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28.アーシェの初仕事
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アーシェが学園を卒業する頃にはケインは辺境地や流通網が未整備の農村向けの『カタログ販売』をはじめていた。生活必需品を生産する複数の工場と契約を結び中間業者を排除した価格で取引を行う所謂通信販売は、国中に 燎原の火の如く広がっていった。
リリベルは輸入雑貨を取り扱う小さな商会を立ち上げ、投資したガラス産業の食器や鏡などの小物からシャンデリアやステンドグラスなど大物の注文品などを扱っていた。
その他にもあちこちを旅行してはペルシャ絨毯・アンティークレース・家具などを購入し販売している。
そして、学園を卒業したアーシェの初仕事は⋯⋯。
『サトウキビ関連は既に大企業の独占ですから今からでは太刀打ちできないと思うんですけど、チョコレートパウダーができたばかりのカカオはこれからもっと伸びるはず⋯⋯これを狙ってみたいんです』
カカオ・プランテーションや加工工場に投資すると同時に輸入契約を結び、コーヒーハウスとティー・ハウスをオープンすると決めたアーシェ。
「2種類の店を一気に立ち上げるのかい?」
「はい、どちらかを先に立ち上げて次を⋯⋯と言うよりも成功の確率が上がると考えています。ターゲットは同じ女性ですがコーヒーハウスはティーハウスより若干年齢層が高めの方を狙い、軽食は出さず会話と優雅な時間を楽しむスペースにします。
ティーハウスの方はある程度金銭に余裕の出た若い方がグループで楽しまれるお店にする予定で、軽食やケーキなども提供します。反応を見てからになりますけど貸切とかパーティーも受け付けてみようと考えています。経営者は同じだけどライバル店みたいな位置付けですね」
「ふむ、これはリリベルの方が詳しそうだね。同じ女性としてどう思う?」
「そうねえ、大筋は良いと思うけど⋯⋯女性は飽きっぽいのが気になるわね。男性専用なら気に入れば商談に使ったり男性同士の楽しみとして利用が続くけれど、女性はそこまで自由が許されていないでしょう? となるとたまに利用する程度だったり話題作りで数回利用して終わりにならないかしら? そうなれば注ぎ込んだ資金の回収は難しいと思うの」
「だからこそいけるんじゃないでしょうか? 男性優位の世界ですからどこにいても男性の目を意識しなければならない。家族や使用人に囲まれて行動を制限されてばかりの女性が窮屈な毎日から一時避難できる場所があったら、きっと定期的に通って息抜きしたくなると思います。
男性がクラブに通うのに女性にはないなんてちょっと悔しくないですか?」
「それは確かにそうよね」
「そんな世界の中に女性だけのエリアができれば興味を引くのは間違いありませんし、夫人と令嬢のマウントの取り合いになれば多分それほど早く飽きられるとは思わないんです」
金銭的にも時間的にも余裕がある年配層には若い令嬢よりも高級なものや優雅な時間の中に目新しさを加える事で優位性を、令嬢達は多くのものを楽しめる若さと今だからこそ楽しめる自由な時間と思い出作りでアピールする。
(年配者と若年層のバトル? 同時オープンだからこそお客様達がこっちの方が良いあっちの方がとか言って宣伝して下さる可能性があると思うんだよね。
『自分たちの年代の方が良いのよ、ふふん』って言うのをまろやかに表現する為に『ああいうお店が楽しめる自分達の世代って羨ましいでしょ?』ってそれとな~く伝える為に利用するみたいな感じ⋯⋯それに見合うだけのお店にするのが大前提だから初期投資が凄いんだけど)
「⋯⋯ふふっ! 可愛らしく微笑みながら大胆な発想でサクッと敵を仕留める感じがレティ様と良く似てるわ。面白そうだからやってごらんなさい。やるからには必ず、男性が興味津々で周りを彷徨くようなお店になさい。中途半端は許しませんからね」
