白羽の刃 ー警視庁特別捜査班第七係怪奇捜査ファイルー

きのと

文字の大きさ
4 / 15

第4話

しおりを挟む
「みんな集まってくれ、見てほしいものがある」

大吾が全員を会議室に集めた。
午前中に大吾の同じ大学出身の歴史学者と会ってきたのだという。専門は平安時代、現在は大学で教鞭をとっている。

「これなんだが」

一枚の写真がプロジェクターに映し出された。
草子というのだろうか、手すき和紙の片側を糸で閉じた昔の書物だ。
流れるような仮名文字でタイトルらしきものが書いてあるが、健人には一文字も読めない。

「これは阿貴の命婦あきのみょうぶという女官の日記だ」

大吾が説明する。

「書かれた時期ははっきりしないが、おそらく後朱雀天皇ごすざくてんのうの正妻、藤原嫄子ふじわらのげんしに仕えた女房のひとりではないかということだ。
日記と言っても日々の克明な記録ではなく、どちらかと言えば備忘録のような使い方をしていたようで、仕事のスケジュールや神事に必要な道具のリストなどが主に記されている。
他に同僚への愚痴や宮中のスキャンダル、また随筆や小説のようなものも書かれていて、どれが事実でどれが創作なのか判別できないため歴史的資料としての価値は低く、ほとんど研究されることはなかった」

タブレットを操作し、次の画像を出す。
黄ばんだ和紙に筆で絵のようなものが描かれていた。スワイプし、拡大する。

「これは!」

全員の目が釘付けになる。

白点七曜紋はくてんしちようもん

黒塗りの丸を並べた家紋は星紋と呼ばれ、平安貴族から戦国武将まで好んで使われた。
9個の丸をならべた九曜紋、7個のものは七曜紋、また丸3個と漢数字の一を組み合わせた三ツ星一文字紋などもありバリエーションも豊富だ。
通常、丸は塗りつぶされているが、白点七曜紋は中心が白いままで黒く塗られていないのが特徴だ。
和久井の体内から発見された矢尻にこの星紋が彫られていた。
弓の名手は矢や矢尻に自分の名を書くこともあったため、射手となんら関係があるのではないかと推測されていた。
偶然、白点七曜紋を見つけた歴史学者が何かの手掛かりになるのではと大吾に連絡をくれたそうだ。

「阿貴の命婦の日記によると、白点七曜紋は白羽一族の家紋らしい」
「しらは?聞いたことないな」

自称歴史マニアの和久井が口をはさむ。

「時の帝・村上天皇と二大陰陽家・賀茂一族の女性が通じ、男子が生まれた。
しかし、帝にはすでに中宮藤原安子ふじわらのあんし麗景殿女御れいけいでんのにょうごとの間にそれぞれ男の子がいて、第一皇子、第二皇子が東宮の座を争っていた。
そこに第三皇子の誕生となっては世継ぎ争いが激化するのは必至だ。
とくに第一皇子は権力者だった右大臣藤原師輔ふじわらのもろすけの孫にあたる。自分の孫を確実に帝にするために、邪魔な第三皇子を亡き者にしようとするかもしれない。
賀茂家は陰陽師としての影響力はあったが役人としての地位は低いため、第一皇子、第二皇子を差し置いて東宮になる可能性はないに等しい。
そこで帝は男子を皇籍から外し臣下とした。白羽の姓を賜り、初代白羽成章なりあきとなった。
そして帝とのつながりを極力隠すため、検非違使けびいしで代々大尉を務めていた坂上さかのうえ氏に預けられた」

「えー!坂田っておじゃるまるの祖先じゃん!」

薫子が嬉しそうに言う。

「え?アニメのおじゃるまるですか?」

突飛な発言に健人が戸惑う。

「続けていいか?」

大吾が咳ばらいをした。

「検非違使は今でいう警察のようなものだ。仕事は危険なうえ高度な武術が必要だったため成り手が少なく、人材が常に不足していたらしい」

和久井がうんうんとうなずいている。自分と重ねているのだろうか?

