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27.セドリックの憂鬱(間話かな?間話じゃないよ寝言だよ)
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キャンストル伯爵家の執事となりほんの数年⋯⋯教育の途中でいきなり執事に格上げされた若輩者、セドリックの一人語りでお伝えさせていただきます。
旦那様が心を病んでおられた事も気付かずマニュアル通りに仕事をこなすのが精一杯の半人前で、ハウスキーパーに叱られるとメイド達が必ず頭を撫でにくるのが納得いかないまま仕事をしておりました。
28歳にもなってと思われる方も多いのですが元は競走馬を育成しておりました牧場生まれの牧場育ちでございまして、貴族のお屋敷に奉公に上がる事になりましたのが一般よりかなり遅かったという経緯がございます。
執事になる方々は通常フットマンを勤め上げた方がなられますが、私の場合は何故か執事見習いからはじまり茫然自失のうちに執事に祭り上げられたような、どの方向から見ても『経歴が怪しい』非常に残念な執事と言えるでしょう。
執事とは⋯⋯酒類や食器の管理や主人の給仕、男性使用人全体を統括しその雇用と解雇に関する責任と権限を持つ非常に重要な職種でございます。ヴァレットも兼ねておりますから主人の身の回りのお世話や私的な秘書として公私に渡り主人の補佐を致します。
何故このようなご説明をしているのかと申しますと⋯⋯。
「新聞のアイロンがけをやり直して下さい」
「お出しするお茶が冷めておりますね。淹れ直しを」
「晩餐用の燕尾服⋯⋯裾に皺が寄っております。すぐに着替えを」
「ワインをそのように手荒に扱っては澱が」
「帳簿のこの部分、計算のやり直しを」
そうなのです! ただいまローゼンタール伯爵家のハウス・スチュワードをしておられるトーマスさんに鍛えられている実に『解せぬ』な状態だからでございます。
トーマスさんは年齢は私の倍近くでハウス・スチュワードの鏡のようにパーフェクトな方ですが、何故他家の私が鍛えられているのか⋯⋯それは(この件に関しても)大旦那様を恨む他なく、毎夜部屋に戻って宿題をはじめる前には儀式としまして『禿げろ~、もげろ~、禿げろ~、もげろ~』とキャンストル伯爵家の方に向けて呪文を唱えております。
領地を管理しておられるランド・スチュワードのナッシュさんからもテストのような宿題が山のように届き⋯⋯ もちろんローゼンタール伯爵家のランド・スチュワードのナッシュさんです⋯⋯休み時間も睡眠時間も消え失せてしまうので先日立ったまま寝ておりましたら何故か背中に箒が差し込んでありました。
誰かの親切なのかバレてるぞと言うお知らせなのか⋯⋯怖くて聞けませんけれど親切だったと思うことにしております。
私、キャンストル伯爵家の執事のはずです。多分クビにはなってないはずなので⋯⋯多分ですけどね。
私がこんな羽目に陥った大旦那様のちょっとした親切という名をつけた無神経で人でなしの1分間をお伝えしたいと思います。
『セドリック、あれ⋯⋯あれはどこにいったかのう』
『あれと申されますと?』
『⋯⋯』
『ランドルフ、胸のポケットじゃ。とうとうボケたか?』
1分もかからず終わってしまいましたが、この時大旦那様が探しておられたのは胸のポケットに入ってる老眼鏡でございました。お可哀想にボケがはじま⋯⋯ゲフンゲフン⋯⋯デイビッド様が甲板員として蒸気船に乗り込んだ翌日でしたからそのショックだったのでございましょう。
それにしても流石エマーソン様です。長年連れ添ったおしどり夫婦より阿吽の呼吸を心得ておられます。
その後、執事教育が足りないまま無理をさせていたのは可哀想だったと訳の分からない理由と共にローゼンタール伯爵家へ放り込まれたのでございます。
『禿げろ~、もげろ~、禿げろ~、もげろ~』
何故か楽しそうな笑顔を浮かべたケイン様とリリベル様の前に立った時は大旦那様より先に私のあれこれが『禿げてもげる』かと思ったほど、あらゆるものが体から抜け落ちて行くような恐怖を感じたのを今でも覚えております。
『見事なジャンピング土下座だったからね~、多分こうなるんじゃないかと楽しみにしてたんだよ』
『セドリックはかなり将来有望そうだからトーマスも楽しみに待っているわ。キャンストル伯爵家には歳だけいったお子ちゃまがふたりもいるから上手な縄の付け方を覚えて帰るといいわよ。
因みにあのおふたりはトーマスが大の苦手なの、うふっ』
大旦那様とエマーソン様の天敵が他にも潜んでいたと知り嬉しく⋯⋯ございません、恐怖が倍増しただけでございます。
忌憚ないご意見をいただけるならリリベル様とトーマスさんのどちらに軍配が上がるのか教えていただけると助かります。
