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6.公爵夫人相手に堂々の駆け引き

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 アーリントン公爵邸は、ウォーカー商会から馬車で15分ほどの王城に近い場所にあった。

 夕闇が迫る頃、マントを頭からすっぽり被ったシエナと緊張した面持ちのルカが、アーリントン公爵邸の前で馬車を降りた。

 公爵邸は貝殻などをモチーフにした“ロカイユ浮彫装飾” が、左右非対称に飾られており、バロック建築のような複雑で壮麗な建築とは違う繊細で女性的な印象の館だった。

 ノッカーの音にドアを開けた従僕が応接室へ二人を案内すると、部屋の中には既にアーリントン公爵夫人とダートマス侯爵が腰掛けていた。



 応接室に入る直前にマントを脱いだシエナは、真っ直ぐアーリントン公爵夫人を見つめ挨拶をした。

「シエナ・ウォーカーと申します。この者はルカ・ワトソン。この度はお時間を頂きありがとうございます。
ダートマス侯爵様もお力添え頂き、感謝の言葉もございません」

 イライザアーリントン公爵夫人ジェイクダートマス侯爵は顔を見合わせた。

「刺繍を見せたいと言う話だったと思うが、随分と大きな荷物を持ってきたんだね」

「はい、新しい刺繍を入れた作品自体をお持ちしました。トルソーも持って参りましたので、荷物がこのような有様になってしまいました」

「と言う事はドレスを持ってきたと言うことね。
悪いけれど、売り込みはお断りしているの。今回はジェイクのたっての願いということでお受けしたけれど、そう言うお話ならお帰り頂かなくては」

 イライザはテーブルの上のベルに手を伸ばしかけたが、意外なところから助け舟が現れた。

「イライザ、ちょっと待ってくれないか。シエナと言ったかな? もしかして、君がウォーカー商会の刺繍のデザインを手がけていたりする?」

「はい、ほとんど全てのデザインを担当しております」

「イライザ、刺繍を見るだけでも見てみたいんだが」

「⋯⋯良いでしょう。ウォーカー商会の刺繍は私も気に入ってるの。でもね、殿方用と私達レディが望むものは相入れませんから、がっかりさせないで欲しいわね」

「ありがとうございます。ルカ、トルソーを準備して」



 シエナがドレスをセットして、アーリントン公爵夫人に頭を下げた。

「お待たせいたしました。こちらが私の新作でございます」



「こりゃ凄い」

 ジェイクがボソリと呟いたが、イライザはソファに座ったまま無言でドレスを見つめている。

「胸元の石は模造ダイヤね」

「はい、恥ずかしながら本物の宝石を準備できませんでしたので」

 シエナとルカが緊張して立ちすくんでいると、イライザがゆっくりとドレスの近くにやってきた。

 ドレスを一回りしたイライザは、厳しい表情のままドレスの正面で立ち止まった。

「ペチコートの布地は?」

「捺染布と申します。色糊を使い模様を描いた物でございます」

「その荷物の大きさだと、他にも持って来ているようね」

「はい。ですが、お見せ出来るほどの刺繍飾りのものは他にはございません」



 イライザが冷たい目でシエナを睨みつけた。

「私相手に駆け引きとは大したものね。トルソーを持って来させましょう。全て広げて見せてちょうだい」
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