いつになったら、魔王討伐いくんですか勇者様? ~お目付け役賢者の日記~

あざね

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8.解決策 2

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「ふむ、なるほど。状況は分かった。イナンナが寝込んでいる理由もな」
「申し訳ございません、国王。貴方様のお耳に入れる前に、と思っていたのですが――すべては私の不手際によるモノです」
「なに、この程度は構わぬ。一国の長として、難事に対応するのは当然のこと」
「はっ! さすがは、歴代最高と呼び声高いカール国王! このアルフレッド、そのお心に深く感銘を受けております!」
「はっはっは! なに、そこまで畏まる必要はない。そなたの活躍こそ、この国を支えていると言っても過言ではないのだ。胸を張るがよい」
「ありがとうございます! 心より感謝いたします!!」

 謁見の間に、男二人の会話が響く。
 その内容というのは、とにかく互いを褒めちぎるモノであった。
 このやり取りはカールとアルフレッド、二人の間で決まって行われるそれであり、さらに言ってしまえば話し合いの八割の比率を占める。時には国事について語ることなく、相手を褒め称えることに終始してしまうこともあった。これについて、アルは【真に重要な議題の際に、より円滑なコミュニケーションを図るために必要なこと】である、としている。

 何はともあれ、四半日を費やした茶番も終わり、本題へと入るのであった。
 カールはふっと真剣な表情となり、その双眸にてアルの姿を捉える。賢者もまた、その視線を真っすぐに受け止めて小さく頷くのであった。

「再度、確認いたします。イナンナ様は勇者様からの一言で深く傷つき、床に臥せっております。うわ言で何度も『BBA……私が、BBA……』と漏らすお姿は、見ることさえも辛いモノでございます」
「ふむ。それは大きな問題だ。なにか、見舞いの品を用意しなければ」
「その通りです。しかし、今はハヤト様をどうにかするべきかと」
「そう、だな。穢れた者を義妹とする宣言は、より早急にあたるべき問題だ」

 国王は賢者に、どこか自信あり気にこう言う。

「私に一つ、妙案があるのだが――それを試すか」――と。

 それを耳にしてアルは目を見開いた。
 何故ならばこの国王、基本はアルの意見に頷くだけであり、自ら案を口にする際は決まって面倒事を押し付けるのである。例えば、ハヤトの目付け役にアルを任命した時のように。

「なに、案ずるな。此度は私も動こう……国の一大事、であるからな」

 それが、何ということであろう。
 今回は自らがその対応にあたろうと、そう言うのであった。
 この時の心境をアルは日記にこう書いていた。【正直なところ、カール様はこの国を治めるつもりが微塵もないのだと、そう思っていた】――と。

「分かり、ました……」

 それ故に心の底から驚いたアルは、思わず首を縦に振っていた。
 するとカールは玉座より立ち上がり、大仰に両腕を広げてみせる。そしてこう、傍らに控えていた兵士に命ずるのであった。

「今すぐに、ここにハヤト殿を招くのだ! メイドも共にな!」――と。


◆◇◆


 そうして少しの時間を空け、ハヤトとアナが謁見の間を訪れた。

「んにゅwwwカール氏、どうしたでござるかwww?」

 勇者は相も変わらず、その小さくも大きな身体を弾ませている。
 醜い顔には何も悪びれた様子のない、いやらしい笑みが浮かんでいた。対してアナはどこか怯えた風に、ハヤトの背後に隠れている。彼女は自身が穢れている、という認識があるらしい。頼みの存在に身を隠しながらも、触れることはなかった。

 さて。そんな二人を確認して、カールは豪快に笑ってみせた。

「はっはっは! ハヤト殿よ。お主の奇行は、この城にあまねく轟いておるぞ!」
「デュフフフwww国王様、それは照れるでござるよwww」
「ハヤトさん? 褒められてない、と思う……」

