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―――結局あの子は、卒業式の日に引越しをすることになった。
卒業式は出れるらしいよと、あっさりとあの子は幼馴染に笑って告げた。
特に出たいという訳でもないらしい。
幼馴染も、寂しそうにしつつもあっさりとした態度でそうかとだけ言った。
これが二人の距離感なのだろう。
物理的な距離は近いと感じる程だが、精神的距離はそう近くない。
だからといってドライかと言われれば、そうではなかった。
元々他人に関して興味が無い二人なのに、そんな二人が互いに興味を持つこと自体が特別だというより他にないのだから。
「寂しいか?」
「それなりに。」
淡々とした会話。
それを聞きながら、俺は内心焦っていた。
幼馴染はきっとこれから先何年経とうとも、それこそ死ぬまであの子の記憶に残るだろう。
けれど俺はどうだ?
仮に今後両親の後を継ぐだろう幼馴染の部下として働くようになったとしても、あの子の記憶には全くと言っていい程に残らないだろう。
分かっていた筈なのに、俺は今更ながらにその事実が恐ろしいと思ってしまった。
「好きなんだ。君のことが、異性として。」
あの子の記憶に残りたい。
あの子に俺という存在を残したい。
その焦りのまま、俺はその日の放課後にあの子から時間を貰い、思いの丈を全て告白をした。
「あのさ、それは違うと思う。」
しかしあの子から得た返答は拒絶でも拒否でもなく、まさかの否定だった。
違う、とはどういうことだ?
付き合って欲しいという訳じゃない。
それは高望みだと分かってる。
でも、俺は確かにあの子のことが好きだって気持ちは何も違わないのに………!
「君はさ、顔良いよね。私も正直そう思うよ。頭も良いしスポーツ万能だしスタイルも良いし………あ、後すっごいモテるよね。」
無様に泣いて縋りそうな衝動を必死に耐えていると、何故かあの子は俺を褒め殺ししてきた。
あの子から見ても俺は顔が良いと思ってくれてるのか。
好みか好みじゃないかは別にして、俺の見目は良いと、思ってくれていたのか!
「だから、今まで私以外の女子は誰だって君を好いていたよね。」
単純に喜ぶ俺に、彼女はいつもの淡々とした表情でそう言った。
それが絶望への入り口だと、俺は理解した。
して、しまった。
だってそれは、まぎれもなく俺があの子に話かける切欠だった。
俺じゃなくて、幼馴染を優先する唯一の人。
だから―――
「だから、物珍しかったんでしょ?まぁ分かっても、ちーっとグラっときちゃったから顔が良いって得だねー。」
ケラケラと笑いながら、俺を褒める。
グラっときたならば、俺の告白を受けてくれてもいいじゃないか。
理不尽な感情に振り回されながら、俺はただ黙って俯くことしか出来なかった。
「ま、本命の子が出来たらその勢いで言ったら良いさ。」
まるで俺を慰めるように肩を軽く叩き、あの子は困ったように笑った。
本命、だなんて。
俺にとっての本命は、君だけなのに!
「最初は、最初はそうだった!でも、でも………!」
今更何を言っても、切欠が切欠な以上言い訳でしかないかもしれない。
それでも俺は俺なりに本気だった。
それだけは信じて欲しかったから、必死に言葉を紡ごうとしたのだが―――
「うんうん。話それだけ?じゃあ、帰るね。………あ!」
俺の話をそう遮り、あの子はあっさりと踵を返した。
しかし、何かを思い出したかのような小さな声を上げると、何故か俺の方へと戻って来てくれた。
どうしたんだろう。
死体蹴りでもするつもりか?
「あのさ、連絡先教えてくれないかい?」
「………え?」
「いや、こんな状況で聞くのもなんだが、なんだかんだで彼の様子が気になるんだよ。でもほら、アレも素直じゃないから教えてくれないだろう?」
頬を掻きながら、あの子はそう言った。
こんな時にも、幼馴染のことなのか。
悔しい。
もう俺の告白なんて、あの子の中では無かったこと、或いは無かったことにしたいようなことなんだなと思うと悔しいし悲しい。
―――だけど、これはチャンスなのではないか?
ふと、俺の頭に悪魔の囁きが響く。
そうだ。
これはチャンスだ。
本来ならば俺はあの子から連絡先を聞く権利すら与えられなかった筈の存在だ。
だが今あの子の方から俺に大義名分を与えてくれた。
しかも幼馴染をダシにすれば毎日連絡を取れる!
