の担任とキャサリン親衛隊が待っていた。
「サリスト先生がお呼びだと聞いて参りましたが何かありましたでしょうか?」
「それがちょっと困ったことになっていてね⋯⋯うーん、なんと言うか」
歯切れの悪い担任が居心地悪そうに目を逸らした横で剣呑な目つきで睨みつけていた親衛隊のひとりが声を荒げた。
「誰にも知られてないと思ってそんな態度をしておられるのでしょうが、全て知っておりましてよ!」
(メアリー・トルダーンね⋯⋯侯爵家令嬢でこの中で一番高い爵位⋯⋯親衛隊の会長かしら)
「何があったのか教えていただかなくてはわかりませんわ」
ため息を飲み込んだアーシェが『冷静に、冷静に』と心の中で呪文を唱えながら担任に向き合った。
「サリスト先生、状況をご存知ならお教えいただけますか?」
「ローゼンタールの荷物をだね⋯⋯えー、あの確認させてもら⋯⋯」
「キャサリン様のブレスレットを返してくださるかしら? デイビッド様からの大切なプレゼントを奪うなんて見下げ果てた根性をしておられるのね!」
「ブレスレットと言われても⋯⋯何を仰ってるのか全く分かりません。私が奪った⋯⋯盗んだとケレイブ様が仰っておられるのですか?」
担任の話では2時間目がはじまる前にキャサリンを校舎の裏に呼び出したアーシェがブレスレットを無理やり奪い取ったと言う嫌疑がかかっていると言う。
「ローゼンタール様のお鞄には鍵がかかっておりますでしょう? さっさとここで開けて下さらないかしら!?」
目の前のカウンターに放り投げられたのは傷がついたアーシェの鞄で、蓋の横の辺りも切れてかなりひどい状態になっていた。
「随分と傷だらけになってますけど、無理やり開けようとなさいましたの?」
「学園に鍵付きの鞄で来ている方がおかしいでしょ?」
「中に見られたくないものがあるからよねぇ」
親衛隊のあちこちからボソボソと非難の声が上がり職員室中の教師が黙り込んでアーシェ達を見つめた。
「勝手に中を確認しようとしたら鍵がかかっていたからこんなにボロボロにしてしまわれたんですか?」
「だから、鍵をかける方がおかしいと申しておりますのよ! この期に及んで誤魔化し切れるなどと思わないことね、さっさと開けなさい!」
何人もの教師が凝視しているのを確認したアーシェはポケットから出した鍵で解錠し、荷物を全てカウンターに並べた。
「ご希望のお品はありましたかしら?」
「ど、どう言うこと!? どこへ⋯⋯別の場所に隠したのね、なんて悪質なんでしょう」
「では身体検査をしていただこうかしら? 私が持っていないことを証明しなくては犯罪者扱いは終わらなそうですわ⋯⋯えーっと、女性の先生でどなたか協力していただけますか?」
小さく頷いた女教師と共に隣にある応接室に向かったアーシェは制服を脱いで下着姿になり確認をしてもらった。
「サリスト先生、ローゼンタールは何も持っていませんでしたわ」
「嘘よ! どこに隠したのか仰いなさい!」
「ケレイブ様がブレスレットを奪われたのは2時間目の直前だと仰っておいででしたけど、その時間は医務室におりましたわ。1時間目が終わって教室に帰る途中で誰かに突き飛ばされ、足首を少し捻ってしまいましたので念の為医務室に参りましたの。
医務室の先生もずっとおられましたしアリシア・ブラン様とサマンサ・テルミンス様もずっとそばにいてくださいましたから確認してくださいますかしら?」
「そんな馬鹿な⋯⋯嘘をついても誤魔化せないわ!」
「そう言えばその方が落とし物をされていったのをクラスメイトのランダル様が気付かれて職員室に届けると言っておられましたけど何か届いてませんかしら?」
担任が慌てて振り返ると事務員のひとりが小さく手を上げた。
「ランダル様からでしたら2時間目の直前にブレスレットが落ちていたと届けに来られました。落とし主はブロンドだったことしかわからなかったからと仰られたのでこちらで保管しております」
親衛隊の後ろの方で顔を引き攣らせたのは男爵令嬢のマーシャ・レングストン。
「⋯⋯ローゼンタール様が持っておられたのを落としたんだわ。そうよ! 誰かがぶつかった時落ちた⋯⋯それをランダル様が勘違⋯⋯」
「ケレイブ様が2時間目の直前に呼び出され誰かにブレスレットを奪われたとしても私はその場に行けなかったと納得していただけましたかしら?」
アーシェから目を逸らしたのは低位貴族の令嬢達で、相変わらず睨みつけてきたり『絶対におかしいわ』などと呟いているのは高位貴族の令嬢達。
「それにしても不思議ですわね。職員室に届いているのが問題のブレスレットなら私に後ろからぶつかってきて謝罪もなくいなくなられた方が私の近くでわざわざ落として行ったみたいに感じてしまいますの。私がケレイブ様から奪ったことにしたい方でもおられたのかと疑ってしまいますわね」
アーシェと目があったマーシャ・レングストンは真っ青になって後ずさった。
(レングストン様ならブロンドで身長も近い気はするけど⋯⋯取り敢えず、疑わしきは罰せずだよね)
50
あなたにおすすめの小説
