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ラウーラ、舌鼓を打つ。
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エモニエ国は今日も平和である。
空は青く澄み渡り、昨晩降った雨で生き生きとしている草花は輝き、蝶が舞う。王都の城下町は相変わらず多くの人が行き交い、物を売り、買って、おしゃべりに興じていた。
「テールが5個で300エケ?ちょっと高いんじゃないかい?」
「魔物の被害で品薄なんだよ。でもアルフレッド殿下が全部やっつけたっていうからね、後数ヶ月もすれば戻るよ。我慢しとくれ」
「騎士団を守りながら、魔物の群れを一人で壊滅させたんだって!」
「しかも無傷だったんだろ。本当に殿下は凄いよな。流石グラフ様の生まれ変わりだよ」
「でも、私あの話の方が感動しちゃったわ」
「分かる~!勇者グラフ様も凄いけど、アルフレッド殿下のあの話はまた別よ」
「謙遜な方なんなだなぁ。魔物を倒したのは自分だけの力じゃないなんて」
「全く、うちの旦那にも見習ってほしいもんだわ」
アルフレッド第一王子は魔物の討伐を終え、城に戻ると国王陛下にこう報告した。
「ジメクリは騎士団と、サルクスボアとオオヤミクイは、ラウーラの助けがあってこそ」と。
アルフレッドが森から戻ってきた時その手に握っていたのは、彼がいつも大切に持ち歩いていたラウーラのアミュレットだった。
しかしそれにはかつての様な輝きもなく、あちこちにヒビが入り無残な姿になっていた。というのを多くの騎士たちは目撃していた。
「ラウーラ様のアミュレットが守ってくれたから、自分ひとりの手柄じゃない。なんて、なかなか言えないよな」
「本当にラウーラ様を大切になさっているのね」
「あら、ラウーラ様の殿下への想いがあってこそでしょう?」
「お二人の愛の奇跡よ!」
「「「素敵ねぇ〰︎」」」
「しかし瘴気溜まりなんて、御伽噺の中の話だと思ってだけど本当にあるんだな。大丈夫なのか?」
「これからアルフレッド殿下を中心に国中で調査を開始するって言ってるから、大丈夫なんじゃないか?」
「やっぱりアルフレッド殿下は確かに勇者グラフ様の生まれ変わりで間違いないよ」
「違いねえ」
「新しい勇者様と同じ時代に生きられるなんて、光栄だね」
※※※※※※
ラウーラは城下町を歩くのが好きだ。それはグラフの頃から変わらない。
時代は流れても、店番の威勢の良い呼び込みの声や、食堂から漏れ聞こえる笑い声。街の噂話、時々喧嘩。そう言うものは基本的に変わらないのだなぁとラウーラは、先日売り出された勇者焼の新作、南国フルーツスパイス風味を食べながら行き交う人々を眺めた。今日はルルーも一緒である。
「うわぁ。お嬢様!これお肉がとっても柔らかいです!」
「本当ね。ご店主、とても美味しいわ。爽やかさもあって、これからの暑くなる季節にぴったりよ」
「そうかい?嬉しいねえ!スパイスをグラフ様が立ち寄ったっていう南国のものにしたんだけど、この間のお嬢様が言ってた南国原産のランアの実を蜂蜜の代わりに使ったらこれがまたいい味になってな。思いがけず肉も柔らかくなるし。おかげで評判も上々だよ」
「あら嬉しい。でもご店主の腕が良いからよ」
今日のラウーラはお忍びで遊びに来ているお嬢様だ。こうして散策を楽しむのもすっかり慣れたもので、町の人からも「どっかいいとこのお嬢様とその侍女」と認識されてはいるが、それ以上は深く追求されることもなく、みな程よい距離感で接してくれている。
(そういうところも変わらないな)
ラウーラはサービスで出されたお茶を飲み干した。
ちなみに勇者焼きの存在を初めて知った時、ラウーラは目を丸くして驚いた。勝手に「勇者グラフの好物」ということになっていたからだ。
「特に好物ってわけではなくて、ただ単に旅の途中で一番簡単に作れるから良く食べていただけなんだけど」というのがラウーラの談である。
当時、あまりに毎日同じメニューが続いたため、仲間内でも「もう嫌だどうにかならないか」とみんなでああでもないこうでもないと試行錯誤し、複数のスパイスで味に変化をつけたり、実は甘いものが好きなグラフがこっそり蜂蜜を足したりしてなんとなく出来上がっていったのだ。そんなわけで好物かと聞かれるとそうではないのだが、思い出の味ではあった。しかし
