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第14話 エリーゼの恋 -2-
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そして春、聖ユリダリス学院の名物イベント、ダンスパーティの季節となった。
初等科と中等科の4学年合同で行われる、2年に一度の大掛かりな行事で、準備から進行まですべて生徒だけで行わなければならない。生徒会を中心に、各学年から選出された生徒で準備委員会が結成される。
クラスから男女ひとりずつ出さなければならないのだが、仕事量が多く、面倒くさいので誰もやりたがらない。引き受け手がいないようなので、エリーゼは立候補することにした。煌びやかなパーティに出席するより裏方の方が性に合っているし、雑用は苦にならない。
放課後になって、ダンスパーティ準備委員会の第一回目の会合に向かった。集合場所に行くと、すでに大勢の生徒が集まっており、中には図書委員の先輩のマークがいた。
「マーク!」
手を振って挨拶をする。
「エリーゼ、君も選ばれたの? お互い災難だね」
「ふふ、そうですね」
「2年生はダンスパーティは初めてだっけ?」
「ええ。去年は開催されなかったから。いろいろ教えてもらえたら助かります」
「もちろん。なんでも訊いて」
エリーゼとマークは並んで席に着く。
生徒会メンバーが入室し、打ち合わせが始まった。ダンスパーティの概要が記された用紙が配られ、まずは生徒会長から作業内容やスケジュールについての説明があった。
「本年度は、作業は基本二人組で、男女でペアを組んで行うことにした。ペアの組み方は各自に任せる。誰と組むか決まったら申告してくれ。そのあとペア同士で座席に着きなおしてもらう」
ちらっとマークを見ると、マークもエリーゼに目配せしてきた。
「あの、いいですか」
教室の後方で男子生徒が手を挙げている。
「ああ、どうぞ」
生徒会長が発言を促す。
「連絡のしやすさを考えるとペアを組むのは同じクラス同士がいいと思うのですが。伝達のためにわざわざほかの教室に行くのも大変だし」
「えー!」っと女の子たちの不満そうな声が上がった。後ろを振り返ると、発言の主はノアだった。
え!まさか、うちのクラスの男子の委員がノアだなんて。全然知らなかった。
「それもそうだな。じゃあ、特に異議がなければクラス同士でペアになってくれ」
がやがやと座席の移動が行われる。マークは中等部の女子のパートナーのところに行ってしまった。
ノアはエリーゼの隣の椅子に腰を下ろす。
「じゃあ、そういうわけでよろしく」
満面の笑みのノアを恨めしそうに見返した。ノアは少しムッとしたようだった。
「エリーゼはそんなにあいつと組みたかったんだ?」
「あいつなんて言わないで。先輩に対して失礼じゃない」
ぷいっとそっぽを向く。
マークのことは別にいい。問題は他にある。ノアとのペアを狙っていた女の子たちからのやっかみの視線が痛いのだ。今だって、あちこちから睨まれているのを感じる。これがダンスパーティ当日まで続くのかと思うと気が重い。
準備は連日、放課後に行われた。今日も委員たちが集まって、各々の作業にあたっている。
「ごめん、エリーゼ、ちょっといい?」
マークに呼び止められた。
「新聞のことなんだけど」
図書委員会では年に4回、新刊ニュースという新聞を発行している。内容は主にその名の通り、図書館に新しく増えた本を紹介するもので、学院のみんなにもっと興味を持ってもらい読書を推進するのが目的だ。
「紹介する本をピックアップしたいんだけど、時間があるときに一緒に選んでもらえるかな」
「ええ、もちろん」
「リストアップはしてきたんだけれど」
手書きのメモを取り出す。
「ここからさらに10冊に絞らなくちゃいけなくて」
マークとエリーゼが額を突き合わせていると、
「先輩、話は終わりました?」
と、ノアが割り込んできた。
「じゃあ、おれの相方は返してもらいますね。失礼します」
エリーゼの腕を掴むと、ぐいと自分の方に引き寄せた。
「こっち来て」
「えっ? あ、マーク、ごめんなさい、またあとで話を聞きます」
エリーゼは引っ張られながら振り向き、マークに謝罪した。
「ノア、どこに行くの?」
「倉庫。飾りつけにつかうランタンを運ぶから」
「ええ、わかったわ」
廊下を歩く間、ノアは黙ったままだった。いつもなら、あれこれ話題を振ってくれるのに、今は一言もしゃべらない。こんなに機嫌の悪いノアは初めてで、エリーゼはどうしたらいいのかわからなかった。
「ノア、その、ごめんね」
とりあえず謝ってみる。
「そりゃ、ダンスパーティの準備時間に図書委員の話をして悪かったと思うけど、そこまで怒ることじゃないでしょ」
ノアだって、しょっちゅう女の子に話しかけられているけど、わたしは文句を言ったりしたことはないのに。そう言ってやりたかったが、それは飲み込んだ。
少しの沈黙の後、ぼそっとノアが謝罪した。
「悪かった」
「えっと、どうしてノアが謝るの?」
「だからさ、」
口ごもりながら、じいっとエリーゼを見つめる。
「わからない?」
「うん」
「じゃ、いいや」
