16 / 87
制服管理課のドルマ
8
しおりを挟む
(…皆んな行ったわね)
ドルマは制服管理課の中にいた。
扉の向こうから、扉の外の物音のしなくなるまで衝立の後ろに震えて隠れていたドルマだったが、音がしなくなったのを確認すると、そっと扉を少し開いて回りを伺い大急ぎで扉の前に積まれていた制服を部屋の中に取り込んだ。
扉を閉めて、脂汗を拭う。カタカタと震える体を落ち着かせて、短くなっていた息を整えると、ようやくドルマは繕いが必要な、制服の状態を一枚一枚確認する。
どの制服にもドルマが手掛けた繕いの跡があり、大切に着られている様子だ。
どの制服が一体誰の制服なのか、繕いの跡を辿ればドルマにはいとも簡単に見分けがつく。
(ええと、これはエイデンさんのジャケットね。ちょっと太ったのね、脇の糸がひきつれてる。ジャケットの脇に布を足してあげよう。こっちのイールカさんのシャツはもう古くなりすぎね、肘の布が擦り切れてしまっているわ。こっちのは・・あら)
何着もぐしゃぐしゃに積まれていた制服を確認する中で、ドルマは1着だけ、丁寧にきちんと畳まれているジャケットに気がついた。
ドルマがそれを手に取ると、まだ比較的新しい、大きめのジャケットだ。
そしてよく見ると、上着のポケットのポーションが入るポケットの部分が綻んでいる。
内ポケットに何かの紙が入っていた
(何かしら)
メモだ。
「ドルマ、前に君が膝を繕ってくれたパンツはすこぶる履き心地が良くなった。ありがとう。今日君にお願いしたいのは右上部の2番目の外ポケットの修繕だ。まだ新しいのに、私の扱いが乱暴なせいで少し綻んできている。先に君がこれから施してくれるであろう、素晴らしい繕いの仕事に感謝を。マティ」
(まあ)
どうやら適当なメモで、急いで走り書きをしてくれたらしい。
小さく折り畳まれた紙には、とても美しい文字でそう書かれてあった。
(今まで私にお礼のお手紙を下さった方も、直接こうして丁寧な依頼のお手紙をくださる方も初めてだわ)
ドルマは小さなメモを胸に抱きしめると、優しい気持ちで胸がいっぱいになった。
ドルマは対人恐怖症で、人が恐ろしい。
いつも制服管理室に人がやって来ると怯えて、衝立の向こうで息を潜めてじっと隠れている。
ハンザも優しい第6の騎士達も、そんなドルマを怖がらせないようにいつも同じ部屋にいても、基本ドルマを居ないものとして扱ってくれている。
だがドルマは確かにそこに存在している。
誰にも話しかけられたくないし、誰にも姿を見られたくない。
だけれども、ドルマは決していないわけではない。
人に怯えて物陰に隠れてばかりいるけれど、確かに存在しているのだ。
マティというこの北からの傭兵は、みんなと違う。
ドルマを怖がらせないように、でも決してハンザを通してではなく、直接ドルマに仕事の感謝を伝えてくれた。
今回も、他の騎士達と同じようにドルマを怖がらせないように扉の外にジャケットを置いて、でも、とても丁寧に、ドルマにメッセージを書いてくれた。
ドルマを一人の人間として、きちんと対峙しようとしてくれているのだ。
ドルマは湧き上がる感情にどうして良いのかわからなくなって、部屋をオロオロと右に左に意味もなく歩いて、そして少し落ち着くと、そっとマティから依頼のあったポケットに手を触れた。
(大きめのポーションの瓶を力任せに入れたので綻んでしまったのね、マティさんは強めにポケットにものをねじ込む癖があるのね、他の胸ポケットの底も二重にしましょう。腰にあるポケットの口は、綻びにくいように硬い布をあてがっておきましょう)
マティさんが安全に討伐を行えますように。無事にいつも帰って来れますように。
一針一針、心をこめながらドルマはゆっくりと、丁寧にマティアスのジャケットの綻びと向き合った。
こうして、制服の持ち主の事を考えながらゆっくり針を動かしている時間がドルマの幸せな時間であり、ドルマの今の生活を支える大切な仕事でもある。
(・・できた)
ドルマは一体、どのくらいの時間をマティアスの制服と向き合っていただろうか。
マティアスの制服の胸ポケットの繕いを終えたドルマは、軽い疲労感と、良い仕事を終えた充足感で満ちていた。
(他に綻んでいるところはないかしら)
ドルマはマティアスの制服を裏をひっくり返し、丁寧に検品した。
