十年先まで待ってて

リツカ

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過去話・後日談・番外編など

Marry Me 4

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 総真が驚いたような顔で雅臣を見た。長いまつ毛に縁取られた目がぱちぱちと瞬き、呆然と雅臣を映している。
 それを見て、雅臣ははたと我に返った。

「あ、ごめん。そんな簡単に決められることじゃないよな。お前の都合もあるし」

 雅臣は誤魔化すようにへらりと笑った。
 とはいえ、結婚自体を総真が嫌がることはないだろうから、それほど失言だとは思っていない。

 二週間に一度くらいの頻度で、総真は雅臣に「結婚しよう」と言ってくる。すごく真剣なプロポーズではなくて、まるで子ども同士が交わす口約束のようなものだ。

 真剣ではないが、きっと嘘でもない。
 総真が本気で結婚したいと思ってくれていることは、雅臣にもわかっていた。というか、番になったときからあれだけ繰り返し言われてわからないはずがない。

 ……のだけれども、固まったままなにも言わない総真に、さすがの雅臣も少し不安になって首を傾げる。

「総真? 嫌なのか?」
「……嫌なわけねぇだろ」

 総真は突然「はああぁ……」と大きなため息をついて、どこか恨めし気な目で雅臣を見てきた。

「いままでスルーしてたくせに、いきなり逆プロポーズしてくんなよな……いや、もちろんうれしいんだけどさ……」
「? なんの話だ?」
「だから……いままで俺が結婚の話しても、興味なさ気だっただろ?」
「そんなことはないと思うけど……」

 総真から結婚の話をされたときは、全部好意的な返事をしているはずだ。
 そもそも雅臣も嫌じゃないのだから、そんな変な返事なんてするわけがない。

 しかし、総真はなおも胡乱な目をしている。

「そんなことあるだろ。俺が結婚しようって言っても、『いいね』とか『落ち着いたらな』とかの一言で話が終わってたんだから」
「それ別に嫌がってないだろ……お前だって『落ち着いたら結婚しよう』って時々言ってたし……」

 しかしまあ、確かにいつも結婚の話はそこで終わっていたような気もする。
 いつ結婚しても良いと思っていたからこそ、だろうか。一週間後でも、一年後でも、三年後でも、相手が総真なら雅臣はそれでよかった。
 さすがにまた十年後……と言われたら嫌かもしれないが。

 雅臣が「うーん……」と考え込んでいたところで、「ま、嫌がってないならなんでもいいけど」と言って総真が笑う。
 それに対し、雅臣も微かに苦笑しながら口を開いた。

「嫌なわけないだろ。俺だってお前のことちゃんと──……」
「ちゃんと?」
「…………ちゃんと、好き、というか……愛してる、というか……」
「『というか』はいらねぇだろ」

 咎めるように言われ、雅臣は一瞬言葉に詰まる。
 揶揄うように弧を描いた総真の目を憎らしく思いながら、雅臣は再びおずおずと言葉を紡いだ。

「……好きだよ。愛してる」

 その瞬間、総真の目がとろりととけるように細められ、美しい顔にうっとりとした笑みが浮かべられた。
 総真の指先がするりと雅臣の頬を撫で、そっと啄むようにキスをされる。

「俺も愛してる」
「……うん」
「照れてんのすげぇかわいい」
「別に照れてない……」

 とは言いつつも、顔に熱が集まっていく自覚は雅臣にもあった。
 もっと恥ずかしいこともしている仲なのに、好きだの愛してるだのと言い合うのが未だに恥ずかしい。
 雅臣としては平然としている総真が不思議なくらいだ。ある種、生まれ持った才能なのかもしれない。

「というか、なんで来年の春?」
「んー……準備とかにも結構時間かかるだろうし、そのぐらいの時期がちょうどいいかなって。お前がもっと先がいいって言うなら、三年後とかでもいいけど」
「そんな待てねぇよ」

 頬を撫でていた総真の指先が、ふいにチョーカーに覆われた雅臣の項をなぞる。
 消えない傷痕がじんと疼いた気がして、雅臣はわずかに身じろいだ。

「総真……」
「来年の春、結婚しよう」
「……うん」
「チャペルで挙式もいいけど、神社で神前式つうのも憧れるよな……お前はどっちがいい?」
「うーん…………んっ、ちょっと……」
「なに? どっちがいい?」

 シャツ越しの雅臣の肌に手を這わせながら、総真がわざとらしく首を傾げる。
 雅臣はじとりとした目で総真を睨んだが、シャツのボタンを外しはじめたその手を振り払おうとはしなかった。
 上半身を滑るように撫でる手のひらの感触に鼓動が早くなるのを感じながら、雅臣は身を捩って総真から目を逸らす。

「……お前が相手なら、なんだっていいよ」

 他人任せにするな、と言われてしまうかもしれないが、雅臣の本心だった。
 総真は楽しげに笑う。

「お前、なんだかんだ俺に甘いよな」
「……お前には言われたくない」
「そりゃそうだろ。こっちはガキの頃からずーっと好きだったんだから」

 そう言って、再び総真は雅臣の唇に口付けてきた。
 背中を支えながらゆっくりとソファに押し倒され、雅臣は惚けた顔で総真を見上げる。

「総真……」
「俺の番。俺のオメガ。……来年の春には俺のかわいい奥さんにもなるわけだ」

 雅臣の上に覆いかぶさった総真は至極うれしそうに微笑み、するりと目を細めた。
 欲情を隠そうとしないその瞳にぞくりとしつつ、雅臣はゆっくりと瞼を落とす。そして、またすぐに重ねられた唇の甘さに酔いしれながら、愛しい番に身を委ねた。


 (終)
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