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23.脳筋と策略家のどっちがメインか
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「見事に獣人族と龍人族で揃えてましたね~。ライリー様の執念を感じます」
「護衛の人達はバーラム家の人だったしケビンさんがいたのは驚いたわ。あっ、負けた~。今度はフォーカードって信じらんない」
「ふっふっふっ、トランプ勝負を申し込んだのはサラ様ですからね。手は抜きません」
「あー、もー無理。シエナがこんなにポーカーが強いならチェスとかにしておけば良かった~」
「獣人って力ばっかりの脳筋だってよく言われるんで、負けないように練習してますから」
「私の知ってる獣人族は頭の良い人が多いのに不思議よね。頭が良くて力持ちなんてすっごくずるい気がしてるもん。
ギルバートなんて脳筋の皮を被ってるけど、かなりの策略家だし。めんどくさいから脳筋のふりしてるのよ」
「ローゼン商会の役員の方はみんな凄い能力があって羨ましいです。ギルバート様は策略家のふりをしたがる脳筋ですけど」
無理矢理40も歳の離れた老人に嫁がされそうになって逃げ出したシエナは『何でもするから雇って下さい!』とローゼン商会に飛び込んできた。
その時面接したのがサラでそれ以来事務員として働いている。
「商会員はみんな凄腕の商人だもん、勿論シエナも。さて、最後の大勝負といきますか。今度こそ絶対に負けないんだから」
「こちらこそ、受けて立ちます!」
トランプを切るシュッシュっと言う音が聞こえてきた。
「⋯⋯眠い」
「ちょーっと盛り上がりすぎましたね」
「シエナが強すぎる」
夜が明ける前にベッドに入ったが、長年明け方に起きるくせがついているサラは結局一睡もできないままぼーっと髪を梳かしていた。
「ほら、侍女のシエナにお任せ下さい。チャチャっと最高美人にして差し上げますから。こんなに寝ぼけてても幻術が解けないのは不思議ですけど、できる範囲で妖艶な美女に仕上げますねって⋯⋯起きてくださーい、サラ様寝ないでぇ」
「う、うん。大丈夫」
光の加減で緑っぽく光る珍しいサラの銀髪はハニーブロンドに変わり、紫色の瞳は濃い翠眼になっている。
「色を変えただけなのに、何だか凄く印象が薄く見えるんですよね」
「認識阻害⋯⋯魔導具?⋯⋯眠⋯⋯ふわぁっ、うげっ! に、苦~い! お、おはようござ、ゲホッゲホッ」
「はい、気合いが入りました?」
「うん、入った。お世話かけました。ちょっとだけでも寝られたら大丈夫だったのになぁ、助かりました」
シエナがサラの口に放り込んだのは悪戯用に作られた超絶苦い飴玉。
「今日が本番だって言ってましたよね。目を覚ましてガツンとやっちゃって下さい」
サラがこれ程眠たがっているのは、昨夜リチャードの部屋に忍び込んで持ち出した薬のせいもある。
(最悪だよ、あれで生きてる⋯⋯流石巨人族の血だね。私なんてちょっと味見しただけなのに)
朝食を済ませてもイーサンはまだ帰ってこなかったが、運良くリチャードから声がかかった。
「すぐ行きます!」
カバンの奥にしまい込んでいたピルケースをポケットに入れて部屋を出た。
(昨夜確認しておいて良かった)
3階に上がりベッドのそばまで案内されると昨日より顔色が悪いリチャードが横になったままサラの方に顔を向けた。
「すまない⋯⋯昨夜⋯⋯イーサン⋯⋯」
「公爵様⋯⋯お義父様、お辛いなら無理にお声を出されませんよう」
「本当に⋯⋯可哀想なこ⋯⋯とを」
途切れ途切れに謝るリチャードの耳元に口を寄せた。
「お義父様の身体には遅効性の毒がかなり蓄積されています。昔前公爵様からいただいたお薬がほんの少し残っていて、その毒を消す薬なのですがわたくしを信じていただけるなら飲んでみられませんか?」
「ち、父上が⋯⋯そう⋯⋯」
小さく頷いたリチャードの口に真珠くらいの丸い玉を入れた。
「頑張って噛まずに飲み込んで下さい。食べ物みたいに喉に詰まる事はありませんから」
ゆっくりと喉仏が動いた。
「多分、1時間くらいしたら痛みや痺れが楽になると思いますが、誰にもバレないように気を付けてください。それからいつもの薬も香も毒入りでしたから、絶対に飲まないで」
目を瞑りかけたリチャードにサラは急いで話を続けた。
「目が覚めたらまたわたくしを呼んで下さい。その時ご説明させていただきます」
リチャードがすうすうと穏やかな寝息を立てはじめたのを確認して立ち上がったサラは、不安そうな顔のメアリーに笑顔を向けた。
「わたくしのことを心配してくださったようです。ご連絡があればいつでも参りますので、よろしくお願いします」
