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18.一番大変な思いをしているのは
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首都を出発し途中2泊してボクス公爵領に着き、宿に部屋を取ったのは午後遅い時間だった。
明日の朝領主館にいく約束になっているが念の為先触れを出し、夕食までの時間を使って街を歩くことにした。
「馬車に乗りっぱなしだったから外を歩くとホッとします」
「私も同じだわ。あまり揺れないって言う触れ込みは嘘なんじゃないかと思ったもの。
⋯⋯それにしても、以前来た時より活気がない気がするわ」
「そうなんですか? 確かに公爵領だと考えたら商店の品数も質もあんまり良くないですね⋯⋯値段はちょっと高いです」
一緒に歩いているのは侍女代わりにと立候補してくれた商会員のシエナ。
獣人族の中でも狼の特性を持ち護衛役も兼ねている上に、伯爵家の三女なので貴族のルールにも詳しい。
「この領地に支店を出す予定だったでしょ? あの時に一度だけ来たんだけど、結構活気があって⋯⋯あそこには繁盛してる食堂があったし、向こうの緑の看板のお店は腕の良い職人さんのいる鋳物屋だったはず」
サラが指差した場所には閉店の看板がかけられた空き家があった。
「やっぱりご領主様やセドリック様の事が大きいんでしょうか」
「その可能性は大きいわね。今は誰が領主の代わりをしてるのか分からないけど、あまりうまく行ってるようには見えない」
(この状況では購入した店舗の売却も厳しいかも)
「少しお天気が怪しくなってきた気がします。宿に帰りますか?」
「そうね、その方が良さそう」
宿についた直後雷を伴った夏の通り雨が降りはじめた。
「間に合って良かった。こんなに降るなんて」
「タイラー様からこの辺りは天候が変わりやすいから気をつけるようにって教えていただいてたんです」
「そうなの? 流石タイラーは物知りね」
部屋に運ばれてきた夕食をシエナと2人で食べた後に湯浴みをすると時間が余ってしまった。
「仕事を持ってくれば良かった」
「サラ様は仕事中毒ですねえ、趣味とか楽しみとかはないんですか?」
「えーっと、趣味は仕事で楽しみは仕事? すごく退屈な人だってバレちゃったわね」
苦笑いをしたサラは明日の決戦を控え、少し早いがベッドに入ることにした。
(結局、アリーシャはウエディングドレスを別の店で購入したのよね。家具も指輪も⋯⋯他人事だけど、支払い大丈夫なのかな)
サラが気にする必要はないとライリー達に言われたが、『ローゼン商会が断らなければ⋯⋯』とつい考えてしまう。
(どの店もそれなりの金額だったけど、まさか踏み倒したりしないわよね)
公開婚約破棄騒動の後、公爵家はイーサンが連れてきたアリーシャを叩き出したと言う。
公爵はイーサンに領地での謹慎を命じたが、全ての責任は悪女アリーシャで気の良いイーサンは騙されただけだと社交界に噂を流したのは公爵夫人だった。
(そのアリーシャの為に夫人が支払いをするかどうか⋯⋯経営が上手くいってたとしても怪しいのよね)
イーサン達が指示しモーガン侯爵家に送られた請求書は現在保留になっている。モーガン侯爵はイーサンに請求書を送りつけたが受け取りを拒否され、サラに支払うよう何度も手紙を送りつけてきた。
(結局権力のない人⋯⋯商人が一番大変な思いをさせられてるってことだもの)
翌朝、ボクス公爵領の領主館の応接室に入ると公爵夫人とイーサンが並んでソファに座っていた。
「初めてお目にかかります、サラ・モーガンと申します。よろしくお願いいたします」
優雅なカーテシーをしたまま公爵夫人の声がかかるのを待つサラに公爵夫人エスメラルダの冷たい声が聞こえた。
「挨拶はいいわ。もう直ぐ神殿から司祭が来ることになってるの。イーサンはこの後用事があるから、婚姻届にサインを済ませてしまいなさい。わたくし達は既にサインをしておきましたからね」
「はい、かしこまりました」
イーサンと目を合わせないように気をつけながらエスメラルダの正面に腰を下ろしたサラは内容を確認してからペンを持ちイーサンのサインの横に名前を書いた。
「今日から法律上はボクス公爵家の者となるのだけれど、今までのような甘えは許さないわ。平民と一緒に商人などという下賎な行いをしていたなんて⋯⋯今後は我が家に相応しい行いをするように。
わたくしは礼儀のなっていない人や我儘な人が大嫌いなの。よく覚えておきなさい」
「はい、かしこまりました」
「それから、わたくしのことは奥様と呼びなさい。あなたの為人が分かるまで認めるわけにはまいりません」
「はい」
