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28.望まないお迎え
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「え、えーと……。ウィルフレッド様が、何故ここに?」
僕がギターを抱えたまま尋ねると、ウィルフレッドは眉間に皺を寄せた。
「その様子だと、手紙を開けてすらいないようだな。話があるから寮で待つように書いたのに、君は寮に顔を出しすらしない。家に帰ったのかと館を訪ねても帰って来ていないというから、心配して街を歩いてみれば、酒場から聞き覚えのある歌声が響き渡って来たのでね」
えええ、まじか。家にまで行ったの!?
ていうか、そこまでして話したい話ってなに!?普通に怖いし、聞きたくないんですけど。
でもまあ、心配をかけてしまったのは事実だ。こんな夜更けに田舎の町を探させてしまって、申し訳ないと思わなくもない。
何となく機嫌も悪そうだし、ここでますますウィルフレッドを怒らせることもないだろう。
「えー……それは、スミマセンデシタ」
口先だけで謝ると、ウィルフレッドは目を眇めて僕に手を伸ばした。
そして、腰を掴まれ、そのまま肩に担がれてしまう。
「ええっ!?ちょっ、なにすんですか!」
「君の言い分は君の家でじっくりと聞かせてもらおう。とにかく、帰るんだ」
「横暴!僕はまだかえんない!あなただけで帰って下さいよ!」
僕が足をジタバタさせると、ウィルフレッドは軽く舌打ちをして足まで拘束する。
今、チッて言った!?ウィルフレッドが!?信じられない!
一緒に飲んでた皆も、ウィルフレッドを止めようと加勢してくれる。みんな……!
「おい、兄ちゃん。何があったか知らねぇが、乱暴すぎるんじゃねえか?」
「そうだぞ。その子が何したってんだ。嫌がってんのに無理矢理連れて行こうとするなんて、ありえねぇだろ」
「まさか人さらいじゃないだろうな」
ウィルフレッドは家紋の入った剣の柄を見せると、皆に向かって言った。
「私はこの子と同じ学園の上級生で、グリフィス伯爵家のウィルフレッドという。この子は今日寮に戻らず、家に帰る途中で道草を食って家族を心配させているところだ。彼のご両親とご兄弟からも、見かけたら連れ帰ってほしいと頼まれている」
ええええ、まじ!?ちょっと、ウチの家族!!!!赤の他人に、しかも伯爵家の跡取りになに頼んでくれてんのさ!
僕は目を剥いて驚いたけど、ウィルフレッドの言葉は説得力があったみたいで、周りのみんなも『じゃあしようがない』『家族に心配かけんなよ』みたいな感じで矛を収めてしまった。さすがウィルフレッド!……じゃないよ!
「こんなことされなくても、僕は一人で帰れます!帰りますから、さっさと下ろして下さいよ!」
僕が抗議しても、ウィルフレッドは全然聞く耳持たない。ガッチリ抱え込まれたら、僕はもう自分一人じゃどうしようもなくなる。
「信用できないな。心配しなくても、無事に送り届けるから安心しなさい。どうせ帰るなら、馬の方がずっと早いぞ」
ウィルフレッドが僕のお会計を払ってくれようとしたけど、みんなは今日は俺らのおごりだからと言ってくれた。
「俺らが誘ったんだよ、元気なかったから、ちょっとでも元気づけられねえかなって」
「あんまり怒んないでやってくれよな」
優しい二人は、僕がウィルフレッドや親に酷く叱られないように取り成してくれる。ほんとにやさしい。
ウィルフレッドは頷いて、『ご両親にはちゃんと伝えておこう』と言った。伯爵令息なのに、ほんと高圧的なところが少しもないなあ。
こんな完璧なイイ人なのに、なんで僕のことはこんなに困らせるわけ?
僕はほっといてほしいだけなのに、僕のやろうとすることの邪魔ばかりしようとする。
(いや、それは僕がレニオールの邪魔をしてるからか?でも、だからレニオールが好きならちゃんと自分で幸せにすればいいじゃん!僕みたいな野良猫の首根っこ掴んでる暇があるなら、今すぐレニオールのとこに行けばいいんだよ!)
お酒が入ってるせいか、僕はそんな自分勝手なことを考えて不機嫌になった。
ウィルフレッドに抱えられたまま馬に乗せられて前に抱え込まれても、不貞腐れて一言も口を利かない。
「いつまで拗ねているんだ」
「拗ねてません」
「どう見ても拗ねているだろう」
「拗ねててなんか悪いですか?」
僕は目を据わらせたまま答えた。よくよく考えたら、勝手に手紙送りつけて来て、すぐに読んでないからって僕が悪いことある?二日も三日も放置してたわけじゃあるまいし、僕にだって僕の事情があるんだよ。
せっかくみんなと楽しくしていたところだったのに、邪魔されなきゃいけない意味がわかんない!
「―――――いや、悪くはない。私も、勝手に怒っているからな」
ウィルフレッドの声のトーンが一段階低くなって、僕は身を固くした。
え、なに。逆ギレ?ウィルフレッドって、そういうんじゃないでしょ。
「今日の君に対して怒っているわけじゃない。君がここ数日、アーネスト様と何があったか思い出してみるといい」
アーネストと?学園ではいつもと同じだ。朝会って、昼食を共にする。それぐらい。
今週はデートイベもあったけど、そこらへんは学園外のことだから、ウィルフレッドには知られてないはず。
「アーネスト様と出掛けた君が、アーネスト様を誘惑して関係を持ったと、上級クラスでは大変な噂になっている。それは、真実か?」
僕がギターを抱えたまま尋ねると、ウィルフレッドは眉間に皺を寄せた。
「その様子だと、手紙を開けてすらいないようだな。話があるから寮で待つように書いたのに、君は寮に顔を出しすらしない。家に帰ったのかと館を訪ねても帰って来ていないというから、心配して街を歩いてみれば、酒場から聞き覚えのある歌声が響き渡って来たのでね」
えええ、まじか。家にまで行ったの!?