そしてドルマは、胸の内ポケットの奥に、急いでいたのだろう。出し忘れたチョコレートの紫色の包み紙が、小さく折り畳まれて入っているのを見つけた。
ドルマも大好きな、干したイチゴが中に練りこまれているとても甘いチョコレートだ。
(あんなに大きくてヒゲのお方なのに、甘党なのね)
ドルマの心は温かい物で満ちてくる。ドルマは生まれて初めて、手紙というものをしたためて見ることにした。
ドルマは制服管理課の中にいた。
扉の向こうから、扉の外の物音のしなくなるまで衝立の後ろに震えて隠れていたドルマだったが、音がしなくなったのを確認すると、そっと扉を少し開いて回りを伺い大急ぎで扉の前に積まれていた制服を部屋の中に取り込んだ。
扉を閉めて、脂汗を拭う。カタカタと震える体を落ち着かせて、短くなっていた息を整えると、ようやくドルマは繕いが必要な、制服の状態を一枚一枚確認する。
どの制服にもドルマが手掛けた繕いの跡があり、大切に着られている様子だ。
どの制服が一体誰の制服なのか、繕いの跡を辿ればドルマにはいとも簡単に見分けがつく。
(ええと、これはエイデンさんのジャケットね。ちょっと太ったのね、脇の糸がひきつれてる。ジャケットの脇に布を足してあげよう。こっちのイールカさんのシャツはもう古くなりすぎね、肘の布が擦り切れてしまっているわ。こっちのは・・あら)
何着もぐしゃぐしゃに積まれていた制服を確認する中で、ドルマは1着だけ、丁寧にきちんと畳まれているジャケットに気がついた。
ドルマがそれを手に取ると、まだ比較的新しい、大きめのジャケットだ。
そしてよく見ると、上着のポケットのポーションが入るポケットの部分が綻んでいる。
内ポケットに何かの紙が入っていた
(何かしら)
メモだ。
「ドルマ、前に君が膝を繕ってくれたパンツはすこぶる履き心地が良くなった。ありがとう。今日君にお願いしたいのは右上部の2番目の外ポケットの修繕だ。まだ新しいのに、私の扱いが乱暴なせいで少し綻んできている。先に君がこれから施してくれるであろう、素晴らしい繕いの仕事に感謝を。マティ」
(まあ)
どうやら適当なメモで、急いで走り書きをしてくれたらしい。
小さく折り畳まれた紙には、とても美しい文字でそう書かれてあった。
(今まで私にお礼のお手紙を下さった方も、直接こうして丁寧な依頼のお手紙をくださる方も初めてだわ)
ドルマは小さなメモを胸に抱きしめると、優しい気持ちで胸がいっぱいになった。
ドルマは対人恐怖症で、人が恐ろしい。
いつも制服管理室に人がやって来ると怯えて、衝立の向こうで息を潜めてじっと隠れている。
ハンザも優しい第6の騎士達も、そんなドルマを怖がらせないようにいつも同じ部屋にいても、基本ドルマを居ないものとして扱ってくれている。
だがドルマは確かにそこに存在している。
誰にも話しかけられたくないし、誰にも姿を見られたくない。
だけれども、ドルマは決していないわけではない。
人に怯えて物陰に隠れてばかりいるけれど、確かに存在しているのだ。
マティというこの北からの傭兵は、みんなと違う。
ドルマを怖がらせないように、でも決してハンザを通してではなく、直接ドルマに仕事の感謝を伝えてくれた。
今回も、他の騎士達と同じようにドルマを怖がらせないように扉の外にジャケットを置いて、でも、とても丁寧に、ドルマにメッセージを書いてくれた。
ドルマを一人の人間として、きちんと対峙しようとしてくれているのだ。
ドルマは湧き上がる感情にどうして良いのかわからなくなって、部屋をオロオロと右に左に意味もなく歩いて、そして少し落ち着くと、そっとマティから依頼のあったポケットに手を触れた。
(大きめのポーションの瓶を力任せに入れたので綻んでしまったのね、マティさんは強めにポケットにものをねじ込む癖があるのね、他の胸ポケットの底も二重にしましょう。腰にあるポケットの口は、綻びにくいように硬い布をあてがっておきましょう)
マティさんが安全に討伐を行えますように。無事にいつも帰って来れますように。
一針一針、心をこめながらドルマはゆっくりと、丁寧にマティアスのジャケットの綻びと向き合った。
こうして、制服の持ち主の事を考えながらゆっくり針を動かしている時間がドルマの幸せな時間であり、ドルマの今の生活を支える大切な仕事でもある。
(・・できた)
ドルマは一体、どのくらいの時間をマティアスの制服と向き合っていただろうか。