リリベルからオーケーがでてようやく緊張が解けたアーシェは満面の笑みをこぼした。
「男達が周りを彷徨く?」
リリベルの言葉の意味がわからなかったケインが首を傾げた。
「評判になって自分の恋人や妻が何度も通えば男性達は気になって覗きにくるはずですもの。男性陣は自分や同性にはおおらかですけれど女性にはとても狭量だったり束縛したがったりしますでしょう?」
「あ、ああ⋯⋯そう言うとこがないとは言わないな。うん、ヤキモチ焼きだから自分のテリトリー内にいて欲しいとか思うんだよな」
思い当たる節があるらしくケインが耳を赤くして苦笑いを浮かべた。
「女性専用で完全予約制、オープンの時間も短くしようと思うんです。そこで使用するコーヒーやお茶も現地から輸入して店頭販売します」
男性専用で葉巻の匂いと政治談義が蔓延していたコーヒーハウスとは違い、外からの視線は遮るが大きな窓と広いスペースの明るく落ち着いた店を考えている。それぞれのテーブルは観葉植物や衝立で区切り女性らしいレースや洗練された食器で提供するのは⋯⋯。
コーヒーに合わせるのはショコラ・ド・サンテなどのチョコレートを使ったお菓子。
一番の目玉商品ココアはもちろんチョコレートパウダーを使ったもの。
ショコラトルの名で有名だった『飲むチョコレート』は渋みや苦味があったがそのイメージを一新したココアと合わせて提供するのはマシュマロ・マカロン・ビスケットなどのごく軽いお菓子ばかり。
(カロリーが気になる年齢層向けね)
コーヒーハウスより若者向けのティー・ハウスでは『不発酵緑茶』『半発酵の烏龍茶』『発酵紅茶』の3種類を置き、ケーキや軽食も提供される。
下段にサンドイッチ、中段にケーキが乗り、上段にはクロッシュで保温されたスコーンが載せられたティースタンドは女性客の大人気となるはず。因みにクロテッドクリームとジャムを添えたスコーンはアーシェのお気に入りのひとつ。
計画に許可が下りるとアーシェの毎日は激変した。一番肝心なシェフ探しと店舗探しに加えて使用する食材の確保の為に市場に通い⋯⋯。
侍女のミーニャをお供にリストと睨めっこする毎日が続いた。
「お父様、売買契約書なんですけど確認していただけますか?」
「お母様、今日面接した方なんですけれど少し気になることがあって相談に乗っていただけますか?」
リリベルは輸入雑貨を取り扱う小さな商会を立ち上げ、投資したガラス産業の食器や鏡などの小物からシャンデリアやステンドグラスなど大物の注文品などを扱っていた。
その他にもあちこちを旅行してはペルシャ絨毯・アンティークレース・家具などを購入し販売している。
そして、学園を卒業したアーシェの初仕事は⋯⋯。
『サトウキビ関連は既に大企業の独占ですから今からでは太刀打ちできないと思うんですけど、チョコレートパウダーができたばかりのカカオはこれからもっと伸びるはず⋯⋯これを狙ってみたいんです』
カカオ・プランテーションや加工工場に投資すると同時に輸入契約を結び、コーヒーハウスとティー・ハウスをオープンすると決めたアーシェ。
「2種類の店を一気に立ち上げるのかい?」
「はい、どちらかを先に立ち上げて次を⋯⋯と言うよりも成功の確率が上がると考えています。ターゲットは同じ女性ですがコーヒーハウスはティーハウスより若干年齢層が高めの方を狙い、軽食は出さず会話と優雅な時間を楽しむスペースにします。
ティーハウスの方はある程度金銭に余裕の出た若い方がグループで楽しまれるお店にする予定で、軽食やケーキなども提供します。反応を見てからになりますけど貸切とかパーティーも受け付けてみようと考えています。経営者は同じだけどライバル店みたいな位置付けですね」
「ふむ、これはリリベルの方が詳しそうだね。同じ女性としてどう思う?」
「そうねえ、大筋は良いと思うけど⋯⋯女性は飽きっぽいのが気になるわね。男性専用なら気に入れば商談に使ったり男性同士の楽しみとして利用が続くけれど、女性はそこまで自由が許されていないでしょう? となるとたまに利用する程度だったり話題作りで数回利用して終わりにならないかしら? そうなれば注ぎ込んだ資金の回収は難しいと思うの」
