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一回目 (過去)
129.名前は何?
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夜になる頃にはローザリアの元に何種類もの籠や袋が届けられていた。
「馬車の中で使って下さい」
「出歩く時に使ってもらえたら⋯⋯」
「すぐに大きくなられるかもしれませんし」
しっかりとした籠の中には古着を使った敷物が敷かれ、肩から下げられる袋は子狼が苦しくないように底が広めのマチ付きになっている。
「せーじょさま、なまえきめた?」
子狼の周りには子供達が集まりローザリアの手元を覗き込んでいた。
「悩んでるの。今はこんなにちっちゃいけど、うんと大きくなりそうだから」
「つよそーなのがいいよ」
「かわいいのがいい」
「えっと、フィードはどうかな?」
風の精霊シルフィード⋯⋯子狼は寝ているだけで何の気配も感じられないが、ローザリアは『この子は風』だと感じていた。
「良い名前ですね」
「フィード、おなかすいてない? おみずのむ?」
「いつおきるの?」
「おめめはなにいろ?」
子供達の興味は尽きることなく続いていった。
翌日、ジェイク達の両親が揃って野営地にやって来た。
「決めたのか?」
「はい、王家の法を逃れる方法を教えて下さい」
「将来サラが王宮精霊師になりたいと言い出した時、立場が拙くなるかもしれん。それでもか?」
「はい、サラに怒られる覚悟を決めました。今はこれが最善だと思います」
「ジェイクはどうしますか? 公の書類には残していませんが、彼は既に神託の儀を受けていて強い地の加護を持っています」
初めて聞いた両親が目を丸くした。
「ジェイクはそんなこと一言も⋯⋯なら、2人ともお願いします」
ジャスパーにジェイクを呼びに行かせるとサラと手を繋いだジェイクが走ってやってきた。そのままサラの世話をするよう指示を出しジェイクだけを呼んで話をはじめた。
「ジェイクとサラは教会に対し請願を立ててもらいます。サラはまだ幼いので親が代理人となり、ジェイクは自ら請願を立てます」
「せいがんってなに?」
「将来聖職者になりますと言う誓いのことです」
王家から逃れたいなら教会に所属しろと言うことかと思ったらしく両親が顔を顰めた。
「りょーかーい」
「ジェイク、そんな簡単に決めんな。これはものすごく大事なことなんだぞ!!」
「だってさぁ、おーけはなんもしてくれなかったろ? でもせーじょさまたちはきてくれた。なら、おれはせーじょさまたちをしんじる!」
ジェイクの言葉には両親も賛同する気持ちがあるようで顔を見合わせて黙り込んだ。
「今回の場合は、王家に対しての抑止力の為だけに行います。
有機請願と言って期限が終わるまでに聖職者になるかならないかを決めるのです。王家の提示しているような生活の保証はありませんが、請願を立て修行をしている間の生活費や学費は教会が負担します」
「調査隊が帰って来るまでゆっくり考えてみりゃあいい。まだ時間はある」
「あの、教会は何故そんな事を? 聖職者にならないってなったら、かけた費用も時間も無駄になると思うんですが」
「加護を持つ者は全て王家が管理すると言うおふれが出され時、教会が王家に対抗する為に決めた苦肉の策です。
おふれをそのまま受け入れれば教会には加護を持つものがいなくなっていきます。精霊教会としては大問題ですから、神託の儀が教会しか行えないことを盾に請願を立てた者は教会に所属する。でなければこの国では神託の儀は行わないとしました。
神託の儀を行う前か直後であればそれが可能です」
「それでジェイクは加護の事は秘密にしてたのか」
「いや、わすれてた。だってさあ、ちのかごなんて、つかいみちなさそーじゃん」
「ジェイク⋯⋯あんたはもう」
父親の拳骨がジェイクに落ちた。
「地の加護はすげえ強力だぞ。だからこそ知らないまま試したらとんでもないことになる」
子供らしい仕草で首をキョトンと傾げたジェイクにナスタリア神父が説明した。
「例えば何も考えず火の加護を行使したら簡単に火事になり家も家財も燃えてなくなる可能性があります。水の加護なら洪水になって畑も家も流されてしまう」