マティアスの制服の胸ポケットの繕いを終えたドルマは、軽い疲労感と、良い仕事を終えた充足感で満ちていた。
(他に綻んでいるところはないかしら)
ドルマはマティアスの制服を裏をひっくり返し、丁寧に検品した。
そしてドルマは、胸の内ポケットの奥に、急いでいたのだろう。出し忘れたチョコレートの紫色の包み紙が、小さく折り畳まれて入っているのを見つけた。
ドルマも大好きな、干したイチゴが中に練りこまれているとても甘いチョコレートだ。
(あんなに大きくてヒゲのお方なのに、甘党なのね)
ドルマの心は温かい物で満ちてくる。ドルマは生まれて初めて、手紙というものをしたためて見ることにした。
140
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されたのでファンシーショップ始めました。 ― 元婚約者が、お人形さんを側室にしようとして大恥をかきました ―
鷹 綾
恋愛
隣国の王子から「政略的にも個人的にも魅力を感じない」と婚約破棄された、ファンタジア王国第三女王タナー。
泣きも怒りもせず、彼女が考えたのは――「いつか王宮の庇護がなくなっても困らない生き方」だった。
まだ八歳。
それでも先を見据え、タナーは王都の片隅で小さなファンシーショップを開くことを決意する。
並ぶのは、かわいい雑貨。
そして、かわいい魔法の雑貨。
お茶を淹れてくれるクマのぬいぐるみ店員《テイデイ・バトラー》、
冷めないティーカップ、
時間になると小鳥が飛び出すアンティーク時計――。
静かに広がる評判の裏で、
かつての元婚約者は「お人形さんを側室にしようとして」赤っ恥をかくことに。
ざまぁは控えめ、日常はやさしく。
かわいいものに囲まれながら、女王は今日も穏やかにお店を開けています。
---
この文面は
✔ アルファポリス向け文字数
✔ 女子読者に刺さるワード配置
✔ ネタバレしすぎない
✔ ほのぼの感キープ
を全部満たしています。
次は
👉 タグ案
👉 ランキング用超短縮あらすじ(100字)
どちらにしますか?
婚活令嬢ロゼッタは、なによりお金を愛している!
鈴宮(すずみや)
恋愛
ロゼッタはお金がなにより大好きな伯爵令嬢。男性の価値はお金で決まると豪語する彼女は、金持ちとの出会いを求めて夜会通いをし、城で侍女として働いている。そんな彼女の周りには、超大金持ちの実業家に第三王子、騎士団長と、リッチでハイスペックな男性が勢揃い。それでも、貪欲な彼女はよりよい男性を求めて日夜邁進し続ける。
「世の中にはお金よりも大切なものがあるでしょう?」
とある夜会で出会った美貌の文官ライノアにそう尋ねられたロゼッタは、彼の主張を一笑。お金より大切なものなんてない、とこたえたロゼッタだったが――?
これは己の欲望に素直すぎる令嬢が、自分と本当の意味で向き合うまでの物語。
虐げられた私が姉の策略で結婚させられたら、スパダリ夫に溺愛され人生大逆転しました。
専業プウタ
恋愛
ミリア・カルマンは帝国唯一の公爵家の次女。高貴な皇族の血を引く紫色の瞳を持って生まれたワガママな姉の陰謀で、帝国一裕福でイケメンのレナード・アーデン侯爵と婚約することになる。父親であるカルマン公爵の指示のもと後継者としてアカデミーで必死に勉強してきて首席で卒業した。アカデミー時代からの恋人、サイラスもいる。公爵になる夢も恋人も諦められない。私の人生は私が決めるんだから、イケメンの婚約者になど屈しない。地位も名誉も美しさも備えた婚約者の弱みを握り、婚約を破棄する。そして、大好きな恋人と結婚してみせる。そう決意して婚約者と接しても、この婚約者一筋縄ではいかない。初対面のはずなのに、まるで自分を知っていたかのような振る舞い。ミリアは恋人を裏切りたくない、姉の思い通りになりたくないと思いつつも彼に惹かれてく気持ちが抑えられなくなっていく。
婚活をがんばる枯葉令嬢は薔薇狼の執着にきづかない~なんで溺愛されてるの!?~
白井
恋愛
「我が伯爵家に貴様は相応しくない! 婚約は解消させてもらう」
枯葉のような地味な容姿が原因で家族から疎まれ、婚約者を姉に奪われたステラ。
土下座を強要され自分が悪いと納得しようとしたその時、謎の美形が跪いて手に口づけをする。
「美しき我が光……。やっと、お会いできましたね」
あなた誰!?
