お仕置きはほどほどに

リツカ

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地獄の結婚生活編

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 ──……とはいえ、項を守る方法がぜんっぜんっ思い付かない……!

 ローランはがくりと深く項垂れた。
 項を覆う錠付きのチョーカーはこれまでローランの人生を守り続けてくれたが、それも今日で終わり。
 結婚式のあと、ルシアンとにこやかに談笑する両親がローランのチョーカーの鍵を彼に差し出すのを、ローランはしっかりと目にしていた。最初から期待はしていないが、なんて冷たい両親だろう。

「なんでみんな俺の幸せを勝手に決めるんだよ……」

 ローランは唇を尖らせ、拗ねたように呟く。
 両親も、クリスも、あのユズリハでさえも、ローランとルシアンの結婚を当然のように祝福していた。
 そのうえ両親に至っては、ローランの心からの主張をまるで幼子のわがままのように叱ってくるのだ。

『お前が六歳の頃から決まっていた結婚だ。今更嫌だなんて、そんなわがままが通るはずないだろう。貴族の子に産まれたなら、家のため、民のため、国のためにその身を捧げるのは当然のこと。駄々をこねるな』
『ローラン、あなたがルシアン様にきょうふ……恐縮しているのは母様も確かに知ってはいるわよ? でも、ルシアン様との結婚は光栄なことよ。それに、卒業後に結婚することはあなたも渋々だけど受け入れてたじゃない。どうして今になってそんな駄々をこねるの?』

「っ~~なぁにが駄々をこねるな、だ! 大層なこと言ってるけど、父上はモンクレア公爵家と繋がりができるのが美味しいと思ってるだけだろ! 母様に至っては、俺がルシアン様のこと怖がってるの知ってるくせに光栄ってなんなんだよ!」

 両親の言葉を思い出すと、文句がとまらなくなる。
 ローランとて、貴族の結婚がそういうものだと理解はしている。だが、嫌なものは嫌なのだ。親ならもっと子どもに寄り添うべきではないか。

 ──確かに俺だって前までは諦めてたよ。貴族の政略結婚に、個人の意思なんて関係ないってこともわかってる。……でも、ユズリハに出会って俺の考えは変わったんだ。

 ローランは俯いていた顔をゆっくりあげ、華美な照明のぶら下がった天井を睨むように見上げる。
 すべてを諦めてルシアンとの結婚を待つしかなかったローランにとって、ユズリハの来訪は一筋の希望の光だった。ある種の運命の出会いである。
 故に、たとえその希望の光が立ち消えてしまったとしても、その一筋の光の神々しさは忘れられない。人生なにが起こるかわからないのだから希望を捨ててはいけないと、聖女ユズリハはその身をもってローランに教えてくれた。
 ……結局なにが言いたいかというと、一度希望を見出してしまったら誰だって往生際が悪くなる、ということである。かわいい女の子と幸せな未来をローランは諦められなくなったのだ。
 
「……まあ、最悪項を噛まれたって逃げることはできるし、俺はなにがあっても折れない!」

 ローランが力強く叫んだちょうどそのとき、ガチャリと扉の開く音が響いた。ローランはびくっと肩を跳ねさせる。
 ぎぎぎぎっと軋むように首を動かすと、寝衣姿のルシアンが部屋の中に入ってきたところだった。湯浴みを済ませてきたあとなのか、しっとりと濡れた前髪が額におろされている。そのおかげか、いつもよりは柔らかな雰囲気だ。
 そんなルシアンはローランを見た瞬間、大きく目を開いた。碧眼がまじまじとローランを凝視していたかと思うと、突如とろりととろけるように破顔した。

「ああ、ローラン……!」
「えっ」

 大股で近寄ってきたルシアンは、ローランの体を強く抱き寄せた。目を白黒させるローランを見下ろして、恍惚にも見える笑みを浮かべる。

「よく似合っている。とても美しいよ」
「──あっ!」

 しまった! と青ざめたローランは自身をバッと見下ろした。視界に入ったのは、中身が丸見えのスケスケの寝衣。これなら全裸の方がまだマシだっただろうが、いろいろ考えているうちに脱ぐのを忘れてしまっていた。
 ルシアンは卑猥な寝衣を纏ったローランの肉体に、舐めるような視線を注ぐ。そのねっとりとした視線が寝衣越しの肌の上を這う蛇のようで、ローランの背筋はぞくぞくした。

「君がこの寝衣を着てくれるとは思わなかった」
「す、好きでこんな服を着ているわけではありません! あなたの執事たちに無理矢理着せられたんです!」
「そうか。それは素晴らしい。皆の今月の給金は弾まなくてはな」

 ──……このひと、ほんと俺の話全然聞かないよな。

 上機嫌のルシアンを、ローランはじとりと睨む。
 最悪の展開を避けられたとしても、避けられなかったとしても、長い夜になりそうだ。
 ローランはごくりと喉を鳴らし、両手の拳をぎゅっと握りしめた。
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