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一回目 (過去)
52.教会の図書館
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7歳で入学する初等科は任意なので学園に行きたくない者は12歳までに教会に請願を立ててアカデミーに入学する。一度請願を立てると学生でも聖職者という扱いになり、王国法の強制力から解放される。
「王家は何度も法律を改正しようとしたのですが貴族から反発されて今に至ります」
嘲笑を目に浮かべたナスタリア神父が口を歪めてほくそ笑んだ。
貴族達は平民と違い男の子なら剣術、女の子なら刺繍などを覚えなくてはならない。貴族特有のマナーや外国語の履修などを覚える為には平民と一緒に呑気に初等科へ通う暇などないと言う。
「お陰で多くの者が王家の支配から逃げられました。平民は王家の支配下であっても今より良い生活ができるからと学園に行く事を望む人がほとんどです。
まあ、どこにも抜け道はあるのでどうとでもなりますし、教会は王家に管理されるのも聖職者になるのも嫌だという者の助け舟になっていたりもします」
図書館は広く通路を作りその両側に本棚が設置されていた。本棚の辺りは本が痛まないように窓を少なくしているので少し暗く感じたが、そこかしこに置かれている机と椅子の辺りは窓やランプで読書できるくらいに明るくなっていた。
ナスタリア神父に連れられてローザリアが本棚に近付くと本を読み広げていた人達が一斉に顔を上げた。
そこかしこから『ナスタリア神父だ』と囁く声が聞こえてきた。彼等は目をキラキラと輝かせ隣同士突きあったり顔を赤らめて呆然としたりしている。
(ナスタリア神父ってすごい人気なんだ。すっごくわかる気がする。頼りになるし知識豊富だし)
「ナスタリア神父、今少し宜しいでしょうか?」
「あまり時間がないんだが急ぎかな?」
「あっ、いえ。先日提出した論文を見ていただけたかなと思いまして」
「先日?」
「えっと、1週間前です」
「それなら添削済みで返しているはずですね。タイラー君の確認が甘いのでは?」
1週間も前の論文を放置するなどあり得ないと言わんばかりの返答に、タイラーと呼ばれた助祭らしき青年が真っ青な顔を引き攣らせローザリアを睨みつけた。
「も、申し訳ありませんでした、でも!」
「ここはあまり空気が良くないようだ。ローザリア様、あちらの机を使いましょう」
冷淡とも言えるナスタリア神父の態度に一度は頭を下げたタイラーだったが、ナスタリア神父がローザリアを促して立ち去ろうとするとナスタリア神父の前に走り出て立ち塞がった。
「ナスタリア神父! 何故そのような女に拘うのですか!? その女の噂をご存知ではないのですか?」
「噂ですか? はて、そういったものにはあまり興味がありませんので」
長年虐待を受けてきたローザリアはタイラーから向けられる悪意と大声に怯え後退り俯いてしまったが、それを見たタイラーは嘲笑を浮かべ胸を張った。
「我儘放題で家に閉じ籠り、家族や使用人への暴言・暴力は日常茶飯事。特に妹に対する虐めは酷いそうですね。お陰でリリアーナ様は怪我が絶えず夜夢にうなされる事も多いとか。
オーレアンでの奇跡もリリアーナ様から手柄を奪い無理矢理王太子殿下との婚約を決めさせた。王太子殿下とリリアーナ様の仲が良い事に嫉妬しての事だそうです。
そんな女にナスタリア神父の貴重なお時間を使われるなど以ての外です!! 皆が心配しています」
「どこでそれを?」
「弟が学園に通っているので何度か包帯を巻いているリリアーナ様をお見かけしたと言っていました。市井でも⋯⋯リリアーナ様からの無理な要望を何度もゴリ押しされたと商人が嘆いています。
オーレアンに参加した学園生もあれはリリアーナ様の力だったのにと言っているそうです」
「で、それを信じる根拠はどこに?
ローザリア様が暴言・暴力を使うところは見ましたか?
公爵家の令嬢ならば傷が残らないようと、包帯を巻く前に治療師を呼ぶのでは?
商人達はローザリア様から直接言われたのですか?
オーレアンで視察していた方はローザリア様に来て欲しいと未だに言っているのは何故?