「……あの時より美味しい」
数百年ぶりの串焼きはその道のプロによってすっかり完成された味となっていた。
空は青く澄み渡り、昨晩降った雨で生き生きとしている草花は輝き、蝶が舞う。王都の城下町は相変わらず多くの人が行き交い、物を売り、買って、おしゃべりに興じていた。
「テールが5個で300エケ?ちょっと高いんじゃないかい?」
「魔物の被害で品薄なんだよ。でもアルフレッド殿下が全部やっつけたっていうからね、後数ヶ月もすれば戻るよ。我慢しとくれ」
「騎士団を守りながら、魔物の群れを一人で壊滅させたんだって!」
「しかも無傷だったんだろ。本当に殿下は凄いよな。流石グラフ様の生まれ変わりだよ」
「でも、私あの話の方が感動しちゃったわ」
「分かる~!勇者グラフ様も凄いけど、アルフレッド殿下のあの話はまた別よ」
「謙遜な方なんなだなぁ。魔物を倒したのは自分だけの力じゃないなんて」
「全く、うちの旦那にも見習ってほしいもんだわ」
アルフレッド第一王子は魔物の討伐を終え、城に戻ると国王陛下にこう報告した。
「ジメクリは騎士団と、サルクスボアとオオヤミクイは、ラウーラの助けがあってこそ」と。
アルフレッドが森から戻ってきた時その手に握っていたのは、彼がいつも大切に持ち歩いていたラウーラのアミュレットだった。
しかしそれにはかつての様な輝きもなく、あちこちにヒビが入り無残な姿になっていた。というのを多くの騎士たちは目撃していた。
「ラウーラ様のアミュレットが守ってくれたから、自分ひとりの手柄じゃない。なんて、なかなか言えないよな」
「本当にラウーラ様を大切になさっているのね」
「あら、ラウーラ様の殿下への想いがあってこそでしょう?」
「お二人の愛の奇跡よ!」
「「「素敵ねぇ〰︎」」」
「しかし瘴気溜まりなんて、御伽噺の中の話だと思ってだけど本当にあるんだな。大丈夫なのか?」
「これからアルフレッド殿下を中心に国中で調査を開始するって言ってるから、大丈夫なんじゃないか?」
「やっぱりアルフレッド殿下は確かに勇者グラフ様の生まれ変わりで間違いないよ」
「違いねえ」
「新しい勇者様と同じ時代に生きられるなんて、光栄だね」
※※※※※※
ラウーラは城下町を歩くのが好きだ。それはグラフの頃から変わらない。
時代は流れても、店番の威勢の良い呼び込みの声や、食堂から漏れ聞こえる笑い声。街の噂話、時々喧嘩。そう言うものは基本的に変わらないのだなぁとラウーラは、先日売り出された勇者焼の新作、南国フルーツスパイス風味を食べながら行き交う人々を眺めた。今日はルルーも一緒である。
「うわぁ。お嬢様!これお肉がとっても柔らかいです!」
「本当ね。ご店主、とても美味しいわ。爽やかさもあって、これからの暑くなる季節にぴったりよ」
「そうかい?嬉しいねえ!スパイスをグラフ様が立ち寄ったっていう南国のものにしたんだけど、この間のお嬢様が言ってた南国原産のランアの実を蜂蜜の代わりに使ったらこれがまたいい味になってな。思いがけず肉も柔らかくなるし。おかげで評判も上々だよ」
「あら嬉しい。でもご店主の腕が良いからよ」
今日のラウーラはお忍びで遊びに来ているお嬢様だ。こうして散策を楽しむのもすっかり慣れたもので、町の人からも「どっかいいとこのお嬢様とその侍女」と認識されてはいるが、それ以上は深く追求されることもなく、みな程よい距離感で接してくれている。
(そういうところも変わらないな)
ラウーラはサービスで出されたお茶を飲み干した。
ちなみに勇者焼きの存在を初めて知った時、ラウーラは目を丸くして驚いた。勝手に「勇者グラフの好物」ということになっていたからだ。
「特に好物ってわけではなくて、ただ単に旅の途中で一番簡単に作れるから良く食べていただけなんだけど」というのがラウーラの談である。
当時、あまりに毎日同じメニューが続いたため、仲間内でも「もう嫌だどうにかならないか」とみんなでああでもないこうでもないと試行錯誤し、複数のスパイスで味に変化をつけたり、実は甘いものが好きなグラフがこっそり蜂蜜を足したりしてなんとなく出来上がっていったのだ。そんなわけで好物かと聞かれるとそうではないのだが、思い出の味ではあった。しかし
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