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一回目 (過去)
105.悪の巣窟、アーバイン
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ウスベルを出発し次の目的地であるアーバインに向かっているが、今までと違い街が近づくごとに聖騎士や精霊師達の足取りが重く不機嫌そうに感じられた。
(何かあったのかな?)
ノールケルト子爵の領主館があるこの街は以前は宿場町として栄えていた。
街の中央広場から南北に向けて整備された道は以前はひっきりなしに荷馬車が走り、この街で疲れを癒しては次の街へと移動する。行商人達の憩いの場所でもあり秘密の楽しみの詰まった夢の場所でもあった。
はじまりはウスベルが鉱山業で賑わっていた頃。鉱石を買い求める行商人や山師達が多く集まり宿屋や飲み屋が林立した。その後、彼等の持つ小金を狙った様々な店が増えていった。
今では宿屋・飲み屋・風呂屋・床屋・武器屋・剣闘場・カジノ・娼館・教会・奴隷商⋯⋯ありとあらゆる不徳の詰まった場所として知られ、大金のかかった賭け試合や決闘も頻繁に行われている。
「ここも寂れてますね」
「そうですね。この街を出るまで決してひとりにならないで下さい」
「何かあるんですか?」
店は多いがそのどれもが薄汚れて暇そうに見える。店先にだらしなく座った男は酔っ払って寝ているようで足を投げ出して大口を開けている。
路地から汚れた服を着た子供が走り出してきて寝ている男のポケットを探っている。
店の2階には飾り窓が大きく開き胸元を大きく広げた女達が真っ赤な口紅をつけてしきりに手を振っている。
「この街には所謂荒くれ者や犯罪者が大勢いて喧嘩や決闘が日常茶飯事で行われています。酔っ払いが些細なことで殴り合い、平然とすれ違いながらスリを働きます。
カジノで大金を儲けた人が身包み剥がされて、全財産を失った人が絶望に駆られて剣や銃を振り回します。
スラムでは人が忽然消えたり、知らない人が部屋で寝ていたり。
教会は治らない病人の捨て場所になっていて、孤児院は部屋が足りなくて庭に寝ていると言います。
とにかく悪いことならなんでもありの街なんです」
ナスタリア神父の説明は具体的でローザリアの恐怖を十分に煽った。
「ローザリア様のような世間知らずの方は簡単に売られてしまいます」
「それでみんな様子が変だったんですね。なんだかこう、肩に力が入ってる感じで」
「そうですね。聖職者が一番関わりたくない街の一つですから」
「でも、教会があるんでしょう?」
「精霊教会はありません。領主のノールケルト子爵が王家の許可証を得て無法地帯を作り上げています。『教会』と名前はついていますが中にいる司祭も助祭もシスターもみんな聖職者の服装をした商売人です」
彼等は聖職者の真似をして慰めを売り、僅かばかりの金で春をひさぐ。支援チームの全員が知っていてローザリアには知られたくない仕事をしている。
娼館よりも安く貧乏人の拠り所⋯⋯。
「教会で何を売るんですか?」
「色々⋯⋯まあ、その。関わらないでいるしかないことをしています」
「孤児院の子供達が可哀想ですね」
「この街は捨て子と治らない病人の比率が高くて、精霊教会は手の出しようもなく静観しています。彼等はスリ・犯罪者・娼婦・娼夫・剣闘士になる子供が多いようです。奴隷に売られる子もいますが、それでもスラムよりマシな暮らしだと信じています」
ナスタリア神父は関わりたくないと言いながら辛そうに眉を顰めていた。
「そんな街があるなんて⋯⋯いろんな世界があるんですね」
「最後の街とも呼ばれています。ここが最後、後がないと言う意味ですね」
「いつかそんな世界で泣く子供がいなくなればいいですね。美味しいご飯があってあったかいベッドで安心して眠れたら最高です。
一緒に笑い合える家族がひとりでもいたら何よりも幸せですよね」
ローザリアの最高はとてつもなくレベルが低い。貧しい平民でも得られる程ささやかな願いだった。
「いつか精霊師として働いて、お金を貯めてそんな場所を作ってあげられたら」
「ローザリア様の夢ですか?」
「夢⋯⋯はい、夢です」
目覚めたら終わる夢。お金を触った事も近くで見た事もないローザリアの夢のひとつ。
「ローザリア様、夢は叶えるものです」
意味がわからずキョトンと首を傾げたローザリア。
「精霊師になりましょう。その夢、手伝います」
(何かあったのかな?)