 その言葉にハヤトは自らを抱きしめ、全身で恥じらいを表現する。
 だが、それはすぐにアナによって訂正された。

「にゅ? ……まぁ、いいでござるよ。それで用はなんでござる?」

 おかしな鳴き声を発して、しかしすぐにハヤトは気を取り直す。
 カールの方へ向き直り、不思議そうな、それと同時に早くしろと急かすような表情を浮かべてみせた。唇を尖らせて、肉に埋もれてしまっている首を傾げる仕草は、まさしくそれである。国主としてそのような対応をされたことのないカールは瞬間たじろぐ。が、それでも守らなければならない威厳があった。

 この城の中で最も広いこの一室に、響き渡るような咳払い。
 その後に、ゆっくりと、勇者との距離を詰めてきた。そうなると縦に小さなハヤトは、カールに見下ろされる形となる。これは気のせいではなく、カールがハヤトを威圧しているのであった。これが、国王の示した妙案の一つ、精神的に優位に立つことである。

 いかなハヤトでさえも人間だ。
 したがってこのようになれば、本能的に身を守る選択を取る可能性が高くなる。
 すなわち、カールとアル、その両名の主張を呑む確率が跳ね上がる、というわけであった。国王は再び胸を張って、大きな声で笑ってみせる。格上だと、見せつけるようにして。

 そして、雄として優れたことを示したカールは、ハヤトにこう告げた。

「勇者殿よ。お主がそのメイドを諦めると言うのであれば、この国の中にあるモノをなんでも一つ、望むように与えようではないか――どうだ。悪い話ではないであろう?」――と。

 それはまさしく、アナを捨てろという『命令』であった。
 その代わりに欲するモノを何でも授けよう、と。それは富でも、名声でも、俗的に言えば性的な欲求を満たす願いでも構わないのであった。『破格の命令』――それこそが、カールの導き出した答え。ハヤトから穢れた者を引き剥がす手段であった。

 そこには、一部の隙もない、そのように思われた。
 アルもまた納得し、賛同した作戦である。故にこれは完璧なモノ。
 ハヤトとアナにとっては、互いに離れることしか許されない選択肢であった。


「…………うにゅ。それなら――」


 ――その、はずであった。


「メイドのアナを手放す代わり、正式に妹としてアナを迎えるなりwwwww」



「…………はい?」

 あっさりと紡がれたハヤトの言葉に、たっぷりと時間をかけてアルは呟く。
 頭の上には疑問符がいくつも浮かび、瞬きを何度も繰り返していた。そこには自身の、自分たちの思惑が完全に外れてしまったことを受け入れられない。そんな色があった。しかし勇者は、どこかスッキリとした表情で大きく頷くのである。

「デュフフフフフwwwこれで、カール氏公認の義兄妹でござるね、拙者とアナはwwwこれで大手を振って街に繰り出せるでござるよ、よかったなりな? アナwww」
「……………………………………あ」

 ハヤトがそこまで語ってからようやく、アルフレッドは理解した。
 自分たちが見落としていた可能性に。そして、自分たちの中にあったハヤトに対する、致命的とも取れる侮りを。しかし、気付いた時にはもうすでに遅し。
 二人は、中庭で見せたような明るい笑みを互いに向けていた。

「それでは拙者たちは早速、街に遊びにいってくるなりwww!」
「あ、あの……ありがとうございましたっ!」

 アナに至っては、本当に嬉しそうな花を咲かせているし。
 今さらさっきの条件をなかったことに、などとは、言えない空気となっていた。
 返事がないことを、無言の肯定をして受け取ったのであろう。ハヤトはとうとう、アナの『手を掴んで』引いた。そして外へと向かって駆けだすのである。
 まだ見ぬ未来の広がる、世界へと向かって――。

「………………」
「………………」

 残されたカール、アルの両名は無言のまま互いに顔を見合わせた。
 顔立ちのまったく異なる二人ではあったが、浮かんでいるのはまったく同じ。顔面蒼白というやつであった。――やっちまった。俺たち、やっちまった、と。





 沈黙の中、アルフレッドはこう思うのであった。
 【これは私の、国一番の識者としての、唯一かつ最大の失敗であった】――と。


 この出来事が契機となり、いよいよ国の命運は動き出す。
 そのことをこの時の二人はまだ、考える余裕すら持っていなかった……。

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