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過去話・後日談・番外編など
Marry Me 2
しおりを挟む『過度に縛り付けようとすると逆に嫌われる可能性もあるから、気をつけた方がいいよ。僕たちみたいな夫婦になりたくないでしょ?』
「お前が言うと説得力ありすぎて怖えよ……」
通話越しの片桐に釘を刺された総真は思わず苦い表情を浮かべる。
おまけに電話の向こうから片桐以外の男──白鳥の笑い声が聞こえてくるものだから、いっそうこの夫婦みたいにはなりたくないと思えた。
雅臣を結婚式に送り出したあと、総真は久しぶりに雅臣の友人の片桐雪緒に連絡をとっていた。正確にいうと、片桐の夫の白鳥に。
片桐の夫の白鳥はアルファの中でも特に束縛が激しいため、あちらは通話をスピーカー状態にして、総真との会話を白鳥にも聞かせながら話をしているようだった。
そのため、時折白鳥や幼い子どもの声が電話越しに聞こえてくることもある。
普段は気にならないそれに、今の総真はなんともいえない気分になりつつ、片桐との会話を続けた。
『というかさ、君ってまだ学生でしょ? 結婚とかそういうのって、自分で稼げるようになってからするもんじゃないの?』
「そりゃそうだけど、俺の場合もうすぐ卒業だし、就職先も決まってる。株で儲けたまとまった金もあるんだから、いつ結婚したっていいだろ?」
『じゃあそれを雅臣くんに言いなよ……あんだけ強引に雅臣くんのこと番にしたくせに、いまさらなに弱気になってんの?』
「弱気になってるとかそういうわけじゃねぇけど……」
と、反論したものの、確かに今の自分は自分らしくない。
雅臣とのことになると、基本的にいつもそうだ。五歳の頃に心奪われたあの男のことになると、総真も余裕でなんていられない。もちろん、なるべく雅臣の前では格好つけたいとは思っているが。
他人にどう思われたっていい、極論嫌われたって別にいいと思って総真は今まで生きてきた。
でも、雅臣だけは違う。
嫌われたっていいから雅臣が欲しいと考えていた時期もあるが、今は嫌われたくないし、もっというと総真のことを今よりも好きになってほしい。
番になって、結婚の約束をして、それでも傍にいればいるほど欲がでる。
発情期のときにあふれだす底知れぬ欲望が、最近は平素にさえ顔を出して雅臣を欲しがるのだ。
ある程度は、総真も仕方がないと諦めている。アルファに生まれた宿命のようなものだ。
けれど、雅臣をがんじがらめにして閉じ込めたいとは思わない。……いや、本音を言うとそういう独占欲ももちろんあるが、そうすべきではないと頭ではちゃんとわかっている。
──まあ今はそんな複雑な話じゃなくて、雅臣にも前向きに結婚の話を考えてほしいだけだけどな。
総真が心の中でそう独りごちたところで、『そんなに思い詰めなくても大丈夫でしょ』と電話越しの片桐があっけらかんと言う。
『雅臣くんも総真くんのこと嫌ってるわけじゃないと思うし、ただタイミングの問題だと思うよ。案外、今日結婚式に参列したのをきっかけに、自分も結婚したいって言い出すとかもあると思うし』
──それは実際ありえる。
というか、総真はそれを少し期待して雅臣を今日結婚式に送り出していた。
いつもみたいに総真が強引に押し切るのではなく、雅臣にも総真と結婚したいと思ってほしかったのだ。
その後も何度か堂々巡りを繰り返しながら、総真と片桐の会話はダラダラと続いた。
そして、もうそろそろ通話を終えようかというタイミングで、片桐がふいにぽつりと呟く。
『……でも、ミナもよく雅臣くんを結婚式に招待したな……女のひとってそういうのあんまり気にしないのかな……』
「……なにが?」
ミナというのは、今日結婚式を挙げる雅臣の友人の名前だ。雅臣はミナちゃんと呼んでいた。
オメガの女性で、雅臣とは中高同じ学校に通っていたのだという。
それはつまり片桐にとっても同級生だったということで、片桐がミナのことを知っていてもおかしくはない。ただ……意味深な片桐の言葉が総真は気にかかった。
『え、あ、いや……昔のことだし、大したことじゃないよ』
「いいから教えろ。気になんだろうが」
最初は言いたくなさそうにしていた片桐も、総真がしつこく食い下がると渋々と言った声で『本当に大したことじゃないよ』と前置きしつつ、とある話を総真に聞かせてくれた。
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