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一回目 (過去)

17.ナスタリア神父、開戦

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 翌日、教会の前で馬車から降りると襟の詰まった黒い服を着た男性が既に待機していた。

 その後ろには10人程の男達が並び興味深げにローザリアを見ている。王宮から派遣された監視人達らしく派手な刺繍で飾られたアビ・ア・ラ・フランセーズを着た男性3人を囲むように立つのは帯剣した騎士達。

 教会へ参拝に来たらしい人やたまたま近くを通りがかった人達は異様な光景に釘付けになっていた。

「お待ちしておりました」

 高名な神父なのか⋯⋯ナスタリア神父がローザリアに向けて深々と頭を下げると周りで見物していた人達がどよめいた。

「あの、今日は宜しくお願い致します」



 ぎこちないカーテシーをしたローザリアと優しく微笑むナスタリア神父が教会へ向かって歩き出した時、『ううん!』とわざとらしい咳払いが聞こえてきた。

「ナスタリア神父殿、先日以来ですなあ」

 ナスタリア神父に無視されて不満げなウォレスが嫌味たらしい口調で声をかけた。


「はい、漸くローザリア様にお会いできて光栄の極みです」

 小さく会釈したナスタリア神父はウォレスの嫌味を気にもしていないらしく堂々としていた。


「無駄に浮かれて我ら公爵家の者を粗略に扱うとは、教会は随分と礼儀知らずのようですな」

「粗略だなどとんでもありません。以前のようにローザリア様のお加減が悪くならないよう配慮しておりました。
あの日、お加減が悪いようには見えなかったローザリア様は突然お倒れになられた。ここ最近も体調を崩しておられたと聞いております。顔色も悪くこのように痩せてしまわれて⋯⋯。
ローザリア様に何かあってはいけせんので先ずはゆっくりと寛いで頂こうと思った次第です。
教会の精霊師の癒しを断り、王宮精霊師の面会も断っておられたご病気ですから最善を尽くさなくては。
ではローザリア様、参りましょう」

 ローザリアがナスタリア神父と会ったのは7歳の時と昨日の2回だけ。

(思い出した! 初めて部屋にエリサ以外のメイドがやって来て初めてお茶を淹れてくれて、初めてデイドレスを着た日だわ。
初めて応接室に入り初めて人に会って、初めて
あの時ソファに座っていた方だわ!!)

 ふんだんに嫌味を取り混ぜたナスタリア神父の説明を聞きながらナスタリア神父との出会いを漸く思い出したローザリアは、ウォレスやカサンドラが顔を赤くして憤慨している事に気付いていなかった。


「ローザリアは病み上がりですからそのようにご配慮頂いた事を感謝しなくてはなりませんね。教会が由緒正しい公爵家への礼儀を忘れても仕方ありませんわ」

 扇子を手に打ち付けながら嫌味で返答したカサンドラにナスタリア神父はニッコリと微笑んだ。

「ご理解いただきました事感謝致します。お待たせ致しました、ローザリア様参りましょう」

 舌戦に完全に出遅れて呆然としている王宮の監視人達を引き連れて教会の正面入り口を入った。目の前に広がる広々とした聖堂は神秘的な穏やかさに包まれ、正面に掲げられた祭壇には精霊王の彫像があった。
 始源の精霊オリジンの伴侶とも言われる精霊王は王国の建国を助け盟約を交わしたと伝えられている。

 それ以降、各地の教会では精霊王であると同時に神格を持つ者として大切に祀られている。


 聖堂の中に入ると両側に火が灯された蝋燭が並び、数人の信者が椅子に腰掛け祈りを捧げているように見受けられた。

 入り口横の水盤に入っている聖水に指先を浸し両手を胸の前で組む。精霊王に感謝の言葉を呟きナスタリア神父の後をついて聖堂の左端を進んだ。
 廊下の中ほどにあった応接室に案内されソファを勧められて腰掛けた。

 ウォレスとカサンドラがローザリアの両隣に座り正面に王宮の監視人達が腰掛けた。それぞれの後ろには連れてきたメイドや護衛が並び応接室の中は異様な雰囲気に包まれた。

「この教会で一番広い応接室を準備したのですが⋯⋯早速ですがローザリア様の体調が宜しければ神託の間へご案内したいと思いますが如何でしょうか?」

「はい、宜しくお願いします」

「では皆様はここでしばらくお待ちください」

「我々も神託の間について参る。陛下のご指示である、ご理解頂きたい」

「ワシらもついていくと決めておりますぞ。娘の加護の有無を知らねば」


「皆様が神託を受けられた時、ご家族や親戚・友人・上司等、どなたかと共に参られましたか?」

「それは⋯⋯しかしながら今回は状況が異なっております」

「教会としては何も違いはないと考えております」


「コレの加護は王国の根幹に関わる! 此奴が王太子殿下の婚約者になる可能性があると聞いておらんのか!?」

「コレとかコヤツとか⋯⋯公爵閣下におかれては少し落ち着きを失われておられるようにお見受け致します。気を付けねば、普段からローザリア様の事をそのように呼んでいるのではないかと邪推されかねませんよ」

 ナスタリア神父の指摘に青褪めたウォレスが額に浮かんだ冷や汗を拭きながら目を泳がせた。

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