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7.商会離脱宣言
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公爵邸にあったトルソーが三つ応接室に運び込まれ、シエナがデザインしたドレスが飾られた。
「これは初めて見るスタイルのものばかりね」
「はい、こちらは裾をこのようにからげる事で、別の印象のドレスへと様変わりいたします。後の二つはルダンゴトから着想を得たスタイルに、ウエストコートのイメージで刺繍を入れた物と、捺染布のみで作りましたものでございます」
イライザは暫くドレスの近くで鑑賞していたが、ソファに戻り紅茶をひとくち口にしてから口を開いた。
「これがウォーカー商会の新商品ということね」
「いえ、これらの商品は新しい商会にて手がける予定でございます」
「商会を立ち上げるのかい?」
「はい、近々ウォーカー商会を離れますので今日は初のお披露目をさせて頂きました」
「あなたは確かウォーカー商会の商会長でしょう? しかも、ウォーカー家が何代も受け継いできた商会から離れると言うの?」
「やむを得ない理由がございまして、商会を離れ新しい分野に挑戦することに致しました」
「ん? ちょっと待ってくれ。となると今後ウォーカー商会の刺繍は誰がデザインを?」
「新しい商会の経営には携わることができませんので、私には分かりかねます」
「随分と無責任な発言ですこと。今まであなた達は多くの顧客のお陰でやって来れたと言うのに、辞めるとなると顧客のことなどどうでも良くなるのね」
「ウォーカー商会の将来について私が口を挟むことは出来ませんが、私自身は刺繍のデザインを辞めるつもりはございません。ただ、初めから紳士服も扱うと公表してしまうと色々不具合がございまして⋯⋯。
様々な問題が解決するまでは、個人取引のような形を取らせていただく予定でございます」
「出資者への優遇措置というわけ?」
「いえ、紳士服のご希望を下さった方には別のお願いをする予定でございますが、それはまた別の時に個別にお願いに上がる所存でございます」
「では、今日は何の為にここへ来たのかしら? 普通売り込みに来る人はパトロンになって欲しいと思っているものよ」
「私の作りました作品が、アーリントン公爵夫人のお眼鏡にかなうものかどうかを知りたくて参りました。初めて足を踏み入れる分野の評価を頂くなら、アーリントン公爵夫人しかないと思いました」
「私が駄目出ししたら、どうするつもり?」
「一からデザインを考え直し致します。もし仮に、他の方が受け入れてくださっても、アーリントン公爵夫人に評価頂けない物であれば、商会を立ち上げるだけの作品ではないと言うことですので」
「⋯⋯コートの色は紺。刺繍は金糸と銀糸を使って頂戴。ストマッカーにはリボンではなく刺繍とレース、宝石はこちらで準備するわ。ペチコートの柄模様はデザイン画を見せて頂きましょう。
それとそこにかけてあるピンクのドレスはそのまま頂くわ。サイズ直しをして今度の娘の誕生日プレゼントにします」
イライザは、残りのドレスも同様のデザインのものを複数枚注文してくれた。
「これは初めて見るスタイルのものばかりね」
「はい、こちらは裾をこのようにからげる事で、別の印象のドレスへと様変わりいたします。後の二つはルダンゴトから着想を得たスタイルに、ウエストコートのイメージで刺繍を入れた物と、捺染布のみで作りましたものでございます」
イライザは暫くドレスの近くで鑑賞していたが、ソファに戻り紅茶をひとくち口にしてから口を開いた。
「これがウォーカー商会の新商品ということね」
「いえ、これらの商品は新しい商会にて手がける予定でございます」
「商会を立ち上げるのかい?」
「はい、近々ウォーカー商会を離れますので今日は初のお披露目をさせて頂きました」
「あなたは確かウォーカー商会の商会長でしょう? しかも、ウォーカー家が何代も受け継いできた商会から離れると言うの?」
「やむを得ない理由がございまして、商会を離れ新しい分野に挑戦することに致しました」
「ん? ちょっと待ってくれ。となると今後ウォーカー商会の刺繍は誰がデザインを?」
「新しい商会の経営には携わることができませんので、私には分かりかねます」
「随分と無責任な発言ですこと。今まであなた達は多くの顧客のお陰でやって来れたと言うのに、辞めるとなると顧客のことなどどうでも良くなるのね」
「ウォーカー商会の将来について私が口を挟むことは出来ませんが、私自身は刺繍のデザインを辞めるつもりはございません。ただ、初めから紳士服も扱うと公表してしまうと色々不具合がございまして⋯⋯。
様々な問題が解決するまでは、個人取引のような形を取らせていただく予定でございます」
「出資者への優遇措置というわけ?」
「いえ、紳士服のご希望を下さった方には別のお願いをする予定でございますが、それはまた別の時に個別にお願いに上がる所存でございます」
「では、今日は何の為にここへ来たのかしら? 普通売り込みに来る人はパトロンになって欲しいと思っているものよ」
「私の作りました作品が、アーリントン公爵夫人のお眼鏡にかなうものかどうかを知りたくて参りました。初めて足を踏み入れる分野の評価を頂くなら、アーリントン公爵夫人しかないと思いました」
「私が駄目出ししたら、どうするつもり?」
「一からデザインを考え直し致します。もし仮に、他の方が受け入れてくださっても、アーリントン公爵夫人に評価頂けない物であれば、商会を立ち上げるだけの作品ではないと言うことですので」
「⋯⋯コートの色は紺。刺繍は金糸と銀糸を使って頂戴。ストマッカーにはリボンではなく刺繍とレース、宝石はこちらで準備するわ。ペチコートの柄模様はデザイン画を見せて頂きましょう。
それとそこにかけてあるピンクのドレスはそのまま頂くわ。サイズ直しをして今度の娘の誕生日プレゼントにします」
イライザは、残りのドレスも同様のデザインのものを複数枚注文してくれた。
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