それと、キャンストル伯爵家でも実家の牧場でも構いませんのでどうすれば帰れるのかをお教えくださるご親切な方を急募しております。
旦那様が心を病んでおられた事も気付かずマニュアル通りに仕事をこなすのが精一杯の半人前で、ハウスキーパーに叱られるとメイド達が必ず頭を撫でにくるのが納得いかないまま仕事をしておりました。
28歳にもなってと思われる方も多いのですが元は競走馬を育成しておりました牧場生まれの牧場育ちでございまして、貴族のお屋敷に奉公に上がる事になりましたのが一般よりかなり遅かったという経緯がございます。
執事になる方々は通常フットマンを勤め上げた方がなられますが、私の場合は何故か執事見習いからはじまり茫然自失のうちに執事に祭り上げられたような、どの方向から見ても『経歴が怪しい』非常に残念な執事と言えるでしょう。
執事とは⋯⋯酒類や食器の管理や主人の給仕、男性使用人全体を統括しその雇用と解雇に関する責任と権限を持つ非常に重要な職種でございます。ヴァレットも兼ねておりますから主人の身の回りのお世話や私的な秘書として公私に渡り主人の補佐を致します。
何故このようなご説明をしているのかと申しますと⋯⋯。
「新聞のアイロンがけをやり直して下さい」
「お出しするお茶が冷めておりますね。淹れ直しを」
「晩餐用の燕尾服⋯⋯裾に皺が寄っております。すぐに着替えを」
「ワインをそのように手荒に扱っては澱が」
「帳簿のこの部分、計算のやり直しを」
そうなのです! ただいまローゼンタール伯爵家のハウス・スチュワードをしておられるトーマスさんに鍛えられている実に『解せぬ』な状態だからでございます。
トーマスさんは年齢は私の倍近くでハウス・スチュワードの鏡のようにパーフェクトな方ですが、何故他家の私が鍛えられているのか⋯⋯それは(この件に関しても)大旦那様を恨む他なく、毎夜部屋に戻って宿題をはじめる前には儀式としまして『禿げろ~、もげろ~、禿げろ~、もげろ~』とキャンストル伯爵家の方に向けて呪文を唱えております。
領地を管理しておられるランド・スチュワードのナッシュさんからもテストのような宿題が山のように届き⋯⋯ もちろんローゼンタール伯爵家のランド・スチュワードのナッシュさんです⋯⋯休み時間も睡眠時間も消え失せてしまうので先日立ったまま寝ておりましたら何故か背中に箒が差し込んでありました。
誰かの親切なのかバレてるぞと言うお知らせなのか⋯⋯怖くて聞けませんけれど親切だったと思うことにしております。
私、キャンストル伯爵家の執事のはずです。多分クビにはなってないはずなので⋯⋯多分ですけどね。
私がこんな羽目に陥った大旦那様のちょっとした親切という名をつけた無神経で人でなしの1分間をお伝えしたいと思います。
『セドリック、あれ⋯⋯あれはどこにいったかのう』
『あれと申されますと?』
『⋯⋯』
『ランドルフ、胸のポケットじゃ。とうとうボケたか?』
1分もかからず終わってしまいましたが、この時大旦那様が探しておられたのは胸のポケットに入ってる老眼鏡でございました。お可哀想にボケがはじま⋯⋯ゲフンゲフン⋯⋯デイビッド様が甲板員として蒸気船に乗り込んだ翌日でしたからそのショックだったのでございましょう。
それにしても流石エマーソン様です。長年連れ添ったおしどり夫婦より阿吽の呼吸を心得ておられます。
その後、執事教育が足りないまま無理をさせていたのは可哀想だったと訳の分からない理由と共にローゼンタール伯爵家へ放り込まれたのでございます。
『禿げろ~、もげろ~、禿げろ~、もげろ~』
何故か楽しそうな笑顔を浮かべたケイン様とリリベル様の前に立った時は大旦那様より先に私のあれこれが『禿げてもげる』かと思ったほど、あらゆるものが体から抜け落ちて行くような恐怖を感じたのを今でも覚えております。
『見事なジャンピング土下座だったからね~、多分こうなるんじゃないかと楽しみにしてたんだよ』
『セドリックはかなり将来有望そうだからトーマスも楽しみに待っているわ。キャンストル伯爵家には歳だけいったお子ちゃまがふたりもいるから上手な縄の付け方を覚えて帰るといいわよ。
因みにあのおふたりはトーマスが大の苦手なの、うふっ』
大旦那様とエマーソン様の天敵が他にも潜んでいたと知り嬉しく⋯⋯ございません、恐怖が倍増しただけでございます。
忌憚ないご意見をいただけるならリリベル様とトーマスさんのどちらに軍配が上がるのか教えていただけると助かります。
それと、キャンストル伯爵家でも実家の牧場でも構いませんのでどうすれば帰れるのかをお教えくださるご親切な方を急募しております。
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