「武術の鍛錬に励んだ成章は筋がよかったらしく、検非違使の中で弓も剣も馬術もトップクラスの技術をもっていたらしい。
また賀茂家のルーツを持つ成章は呪術も使いこなし、悪鬼と呼ばれる鬼を捉えては改心させていた。心を入れ替えた悪鬼は鬼神と呼ばれ、中には白羽一族へ忠誠を誓い尽くすようになった者もいた。
鬼神の一人葛葉くずのはは成章の妻となり、男子を産む。2代目白羽の当主、和治たかはるの誕生だ。和治は鬼の力を得て父親を超える検非違使となった。
3代目には嫡男の惟光これみつと二男の時任ときとうという兄弟がいたという。
惟光は弓の名人として、時任は剣豪として名高く、盗賊たちに恐れられていたらしい」

阿貴の命婦の白羽一族に関する記述はここで終わっている。


健人は休憩室に設置されたサーバーからコーヒーを注ぎ、長椅子に座っている薫子と和久井に渡した。自分はパイプ椅子にまたがって座る。

「どう思いますか、さっきの話」
「私、平安時代って源氏物語しか知らないのよね」
「薫子先輩が古典を読むとは意外です」
「母親が本を持っていたから借りて読んだの」

源氏物語を原作にした有名な少女漫画のタイトルを挙げた。

和久井が会話に割って入る。

「平安京というと、華やかで雅なイメージだよな。でも実際は夜盗が貴族の屋敷に放火し家財を盗むとか当たり前だったんだぜ」
「弓矢で夜盗を捕らえたりしたんですか?弓道は貴族のたしなみのようなもので、今でいうスポーツかと思っていました」
「いや、実戦でがんがん使われていたよ。戦場ではむしろ日本刀より花形だった」

平安時代の合戦は弓なしには語れない。室町時代になり鉄砲に代わられるまでは飛び道具の主役の座にあった。
竹と木で出来た日本の弓は大きさが2m、大型化することで攻撃力を高め、射程距離は50メートルあったという。
弓の技術は難しく、一人前の射手になるには長い間の訓練を要した。
当時、馬と弓矢を組み合わせた騎射きしゃは最強の技だった。
弓矢で武装し馬を駆る犯罪者軍団は群盗とよばれ悪行の限りを尽くしていたらしい。
ときには検非違使も犠牲になったと記録に残されている。

「鬼神とか悪鬼とか、鬼は実在したんでしょうか?」
「陰陽師はきいたことがあるだろう?」
「はい」
「百鬼夜行、魑魅魍魎が信じられていた時代だからな。有名な安倍晴明も母親は妖狐だって逸話もあるだろう?鬼を配下に持っていたというのは、そういう類の話じゃないのかな」

和久井は残りのコーヒーを飲み干すと立ち上がった。

「よし、もどるか」

健人は紙コップとパイプ椅子を片付ける。
怪奇現象を体験した第七係のメンバーは、大吾の話をただの荒唐無稽な物語で済ませることはできなかった。
かといって千年近くも昔の人物がどう関係してくるのか、さっぱり見当もつかない。考えるほど頭が混乱してきた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

【完結】ジュリアはバツイチ人生を謳歌する

ariya
恋愛
エレン王国の名門貴族・アグリア伯爵家に嫁いだジュリア・アグリア(旧姓ベルティー)。 夫のアベル・アグリア伯爵は、騎士として王妃の護衛任務に没頭し、結婚翌日からほぼ別居状態。 社交界のパーティーでは妻のエスコートを代理人に任せ、父の葬儀にも顔を出さず、事務的な会話と手紙のやり取りだけの日々が続く。 ジュリアは8年間の冷遇に耐え抜いたが、ある朝の食事中、静かに切り出す。 「私たち、離婚しましょう」 アベルは絶句するが、ジュリアは淡々と不満を告げる。 どれも自分のしでかしたことにアベルは頭を抱える。 彼女はすでに離婚届と慰謝料の用意を済ませ、夫の仕事に理解を示さなかった「有責妻」として後腐れなく別れるつもりだった。 アベルは内心で反発しつつも、ジュリアの決意の固さに渋々サイン。 こうしてジュリア・アグリアは、伯爵夫人としての全てを置き去りにし、バツイチ人生を開始する。

処理中です...