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過去話・後日談・番外編など
Marry Me 3
しおりを挟む「ただいまー」
「おかえり」
タクシーで家へと帰ってきた雅臣は、玄関の扉を開けてすぐそこに総真が待ち構えていたことに一瞬驚いた。
しかし、驚きよりも総真の顔を見れた喜びの方が大きくて、雅臣はすぐに破顔する。
「ここで待ってたのか?」
「うん、そろそろ帰ってくると思って。お前の顔すぐ見たいから」
なんだか、総真がいつもよりやけに綺麗な笑みを浮かべているように見えた。
それにほんの少し違和感を覚えつつ、雅臣は総真が自分と同じ気持ちだったことがうれしくて笑みを深める。
「俺も。なんかすごくお前の顔見たくなったから、急いで帰ってきた」
朗らかに言って、雅臣はにこにこと笑う。
久しぶりに少し酒を飲んだからか、結婚式の高揚感に当てられているのか、雅臣はなんとも良い気分だった。
足元がふわふわして、いつ見ても格好良い総真がいつもよりさらに格好よく見える。
総真はいっとき雅臣の言葉に目を丸くしていたが、やがて「お前ってほんと……」となにかを言いかけながら笑った。
それから雅臣は、軽くふらつく体を総真に支えられながら、リビングへと向かう。
ここまでひとりで来れたんだからひとりで歩けると雅臣は主張したが、総真はそれを「はいはい」といなして、雅臣をリビングのソファまで連れて行ってくれた。
ソファに雅臣を座らせ、総真はそのままキッチンへと歩いていく。
「結婚式、楽しかったか?」
「うん。すごく良い式だったよ。ミナちゃん綺麗だった」
ミナは雅臣の中高の同級生で、数少ない女友達でもあった。明るくて、可愛くて、話が面白くて、一緒にいるだけで楽しい女の子だった。
「……ふーん。その子、ずっとお前のことが好きだったんだろう?」
どこかつまらなそうな声で告げられた言葉に雅臣は瞠目して、勢いよく総真を振り返った。
「…………え!? なんで知ってるんだ!? 俺も今日知ったのに!!」
「今日知ったのかよ……」
キッチンから水の入ったグラスを持ってきた総真が、苦笑いをしながら雅臣の隣に腰掛ける。
「なんだ、気付いてなかったのか? 割と長い間お前のこと好きだったんだろ?」
雅臣は総真から手渡されたグラスの水を一口飲み、うーん……と小さく唸る。
「らしいけど、俺は知らなかったなぁ……確かに仲は良かったけど、好きとか言われたことなかったから、今日本人に言われてびっくりした」
『学生時代、実は雅臣くんのことがずっと好きだったの』と、花嫁姿のミナからこっそり囁かれたときは驚いた。雅臣にとっては寝耳に水の話だ。
……さりとて、ミナもそれを伝えて雅臣とどうこうなりたいなんて気持ちは更々なかったらしい。
雅臣に過去の恋心を打ち明けた彼女は照れくさそうに笑って、すぐに新郎の元へと戻って行った。ただ、ミナの中でなにかしらの区切りを付けたかっただけなのかもしれない。
そんなこともありつつ、結婚式はつつがなく終わりを迎えた。寄り添った新郎新婦ふたりの姿は、最後まで幸せそうだった。
──びっくりしたけど、それでミナちゃんがすっきりしたならそれはそれでいいか。
雅臣が少しぼんやりとしていたところで、隣の総真が皮肉気に口角を上げる。
「案外、お前との駆け落ちでも狙ってたのかもな」
「まさか。まだ俺のこと好きだったら結婚式に呼ばないだろ、普通。旦那さんともすごく幸せそうだったし……それに、俺たちの結婚式にも呼んでね、って言われたんだから」
「……俺たちの結婚式、ねぇ……」
総真がなんとも意味深に呟く。
グラスの水を飲み干した雅臣はきょとんと首を傾げた。
「なに?」
「……別に」
「変なやつ」
雅臣は小さく笑う。
なぜだか総真が微妙な表情をしているが、そんなことも気にならないほど雅臣はご機嫌だった。
まだ、結婚式のあのきらきらとしたハッピーな余韻が残っているのかもしれない。
──幸せそうだったな。
白いチャペルは綺麗で、ウェディングドレスを着たミナはもっと綺麗で、みんなうれしそうに笑っていた。
雅臣も自分のことのようにうれしくて、でもほんの少し羨ましくて……結婚式の間中、頭の片隅にはずっと総真の顔が浮かんでいた。
雅臣は窺うようにそっと隣の総真を見る。
それに対して、総真はなぜかじとっとした目で雅臣を見つめ返してきた。
けれども、そんな表情すら愛おしくて、雅臣は頬を緩める。
そして、どこかふわふわとした気分のまま、雅臣は総真に向かって柔らかく告げた。
「俺たちも来年の春に結婚しよう」
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