ノールケルト子爵の領主館があるこの街は以前は宿場町として栄えていた。
街の中央広場から南北に向けて整備された道は以前はひっきりなしに荷馬車が走り、この街で疲れを癒しては次の街へと移動する。行商人達の憩いの場所でもあり秘密の楽しみの詰まった夢の場所でもあった。
はじまりはウスベルが鉱山業で賑わっていた頃。鉱石を買い求める行商人や山師達が多く集まり宿屋や飲み屋が林立した。その後、彼等の持つ小金を狙った様々な店が増えていった。
今では宿屋・飲み屋・風呂屋・床屋・武器屋・剣闘場・カジノ・娼館・教会・奴隷商⋯⋯ありとあらゆる不徳の詰まった場所として知られ、大金のかかった賭け試合や決闘も頻繁に行われている。
「ここも寂れてますね」
「そうですね。この街を出るまで決してひとりにならないで下さい」
「何かあるんですか?」
店は多いがそのどれもが薄汚れて暇そうに見える。店先にだらしなく座った男は酔っ払って寝ているようで足を投げ出して大口を開けている。
路地から汚れた服を着た子供が走り出してきて寝ている男のポケットを探っている。
店の2階には飾り窓が大きく開き胸元を大きく広げた女達が真っ赤な口紅をつけてしきりに手を振っている。
「この街には所謂荒くれ者や犯罪者が大勢いて喧嘩や決闘が日常茶飯事で行われています。酔っ払いが些細なことで殴り合い、平然とすれ違いながらスリを働きます。
カジノで大金を儲けた人が身包み剥がされて、全財産を失った人が絶望に駆られて剣や銃を振り回します。
スラムでは人が忽然消えたり、知らない人が部屋で寝ていたり。
教会は治らない病人の捨て場所になっていて、孤児院は部屋が足りなくて庭に寝ていると言います。
とにかく悪いことならなんでもありの街なんです」
ナスタリア神父の説明は具体的でローザリアの恐怖を十分に煽った。
「ローザリア様のような世間知らずの方は簡単に売られてしまいます」
「それでみんな様子が変だったんですね。なんだかこう、肩に力が入ってる感じで」
「そうですね。聖職者が一番関わりたくない街の一つですから」
「でも、教会があるんでしょう?」
「精霊教会はありません。領主のノールケルト子爵が王家の許可証を得て無法地帯を作り上げています。『教会』と名前はついていますが中にいる司祭も助祭もシスターもみんな聖職者の服装をした商売人です」
彼等は聖職者の真似をして慰めを売り、僅かばかりの金で春をひさぐ。支援チームの全員が知っていてローザリアには知られたくない仕事をしている。
娼館よりも安く貧乏人の拠り所⋯⋯。
「教会で何を売るんですか?」
「色々⋯⋯まあ、その。関わらないでいるしかないことをしています」
「孤児院の子供達が可哀想ですね」
「この街は捨て子と治らない病人の比率が高くて、精霊教会は手の出しようもなく静観しています。彼等はスリ・犯罪者・娼婦・娼夫・剣闘士になる子供が多いようです。奴隷に売られる子もいますが、それでもスラムよりマシな暮らしだと信じています」
ナスタリア神父は関わりたくないと言いながら辛そうに眉を顰めていた。
「そんな街があるなんて⋯⋯いろんな世界があるんですね」
「最後の街とも呼ばれています。ここが最後、後がないと言う意味ですね」
「いつかそんな世界で泣く子供がいなくなればいいですね。美味しいご飯があってあったかいベッドで安心して眠れたら最高です。
一緒に笑い合える家族がひとりでもいたら何よりも幸せですよね」
ローザリアの最高はとてつもなくレベルが低い。貧しい平民でも得られる程ささやかな願いだった。
「いつか精霊師として働いて、お金を貯めてそんな場所を作ってあげられたら」
「ローザリア様の夢ですか?」
「夢⋯⋯はい、夢です」
目覚めたら終わる夢。お金を触った事も近くで見た事もないローザリアの夢のひとつ。
「ローザリア様、夢は叶えるものです」
意味がわからずキョトンと首を傾げたローザリア。
「精霊師になりましょう。その夢、手伝います」
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