お仕置きはほどほどに

リツカ

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「なかなか戻ってこないから、様子を見にきた。ユズリハ嬢も心配していたよ」

 レストルームのドアを静かに閉めたルシアンが、ゆっくりとこちらに歩み寄ってくる。伸びてきた手が頬に添えられ、青い瞳がじっとローランの顔を覗き込んだ。

「体調が悪いわけではなさそうだな」
「は、はい……あ、いえ、さっきまで腹の調子が悪かったんですが、もう治りました」
「それはよかった」

 ルシアンは唇の端を吊り上げて笑った。
 かと思うと、ルシアンの空いていた方の手がローランの腰を抱き寄せる。
 驚いたローランが目を白黒させているうちに、唇を奪われた。ルシアンの舌がぬるりと口内に入ってきて、慣れた動きでローランの舌を絡めとる。

「ンッ……ん、ぅ……!」

 ローランはその腕の中で暴れるように身動いだが、ルシアンの腕はがっちりとローランの腰を抱いて離さない。
 呼吸さえも奪うような深いキスは、ローランの腰が抜けそうになるまで続いた。

「っ、ふ……はッ……な、なにを……!」

 ──他人の屋敷のレストルームでこんなことするなんて、このひとはなにを考えてるんだ……!?

 ようやく解放された唇を、とっさに手の甲で隠す。赤面したローランは狼狽しながらも、咎めるようにルシアンを睨み付けた。
 けれど、ルシアンは涼しい表情のまま、むしろ不可解そうに首を傾げる。

「なにか問題があるのか?」
「も、問題って……ひとの屋敷のレストルームですることじゃないでしょう……!」
「誰も見てやしないさ。それに、見られたところでなんの問題もないだろう。君は私の婚約者なんだから」

 冷たい指先が、するりとローランの頬を撫でた。なぜだかローランは寒気を感じて、ぶるりと身震いをする。

「……も、戻りましょう。ユズリハが心配します」
「ああ、そうだな」

 ローランがルシアンを促して、ふたりはレストルームを出た。

 ──なんか、全然期待してた展開にならないな……

 ローランがいない間に仲を深めて欲しかったのに、迎えにきた挙句キスまでするなんて……相変わらずルシアンの考えていることはよくわからない。

 ──……俺のこともキープしときたいのか……? いや、そんなの絶対無理。愛人も第二夫人も嫌すぎる!

 希少なオメガを複数娶るなんて王族くらいにしか許されないので、さすがにそれは考え過ぎかもしれない。
 だが、ユズリハと会ったあともローランの婚約者としての態度を崩さないルシアンの言動は不可解だ。

「ローラン、大丈夫だったっ?」
「ああ、遅くなってごめん」

 心配そうな顔をするユズリハに迎えられて、三人でのお茶会が再開される。
 話題はローランとユズリハが通う貴族学院のことについてで、ふたりの話をルシアンはにこにこと愛想良く聞いていた。不思議と話の内容はローランに関することばかりで、ローランとしてはなかなか面映い。

 そんなこんなで二時間ほどのお茶会は終わり、ユズリハに見送られながらローランとルシアンは馬車へと乗り込んだ。
 ルシアンもお茶会を楽しめたようで、満足そうに頬を緩める。

「異世界というのは実に興味深いな。今日は詳しい話が聞けてよかった」
「ルシアン様も、他の異世界人には会ったことがないんですか?」
「世界的に稀な存在だからね。この国に異世界人が現れたこと自体、百年ぶりだ。そうそうお目にかかれる相手じゃないさ」
「へぇ……」

 毎日当たり前に学園で会えるので感覚が麻痺していたが、ローランの想像以上にユズリハはすごい存在なのかもしれない。
 ローランは向かいに腰掛けるルシアンをちらりと窺いながら尋ねる。

「……次のお茶会にも、またお誘いしていいですか……?」
「──ああ、もちろん」

 一拍の間のあと、ルシアンはとろりととろけるように目を細めた。そこいらの令嬢たちなら卒倒してしまいそうな、至極甘い微笑みだ。
 きっと、またユズリハに会えるのがうれしいのだろう。

 ──うん、予想外なこともあったけど、とりあえずはいい感じだ。

 ローランは満足げに口角を上げた。
 そう遠くないうちに、自分は自由になれる──そんな浅はかな願いが叶うと、このときは本気で思っていた。
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