お仕置きはほどほどに

リツカ

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 お茶会やパーティーのたび、なにかにつけてユズリハとルシアンを引き合わせ続けること約三ヶ月──とうとう事態は動き出す。

 いつものことながら人気のない、早朝の図書室。
 入り口から一番離れた奥の席に腰掛けた途端、ユズリハは申し訳なさそうに深く項垂れた。
 かと思うと、か細い声で囁くようにぽつぽつと言葉を零す。

「……ごめんなさい。私、ルシアン様のことが本気で好きになってしまったみたい……」
「謝ることじゃないよ」

 むしろ、よくぞ言ってくれた。
 隣の席に腰掛けるローランはにんまりと笑いながら、赤面するユズリハの肩をぽんぽんと叩く。

「よし、なら善は急げだ。さっそくルシアン様に告白しよう」
「ええっ!?」

 ユズリハは顔を真っ赤にして、驚愕と困惑の入り混じった悲鳴をあげた。
 そんなユズリハに向かって、ローランは真剣な表情で説得を試みる。

「だってほら、あと三ヶ月で俺たちも卒業だろ? 早くしないと俺がルシアン様と結婚させられちゃうかもしれないし、レーン大公も今、ユズリハの婚約相手を探し回ってるらしいじゃないか。絶対早い方がいいよ」
「それはそうだけど……」

 ユズリハは指先を唇に当てながら、不安そうな顔をする。

「……でも、本当にこれでいいのかな?」
「なにが?」
「聖女って言われてるけど私に特別な力なんてないし、それに……私、まだ発情期ヒートになったことがないの……」

 オメガの発情期がはじまるのは十五歳前後と言われているので、遅いといえば遅いかもしれない。しかし、二十を過ぎてから発情期がはじまったというオメガの話もきいたことがあるし、十八なんてまだ許容範囲内だろう。
 なにより、ユズリハの可憐さを目にすれば、そんなのは些細な問題に過ぎない。

「大丈夫、ルシアン様はそんなこと気にしないさ。俺みたいなどう見てもベータにしか見えない平凡男と婚約するひとだぞ? そんな細かいこと気にするはずないだろ?」
「そうかなぁ……」
「うん、間違いなくそう」

 力強くそう言い切ってから、ローランは今後の計画を立てはじめる。

「俺が家にルシアン様を招くから、ユズリハにはそこでルシアン様に告白してもらおうと思う」
「え、ええっ!? ローランの家で!?」
「それが一番手っ取り早いと思うんだけど……ダメかな?」
「ダメというか、現婚約者の家でそれはいいの? 倫理的に……」
「すぐ元婚約者になるから大丈夫だよ。うちとしてもすぐ婚約破棄を伝えてくれた方が助かるだろうし」

 あの強かな両親のことだ。ルシアンからの婚約破棄に軽い衝撃くらい受けるだろうが、すぐに気を取り直して新しい婚約者探しをはじめるだろう。
 次こそは、同い年くらいの異性の婚約者を見つけてもらわなければ──

「……ねぇ、ローランは本当にそれでいいの? 後になって『俺、やっぱりルシアン様のことが好きだ……』とか言い出さない?」
「寒気がするから気色悪いことを言うのはよしてくれ……」
「もうっ、こっちは本気で心配してるのにっ!」
「俺だって本気で言ってる!」

 時々、ユズリハはローランの気持ちを疑うようなことを言ってくる。
 だが、そんなことはあり得ない。ルシアンとの婚約を解消して、女の子と結婚したい──これがローランの本心だ。
 ローランのまっすぐな目を見て、ようやくユズリハも決心がついたらしい。彼女は大きく深呼吸をしてから言う。

「……わかった。私、ルシアン様に告白する」
「よくぞ言った!」
「でも、もし私がフラれてローランの計画が破綻しても、恨まないでね」
「大丈夫。ユズリハがフラれるなんてあり得ないよ。なぜなら君はすごくかわいいから」
「もうっ!」

 照れながら怒るその顔も、やっぱりかわいらしい。こんな素敵な女の子に告白されて断る男なんて、きっとこの世にはいないだろう。

 それからふたりは話し合い、大雑把な作戦を立てた。
 まず、ローランが手紙でルシアンを屋敷に招く。そして、ルシアンがやってくる前にローランの部屋にユズリハを待機させ、ルシアンがやってきたタイミングで告白。その間、ローランは別室で待機。ユズリハの気持ちを知ったルシアンが、彼女に結婚の申し込みをする。その流れでローランとの婚約は破棄され、みんな笑顔のハッピーエンド──

「うん! 完璧だ!!」
「んー……そうかなぁ……ほぼローランの妄想のような……」
「いや、絶対こうなるよ。なぜなら君はとっても素敵な女の子だから」
「~~もうっ、だからそれやめてってばっ!」

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