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65.おねまいちまつ!
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「むう、むむーん!」
「グレッグ様のあの声は、何をしておられるのでしょう?」
「さあ、よく分かりませんけれど揉めているのではなさそうですね」
2人の様子を伺うべくこっそりと近付いてみると、ブランコに座ったノア様をグレッグが後ろから押そうとして顔を真っ赤にしています。
「ノアたま、うごけえ~⋯⋯⋯⋯むぅ、どちて⋯⋯どちてうごかないのぉ」
「じゃあ、足を下につけても良いかな?」
「だめのー、あしはまえってするの、おやくそくはまのるのー」
コナー氏と顔を見合わせて吹き出してしまいました。男性の中でもかなり背が高いノア様が足を上げた状態でグレッグが押すのは無理がありすぎます。
「ブランコに乗った時は足を上げないと危ないと教えていますから」
ハンナやメイサなら体重も軽いですし、時々ズルをしてこっそり地面を蹴りブランコを少しだけ揺らしたりしています。
足を上げたノア様を4歳児が押すのは確実に無理ですが、この場合どうするのが良いのでしょう。男性と子供がブランコをするのはわたくしも初体験で途方に暮れてしまいました。
「グレッグ様はノアをライバルだと認識していますから、無理だと言えば『負けた』と思ってしまわれるかもしれませんね。ノアの奴はクソ真面目に足を地面から上げてるし」
「グレッグ、頑張っとるのう」
困り果てていたわたくし達が茂みから出るべきか迷っていると、反対側から救世主の声が聞こえてきました。
「じいちゃ! おてない、どちて?」
「押せんかぁ、そりゃ仕方なかろうのう」
「むう、まけ、だめのー。グエッグはまけないのから、もっかいおすぅぅぅ」
腹を立てたグレッグがノア様の背中に体当たりするように全身で押しています。
「グレッグがもうちっと大きくなったらできるじゃろうが、今はまだ無理じゃの」
「まけ、やだなの。にげたらまけの、かっくわるい。やだの」
「負けじゃのうて、作戦変更する時じゃ」
「⋯⋯まけじゃのう?」
「ええか、これは大きな男の人の時だけの特別な方法じゃ。知りたいか?」
「とくべちゅう、グエッグちりたい!」
グレッグの目がキラキラと輝きました。子供の心を動かす究極のワードですね。
セルゲイ爺ちゃんはグレッグにノア様の足を持つように言い、ノア様に目配せしました。
ノア様はセルゲイ爺ちゃんに向けて小さく頷かれた後、左手を膝に置かれたので多分理解されたようですが、一体何が⋯⋯。
「ほれ、引っ張ってみい」
「う、ううーん」
真っ赤な顔でノア様の足を引っ張るとほんの少しブランコが揺れました。
「でちた! グエッグ、ブランコおちぇたね。まけないね」
斜めになりながら少し前後に揺れただけですが、グレッグにとっては完璧な瞬間だったようです。
セルゲイ爺ちゃんの合図は『グレッグを押し潰さないように』と言う意味だったみたいで、ノア様が片手を膝に置いたのはいざという時グレッグを抱え上げる為だったのでしょう。
前からだなんて、危なすぎてわたくしには予想もつかない⋯⋯絶対禁止の方法です。
「ほっほっほ! これは他の人にしたらぜーったいに駄目じゃからな。これはグレッグがノア様と2人だけの時しかしちゃならん秘密の方法じゃぞ。専用じゃ。約束は守れるか?」
「ひみちゅ、まのる! グエッグやくしょくまのれる、おいこーなのからえらい!」
「うん、なら今日もお利口なグレッグには花を切ってやろうのう。後で花壇に来たらええ」
「うん、きょうはぁ⋯⋯えーっと、ちいろだった!」
「ほう、今日は黄色か」
「リィ、ちいろとみろりだったね~。かあいいだった」
「そうかそうか、グレッグは今日も可愛いリリスのドレスの色を覚えて来たんじゃな。なら、可愛いリリスに似合う花を選んでおくからの」
「はい! えーっと⋯⋯じいちゃ、きょうも、おたなをいちにん、おねまいちまつ」
ペコリと頭を下げたグレッグ。人にお願いする時の作法がちゃんと出来ました。
うん、やっぱりグレッグ最高です!
