お仕置きはほどほどに

リツカ

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 ──またこの展開!?

「る、るしあん様……な、なんで……」
「アルスター侯爵から君がここにいると聞いてね、迎えにきたんだ」
「え、迎え? ……な、なぜ?」

 妙な胸騒ぎがした。ローランは頬を引きつらせつつ、ルシアンの表情を窺う。
 ルシアンはいつもの作り笑いを浮かべながら、ローランへと歩み寄ってきていた。

 ──や、やばいっ……うあっ!?

 逃げようとしたローランはあわてて立ち上がったが、あっけなくルシアンに捕まってしまう。ルシアンは軽々とローランを抱き上げ、ローランはその腕の中で赤面した。

「ちょっ……!」
「君には年明けまで、私の屋敷で過ごしてもらうことになった」
「……えっ!?」
「いや、結婚したあとは当然うちで暮らすわけだから……これから一生か」
「えっ!? ええっ!?」
「大丈夫。君のご両親からは、ちゃんと許可をいただいているよ。今頃、君の私物も運び出している頃だろう」
「俺の意思は!?」

 ルシアンはにっこりと笑うだけだった。
 ローランはわなわなと唇を震わせる。

 ──さ、最悪だ……っ!

 これから一生なんて冗談じゃない。
 ここで逃げなければ、ローランの人生は終わりだ。

「む、無理です! だいたい、結婚は年明けの約束なんですから、それまでは自由にさせてくださいよっ!」
「悪いが、君にはもう信用がないんだ。ちゃんと傍に置いておかないと、どこに逃げ出すかわからない」
「ぐっ……」

 なにもかも見透かされている。
 ローランは助けを求めるように、クリスとユズリハを涙目で見つめた。
 しかし、ふたりはどこか生温かい笑みを浮かべながら、ひらひらと手を振るだけだった。

「お幸せに~」
「結婚式には行くからね!」
「っ~~この裏切り者ぉっ!!」

 ローランが叫んだ直後、ルシアンはローランを抱えたままユズリハの部屋を出た。
 バタンと扉が閉じられ、あっという間に友人ふたりの姿は見えなくなる。
 途端にローランは心細くなって、ルシアンの腕の中でしょんぼりした。

「……下ろしてください。自分で歩けます」
「下ろしたら逃げるだろう」
「もう逃げませんよ。逃げたって、あなたはどこまでも追いかけてくるでしょう……」
「よくわかってるじゃないか」

 感心したように言いながらも、ルシアンはローランを抱きかかえる腕の力を緩めなかった。まさか、このまま馬車に乗り込むつもりなのだろうか。

「君も懲りないね」
「ルシアン様の方こそ……わざわざ自分との結婚を拒んでるガキにこだわる理由なんてないでしょう」
「男っていうのは、好きな相手に拒まれるといっそう燃えるものだよ」
「……迷惑な話です」

 レーン大公家の廊下を軽い足取りで進みながら、ルシアンはくつくつと笑う。

「ああ、貴族に生まれてよかった。面倒なしがらみも多いが、そのおかげで君を手に入れることができる」
「……俺は物じゃありません」
「当然だ。君が物だったら、もっと簡単に手に入ってる」

 さらりと告げられた言葉に、ローランは困惑する。
 やっぱり、ルシアンがなにを考えているのか、どうしてローランに執着するのか、ローランにはわからない。まあ、わかりたくもないが。
 ローランはフンッと鼻を鳴らして、そっぽを向く。

「結婚して項を噛まれたからって、あなたを好きになったりしませんから」
「その虚勢、いつまで続くかな」
「虚勢じゃないっ!」
「ああ、そうだな。虚勢というより、思い込みというのが正しい。君が考えを改める日が来るのが今から楽しみだ」
「…………」

 ──ッ~~ほんっとうに、ムカつく!!

 考えを改める日なんて、絶対に来ない。
 ローランは女の子が好きで、ルシアンのことは今もこれからもずっと苦手だ。
 ……ただ、小柄でもないローランを平然と抱きかかえるがっしりとした腕の中の居心地だけは、そう悪くないかもしれない──
 そのほんのかすかな胸の綻びから目を逸らしつつ、ローランは深いため息を吐いた。

 ローラン・アルスターがモンクレア公爵夫人になったのは、それからちょうど十日後のこと。
 さりとて、頑固なローランと辛抱強いルシアンが本当の意味で夫婦になるのは、まだまだ先の話である。


  (終)


 これでいったん完結になります!
 また、結婚生活編などを時間のあるときに書きたいと思っているので、その際はぜひ読んでいただけたらうれしいです。
 閲覧並びに感想やエールなど本当にありがとうございました!

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