やたら綺麗な怪しい男から逃げようとするが、彼の執着は枯葉令嬢ステラの想像以上だった!
虐げられていた令嬢が男の正体を知り、幸せになる話。
キズモノ転生令嬢は趣味を活かして幸せともふもふを手に入れる
藤 ゆみ子
恋愛
セレーナ・カーソンは前世、心臓が弱く手術と入退院を繰り返していた。
将来は好きな人と結婚して幸せな家庭を築きたい。そんな夢を持っていたが、胸元に大きな手術痕のある自分には無理だと諦めていた。
入院中、暇潰しのために始めた刺繍が唯一の楽しみだったが、その後十八歳で亡くなってしまう。
セレーナが八歳で前世の記憶を思い出したのは、前世と同じように胸元に大きな傷ができたときだった。
家族から虐げられ、キズモノになり、全てを諦めかけていたが、十八歳を過ぎた時家を出ることを決意する。
得意な裁縫を活かし、仕事をみつけるが、そこは秘密を抱えたもふもふたちの住みかだった。
【完結】教会で暮らす事になった伯爵令嬢は思いのほか長く滞在するが、幸せを掴みました。
まりぃべる
恋愛
ルクレツィア=コラユータは、伯爵家の一人娘。七歳の時に母にお使いを頼まれて王都の町はずれの教会を訪れ、そのままそこで育った。
理由は、お家騒動のための避難措置である。
八年が経ち、まもなく成人するルクレツィアは運命の岐路に立たされる。
★違う作品「手の届かない桃色の果実と言われた少女は、廃れた場所を住処とさせられました」での登場人物が出てきます。が、それを読んでいなくても分かる話となっています。
☆まりぃべるの世界観です。現実世界とは似ていても、違うところが多々あります。
☆現実世界にも似たような名前や地域名がありますが、全く関係ありません。
☆植物の効能など、現実世界とは近いけれども異なる場合がありますがまりぃべるの世界観ですので、そこのところご理解いただいた上で読んでいただけると幸いです。
追放聖女35歳、拾われ王妃になりました
真曽木トウル
恋愛
王女ルイーズは、両親と王太子だった兄を亡くした20歳から15年間、祖国を“聖女”として統治した。
自分は結婚も即位もすることなく、愛する兄の娘が女王として即位するまで国を守るために……。
ところが兄の娘メアリーと宰相たちの裏切りに遭い、自分が追放されることになってしまう。
とりあえず亡き母の母国に身を寄せようと考えたルイーズだったが、なぜか大学の学友だった他国の王ウィルフレッドが「うちに来い」と迎えに来る。
彼はルイーズが15年前に求婚を断った相手。
聖職者が必要なのかと思いきや、なぜかもう一回求婚されて??
大人なようで素直じゃない2人の両片想い婚。
●他作品とは特に世界観のつながりはありません。
●『小説家になろう』に先行して掲載しております。
私をいじめていた女と一緒に異世界召喚されたけど、無能扱いされた私は実は“本物の聖女”でした。
さら
恋愛
私――ミリアは、クラスで地味で取り柄もない“都合のいい子”だった。
そんな私が、いじめの張本人だった美少女・沙羅と一緒に異世界へ召喚された。
王城で“聖女”として迎えられたのは彼女だけ。
私は「魔力が測定不能の無能」と言われ、冷たく追い出された。
――でも、それは間違いだった。
辺境の村で出会った青年リオネルに助けられ、私は初めて自分の力を信じようと決意する。
やがて傷ついた人々を癒やすうちに、私の“無”と呼ばれた力が、誰にも真似できない“神の光”だと判明して――。
王都での再召喚、偽りの聖女との再会、かつての嘲笑が驚嘆に変わる瞬間。
無能と呼ばれた少女が、“本物の聖女”として世界を救う――優しさと再生のざまぁストーリー。
裏切りから始まる癒しの恋。
厳しくも温かい騎士リオネルとの出会いが、ミリアの運命を優しく変えていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる