上 下
73 / 95
マッケンジー邸

6.公爵邸再び

しおりを挟む
 公爵邸に着くと庭のキョシュクガゼボに案内された。

 壁に囲まれた庭の中央の噴水には聖母マリアが、近くにはユニコーンの彫刻が鎮座している。

 夏の爽やかな風が吹き、盛りの時期を迎えた薔薇やダリアが花壇を華やかに彩っている。
 もうすぐ終わりを迎える百合も一斉に花開き、白い花弁に鮮やかな黄色が目を楽しませてくれた。

 この国ではまだ珍しい月下美人も、夜に一度目の花を咲かせているそうだ。



「ジプシーに会えたなんて羨ましいわ。彼らは本当に黒髪と黒い肌だったの?」

 ジプシーは今はまだ数が少ないので、社交界で会ったことのある人は殆どいない。

「私が会った人は黒髪で明るい褐色の肌色でした。自分達は白ジプシーだからと」

「白ジプシー・・初めて聞いたわ。
それで、占いやジプシー舞踊も見たの?」

「踊りは見れなかったのですが、占いはすごい的中率でした」

「まぁ、そんなに?」

 ジェシカは目を丸くしている。

「はい、びっくりする程に。同じ方達が来られるのかは分かりませんが、毎年夏の時期にオークリーにやって来るそうです」


「オークリーと言うとダーリントン侯爵の領地ね。今度会った時お聞きしてみるわ」


「私は時間がなくて会えませんでしたが、吟遊詩人も来ているそうです」

「吟遊詩人は随分と数が減って、なかなか呼べなくなってきたのに。
 チャールズダーリントン侯爵がこんな素敵な事を秘密にしているなんて」

「吟遊詩人はともかく、ジプシーには悪い噂が多いからなぁ。
チャールズが公にしていないのはそのせいかも」

「確かに、誰かに話して盗みでも働かれたら大変だもの。
お話を聞く時は、周りに用心しなくては迷惑をお掛けしそうね」


「ところで今日はレノンは出かけているのかな?」

「お父様・・」

 リディアが慌てて目くばせするがライリーは気づかないふりをしている。

「今日はと言うより今日もセシリアが来てるの。
ジプシーの話を聞きたかったから、こちらにはこない様に言っておいたのよ」

「後で声をかけてもいいかな?」

「勿論、レノンはセシリアにうんざりしてるからきっと喜ぶわ。
息子はライリーとリディアに会いたがっていたの」

「レノンとセシリアは付き合ってはいなかったと思うんだが、本当のところはどうなんだい?」

「ライリーがそう言う噂を口にするなんて珍しいわね。
噂は本当よ。あの二人は兄妹みたいなものだから」

(やっぱり、ではセシリアは嘘を?)

「セシリアの方はレノンの事が好きみたいだけど、レノンは嫌がってるの。
ここの所特にセシリアが張り切ってて、レノンも私も正直困ってるのよね」

「それでレノンはリディアにあんな失礼な提案を」

「お父様! 駄目」

 リディアがライリーの腕に手をかけたが、ライリーはその手を優しく叩き、

「先日リディアがここに泊まった際色々あった様でね。まずはレノンの従僕に話があるんだが呼んでもらえるかな?」

「アンリが何かしでかしたの?」

「ジェシカはなぜそう思うんだい?」

「この間からアンリの様子がおかしいの。
塞ぎ込んでいるかと思ったら、あちこちで暴言を吐いたりしてる様で」

 リディアはメイドを呼び、アンリにすぐ来るよう指示を出した。



「何があったのか教えてくれるかしら」

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

薬で成り立つ生なんてー僕みたいな存在は滅びるべきなんだー

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:781pt お気に入り:1

思い、出戻り、恋の行方。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:788pt お気に入り:1

元婚約者に未練タラタラな旦那様、もういらないんだけど?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,696pt お気に入り:2,732

王妃となったアンゼリカ

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:180,307pt お気に入り:7,845

おてんば末っ子令嬢、実は前世若頭だった!? 〜皆で領地を守ります!〜

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:2,870pt お気に入り:2,909

聖女に選ばれた令嬢は我が儘だと言われて苦笑する

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,924pt お気に入り:1,997

婚約者を妹に譲ったら、婚約者の兄に溺愛された

恋愛 / 完結 24h.ポイント:752pt お気に入り:1,202

【完結】私がいなくなれば、あなたにも わかるでしょう

nao
恋愛 / 完結 24h.ポイント:15,948pt お気に入り:937

処理中です...