「ちは? ちのかごなら、なにができるの?」
ジェイクが目を輝かせて身を乗り出した。
「馬車の中で使って下さい」
「出歩く時に使ってもらえたら⋯⋯」
「すぐに大きくなられるかもしれませんし」
しっかりとした籠の中には古着を使った敷物が敷かれ、肩から下げられる袋は子狼が苦しくないように底が広めのマチ付きになっている。
「せーじょさま、なまえきめた?」
子狼の周りには子供達が集まりローザリアの手元を覗き込んでいた。
「悩んでるの。今はこんなにちっちゃいけど、うんと大きくなりそうだから」
「つよそーなのがいいよ」
「かわいいのがいい」
「えっと、フィードはどうかな?」
風の精霊シルフィード⋯⋯子狼は寝ているだけで何の気配も感じられないが、ローザリアは『この子は風』だと感じていた。
「良い名前ですね」
「フィード、おなかすいてない? おみずのむ?」
「いつおきるの?」
「おめめはなにいろ?」
子供達の興味は尽きることなく続いていった。
翌日、ジェイク達の両親が揃って野営地にやって来た。
「決めたのか?」
「はい、王家の法を逃れる方法を教えて下さい」
「将来サラが王宮精霊師になりたいと言い出した時、立場が拙くなるかもしれん。それでもか?」
「はい、サラに怒られる覚悟を決めました。今はこれが最善だと思います」
「ジェイクはどうしますか? 公の書類には残していませんが、彼は既に神託の儀を受けていて強い地の加護を持っています」
初めて聞いた両親が目を丸くした。
「ジェイクはそんなこと一言も⋯⋯なら、2人ともお願いします」
ジャスパーにジェイクを呼びに行かせるとサラと手を繋いだジェイクが走ってやってきた。そのままサラの世話をするよう指示を出しジェイクだけを呼んで話をはじめた。
「ジェイクとサラは教会に対し請願を立ててもらいます。サラはまだ幼いので親が代理人となり、ジェイクは自ら請願を立てます」
「せいがんってなに?」
「将来聖職者になりますと言う誓いのことです」
王家から逃れたいなら教会に所属しろと言うことかと思ったらしく両親が顔を顰めた。
「りょーかーい」
「ジェイク、そんな簡単に決めんな。これはものすごく大事なことなんだぞ!!」
「だってさぁ、おーけはなんもしてくれなかったろ? でもせーじょさまたちはきてくれた。なら、おれはせーじょさまたちをしんじる!」
ジェイクの言葉には両親も賛同する気持ちがあるようで顔を見合わせて黙り込んだ。
「今回の場合は、王家に対しての抑止力の為だけに行います。
有機請願と言って期限が終わるまでに聖職者になるかならないかを決めるのです。王家の提示しているような生活の保証はありませんが、請願を立て修行をしている間の生活費や学費は教会が負担します」
「調査隊が帰って来るまでゆっくり考えてみりゃあいい。まだ時間はある」
「あの、教会は何故そんな事を? 聖職者にならないってなったら、かけた費用も時間も無駄になると思うんですが」
「加護を持つ者は全て王家が管理すると言うおふれが出され時、教会が王家に対抗する為に決めた苦肉の策です。
おふれをそのまま受け入れれば教会には加護を持つものがいなくなっていきます。精霊教会としては大問題ですから、神託の儀が教会しか行えないことを盾に請願を立てた者は教会に所属する。でなければこの国では神託の儀は行わないとしました。
神託の儀を行う前か直後であればそれが可能です」
「それでジェイクは加護の事は秘密にしてたのか」
「いや、わすれてた。だってさあ、ちのかごなんて、つかいみちなさそーじゃん」
「ジェイク⋯⋯あんたはもう」
父親の拳骨がジェイクに落ちた。
「地の加護はすげえ強力だぞ。だからこそ知らないまま試したらとんでもないことになる」
子供らしい仕草で首をキョトンと傾げたジェイクにナスタリア神父が説明した。
「例えば何も考えず火の加護を行使したら簡単に火事になり家も家財も燃えてなくなる可能性があります。水の加護なら洪水になって畑も家も流されてしまう」
「ちは? ちのかごなら、なにができるの?」
ジェイクが目を輝かせて身を乗り出した。
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