上 下
17 / 30

17. 天高く、宇宙まで舞い上がる⋯⋯クズがふたり

しおりを挟む
「え~! おじさんにも言ってないんですかあ? もう報告する必要がないとか思ったのかなあ。でも俺はこれからもおじさんの味方ですからね、心配しなくても大丈夫です!」

 似合わないウインクをしたつもりのデイビッドだが、ゴミが目に入りかけた時の瞬きにしか見えなかったアーシェは少し俯いて笑いを堪えた。

「最愛だから大盤振る舞いでドレスやアクセサリーを買い漁っていたわけか~、ふむふむ⋯⋯少し意味が分かったよ」

「買い漁るだなんて大袈裟だなあ⋯⋯キャサリンはこっちに引っ越してきたばかりだったからあまりドレスとか持ってなくて、義兄としての愛を込めたプレゼントをしただけです」

「あら、お祖父様がおられるのに?⋯⋯お孫さんの持ち物や衣装の準備くらいしておられませんの?」

 リリベルが不思議そうな顔で首を傾げた。

「え? いや~、デイビッド殿の優しいお気持ちを無碍にするのも大人気ないと思いましてねえ」

 ニヤニヤと口元を歪めて笑ったケレイブ子爵は今までの会話の流れでケイン達3人を馬鹿にしはじめたらしく椅子の背にもたれて腕を組んだ。

(わあ、自分より上位の家に無理矢理押しかけてあの態度はないわ~。お茶会に俺も参加させろって手紙送ってきたんだよね~)

「そうか! あの請求書の束はケレイブ子爵家に届けておきましょう。お孫さんの衣装代や装飾品の代金がローゼンタールに間違って届いているんですよ。キャンストル家に送る予定で全てまとめてありますから、ライルと2人で話し合っていただけたらいいでしょうね」

 ケインとリリベルが顔を見合わせてうんうんと頷きながら『問題解決だね』と笑い合っているとデイビッドが怒鳴りはじめた。

「そんな! 俺がキャサリンにプレゼントしたいと思って買ったのにケレイブ子爵家に負担させるなんておかしいじゃないですか!?」

 バンとテーブルを叩いてデイビッドが立ち上がった。

「おじさんがそんな恥知らずなことを考える人だったなんて信じられない!」

「ん? デイビッドはキャンストル家の子息でそこのお嬢さんはケレイブ子爵家の孫だよね、ローゼンタールに請求が来るよりもキャンストルー家かケレイブ家が払う方が道理にかなっているよ。ケレイブ子爵もそう思われるでしょう?」

「いや~、支払いが苦しいのかもしれませんがあまりにも見苦しい⋯⋯おっとこれは、失言でしたなあ。他家の事に口出しするのはアレでしたな⋯⋯失敬失敬。
あ、お茶のお代わりを持ってきてくれ。ここは暑くてかなわんよ」

 ふふんと笑いながら足を組んだケレイブ子爵が勝手にお茶のおかわりをメイドに言いつけた。

「いえ、忌憚ないご意見をお聞かせくださって構いませんよ。遠慮や気遣いは不要ですから」

 ケインが爽やかな笑顔を向けるとまるで目下に向かっているように鷹揚に頷いたケレイブ子爵が話しはじめた。

「実はですな、デイビッド殿とキャサリンは既に義兄妹同然でしてキャンストル伯爵邸に部屋まで作ってもらっとります。それに、デイビッド殿は近々ローゼンタールを継がれるわけでしょう? なら、ローゼンタール家がキャサリンへのプレゼント代を払っても問題ないと思いますなあ」

 どうだと言わんばかりにケレイブ子爵がふんぞりかえるとデイビッドが何度も首肯してキャサリンと微笑みあった。

「う~ん、そう言われてもなあ。ローゼンタール家にはライルから話がきていませんからやはりうちが払うのは間違ってる気がしますねえ。今日初めて会った方や成人前の子供から『ライルは再婚予定』と言われただけでそれを信じられるかと言うと⋯⋯。
そのご様子ではケレイブ子爵家には再婚するとライルから連絡がきているのですか?」

 今日のケインは親の偉業を受け継いだだけのぼんやり当主を演じている。

『その方が奴らの自滅を早めてくれるからね』

 予想通りデイビッドとケレイブ子爵はポロポロと簡単に情報を垂れ流し、ケイン達の頭の中には両手で数えるほどの罪状が積み上がっていった。



「ええ、ええもちろんですとも。ご存知ないようだが会社の提携も含めて話が進んどりますぞ?」

 嬉しそうに揉手をしながら何度も頷いたのはケレイブ子爵にとって願ってもない話の流れだったのだろう、目が異様にギラギラと輝きはじめた。

「そうですか⋯⋯ま、どちらにしろ再婚するまではデイビッドとそのお嬢さんは他人なわけですし、我が家にとってはもっと遠い関係ですからね。デイビッドは今のところ知人の息子なだけの他人ですし」

「は? 俺はローゼンタールに養子に入るって決まってるのに他人って、アーシェを貰ってあげるって約束してあげたじゃないですか!?」

(貰ってあげるとか約束してあげたとか⋯⋯あーもー、ツッコミどころ満載でめちゃめちゃイラつく~。お父様ったらこんな茶番をまだ続けられるおつもりなの!?)

「養子じゃなくて婿養子だけどね。まあ、どちらにしろライル本人から聞かない限り信用するかどうかは保留にするよ。
で、ライルとケレイブ子爵のお嬢さんが再婚すると子爵家に連絡がきているのと、ライルとケレイブ子爵家の間には『ミーレス貿易会社』と『ソルダート貿易会社』の提携の話が進んでいる。それであってますか?」

「ええ、あっておりますとも。いくらローゼンタール卿でもここまで徹底的に蚊帳の外になっているのはなんとも不憫でして⋯⋯今日は色々お教えして差し上げようと思い参加したのですよ。
今2人は旅行に出掛けておりますが帰って来る前に教会に行って手続きを行うそうです。何しろ帰ってきたら会社の件で忙しくなると張り切っておられますからなあ」

「え~、そうなんですか? 社長は俺なんですけど全然知らなかったなあ」

 呑気なボンボン社長っぽい口調がサマになっているケインが額に拳を押し当てて少しのけぞった。

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

【祝福の御子】黄金の瞳の王子が望むのは

BL / 完結 24h.ポイント:923pt お気に入り:976

王子と令嬢の別れ話

恋愛 / 完結 24h.ポイント:298pt お気に入り:40

俺が、恋人だから

BL / 完結 24h.ポイント:1,128pt お気に入り:26

姉から奪うことしかできない妹は、ザマァされました

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:383pt お気に入り:3,476

転生王女は異世界でも美味しい生活がしたい!~モブですがヒロインを排除します~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:4,849pt お気に入り:1,465

処理中です...