対人恐怖症のメンダーと辺境の騎士 ~この恋は、世界のほころびを繕う~

Moonshine

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制服管理課のドルマ

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(…皆んな行ったわね)

ドルマは制服管理課の中にいた。
扉の向こうから、扉の外の物音のしなくなるまで衝立の後ろに震えて隠れていたドルマだったが、音がしなくなったのを確認すると、そっと扉を少し開いて回りを伺い大急ぎで扉の前に積まれていた制服を部屋の中に取り込んだ。

扉を閉めて、脂汗を拭う。カタカタと震える体を落ち着かせて、短くなっていた息を整えると、ようやくドルマは繕いが必要な、制服の状態を一枚一枚確認する。

どの制服にもドルマが手掛けた繕いの跡があり、大切に着られている様子だ。
どの制服が一体誰の制服なのか、繕いの跡を辿ればドルマにはいとも簡単に見分けがつく。

(ええと、これはエイデンさんのジャケットね。ちょっと太ったのね、脇の糸がひきつれてる。ジャケットの脇に布を足してあげよう。こっちのイールカさんのシャツはもう古くなりすぎね、肘の布が擦り切れてしまっているわ。こっちのは・・あら)

何着もぐしゃぐしゃに積まれていた制服を確認する中で、ドルマは1着だけ、丁寧にきちんと畳まれているジャケットに気がついた。

ドルマがそれを手に取ると、まだ比較的新しい、大きめのジャケットだ。
そしてよく見ると、上着のポケットのポーションが入るポケットの部分が綻んでいる。

内ポケットに何かの紙が入っていた

(何かしら)

メモだ。

「ドルマ、前に君が膝を繕ってくれたパンツはすこぶる履き心地が良くなった。ありがとう。今日君にお願いしたいのは右上部の2番目の外ポケットの修繕だ。まだ新しいのに、私の扱いが乱暴なせいで少し綻んできている。先に君がこれから施してくれるであろう、素晴らしい繕いの仕事に感謝を。マティ」

(まあ)

どうやら適当なメモで、急いで走り書きをしてくれたらしい。
小さく折り畳まれた紙には、とても美しい文字でそう書かれてあった。

(今まで私にお礼のお手紙を下さった方も、直接こうして丁寧な依頼のお手紙をくださる方も初めてだわ)

ドルマは小さなメモを胸に抱きしめると、優しい気持ちで胸がいっぱいになった。

ドルマは対人恐怖症で、人が恐ろしい。
いつも制服管理室に人がやって来ると怯えて、衝立の向こうで息を潜めてじっと隠れている。
ハンザも優しい第6の騎士達も、そんなドルマを怖がらせないようにいつも同じ部屋にいても、基本ドルマを居ないものとして扱ってくれている。

だがドルマは確かにそこに存在している。

誰にも話しかけられたくないし、誰にも姿を見られたくない。
だけれども、ドルマは決していないわけではない。
人に怯えて物陰に隠れてばかりいるけれど、確かに存在しているのだ。

マティというこの北からの傭兵は、みんなと違う。

ドルマを怖がらせないように、でも決してハンザを通してではなく、直接ドルマに仕事の感謝を伝えてくれた。
今回も、他の騎士達と同じようにドルマを怖がらせないように扉の外にジャケットを置いて、でも、とても丁寧に、ドルマにメッセージを書いてくれた。

ドルマを一人の人間として、きちんと対峙しようとしてくれているのだ。

ドルマは湧き上がる感情にどうして良いのかわからなくなって、部屋をオロオロと右に左に意味もなく歩いて、そして少し落ち着くと、そっとマティから依頼のあったポケットに手を触れた。

(大きめのポーションの瓶を力任せに入れたので綻んでしまったのね、マティさんは強めにポケットにものをねじ込む癖があるのね、他の胸ポケットの底も二重にしましょう。腰にあるポケットの口は、綻びにくいように硬い布をあてがっておきましょう)

マティさんが安全に討伐を行えますように。無事にいつも帰って来れますように。

一針一針、心をこめながらドルマはゆっくりと、丁寧にマティアスのジャケットの綻びと向き合った。

こうして、制服の持ち主の事を考えながらゆっくり針を動かしている時間がドルマの幸せな時間であり、ドルマの今の生活を支える大切な仕事でもある。

(・・できた)

ドルマは一体、どのくらいの時間をマティアスの制服と向き合っていただろうか。
マティアスの制服の胸ポケットの繕いを終えたドルマは、軽い疲労感と、良い仕事を終えた充足感で満ちていた。

(他に綻んでいるところはないかしら)

ドルマはマティアスの制服を裏をひっくり返し、丁寧に検品した。
そしてドルマは、胸の内ポケットの奥に、急いでいたのだろう。出し忘れたチョコレートの紫色の包み紙が、小さく折り畳まれて入っているのを見つけた。
ドルマも大好きな、干したイチゴが中に練りこまれているとても甘いチョコレートだ。

(あんなに大きくてヒゲのお方なのに、甘党なのね)

ドルマの心は温かい物で満ちてくる。ドルマは生まれて初めて、手紙というものをしたためて見ることにした。

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