上 下
13 / 26

第13話 エリーゼの恋 -1-

しおりを挟む
夏の暑さも和らいだ初秋、聖ユリダリス学院は入学シーズンを迎えていた。

白を基調にしたジャケットとボトム、胸元にはネイビーのリボン。新しい制服に身を包んだ新入生たちで講堂はざわついていた。これから入学式が執り行われる。

エリーゼもその中で、自分に割り当てられた座席を探していた。

――――Cクラスの15番か、……あった!

「ふうっ」

ドサッと勢いよく腰を下ろし、背もたれに体を預ける。あまりの人の多さにすっかり気疲れしてしまった。

「ねえ、名前なんていうの」

ふいにとなりの男子生徒から話しかけられ、慌てて姿勢を正す。

磨き抜かれた漆のような深みのある黒い髪。整った顔立ちだが、やや垂れ目がちな瞳が柔らかさと愛嬌を醸し出している。

「エリーゼよ。エリーゼ・アースキン。よろしくね」

「すごく可愛いね」

「え、なっ、いきなりなに言ってるの」

「おれは、ノア・グッドウィン」

赤面するエリーゼの手を取り、強引に握手をしてきた。大きな手がエリーゼのほっそりとした指を包みこむ。

「えっ!ちょっと!」

男の子に触られることに慣れていないエリーゼは手を振りほどこうとするが、ノアはもっと強い力で握りしめてくる。

「ねえ、離して」

「了解」

ノアは微笑みながら、ぱっと手を放した。エリーゼはさっと手を引っ込め、ノアから顔を反らす。しかし、まだ視線を感じる。どうやら、ずっと見られているらしい。

――――何なのよ、もう!

入学式の間、隣の席が気になり、先生たちの話はまるで頭に入ってこなかった。



ノアはあっという間に1年生の人気者になっていた。ただ美形というだけでなく、太陽のように明るく人を引き付ける魅力がある。彼のいるところにはいつも人が集まっていた。

どちらかというと人見知りでおとなしいエリーゼは、ノアとは対極にいる存在であり、入学式以降はほとんど接点がなかった。顔こそ美人の部類に入っているが、おしゃれが苦手で垢ぬけないところがあり、華やかな女子たちに対して密かにコンプレックスを抱いていた。


そんなエリーゼにも気になる男の子はいた。同じ図書委員の一つ年上の先輩のマーク・ウェブスターはインテリ系の落ち着いた男子生徒で、委員になった時からずっと憧れていた。本の趣味が似ているので話も合う。マークもエリーゼを気にかけ、面倒をよくみてくれた。


2年生に進級し新入生が入ってくると、ノアはさっそく下級生にもファンを増やしていた。なかでもスザンナという1年生は本気でノアが好きらしく、人目も憚らずにアタックしている。

そんなノアのことをエリーゼは遠巻きに見ているだけだった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

転生ババァは見過ごせない!~元悪徳女帝の二周目ライフ~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:9,266pt お気に入り:13,493

獣人だらけの世界に若返り転移してしまった件

BL / 連載中 24h.ポイント:23,504pt お気に入り:1,411

詩集「支離滅裂」

現代文学 / 連載中 24h.ポイント:547pt お気に入り:1

私は、御曹司の忘れ物お届け係でございます。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:234pt お気に入り:1,781

もう一度、あなたと

BL / 完結 24h.ポイント:789pt お気に入り:207

明らかに不倫していますよね?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:3,337pt お気に入り:116

月が導く異世界道中

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:57,623pt お気に入り:53,902

処理中です...