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第15話 エリーゼの恋 -3-
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ダンスパーティ準備委員会の仕事は多岐にわたる。予算の配分と金銭の管理、参加者名簿作り、飲み物や食べ物の調達、会場の飾りつけ、音楽の選曲と楽団の手配などなど、やることは山ほどある。
その日も活動のために割り当てられた教室で、ノアとエリーゼは仕事に追われていた。物品の納品書と予算表を突き合わせて、買い忘れや数に不足がないかチェックする。地味な作業だが、ノアは真面目に取り組んでいた。
窓から差し込む西日が、書類と向き合うノアの黒曜石のような瞳にあたり、きらきらと反射する。
――――まつ毛長いなぁ
作業をしているふりをしつつ、つい、じっと顔を見てしまう。1年生の時からクラスは一緒なのに、こんなに長い時間、至近距離にいたことはなかった。
ふいにノアが顔を上げた。エリーゼは慌てて目を逸らす。ノアはにっこり微笑んだ。
「今、見惚れてたでしょ?」
「違うわよ。ノアってこういう単純作業は嫌いそうなのに、よく準備委員になったなって思ってただけ」
「女子の委員がエリーゼだったから一緒にやりたくて」
「冗談ばっかりね」
「あははは」
声を立てて楽しそうに笑う。
なんでノアがモテるかよくわかる。こうして、女の子が欲しいと思う言葉をすぐにくれるのだ。
ただ見た目がいいというだけではない。むしろ、ノアの魅力は内面にある。
美人だけを贔屓したりするようなことはせず、誰にも優しい。どんな女の子に対してもフラットで、相手によって態度を変えたりしない。
それは男女という性でもいえる。男尊女卑の世の中だから、男の方が立派で偉いんだ、女は男に従えと平気で口にする男子は多い。けれど、ノアは決して女を見下すようなことは言わなかった。
ノアのことをチャラいとか女たらしとか悪く言う女子もいた。しかし、ノアと接しているうちにみな彼の虜になっていく。
「喉が渇かない? 飲み物もらってくるけど、エリーゼは何がいい?」
「あ、ありがとう。そうね、カモミールティーがいいかな」
「わかった。ちょっと待ってて」
ノアはさっと立ち上がると、準備室を出て行った。
「おまたせ」
「ありがとう」
おまけに、そこらの女子よりずっと気が回る。こんな男子、誰だって好きになっちゃうよね。お茶のカップを受け取りながら、エリーゼは小さくため息をついた。
1か月にわたる準備期間を経て、学院最大のイベントはいよいよ当日を迎えた。
ダンスパーティは大盛況だった。華やかに飾り付けられた会場では、大勢の生徒たちがダンスを楽しんでいた。委員の仕事は大変だったが、やりがいもあったし、何よりみんなの楽しそうな顔を見ると苦労が報われた気がする。
バックヤードで寛いでいるとノアに声をかけられた。
「エリーゼはこんなところで何しているの?」
「ちょっと休憩。人の多いところは苦手なんだもの。それより、ノアはダンスに行かなくていいの? あなたと踊りたがっている女の子は山ほどいるでしょう?」
「だからだよ。全員と踊るなんて無理だし、平等にできないなら誰とも踊らないほうがいいでしょ」
「ずいぶん極端なのね」
うーん、モテる男の思考は凡人には理解できないのかもしれない。
ダンスホールからは楽団の奏でる曲と、生徒たちがはしゃぐ声が聞こえる。
「なあ、エリーゼ。おれ、仕事を頑張ったと思わない?」
「うん、そうね。とても助かった」
「じゃあご褒美くれない? 一曲踊ってよ」
戸惑いながらも差し出されたノアの手を取る。入学式で強引に握手された時より手が大きくなっている気がする。
「誰とも踊らないんじゃなかったの?」
「エリーゼとだけは踊りたかったんだ。特別だから」
「もう、すぐにそういうことを言うんだから」
リップサービスだとわかってはいても、すごく嬉しかった。
