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女の幸せって

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ミシェルは、女の圧縮されたように見える光に神経を集中させる。
ぼんやりと見えてきたのは、完全なダメ女!

(あれ?なんだこりゃ)

どうやらファブリジェ女史のお宅らしいのだが。
料理はこがしてるは、洗濯物は皺だらけだわ、家はほこりまみれだわ、なかなかの惨状。
子供は右に左にうろうろして頭を打ったり、床におちていた釘をひろって怪我しそうになったり、おろおろしている女の元に帰宅した夫は、あきれた顔で慣れた手つきで、女がめちゃくちゃにした家の片づけをしている。
これじゃ、決算期のミシェルの毎日終電の頃の方がまだマシだ。

「ファブリジェ女史、あなたひょっとして、家事とか・・あまりお得意でないとか・・?」

こわごわと、ミシェルは聞いた。
するとファブリジェ女史は顔をもう、真っ赤にして言った。

「そうなんです。私は一般的な女性が受けるべき教育をうけずに、一流の職人となる為の教育しか受けてなかったのです。駆け落ちしてきたその日に、台所でどうやって火をつけるのかもわからずに、夫にあきれられてしまいました」

だが、ファブリジェ女史は駆け落ちして夫の元に逃げてきたので、職のない状態。夫の収入に頼る日々が続いていたが、ファブリジェ女史ほどの実力者など、すぐに仕事が舞い込んでき始めていた。

だが、夫はこの世界では一般的とされる家で育った一般的な男性だ。
妻は家にいて、家の事をしっかりとして外で働く夫をささえるべきだ。こんなまともに家事もできないのに、仕事に手を出すなどなんたる事だ。

そういう考えの育ちだった。

ファブリジェ女史も別に異存はない。この国ではそういう考え方が一般的で、ファブリジェ女史の育った家の方が、非常に珍しいのだ。
普通の女の女としての喜びを選んだのだから、普通の女の様に、家の事も頑張るべきだ。

そう思ったのだ。

夫が、宝飾界におけるファブリジェ女史がどれほどの人物であるのか、皆目知らないという状況もそうさせてしまった。
同じ宝飾の世界に住む人間であれば、ファブリジェ女史ほどの人物に普通の女に求めるような役割は期待しないだろう。普通の女として夫に扱ってほしかったファブリジェ女史にとって、それはおそらくは幸せな事だったはずなのだが。

そんな頃、ファブリジェ女史は妊娠した。

かなりの高齢出産だったので、産後の容態も元に戻りにくく、ようやく体力がもどってきたら今度は慣れない育児だ。だが子供は本当に可愛い。
慣れない家事と育児で疲れながらも、十分に普通の女としての幸せをつかんでいたその頃だ。

今度はファブリジェ女史の夫の仕事が、あまり立ち行かなくなってきた。

夜遅くまで仕事をして帰ってきたら、流し台にはミルクのボトルが散乱、家は埃だらけ、食事は相変わらずダメ。
最初はファブリジェ女史のあまりのダメ主婦っぷりに笑っていた夫も、心の余裕がなくなるとそうはいかない。

「お前は一体いくら無駄遣いしたら気が済むんだ!」

あまり安い買い物も上手ではないファブリジェ女史は、いくつも高値で買ってしまった卵やらを焦がしてしまい、そうやって夫になじられる事がふえてきた。
庶民にとっても、卵は安いものではあるが、下手したら一回につき何個も無駄にしてしまうような主婦は、正直堅実に育ってきた一般庶民の家で育った夫には、かなり苛立たしいものがある。
ましてや商売が上手く行っていなくて、収入が厳しい時。

夫はイライラとファブリジェ女史の家事の至らなさ、子育ての下手さにやつ当たるようになってきた。
収入は減る一方だが夫は仕事に奔走して忙しくて、家は荒れ放題だ。

そしてファブリジェ女史は、なんと二人目の子供を身ごもる。
夫の減った収入の足しにしようと、家事の合間にできる小さな注文を取り出したつもりだが、仕事はどんどんと軌道にのってくる。そうすると、今度はどんどんと家事に費やす時間はなくなってくる。

二人目の子供も、それは玉のような可愛い、健康な赤ちゃんだった。
一人目の家事育児でも手がまわっていなかったのに、二人も。それも仕事をしながらなど、ファブリジェ女史にはできない相談だった。
しかも、ファブリジェ女史は仕事を愛している。仕事に集中しようとした瞬間に子供に泣かれて、子供をあやしている内に別の子供のご飯の時間。そうこうしている内に夫が帰ってきて、家の汚さをなじられる。仕事はまっている。お客さんもまっている。

ファブリジェ女史は、追い詰められていた。

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