勝ち組ブスオメガの奇妙な運命

かかし

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―――たぬ坊ちゃんが見合いするらしい。

祖父自身断る気満々だったらしく、まだ日取りは決まってないから暫し待てと言われてかれこれ三日。
あっという間にそんな噂が広がったかと思えば、気が付けば家中が慌ただしくというかなんだかとっても物々しい雰囲気なっていた。
あ、ちなみに【たぬ坊ちゃん】って俺のことな。
たぬきみたいな次男坊って意味なんだろうとは思う。
まんまだね。

「坊ちゃん、ご結婚されるんですか?」

ある日いつものように剪定の作業の手伝いをしていると、俺とそこそこ仲良くしてくれてる(と、俺が勝手にそう思ってる)幼馴染の庭師の青年がちょっと聞きにくそうにそう聞いてきた。
彼はαと勘違いしてしまいそうな程に美しく、そして庭師という肉体労働で鍛えられた逞しい身体をしていて、学生の頃からフィメールβのみならずΩやフィメールαからもかなりモテていたのに、彼はいつも俺の傍に居てくれた。
彼は代々俺の家で庭師をしている家の子だ。
そんな家の事情があるにしても、こうして俺の役立たずなお手伝いを文句言わないどころか微笑んで受け入れてる優しい人だ。

そっか。
俺みたいな行き遅れΩだと世間一般ではお見合い=そのまま結婚の流れだよな。
俺も祖父もめっちゃ断る気満々だったから、その発想無かったわ。

「しませんよ。お見合いって言っても、俺も………多分先方も乗り気じゃないし。」
「ですが、お見合いを持ち出したのは先方ですよね?」

ちょっとムッとした顔で、青年はそう言った。
思わず苦笑してしまうのは、彼がこういう表情をするのは俺の為に怒ってくれてるからだと分かっているからだ。
俺は本当に運の良いΩだと思う。
こんなにも、優しい人達に囲まれている。

「珍しいもの見たさですよ。」
「バカにしてる!坊ちゃんをなんだと!」
「世間はそういうものですよ。良いの、家族や君達が俺のことを分かってくれればそれで。」
「そっ………!………坊ちゃんがそう仰るなら、我慢して差し上げますけど………」

完全に憤慨してしまった青年を宥める為にそう言えば納得いかないといわんばかりの顔はしたまま、けれども黙って剪定作業に戻ってくれた。
ありがとう。
若干上から目線感がある言い方なのが気になるけど、取り敢えずお仕事しようね。
俺と違って本職でしょ、君。

「でもお相手の方が坊ちゃんを気に入ったらどうするんです?」

ショキショキと小気味良い音を響かせて植木を整えながら、青年はそう言った。
なんだそれ。
夢物語が過ぎるし、もしもそんなことがあるなら眼科か精神科をお勧めする。

「坊ちゃんがお相手を気にいるかもしれない。それに………」
「それに?」
「運命の番って、やつかもしれない。」

青年が言った言葉に、俺は思わず手を止めてしまった。
―――運命の番
それはもはや都市伝説を通り越して御伽話でしかない存在。
なんでも魂レベルで惹かれ合うαとΩのことで、その間に生まれた子供は完成されたαやΩになるという。
居たなんて実話はどこにもないけど、話だけは存在している。
そんな夢物語だ。

「あ………アホくさ。そんなの信じてるの?」
「信じてるか信じてないかで言ったら全然信じてません。ですが、もしもの話ですよ。」

ジッと真剣な顔をして、青年はそう言った。
それ、信じてるっていうんじゃないの?と思うけど、あまりにも真剣だから言葉を飲み込んでその【if】を考えてみることにする。
もしも、もしも運命の番だとして。
それなら―――

「怖い、かな。」
「怖い、ですか。」

そう、怖い。
その一言に尽きる。
だってそうだろう?
ただでさえ【本能的】な行動が多いΩが、ますます【本能的】になるんだ。
そんなの、ただのケモノじゃないか。

「俺は人間でいたいよ。」

ポツリと呟けば、思ったよりも重さがあった。
こんな重い雰囲気にするつもりなかったのに、なんか申し訳ないな………。
謝ろうと思って顔を上げようとした瞬間、青年がそっと俺の頬を撫でた。

「ごめんなさい。そんな顔をさせたい訳ではなかったんです。」

整えられた眉を困ったように寄せながら、彼は俺にそう言った。
おおぅ………モテ男、こあい。
こんなん惚れてまうやろー。
俺がきちんと弁えてるブスで良かったな。

「大丈夫。俺の方こそ雰囲気悪くしてごめんね。」

俺の方からも青年をよしよしと撫でてやりながら、なるべく優しい笑顔とやらになるように心がけながら笑う。
ま、俺がやっても歯を見せて威嚇するたぬきみたいにしか見えないんだろうけど。
でも青年的には及第点だったらしく、俺のガサガサな手にその潤いたっぷりモチモチほっぺを懐かせてきた。
子犬みたいで可愛いな。

「………坊ちゃんと、ずっと一緒に居れたら良いのに。」

青年の言葉に、俺は苦笑しか返せなかった。
ずっと一緒にこうして話したいとは思う。
けど彼はメールβだ。
しかもとびきり美しい、が頭につく程の。
いずれ彼に相応しい美しいフィメールβとお付き合いして、そして結婚して家庭を築くのだろう。
俺はよく分からないけど、庭師の親方曰く才能があるらしいのでその内独立とかしちゃうかもしれない!
運だけで乗り切ってきた俺とは違って、青年には選択肢も明るい未来もある。
それなのにいつまでもこんなポンコツメールΩに構ってなんかいたら、青年の彼女(仮)も不快に思ってしまうだろう。

だから俺は何も言わない、返さない。
それが一番正しいことだと、俺は知っているからだ。

そしてそんな俺の思考を理解しているから、彼は悲しそうな顔をしながら見つめてくる。
ほんと、180は軽く超えてる高身長のクセに、子犬みたいな仕草が似合うのずっるい。
あと、かなり汗だくなのに凄い爽やかなシトラスの香りがするのもズルい。
イイオトコ特典か?

「坊ちゃんはズルいです。」
「俺は君の方がズルいと思いますよ。」

ぎゅっと抱き締められたので、彼の固くて分厚い胸板にうりうりと頭を擦り付けてやる。
擽ったいからだろうか、何故か彼は昔からこうするととても喜ぶのだ。
そんな可愛い単純さもズルいと思います。

「ほら、お仕事しましょう?」
「はい。」

ぽんぽんと背中を叩いて宥めるように言えば、いい子のお返事と共にすんなりと身体が離れる。
さっきまであった温もりが離れてしまうってのはちょっと寂しいなと思うのは、俺のワガママだ。
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