ノアは笑っているような呆れているような微妙な表情をしていた。機嫌は直ったみたいだけど、いったい何だったんだろう。
初等科と中等科の4学年合同で行われる、2年に一度の大掛かりな行事で、準備から進行まですべて生徒だけで行わなければならない。生徒会を中心に、各学年から選出された生徒で準備委員会が結成される。
クラスから男女ひとりずつ出さなければならないのだが、仕事量が多く、面倒くさいので誰もやりたがらない。引き受け手がいないようなので、エリーゼは立候補することにした。煌びやかなパーティに出席するより裏方の方が性に合っているし、雑用は苦にならない。
放課後になって、ダンスパーティ準備委員会の第一回目の会合に向かった。集合場所に行くと、すでに大勢の生徒が集まっており、中には図書委員の先輩のマークがいた。
「マーク!」
手を振って挨拶をする。
「エリーゼ、君も選ばれたの? お互い災難だね」
「ふふ、そうですね」
「2年生はダンスパーティは初めてだっけ?」
「ええ。去年は開催されなかったから。いろいろ教えてもらえたら助かります」
「もちろん。なんでも訊いて」
エリーゼとマークは並んで席に着く。
生徒会メンバーが入室し、打ち合わせが始まった。ダンスパーティの概要が記された用紙が配られ、まずは生徒会長から作業内容やスケジュールについての説明があった。
「本年度は、作業は基本二人組で、男女でペアを組んで行うことにした。ペアの組み方は各自に任せる。誰と組むか決まったら申告してくれ。そのあとペア同士で座席に着きなおしてもらう」
ちらっとマークを見ると、マークもエリーゼに目配せしてきた。
「あの、いいですか」
教室の後方で男子生徒が手を挙げている。
「ああ、どうぞ」
生徒会長が発言を促す。
「連絡のしやすさを考えるとペアを組むのは同じクラス同士がいいと思うのですが。伝達のためにわざわざほかの教室に行くのも大変だし」
「えー!」っと女の子たちの不満そうな声が上がった。後ろを振り返ると、発言の主はノアだった。
え!まさか、うちのクラスの男子の委員がノアだなんて。全然知らなかった。
「それもそうだな。じゃあ、特に異議がなければクラス同士でペアになってくれ」
がやがやと座席の移動が行われる。マークは中等部の女子のパートナーのところに行ってしまった。
ノアはエリーゼの隣の椅子に腰を下ろす。
「じゃあ、そういうわけでよろしく」
満面の笑みのノアを恨めしそうに見返した。ノアは少しムッとしたようだった。
「エリーゼはそんなにあいつと組みたかったんだ?」
「あいつなんて言わないで。先輩に対して失礼じゃない」
ぷいっとそっぽを向く。
マークのことは別にいい。問題は他にある。ノアとのペアを狙っていた女の子たちからのやっかみの視線が痛いのだ。今だって、あちこちから睨まれているのを感じる。これがダンスパーティ当日まで続くのかと思うと気が重い。
準備は連日、放課後に行われた。今日も委員たちが集まって、各々の作業にあたっている。
「ごめん、エリーゼ、ちょっといい?」
マークに呼び止められた。
「新聞のことなんだけど」
図書委員会では年に4回、新刊ニュースという新聞を発行している。内容は主にその名の通り、図書館に新しく増えた本を紹介するもので、学院のみんなにもっと興味を持ってもらい読書を推進するのが目的だ。
「紹介する本をピックアップしたいんだけど、時間があるときに一緒に選んでもらえるかな」
「ええ、もちろん」
「リストアップはしてきたんだけれど」
手書きのメモを取り出す。
「ここからさらに10冊に絞らなくちゃいけなくて」
マークとエリーゼが額を突き合わせていると、
「先輩、話は終わりました?」
と、ノアが割り込んできた。
「じゃあ、おれの相方は返してもらいますね。失礼します」
エリーゼの腕を掴むと、ぐいと自分の方に引き寄せた。
「こっち来て」
「えっ? あ、マーク、ごめんなさい、またあとで話を聞きます」
エリーゼは引っ張られながら振り向き、マークに謝罪した。
「ノア、どこに行くの?」
「倉庫。飾りつけにつかうランタンを運ぶから」
「ええ、わかったわ」
廊下を歩く間、ノアは黙ったままだった。いつもなら、あれこれ話題を振ってくれるのに、今は一言もしゃべらない。こんなに機嫌の悪いノアは初めてで、エリーゼはどうしたらいいのかわからなかった。
「ノア、その、ごめんね」
とりあえず謝ってみる。
「そりゃ、ダンスパーティの準備時間に図書委員の話をして悪かったと思うけど、そこまで怒ることじゃないでしょ」
ノアだって、しょっちゅう女の子に話しかけられているけど、わたしは文句を言ったりしたことはないのに。そう言ってやりたかったが、それは飲み込んだ。
少しの沈黙の後、ぼそっとノアが謝罪した。
「悪かった」
「えっと、どうしてノアが謝るの?」
「だからさ、」
口ごもりながら、じいっとエリーゼを見つめる。
「わからない?」
「うん」
「じゃ、いいや」
ノアは笑っているような呆れているような微妙な表情をしていた。機嫌は直ったみたいだけど、いったい何だったんだろう。
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