そう思った俺は必死に頷き、そんな俺にあの子は安堵したような息を一つ吐いて笑った。
「ありがとう、嬉しいよ。」
ふわりと笑う。
あの子の顔はけして美しいとも可愛いとも言えない、至って平凡な顔だ。
それでもいつだって俺にとっては、世界で一番可愛い顔だった。
卒業式は出れるらしいよと、あっさりとあの子は幼馴染に笑って告げた。
特に出たいという訳でもないらしい。
幼馴染も、寂しそうにしつつもあっさりとした態度でそうかとだけ言った。
これが二人の距離感なのだろう。
物理的な距離は近いと感じる程だが、精神的距離はそう近くない。
だからといってドライかと言われれば、そうではなかった。
元々他人に関して興味が無い二人なのに、そんな二人が互いに興味を持つこと自体が特別だというより他にないのだから。
「寂しいか?」
「それなりに。」
淡々とした会話。
それを聞きながら、俺は内心焦っていた。
幼馴染はきっとこれから先何年経とうとも、それこそ死ぬまであの子の記憶に残るだろう。
けれど俺はどうだ?
仮に今後両親の後を継ぐだろう幼馴染の部下として働くようになったとしても、あの子の記憶には全くと言っていい程に残らないだろう。
分かっていた筈なのに、俺は今更ながらにその事実が恐ろしいと思ってしまった。
「好きなんだ。君のことが、異性として。」
あの子の記憶に残りたい。
あの子に俺という存在を残したい。
その焦りのまま、俺はその日の放課後にあの子から時間を貰い、思いの丈を全て告白をした。
「あのさ、それは違うと思う。」
しかしあの子から得た返答は拒絶でも拒否でもなく、まさかの否定だった。
違う、とはどういうことだ?
付き合って欲しいという訳じゃない。
それは高望みだと分かってる。
でも、俺は確かにあの子のことが好きだって気持ちは何も違わないのに………!
「君はさ、顔良いよね。私も正直そう思うよ。頭も良いしスポーツ万能だしスタイルも良いし………あ、後すっごいモテるよね。」
無様に泣いて縋りそうな衝動を必死に耐えていると、何故かあの子は俺を褒め殺ししてきた。
あの子から見ても俺は顔が良いと思ってくれてるのか。
好みか好みじゃないかは別にして、俺の見目は良いと、思ってくれていたのか!
「だから、今まで私以外の女子は誰だって君を好いていたよね。」
単純に喜ぶ俺に、彼女はいつもの淡々とした表情でそう言った。
それが絶望への入り口だと、俺は理解した。
して、しまった。
だってそれは、まぎれもなく俺があの子に話かける切欠だった。
俺じゃなくて、幼馴染を優先する唯一の人。
だから―――
「だから、物珍しかったんでしょ?まぁ分かっても、ちーっとグラっときちゃったから顔が良いって得だねー。」
ケラケラと笑いながら、俺を褒める。
グラっときたならば、俺の告白を受けてくれてもいいじゃないか。
理不尽な感情に振り回されながら、俺はただ黙って俯くことしか出来なかった。
「ま、本命の子が出来たらその勢いで言ったら良いさ。」
まるで俺を慰めるように肩を軽く叩き、あの子は困ったように笑った。
本命、だなんて。
俺にとっての本命は、君だけなのに!
「最初は、最初はそうだった!でも、でも………!」
今更何を言っても、切欠が切欠な以上言い訳でしかないかもしれない。
それでも俺は俺なりに本気だった。
それだけは信じて欲しかったから、必死に言葉を紡ごうとしたのだが―――
「うんうん。話それだけ?じゃあ、帰るね。………あ!」
俺の話をそう遮り、あの子はあっさりと踵を返した。
しかし、何かを思い出したかのような小さな声を上げると、何故か俺の方へと戻って来てくれた。
どうしたんだろう。
死体蹴りでもするつもりか?
「あのさ、連絡先教えてくれないかい?」
「………え?」
「いや、こんな状況で聞くのもなんだが、なんだかんだで彼の様子が気になるんだよ。でもほら、アレも素直じゃないから教えてくれないだろう?」
頬を掻きながら、あの子はそう言った。
こんな時にも、幼馴染のことなのか。
悔しい。
もう俺の告白なんて、あの子の中では無かったこと、或いは無かったことにしたいようなことなんだなと思うと悔しいし悲しい。
―――だけど、これはチャンスなのではないか?
ふと、俺の頭に悪魔の囁きが響く。
そうだ。
これはチャンスだ。
本来ならば俺はあの子から連絡先を聞く権利すら与えられなかった筈の存在だ。
だが今あの子の方から俺に大義名分を与えてくれた。
しかも幼馴染をダシにすれば毎日連絡を取れる!
そう思った俺は必死に頷き、そんな俺にあの子は安堵したような息を一つ吐いて笑った。
「ありがとう、嬉しいよ。」
ふわりと笑う。
あの子の顔はけして美しいとも可愛いとも言えない、至って平凡な顔だ。
それでもいつだって俺にとっては、世界で一番可愛い顔だった。
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