大切な主人はもう長くないと覚悟しているのだろう、深々と頭を下げるメアリーの肩が小さく見えた。
「護衛の人達はバーラム家の人だったしケビンさんがいたのは驚いたわ。あっ、負けた~。今度はフォーカードって信じらんない」
「ふっふっふっ、トランプ勝負を申し込んだのはサラ様ですからね。手は抜きません」
「あー、もー無理。シエナがこんなにポーカーが強いならチェスとかにしておけば良かった~」
「獣人って力ばっかりの脳筋だってよく言われるんで、負けないように練習してますから」
「私の知ってる獣人族は頭の良い人が多いのに不思議よね。頭が良くて力持ちなんてすっごくずるい気がしてるもん。
ギルバートなんて脳筋の皮を被ってるけど、かなりの策略家だし。めんどくさいから脳筋のふりしてるのよ」
「ローゼン商会の役員の方はみんな凄い能力があって羨ましいです。ギルバート様は策略家のふりをしたがる脳筋ですけど」
無理矢理40も歳の離れた老人に嫁がされそうになって逃げ出したシエナは『何でもするから雇って下さい!』とローゼン商会に飛び込んできた。
その時面接したのがサラでそれ以来事務員として働いている。
「商会員はみんな凄腕の商人だもん、勿論シエナも。さて、最後の大勝負といきますか。今度こそ絶対に負けないんだから」
「こちらこそ、受けて立ちます!」
トランプを切るシュッシュっと言う音が聞こえてきた。
「⋯⋯眠い」
「ちょーっと盛り上がりすぎましたね」
「シエナが強すぎる」
夜が明ける前にベッドに入ったが、長年明け方に起きるくせがついているサラは結局一睡もできないままぼーっと髪を梳かしていた。
「ほら、侍女のシエナにお任せ下さい。チャチャっと最高美人にして差し上げますから。こんなに寝ぼけてても幻術が解けないのは不思議ですけど、できる範囲で妖艶な美女に仕上げますねって⋯⋯起きてくださーい、サラ様寝ないでぇ」
「う、うん。大丈夫」
光の加減で緑っぽく光る珍しいサラの銀髪はハニーブロンドに変わり、紫色の瞳は濃い翠眼になっている。
「色を変えただけなのに、何だか凄く印象が薄く見えるんですよね」
「認識阻害⋯⋯魔導具?⋯⋯眠⋯⋯ふわぁっ、うげっ! に、苦~い! お、おはようござ、ゲホッゲホッ」
「はい、気合いが入りました?」
「うん、入った。お世話かけました。ちょっとだけでも寝られたら大丈夫だったのになぁ、助かりました」
シエナがサラの口に放り込んだのは悪戯用に作られた超絶苦い飴玉。
「今日が本番だって言ってましたよね。目を覚ましてガツンとやっちゃって下さい」
サラがこれ程眠たがっているのは、昨夜リチャードの部屋に忍び込んで持ち出した薬のせいもある。
(最悪だよ、あれで生きてる⋯⋯流石巨人族の血だね。私なんてちょっと味見しただけなのに)
朝食を済ませてもイーサンはまだ帰ってこなかったが、運良くリチャードから声がかかった。
「すぐ行きます!」
カバンの奥にしまい込んでいたピルケースをポケットに入れて部屋を出た。
(昨夜確認しておいて良かった)
3階に上がりベッドのそばまで案内されると昨日より顔色が悪いリチャードが横になったままサラの方に顔を向けた。
「すまない⋯⋯昨夜⋯⋯イーサン⋯⋯」
「公爵様⋯⋯お義父様、お辛いなら無理にお声を出されませんよう」
「本当に⋯⋯可哀想なこ⋯⋯とを」
途切れ途切れに謝るリチャードの耳元に口を寄せた。
「お義父様の身体には遅効性の毒がかなり蓄積されています。昔前公爵様からいただいたお薬がほんの少し残っていて、その毒を消す薬なのですがわたくしを信じていただけるなら飲んでみられませんか?」
「ち、父上が⋯⋯そう⋯⋯」
小さく頷いたリチャードの口に真珠くらいの丸い玉を入れた。
「頑張って噛まずに飲み込んで下さい。食べ物みたいに喉に詰まる事はありませんから」
ゆっくりと喉仏が動いた。
「多分、1時間くらいしたら痛みや痺れが楽になると思いますが、誰にもバレないように気を付けてください。それからいつもの薬も香も毒入りでしたから、絶対に飲まないで」
目を瞑りかけたリチャードにサラは急いで話を続けた。
「目が覚めたらまたわたくしを呼んで下さい。その時ご説明させていただきます」
リチャードがすうすうと穏やかな寝息を立てはじめたのを確認して立ち上がったサラは、不安そうな顔のメアリーに笑顔を向けた。
「わたくしのことを心配してくださったようです。ご連絡があればいつでも参りますので、よろしくお願いします」
大切な主人はもう長くないと覚悟しているのだろう、深々と頭を下げるメアリーの肩が小さく見えた。
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