「初めに言っておくけれど⋯⋯」
「奥様、司祭様がいらっしゃいました」
エスメラルダの言葉を遮って執事が声をかけた。
「そう、お通しして。面倒事はさっさと済ませてしまいましょう」
明日の朝領主館にいく約束になっているが念の為先触れを出し、夕食までの時間を使って街を歩くことにした。
「馬車に乗りっぱなしだったから外を歩くとホッとします」
「私も同じだわ。あまり揺れないって言う触れ込みは嘘なんじゃないかと思ったもの。
⋯⋯それにしても、以前来た時より活気がない気がするわ」
「そうなんですか? 確かに公爵領だと考えたら商店の品数も質もあんまり良くないですね⋯⋯値段はちょっと高いです」
一緒に歩いているのは侍女代わりにと立候補してくれた商会員のシエナ。
獣人族の中でも狼の特性を持ち護衛役も兼ねている上に、伯爵家の三女なので貴族のルールにも詳しい。
「この領地に支店を出す予定だったでしょ? あの時に一度だけ来たんだけど、結構活気があって⋯⋯あそこには繁盛してる食堂があったし、向こうの緑の看板のお店は腕の良い職人さんのいる鋳物屋だったはず」
サラが指差した場所には閉店の看板がかけられた空き家があった。
「やっぱりご領主様やセドリック様の事が大きいんでしょうか」
「その可能性は大きいわね。今は誰が領主の代わりをしてるのか分からないけど、あまりうまく行ってるようには見えない」
(この状況では購入した店舗の売却も厳しいかも)
「少しお天気が怪しくなってきた気がします。宿に帰りますか?」
「そうね、その方が良さそう」
宿についた直後雷を伴った夏の通り雨が降りはじめた。
「間に合って良かった。こんなに降るなんて」
「タイラー様からこの辺りは天候が変わりやすいから気をつけるようにって教えていただいてたんです」
「そうなの? 流石タイラーは物知りね」
部屋に運ばれてきた夕食をシエナと2人で食べた後に湯浴みをすると時間が余ってしまった。
「仕事を持ってくれば良かった」
「サラ様は仕事中毒ですねえ、趣味とか楽しみとかはないんですか?」
「えーっと、趣味は仕事で楽しみは仕事? すごく退屈な人だってバレちゃったわね」
苦笑いをしたサラは明日の決戦を控え、少し早いがベッドに入ることにした。
(結局、アリーシャはウエディングドレスを別の店で購入したのよね。家具も指輪も⋯⋯他人事だけど、支払い大丈夫なのかな)
サラが気にする必要はないとライリー達に言われたが、『ローゼン商会が断らなければ⋯⋯』とつい考えてしまう。
(どの店もそれなりの金額だったけど、まさか踏み倒したりしないわよね)
公開婚約破棄騒動の後、公爵家はイーサンが連れてきたアリーシャを叩き出したと言う。
公爵はイーサンに領地での謹慎を命じたが、全ての責任は悪女アリーシャで気の良いイーサンは騙されただけだと社交界に噂を流したのは公爵夫人だった。
(そのアリーシャの為に夫人が支払いをするかどうか⋯⋯経営が上手くいってたとしても怪しいのよね)
イーサン達が指示しモーガン侯爵家に送られた請求書は現在保留になっている。モーガン侯爵はイーサンに請求書を送りつけたが受け取りを拒否され、サラに支払うよう何度も手紙を送りつけてきた。
(結局権力のない人⋯⋯商人が一番大変な思いをさせられてるってことだもの)
翌朝、ボクス公爵領の領主館の応接室に入ると公爵夫人とイーサンが並んでソファに座っていた。
「初めてお目にかかります、サラ・モーガンと申します。よろしくお願いいたします」
優雅なカーテシーをしたまま公爵夫人の声がかかるのを待つサラに公爵夫人エスメラルダの冷たい声が聞こえた。
「挨拶はいいわ。もう直ぐ神殿から司祭が来ることになってるの。イーサンはこの後用事があるから、婚姻届にサインを済ませてしまいなさい。わたくし達は既にサインをしておきましたからね」
「はい、かしこまりました」
イーサンと目を合わせないように気をつけながらエスメラルダの正面に腰を下ろしたサラは内容を確認してからペンを持ちイーサンのサインの横に名前を書いた。
「今日から法律上はボクス公爵家の者となるのだけれど、今までのような甘えは許さないわ。平民と一緒に商人などという下賎な行いをしていたなんて⋯⋯今後は我が家に相応しい行いをするように。
わたくしは礼儀のなっていない人や我儘な人が大嫌いなの。よく覚えておきなさい」
「はい、かしこまりました」
「それから、わたくしのことは奥様と呼びなさい。あなたの為人が分かるまで認めるわけにはまいりません」
「はい」
「初めに言っておくけれど⋯⋯」
「奥様、司祭様がいらっしゃいました」
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