エリーゼの腰に手が回され、ノアのリードに任せてステップを踏み出す。
トクントクンと鼓動が強く早くなる。バックヤードが薄暗くてよかった。頬が赤らんでいても、ノアに気付かれずに済むだろう。
その日も活動のために割り当てられた教室で、ノアとエリーゼは仕事に追われていた。物品の納品書と予算表を突き合わせて、買い忘れや数に不足がないかチェックする。地味な作業だが、ノアは真面目に取り組んでいた。
窓から差し込む西日が、書類と向き合うノアの黒曜石のような瞳にあたり、きらきらと反射する。
――――まつ毛長いなぁ
作業をしているふりをしつつ、つい、じっと顔を見てしまう。1年生の時からクラスは一緒なのに、こんなに長い時間、至近距離にいたことはなかった。
ふいにノアが顔を上げた。エリーゼは慌てて目を逸らす。ノアはにっこり微笑んだ。
「今、見惚れてたでしょ?」
「違うわよ。ノアってこういう単純作業は嫌いそうなのに、よく準備委員になったなって思ってただけ」
「女子の委員がエリーゼだったから一緒にやりたくて」
「冗談ばっかりね」
「あははは」
声を立てて楽しそうに笑う。
なんでノアがモテるかよくわかる。こうして、女の子が欲しいと思う言葉をすぐにくれるのだ。
ただ見た目がいいというだけではない。むしろ、ノアの魅力は内面にある。
美人だけを贔屓したりするようなことはせず、誰にも優しい。どんな女の子に対してもフラットで、相手によって態度を変えたりしない。
それは男女という性でもいえる。男尊女卑の世の中だから、男の方が立派で偉いんだ、女は男に従えと平気で口にする男子は多い。けれど、ノアは決して女を見下すようなことは言わなかった。
ノアのことをチャラいとか女たらしとか悪く言う女子もいた。しかし、ノアと接しているうちにみな彼の虜になっていく。
「喉が渇かない? 飲み物もらってくるけど、エリーゼは何がいい?」
「あ、ありがとう。そうね、カモミールティーがいいかな」
「わかった。ちょっと待ってて」
ノアはさっと立ち上がると、準備室を出て行った。
「おまたせ」
「ありがとう」
おまけに、そこらの女子よりずっと気が回る。こんな男子、誰だって好きになっちゃうよね。お茶のカップを受け取りながら、エリーゼは小さくため息をついた。
1か月にわたる準備期間を経て、学院最大のイベントはいよいよ当日を迎えた。
ダンスパーティは大盛況だった。華やかに飾り付けられた会場では、大勢の生徒たちがダンスを楽しんでいた。委員の仕事は大変だったが、やりがいもあったし、何よりみんなの楽しそうな顔を見ると苦労が報われた気がする。
バックヤードで寛いでいるとノアに声をかけられた。
「エリーゼはこんなところで何しているの?」
「ちょっと休憩。人の多いところは苦手なんだもの。それより、ノアはダンスに行かなくていいの? あなたと踊りたがっている女の子は山ほどいるでしょう?」
「だからだよ。全員と踊るなんて無理だし、平等にできないなら誰とも踊らないほうがいいでしょ」
「ずいぶん極端なのね」
うーん、モテる男の思考は凡人には理解できないのかもしれない。
ダンスホールからは楽団の奏でる曲と、生徒たちがはしゃぐ声が聞こえる。
「なあ、エリーゼ。おれ、仕事を頑張ったと思わない?」
「うん、そうね。とても助かった」
「じゃあご褒美くれない? 一曲踊ってよ」
戸惑いながらも差し出されたノアの手を取る。入学式で強引に握手された時より手が大きくなっている気がする。
「誰とも踊らないんじゃなかったの?」
「エリーゼとだけは踊りたかったんだ。特別だから」
「もう、すぐにそういうことを言うんだから」
リップサービスだとわかってはいても、すごく嬉しかった。
エリーゼの腰に手が回され、ノアのリードに任せてステップを踏み出す。
トクントクンと鼓動が強く早くなる。バックヤードが薄暗くてよかった。頬が赤らんでいても、ノアに気付かれずに済むだろう。
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