婚約破棄、ありがとうございます
奈井
恋愛
小さい頃に婚約して10年がたち私たちはお互い16歳。来年、結婚する為の準備が着々と進む中、婚約破棄を言い渡されました。でも、私は安堵しております。嘘を突き通すのは辛いから。傷物になってしまったので、誰も寄って来ない事をこれ幸いに一生1人で、幼い恋心と一緒に過ごしてまいります。
【完結】他の人が好きな人を好きになる姉に愛する夫を奪われてしまいました。
山葵
恋愛
私の愛する旦那様。私は貴方と結婚して幸せでした。
姉は「協力するよ!」と言いながら友達や私の好きな人に近づき「彼、私の事を好きだって!私も話しているうちに好きになっちゃったかも♡」と言うのです。
そんな姉が離縁され実家に戻ってきました。
王命により、婚約破棄されました。
緋田鞠
恋愛
魔王誕生に対抗するため、異界から聖女が召喚された。アストリッドは結婚を翌月に控えていたが、婚約者のオリヴェルが、聖女の指名により独身男性のみが所属する魔王討伐隊の一員に選ばれてしまった。その結果、王命によって二人の婚約が破棄される。運命として受け入れ、世界の安寧を祈るため、修道院に身を寄せて二年。久しぶりに再会したオリヴェルは、以前と変わらず、アストリッドに微笑みかけた。「私は、長年の約束を違えるつもりはないよ」。
【完結】新たな恋愛をしたいそうで、婚約状態の幼馴染と組んだパーティーをクビの上、婚約破棄されました
よどら文鳥
恋愛
「ソフィアの魔法なんてもういらないわよ。離脱していただけないかしら?」
幼馴染で婚約者でもあるダルムと冒険者パーティーを組んでいたところにミーンとマインが加入した。
だが、彼女たちは私の魔法は不要だとクビにさせようとしてきた。
ダルムに助けを求めたが……。
「俺もいつかお前を解雇しようと思っていた」
どうやら彼は、両親同士で決めていた婚約よりも、同じパーティーのミーンとマインに夢中らしい。
更に、私の回復魔法はなくとも、ミーンの回復魔法があれば問題ないという。
だが、ミーンの魔法が使えるようになったのは、私が毎回魔力をミーンに与えているからである。
それが定番化したのでミーンも自分自身で発動できるようになったと思い込んでいるようだ。
ダルムとマインは魔法が使えないのでこのことを理解していない。
一方的にクビにされた上、婚約も勝手に破棄されたので、このパーティーがどうなろうと知りません。
一方、私は婚約者がいなくなったことで、新たな恋をしようかと思っていた。
──冒険者として活動しながら素敵な王子様を探したい。
だが、王子様を探そうとギルドへ行くと、地位的な王子様で尚且つ国の中では伝説の冒険者でもあるライムハルト第3王子殿下からのスカウトがあったのだ。
私は故郷を離れ、王都へと向かう。
そして、ここで人生が大きく変わる。
※当作品では、数字表記は漢数字ではなく半角入力(1234567890)で書いてます。
【完結】順序を守り過ぎる婚約者から、婚約破棄されました。〜幼馴染と先に婚約してたって……五歳のおままごとで誓った婚約も有効なんですか?〜
よどら文鳥
恋愛
「本当に申し訳ないんだが、私はやはり順序は守らなければいけないと思うんだ。婚約破棄してほしい」
いきなり婚約破棄を告げられました。
実は婚約者の幼馴染と昔、私よりも先に婚約をしていたそうです。
ただ、小さい頃に国外へ行ってしまったらしく、婚約も無くなってしまったのだとか。
しかし、最近になって幼馴染さんは婚約の約束を守るために(?)王都へ帰ってきたそうです。
私との婚約は政略的なもので、愛も特に芽生えませんでした。悔しさもなければ後悔もありません。
婚約者をこれで嫌いになったというわけではありませんから、今後の活躍と幸せを期待するとしましょうか。
しかし、後に先に婚約した内容を聞く機会があって、驚いてしまいました。
どうやら私の元婚約者は、五歳のときにおままごとで結婚を誓った約束を、しっかりと守ろうとしているようです。
【完結】私よりも、病気(睡眠不足)になった幼馴染のことを大事にしている旦那が、嘘をついてまで居候させたいと言い出してきた件
よどら文鳥
恋愛
※あらすじにややネタバレ含みます
「ジューリア。そろそろ我が家にも執事が必要だと思うんだが」
旦那のダルムはそのように言っているが、本当の目的は執事を雇いたいわけではなかった。
彼の幼馴染のフェンフェンを家に招き入れたかっただけだったのだ。
しかし、ダルムのズル賢い喋りによって、『幼馴染は病気にかかってしまい助けてあげたい』という意味で捉えてしまう。
フェンフェンが家にやってきた時は確かに顔色が悪くてすぐにでも倒れそうな状態だった。
だが、彼女がこのような状況になってしまっていたのは理由があって……。
私は全てを知ったので、ダメな旦那とついに離婚をしたいと思うようになってしまった。
さて……誰に相談したら良いだろうか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる