ウソツキは権利だけは欲する

かかし

文字の大きさ
23 / 74
二ヶ月目

毛布ふみふみする猫かよ。

しおりを挟む
「………お、お邪魔します!」
「おう。」

来たる土曜日。
正直俺も康介も、初めて俺の家に招いた時よりも緊張しているのかもしれない。
取り敢えず歯ブラシとか下着とか買ったけど、それで足りるか?
荷物を持って来てるみたいではあるが………。
てかそれお泊りセットなんだよな?
期待して良いんだよな?

「耀司くん、耀司くん。」
「ん?」

ちょっと緊張した面持ちの康介が、俺の名前を呼びながら袖を引っ張る。
屈めの合図だ。
要望通り少し身体を傾けてやれば、慣れた様子で康介が背伸びをして俺の頬にキスをしてくる。
は?
あざとすぎないか?
可愛いんだが?

「今日お泊りするから、よろしくね。」
「………おう。」

照れ笑いを浮かべる康介に、顔がにやけてしまうのが止められない。
まだ玄関だというのに、暫くの間互いにキスをしてはケラケラと笑い合った。
結局満足してリビングに行ったのは三十分程じゃれ合ってからで。
こんなバカップルなイチャつき方、自分にはほんと縁が無いと思ってたんだけどな。
康介相手だと、いつまででもできる気がする。

「映画観て良い?」
「良いぞ。好きなの選べ。」

いそいそと我が物顔でソファベッドを準備しながらそう聞いてくるので、俺も俺で昼寝用に買った大人の男二人でも余裕で包まれるブランケットを用意しながら答える。
この間買ったDVDも並べてるから、探し甲斐もあるだろう。

「んー………耀司くんも一緒に探そう?」

DVDやBlu-rayを並べている棚に背を向けて、康介が俺に向かって腕を広げる。
なんか今日めっちゃ甘えてくるじゃねぇか、可愛い。
少し近寄って広げられた腕を取って逆にこっちに引き寄せてみれば、何の抵抗もなくすっぽりと収まって俺の首筋に顔を埋めた。
好きだよな、それ。

「俺も?」
「うん。耀司くんのオススメ観たい。」

康介を支えながら胡座をかけば、至極当然といった感じで康介が体制を変えて胡座の上に乗ってくる。
猫みたいで可愛いな、マジで。
しかしオススメなぁ………
基本面白くなかったやつは売ってるから、残ってるやつはそういう意味じゃオススメになる訳だし………

「ああ、これどうだ?」

手に取ったのは映画じゃなくて、連続ドラマになった小説のドラマスペシャルのDVDだ。
尺が長いスペシャルならではって感じで、より原作重視な重苦しい雰囲気の内容と人間模様等が個人的にはお気に入りだった。

「ドラマのやつだ。」
「そ。ドラマ面白かったから小説買って、で、これが放送された時も観て………ぶっちゃげ泣いた。」

因みに未だにこのドラマ観て泣いてる。
感動モノじゃないし、お涙頂戴モノでもない。
ただ、だからこそ、純粋に登場人物の気持ちに引き込まれて泣けたんだ。

「耀司くんもドラマ観て泣くのか………」
「たまにはな。で?どうする?」

俺の事なんだと思ってんだと思わなくもないが、まぁ確かに感動モノやお涙頂戴モノを見ると欠伸が出るか鼻で笑うかのどっちかだしな。
涙が出るとしたら、欠伸による生理的なやつだ。
映画にしてもドラマにしても、泣けるやつは結構珍しいかも。

「お前はボロボロ泣いてそう。」
「んっ、分かんないよ?」

案外もちもちしている頬を甘噛みしながらそう言えば、康介はちょっと不服そうな顔をして俺の顎を噛み返した。
意趣返しのつもりか?可愛い。
顔届かなくて顎を辛うじてなのが尚更可愛い。

「ソファ行く?」
「あー………」

どうすっかなぁ………ソファで昼寝しても良いけど、このまま康介を抱いたまんまも良いよな………
抱き心地良いんだよ、コイツ。
あと噛み心地もいい。

「このまま。」
「大丈夫?足痺れない?」
「そこまでヤワじゃねぇよ。ま、辛くなったらソファ行こうぜ。」

結局膝の上に乗せたまま、気が付けば康介が握りしめていたリモコンを操作することに決めた。
とはいえ角度と距離が良くないから、横着して康介を膝に乗せたままケツを擦るようにソファの前まで動く。
動きにくいが、ちゃんとテレビから距離は取れたな。

「近くねぇ?見にくくねぇ?」
「平気!耀司くんは?」
「平気。ほら、じっとしてろ。」

ソファからブランケットを引き寄せて、康介ごと包まる。
うん、ふわふわ。
洗濯したとはいえ買ったばかりで今日初めて下ろしたから康介が気にいるか不安だったが、どうやら気に入ったらしく楽しそうにブランケットの手触りを確かめている。
毛布ふみふみする猫かよ。

「気に入ったか?」
「うん。気持ち良いしあったかい。」

嬉しそうに笑う康介の頬にキスをしながら、俺はプレイヤーを起動させた。
すぐに康介の視線が画面に取られてしまうのは少し寂しかったが、それでも俺も俺で、ドラマを象徴するあのテーマ曲が流れるとそっちに集中してしまったのだけど。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

ショコラとレモネード

鈴川真白
BL
幼なじみの拗らせラブ クールな幼なじみ × 不器用な鈍感男子

流れる星、どうかお願い

ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる) オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年 高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼 そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ ”要が幸せになりますように” オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ 王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに! 一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが お付き合いください!

黒獅子の愛でる花

なこ
BL
レノアール伯爵家次男のサフィアは、伯爵家の中でもとりわけ浮いた存在だ。 中性的で神秘的なその美しさには、誰しもが息を呑んだ。 深い碧眼はどこか憂いを帯びており、見る者を惑わすと言う。 サフィアは密かに、幼馴染の侯爵家三男リヒトと将来を誓い合っていた。 しかし、その誓いを信じて疑うこともなかったサフィアとは裏腹に、リヒトは公爵家へ婿入りしてしまう。 毎日のように愛を囁き続けてきたリヒトの裏切り行為に、サフィアは困惑する。  そんなある日、複雑な想いを抱えて過ごすサフィアの元に、幼い王太子の世話係を打診する知らせが届く。 王太子は、黒獅子と呼ばれ、前国王を王座から引きずり降ろした現王と、その幼馴染である王妃との一人息子だ。 王妃は現在、病で療養中だという。 幼い王太子と、黒獅子の王、王妃の住まう王城で、サフィアはこれまで知ることのなかった様々な感情と直面する。 サフィアと黒獅子の王ライは、二人を取り巻く愛憎の渦に巻き込まれながらも、密かにゆっくりと心を通わせていくが…

人生はままならない

野埜乃のの
BL
「おまえとは番にならない」 結婚して迎えた初夜。彼はそう僕にそう告げた。 異世界オメガバース ツイノベです

冬は寒いから

青埜澄
BL
誰かの一番になれなくても、そばにいたいと思ってしまう。 片想いのまま時間だけが過ぎていく冬。 そんな僕の前に現れたのは、誰よりも強引で、優しい人だった。 「二番目でもいいから、好きになって」 忘れたふりをしていた気持ちが、少しずつ溶けていく。 冬のラブストーリー。 『主な登場人物』 橋平司 九条冬馬 浜本浩二 ※すみません、最初アップしていたものをもう一度加筆修正しアップしなおしました。大まかなストーリー、登場人物は変更ありません。

処理中です...