セルゲイ爺ちゃんがグレッグの頭を撫でた後、ノア様にちょこっと頭を下げて花壇の方に消えていきました。
毎日グレッグからもらっていた花にそんな意味があったなんて知りませんでした。明日からの楽しみが増えてしまいました。
「そうか、『動いた』と言う事実があれば良いのか! 子育てとは実に奥深いものだな。しかも危険を予測し、大人へ指示を出し⋯⋯約束を取り付けて、褒美。セルゲイ殿の手際に感服しました」
コナー氏がなにやらぶつぶつと呟いている間に、グレッグはノア様のお膝に乗ってご満悦です。
「こいでえ~! うーんと、おっちくこいでぇ」
「グレッグ様のあの声は、何をしておられるのでしょう?」
「さあ、よく分かりませんけれど揉めているのではなさそうですね」
2人の様子を伺うべくこっそりと近付いてみると、ブランコに座ったノア様をグレッグが後ろから押そうとして顔を真っ赤にしています。
「ノアたま、うごけえ~⋯⋯⋯⋯むぅ、どちて⋯⋯どちてうごかないのぉ」
「じゃあ、足を下につけても良いかな?」
「だめのー、あしはまえってするの、おやくそくはまのるのー」
コナー氏と顔を見合わせて吹き出してしまいました。男性の中でもかなり背が高いノア様が足を上げた状態でグレッグが押すのは無理がありすぎます。
「ブランコに乗った時は足を上げないと危ないと教えていますから」
ハンナやメイサなら体重も軽いですし、時々ズルをしてこっそり地面を蹴りブランコを少しだけ揺らしたりしています。
足を上げたノア様を4歳児が押すのは確実に無理ですが、この場合どうするのが良いのでしょう。男性と子供がブランコをするのはわたくしも初体験で途方に暮れてしまいました。
「グレッグ様はノアをライバルだと認識していますから、無理だと言えば『負けた』と思ってしまわれるかもしれませんね。ノアの奴はクソ真面目に足を地面から上げてるし」
「グレッグ、頑張っとるのう」
困り果てていたわたくし達が茂みから出るべきか迷っていると、反対側から救世主の声が聞こえてきました。
「じいちゃ! おてない、どちて?」
「押せんかぁ、そりゃ仕方なかろうのう」
「むう、まけ、だめのー。グエッグはまけないのから、もっかいおすぅぅぅ」
腹を立てたグレッグがノア様の背中に体当たりするように全身で押しています。
「グレッグがもうちっと大きくなったらできるじゃろうが、今はまだ無理じゃの」
「まけ、やだなの。にげたらまけの、かっくわるい。やだの」
「負けじゃのうて、作戦変更する時じゃ」
「⋯⋯まけじゃのう?」
「ええか、これは大きな男の人の時だけの特別な方法じゃ。知りたいか?」
「とくべちゅう、グエッグちりたい!」
グレッグの目がキラキラと輝きました。子供の心を動かす究極のワードですね。
セルゲイ爺ちゃんはグレッグにノア様の足を持つように言い、ノア様に目配せしました。
ノア様はセルゲイ爺ちゃんに向けて小さく頷かれた後、左手を膝に置かれたので多分理解されたようですが、一体何が⋯⋯。
「ほれ、引っ張ってみい」
「う、ううーん」
真っ赤な顔でノア様の足を引っ張るとほんの少しブランコが揺れました。
「でちた! グエッグ、ブランコおちぇたね。まけないね」
斜めになりながら少し前後に揺れただけですが、グレッグにとっては完璧な瞬間だったようです。
セルゲイ爺ちゃんの合図は『グレッグを押し潰さないように』と言う意味だったみたいで、ノア様が片手を膝に置いたのはいざという時グレッグを抱え上げる為だったのでしょう。
前からだなんて、危なすぎてわたくしには予想もつかない⋯⋯絶対禁止の方法です。
「ほっほっほ! これは他の人にしたらぜーったいに駄目じゃからな。これはグレッグがノア様と2人だけの時しかしちゃならん秘密の方法じゃぞ。専用じゃ。約束は守れるか?」
「ひみちゅ、まのる! グエッグやくしょくまのれる、おいこーなのからえらい!」
「うん、なら今日もお利口なグレッグには花を切ってやろうのう。後で花壇に来たらええ」
「うん、きょうはぁ⋯⋯えーっと、ちいろだった!」
「ほう、今日は黄色か」
「リィ、ちいろとみろりだったね~。かあいいだった」
「そうかそうか、グレッグは今日も可愛いリリスのドレスの色を覚えて来たんじゃな。なら、可愛いリリスに似合う花を選んでおくからの」
「はい! えーっと⋯⋯じいちゃ、きょうも、おたなをいちにん、おねまいちまつ」
ペコリと頭を下げたグレッグ。人にお願いする時の作法がちゃんと出来ました。
うん、やっぱりグレッグ最高です!
セルゲイ爺ちゃんがグレッグの頭を撫でた後、ノア様にちょこっと頭を下げて花壇の方に消えていきました。
毎日グレッグからもらっていた花にそんな意味があったなんて知りませんでした。明日からの楽しみが増えてしまいました。
「そうか、『動いた』と言う事実があれば良いのか! 子育てとは実に奥深いものだな。しかも危険を予測し、大人へ指示を出し⋯⋯約束を取り付けて、褒美。セルゲイ殿の手際に感服しました」
コナー氏がなにやらぶつぶつと呟いている間に、グレッグはノア様のお膝に乗ってご満悦です。
「こいでえ~! うーんと、おっちくこいでぇ」
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