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9.街へ
しおりを挟む『アルフレッド――貴方がこの国を導くのです。富も名声も、さらには叡智も貴方が手にするのです。それが貴方の運命、与えられた道、そして辿り着くべき場所なのです』
『はい、お母様。ボク――私は、その期待に応えましょう』
『ふふふ。さすがは、優秀な我が子ですね』
幼少から、アルフレッドは英才教育を受けて育った。
王都において一、二を争う貴族であるマチス家の中でも天才と称された少年。
それがアルフレッド・マチスであり、将来の騎士団団長、そして最優の賢者と呼ばれることとなる者。家柄、血統、才能に恵まれ、愛された存在であった。
そんな彼は幼き日に、母と約束を交わしたのである。
自分が国を背負うのである、と。人々を導く者となり平和をもたらす、と。
誰もがアルこそがそれに相応しいと思い、かつアル自身もそのように考えていた。またそれ故に、多少のプレッシャーはあった。しかし、その才覚の前には何事も些事である。与えられた試練も、突然に向けられた悪意も、何もかも容易くあしらってきた。そのうちに、自然と今の地位が与えられたのである。
文句を述べる者などいなかった。
反感を抱く者さえ、最後には淘汰されていた。
アルフレッドの生涯は、栄光にのみによって満たされていたのである。
だからこそ、思いもよらなかった。
その道の中。その人生の中において――。
◆◇◆
【その人生の中において、誰かのお守りをすることになるとは……】――と。
日記に残されたこの時の筆跡は、とても細く、弱々しいモノであった。
現在アルは、ハヤトとアナの二人と共に街へと出ている。共に、といっても賢者は数歩後ろをついて行く、同行というよりも監視といった感じだった。
しかし、その対象である男女はまったく気にした風でなく。むしろ『お前も来いよ』なんて視線を投げかけてきていた。アルは当然に無視していたわけであるが。
「うはwwwこの屋台の肉、ウマーwww」
「はい! ウマー、です。アタシこんなの初めて食べました!」
さてさて。
今日はちょうど良く露店市が開かれていたらしい。その中の一つ、家畜の肉を串に刺し、甘いタレを付けて焼いたモノを二人は食していた。ちなみにであるが、二人の身分は隠してある。これは無用の混乱を避けるためであり、街に出る条件として賢者が提案したモノであった。
その点については、ハヤト自身もひけらかすような気はないらしく。
想像されていたよりもあっさりと、受け入れられた。
「にゅふwwwこのタレ、マヨネーズと相性が良さそうでござるなwww」
「まよ、ねーず……? それってなんですか、ハヤトさん」
「異世界といえば、マヨ作りwwwテンプレwww」
「…………………………」
それでも、頼むから不用意な発言は控えてくれ、と。
アルは何度も肝を冷やしているのであった。ハヤトがなにかしらの異世界知識を口にする度に、それは何かとアナが訊く。勇者は懇切丁寧に説明しようとするのだが、同時に聞いている露店の主などは首を傾げるのであった。だが中には詳しく話を聞きたがる者もいて、その都度アルが『この人は頭がおかしいのです』と、フォローを入れるのである。
そのため、アルは疲れてきていた。
神経を尖らせ、張り巡らせ、醜男の一挙手一投足に気を配る。
ぶっちゃけた話、楽しくなんてないし役得なんてモノもなかった。したがって、ただただ苦痛。早々に帰りたいと、賢者は内心で深くため息をつくのであった。
「私は、何をしているのだろう……」
そして、思わずそう呟いてしまう。
出世街道をひた走り、今の地位までたどり着いた。
しかしそこで待っていたのは、勇者のお目付け役という名のお守り、という仕事。まったくをもって損な役回りだと、ついてないと、そう言わざるを得なかった。ぼんやりと天を見上げて、アルはこんなはずではなかったと、そう思うのである。
思い返してみれば、自分は根っからのエリートであった。
産まれた時から、ほとんどすべてのモノが与えられていたのである。それに応えるだけの能力も備えていたし、期待にも、それを超える結果で応えてきた。
国を背負うという使命感のもとに、今まで生きてきたのに。
――本当に、どうしてこうなった。
「ははっ……今さら考えても仕方ない、か」
ついついそんな自嘲気味な笑いがこぼれる。
だが、その通りであった。ハヤトは何がどう転がってその結果に至ったのか、アミス神は何をお考えなのか、まるで分からないが勇者であることは間違いないのである。それならば、やることは変わらない。国を背負い、さらには世界を救うために動く。その一点だけを考えれば、昔から何も変わってはいなかった。
それなら、と。
賢者と呼ばれる青年は、気を取り直すのであった。
そして、ハヤトとアナへと視線を――。
「………………………………あ」
――戻したその時である。
やらかしたと、そう分かったのは。
「見失った……」
先ほどまで食事をしていた彼らの姿が、こつ然と消え失せていた。
呆然と、アルは二人のいた場所を見つめる。だがしかし、都合よくそこに件の人物たちが帰ってくることはなかった。淡々と時が過ぎていくのであるが、するとそれに比例して、焦燥感が湧き出してくる。そしてそれが臨界点に達した瞬間、アルは――。
「あー、もう! どうしてこうなるんだ!? 私が何をした!!」
――そう、声を上げたのであった。
道行く人々みなが、彼のことを不思議そうな目で見る。
賢者――アルフレッド・マチスの受難は、まだまだ続きそうであった……。
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