君の話には疑問ばかりが浮かんできます。
それに何より私は私自身が見て聞いて調べたことのみを信じます。それをとやかく言う資格があるのですか?」
「し、しかし」
「私の貴重な時間を噂の検証やそれらの議論に使う予定はありません。それでもと言うのであれば確たる証拠を持ってきてください」
「王家は何度も法律を改正しようとしたのですが貴族から反発されて今に至ります」
嘲笑を目に浮かべたナスタリア神父が口を歪めてほくそ笑んだ。
貴族達は平民と違い男の子なら剣術、女の子なら刺繍などを覚えなくてはならない。貴族特有のマナーや外国語の履修などを覚える為には平民と一緒に呑気に初等科へ通う暇などないと言う。
「お陰で多くの者が王家の支配から逃げられました。平民は王家の支配下であっても今より良い生活ができるからと学園に行く事を望む人がほとんどです。
まあ、どこにも抜け道はあるのでどうとでもなりますし、教会は王家に管理されるのも聖職者になるのも嫌だという者の助け舟になっていたりもします」
図書館は広く通路を作りその両側に本棚が設置されていた。本棚の辺りは本が痛まないように窓を少なくしているので少し暗く感じたが、そこかしこに置かれている机と椅子の辺りは窓やランプで読書できるくらいに明るくなっていた。
ナスタリア神父に連れられてローザリアが本棚に近付くと本を読み広げていた人達が一斉に顔を上げた。
そこかしこから『ナスタリア神父だ』と囁く声が聞こえてきた。彼等は目をキラキラと輝かせ隣同士突きあったり顔を赤らめて呆然としたりしている。
(ナスタリア神父ってすごい人気なんだ。すっごくわかる気がする。頼りになるし知識豊富だし)
「ナスタリア神父、今少し宜しいでしょうか?」
「あまり時間がないんだが急ぎかな?」
「あっ、いえ。先日提出した論文を見ていただけたかなと思いまして」
「先日?」
「えっと、1週間前です」
「それなら添削済みで返しているはずですね。タイラー君の確認が甘いのでは?」
1週間も前の論文を放置するなどあり得ないと言わんばかりの返答に、タイラーと呼ばれた助祭らしき青年が真っ青な顔を引き攣らせローザリアを睨みつけた。
「も、申し訳ありませんでした、でも!」
「ここはあまり空気が良くないようだ。ローザリア様、あちらの机を使いましょう」
冷淡とも言えるナスタリア神父の態度に一度は頭を下げたタイラーだったが、ナスタリア神父がローザリアを促して立ち去ろうとするとナスタリア神父の前に走り出て立ち塞がった。
「ナスタリア神父! 何故そのような女に拘うのですか!? その女の噂をご存知ではないのですか?」
「噂ですか? はて、そういったものにはあまり興味がありませんので」
長年虐待を受けてきたローザリアはタイラーから向けられる悪意と大声に怯え後退り俯いてしまったが、それを見たタイラーは嘲笑を浮かべ胸を張った。
「我儘放題で家に閉じ籠り、家族や使用人への暴言・暴力は日常茶飯事。特に妹に対する虐めは酷いそうですね。お陰でリリアーナ様は怪我が絶えず夜夢にうなされる事も多いとか。
オーレアンでの奇跡もリリアーナ様から手柄を奪い無理矢理王太子殿下との婚約を決めさせた。王太子殿下とリリアーナ様の仲が良い事に嫉妬しての事だそうです。
そんな女にナスタリア神父の貴重なお時間を使われるなど以ての外です!! 皆が心配しています」
「どこでそれを?」
「弟が学園に通っているので何度か包帯を巻いているリリアーナ様をお見かけしたと言っていました。市井でも⋯⋯リリアーナ様からの無理な要望を何度もゴリ押しされたと商人が嘆いています。
オーレアンに参加した学園生もあれはリリアーナ様の力だったのにと言っているそうです」
「で、それを信じる根拠はどこに?
ローザリア様が暴言・暴力を使うところは見ましたか?
公爵家の令嬢ならば傷が残らないようと、包帯を巻く前に治療師を呼ぶのでは?
商人達はローザリア様から直接言われたのですか?
オーレアンで視察していた方はローザリア様に来て欲しいと未だに言っているのは何故?
君の話には疑問ばかりが浮かんできます。
それに何より私は私自身が見て聞いて調べたことのみを信じます。それをとやかく言う資格があるのですか?」
「し、しかし」
「私の貴重な時間を噂の検証やそれらの議論に使う予定はありません。それでもと言うのであれば確たる証拠を持ってきてください」
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