「だからこそいけるんじゃないでしょうか? 男性優位の世界ですからどこにいても男性の目を意識しなければならない。家族や使用人に囲まれて行動を制限されてばかりの女性が窮屈な毎日から一時避難できる場所があったら、きっと定期的に通って息抜きしたくなると思います。
男性がクラブに通うのに女性にはないなんてちょっと悔しくないですか?」
「それは確かにそうよね」
「そんな世界の中に女性だけのエリアができれば興味を引くのは間違いありませんし、夫人と令嬢のマウントの取り合いになれば多分それほど早く飽きられるとは思わないんです」
金銭的にも時間的にも余裕がある年配層には若い令嬢よりも高級なものや優雅な時間の中に目新しさを加える事で優位性を、令嬢達は多くのものを楽しめる若さと今だからこそ楽しめる自由な時間と思い出作りでアピールする。
(年配者と若年層のバトル? 同時オープンだからこそお客様達がこっちの方が良いあっちの方がとか言って宣伝して下さる可能性があると思うんだよね。
『自分たちの年代の方が良いのよ、ふふん』って言うのをまろやかに表現する為に『ああいうお店が楽しめる自分達の世代って羨ましいでしょ?』ってそれとな~く伝える為に利用するみたいな感じ⋯⋯それに見合うだけのお店にするのが大前提だから初期投資が凄いんだけど)
「⋯⋯ふふっ! 可愛らしく微笑みながら大胆な発想でサクッと敵を仕留める感じがレティ様と良く似てるわ。面白そうだからやってごらんなさい。やるからには必ず、男性が興味津々で周りを彷徨くようなお店になさい。中途半端は許しませんからね」
リリベルからオーケーがでてようやく緊張が解けたアーシェは満面の笑みをこぼした。
「男達が周りを彷徨く?」
リリベルの言葉の意味がわからなかったケインが首を傾げた。
「評判になって自分の恋人や妻が何度も通えば男性達は気になって覗きにくるはずですもの。男性陣は自分や同性にはおおらかですけれど女性にはとても狭量だったり束縛したがったりしますでしょう?」
「あ、ああ⋯⋯そう言うとこがないとは言わないな。うん、ヤキモチ焼きだから自分のテリトリー内にいて欲しいとか思うんだよな」
思い当たる節があるらしくケインが耳を赤くして苦笑いを浮かべた。
「女性専用で完全予約制、オープンの時間も短くしようと思うんです。そこで使用するコーヒーやお茶も現地から輸入して店頭販売します」
男性専用で葉巻の匂いと政治談義が蔓延していたコーヒーハウスとは違い、外からの視線は遮るが大きな窓と広いスペースの明るく落ち着いた店を考えている。それぞれのテーブルは観葉植物や衝立で区切り女性らしいレースや洗練された食器で提供するのは⋯⋯。
コーヒーに合わせるのはショコラ・ド・サンテなどのチョコレートを使ったお菓子。
一番の目玉商品ココアはもちろんチョコレートパウダーを使ったもの。
ショコラトルの名で有名だった『飲むチョコレート』は渋みや苦味があったがそのイメージを一新したココアと合わせて提供するのはマシュマロ・マカロン・ビスケットなどのごく軽いお菓子ばかり。
(カロリーが気になる年齢層向けね)
コーヒーハウスより若者向けのティー・ハウスでは『不発酵緑茶』『半発酵の烏龍茶』『発酵紅茶』の3種類を置き、ケーキや軽食も提供される。
下段にサンドイッチ、中段にケーキが乗り、上段にはクロッシュで保温されたスコーンが載せられたティースタンドは女性客の大人気となるはず。因みにクロテッドクリームとジャムを添えたスコーンはアーシェのお気に入りのひとつ。
計画に許可が下りるとアーシェの毎日は激変した。一番肝心なシェフ探しと店舗探しに加えて使用する食材の確保の為に市場に通い⋯⋯。
侍女のミーニャをお供にリストと睨めっこする毎日が続いた。
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