ていうか、そこまでして話したい話ってなに!?普通に怖いし、聞きたくないんですけど。
でもまあ、心配をかけてしまったのは事実だ。こんな夜更けに田舎の町を探させてしまって、申し訳ないと思わなくもない。
何となく機嫌も悪そうだし、ここでますますウィルフレッドを怒らせることもないだろう。
「えー……それは、スミマセンデシタ」
口先だけで謝ると、ウィルフレッドは目を眇めて僕に手を伸ばした。
そして、腰を掴まれ、そのまま肩に担がれてしまう。
「ええっ!?ちょっ、なにすんですか!」
「君の言い分は君の家でじっくりと聞かせてもらおう。とにかく、帰るんだ」
「横暴!僕はまだかえんない!あなただけで帰って下さいよ!」
僕が足をジタバタさせると、ウィルフレッドは軽く舌打ちをして足まで拘束する。
今、チッて言った!?ウィルフレッドが!?信じられない!
一緒に飲んでた皆も、ウィルフレッドを止めようと加勢してくれる。みんな……!
「おい、兄ちゃん。何があったか知らねぇが、乱暴すぎるんじゃねえか?」
「そうだぞ。その子が何したってんだ。嫌がってんのに無理矢理連れて行こうとするなんて、ありえねぇだろ」
「まさか人さらいじゃないだろうな」
ウィルフレッドは家紋の入った剣の柄を見せると、皆に向かって言った。
「私はこの子と同じ学園の上級生で、グリフィス伯爵家のウィルフレッドという。この子は今日寮に戻らず、家に帰る途中で道草を食って家族を心配させているところだ。彼のご両親とご兄弟からも、見かけたら連れ帰ってほしいと頼まれている」
ええええ、まじ!?ちょっと、ウチの家族!!!!赤の他人に、しかも伯爵家の跡取りになに頼んでくれてんのさ!
僕は目を剥いて驚いたけど、ウィルフレッドの言葉は説得力があったみたいで、周りのみんなも『じゃあしようがない』『家族に心配かけんなよ』みたいな感じで矛を収めてしまった。さすがウィルフレッド!……じゃないよ!
「こんなことされなくても、僕は一人で帰れます!帰りますから、さっさと下ろして下さいよ!」
僕が抗議しても、ウィルフレッドは全然聞く耳持たない。ガッチリ抱え込まれたら、僕はもう自分一人じゃどうしようもなくなる。
「信用できないな。心配しなくても、無事に送り届けるから安心しなさい。どうせ帰るなら、馬の方がずっと早いぞ」
ウィルフレッドが僕のお会計を払ってくれようとしたけど、みんなは今日は俺らのおごりだからと言ってくれた。
「俺らが誘ったんだよ、元気なかったから、ちょっとでも元気づけられねえかなって」
「あんまり怒んないでやってくれよな」
優しい二人は、僕がウィルフレッドや親に酷く叱られないように取り成してくれる。ほんとにやさしい。
ウィルフレッドは頷いて、『ご両親にはちゃんと伝えておこう』と言った。伯爵令息なのに、ほんと高圧的なところが少しもないなあ。
こんな完璧なイイ人なのに、なんで僕のことはこんなに困らせるわけ?
僕はほっといてほしいだけなのに、僕のやろうとすることの邪魔ばかりしようとする。
(いや、それは僕がレニオールの邪魔をしてるからか?でも、だからレニオールが好きならちゃんと自分で幸せにすればいいじゃん!僕みたいな野良猫の首根っこ掴んでる暇があるなら、今すぐレニオールのとこに行けばいいんだよ!)
お酒が入ってるせいか、僕はそんな自分勝手なことを考えて不機嫌になった。
ウィルフレッドに抱えられたまま馬に乗せられて前に抱え込まれても、不貞腐れて一言も口を利かない。
「いつまで拗ねているんだ」
「拗ねてません」
「どう見ても拗ねているだろう」
「拗ねててなんか悪いですか?」
僕は目を据わらせたまま答えた。よくよく考えたら、勝手に手紙送りつけて来て、すぐに読んでないからって僕が悪いことある?二日も三日も放置してたわけじゃあるまいし、僕にだって僕の事情があるんだよ。
せっかくみんなと楽しくしていたところだったのに、邪魔されなきゃいけない意味がわかんない!
「―――――いや、悪くはない。私も、勝手に怒っているからな」
ウィルフレッドの声のトーンが一段階低くなって、僕は身を固くした。
え、なに。逆ギレ?ウィルフレッドって、そういうんじゃないでしょ。
「今日の君に対して怒っているわけじゃない。君がここ数日、アーネスト様と何があったか思い出してみるといい」
アーネストと?学園ではいつもと同じだ。朝会って、昼食を共にする。それぐらい。
今週はデートイベもあったけど、そこらへんは学園外のことだから、ウィルフレッドには知られてないはず。
「アーネスト様と出掛けた君が、アーネスト様を誘惑して関係を持ったと、上級クラスでは大変な噂になっている。それは、真実か?」
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