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エネミースレイヤーズ

2-25「美百合を返せぇぇぇぇぇっ!!」

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   世   界   が   停   止   し   た

 僕は魔獣と美百合達の間に浮いている【ファイヤーボム+3】をキャッチすると、飛び退いた格好で空中に浮いている魔獣へ方向転換をした。

 実はこの【ファイヤーボム+3】は攻撃の意志を持って投げつけていないので爆発はしないのだ。

 しかし自分で投げた物を自分でキャッチするとか相変わらずこのユニークスキルはデタラメだ。これを使えば自分で投げた柱なんかに飛び乗って遠くに移動も出来てしまうかもしれない。

 時の流れが殆ど止まった世界で僕はくだらない事を考えながらも魔獣に迫っていた。そして剣の射程範囲に入った途端に【ライトニングスラッシュ】で切りつける。

 動体視力と回避力に優れる魔獣も流石にこの攻撃を躱したりバリアを張ったりは出来ないようで着実に傷をその体に刻んでいく。

 SPが2割斬った所で普通の斬撃に切り替える。流れる時のプールに逆らいながら僕はひたすら魔獣を切りつけた。

 そろそろスキルの効果が切れる……僕は先程回収した【ファイヤーボム+3】と、【アイテムボックス】に収納されている残り全ての【ファイヤーボム+3】を魔獣の周囲に向かって投げつけた……今度はしっかりと攻撃の意志を持って魔獣に投げつけている。

 爆弾を投げつけた後は【アイテムボックス】から【スティールシールド+3】を取り出して、なるべく魔獣から離れるように後退する。

 ……そして世界が動き出す。

『ゴオオオオオオオオオオオオンッッッッ!!』

 もの凄い轟音と共に爆風が広がってゆく……流石に【ファイヤーボム+3】が同時に4個も爆発するなんて試した事も無かったから、予想以上の大爆発に僕も焦りを隠せない。

 ユニークスキル後の体に掛かる負荷を耐えつつ【スティールシールド+3】で身を守る。岩やらなんやらの破片がシールドにガンガンぶつかって来て、爆風に煽られた体がどんどん後方へ押し出されていく。体を焼くほどの熱風までこちらに届かなかったのが幸いだ。

 爆発の中心部分は煙で覆われていて魔獣がどうなったかを目視する事は出来ない。【サーチ】を使うと反応が消失している……でもまだ討伐のアナウンスが無い……倒せたのか、それとも?

「アイシャ、怪我は無いか?」

 僕は魔獣を警戒しながら二人を確認する。どうやらしっかりと柱の陰に隠れて爆発をやり過ごした。特に打ち合わせもしていないのに安全な場所に移動するなんてさすがはアイシャだ。

「こっちは大丈夫よ……それにしても今のスキルって……」

「まだ倒したかわからない、奴は攻撃を無効化するバリアを張っている間は索敵に引っかからない」

 追求される前に注意喚起をしてとりあえず誤魔化す。あぁ、これしか方法が無かったとは言え何も言い訳を考えていなかった……どうしよう?

 煙が晴れると魔獣がいた場所には何か落ちていた。警戒しながら近づいてみると透明の四角い容器の中に、通常よりも大きな砂時計が入っている……砂時計自体はどういう仕掛けなのか容器の真ん中に浮いている。

 これが二人の言っていた砂時計なのか? 手に取って見てみると時計上部には殆ど砂が無く、もうすぐ全て落ちきってしまいそうだ。

 不思議な事に砂時計を覆う透明の容器の上下をひっくり返しても、容器の中に浮いている砂時計自体は動かない。これでは砂時計としては使えないのじゃ? まぁ、それはともかく僕はそれを【鑑定】してみる。

【ダンジョンコア:ダンジョンの管理権限を得る事ができるデバイス】

 ええっ!? これがこの迷宮のダンジョンコアなのか……前と形が違うよ!? しかも最後の部屋に置いてあるのじゃ無くてボスが所持しているなんて。でも劇場迷宮は普通とは違うって言うし、ここがたまたまって事なのかな? とりあえず使ってみよう。


【ダンジョン:魔獣の城 種類:劇場迷宮 LV:1 ダンジョン経験値:19739】

【■■■ ダンジョンメニュー ■■■】

【ダンジョンの階層を移動:踏破済みの階層へ移動可能】

【ダンジョン環境の変更:環境を変更可能です。特殊な設定には経験値を使います】

【ダンジョンレベルを上げる:ダンジョン経験値を使い、ダンジョンレベルを上げます】

【ダンジョンエネミーのレベルを上げる:ダンジョン経験値を使い、エネミーのレベルを上げます】

【ダンジョン種の変更:ダンジョン経験値を使い、ダンジョンの種類を変更可能です】

【ダンジョンの入り口を封鎖:管理者以外ダンジョンへ入れなくなります、また、飽和したエネミーがダンジョン外に出るのを防ぎます。階層ごとでの設定も可能です】

【ダンジョンを消去する:ダンジョンを消滅させます 二度とダンジョンへ入れなくなりますがエナジーコアを入手できます】


 やっぱり【ダンジョンコア】のようだ……経験値は共通っぽいな。しかしどうしよう? 自分で管理して利用出来るダンジョンが増えるメリットをあまり感じない。わざわざテーマパークの営業時間内に入場料を払ってここへ来るのは不便だもん。

 ダンジョンのレベルを上げてから転移ポイントを設定出来るようにしても、ここへ来る度に1回1回設定し直さないといけないし、それを忘れてしまったら再びここへ来ないといけないのは面倒だよね。

 ここはダンジョンを消去してしまうのが一番良さそうだ。まさか僕等ごといきなり消去されないよね? 他のメニューも毎回確認メッセージが出ていたし……とりあえず【ダンジョンを消去する】を選択する。

【本当にダンジョンを消去しますか? YES or NO】

【注意:二度とこのダンジョンを利用する事が出来なくなります】
【消去を選択すると、ダンジョン内にいる人間は入り口まで転送されます】
【ダンジョンが完全に消去されるまでに外に出ないと共に消去されます】
【消去まではおよそ10分の猶予があります】
【人間以外は入り口に転送されません】
【コア使用者はエナジーコアを入手する事ができます】

 どうやらわざわざ入り口まで戻らなくとも外に出られるようだ。救助者が残っていても外に転送されるなら安心だ。

「どうやらこいつでダンジョンを消去出来るようだ……救助者が残っていても外に出られるらしい。使っても問題ないと思うがどうする?」

 念の為アイシャに確認を取る。彼女はダンジョンを消去する場に立ち会うのは初めてのはず。

「あなたがボスを倒して手に入れた物よ……判断は任せるわ」

「分かった、ここを消去する……」

 美百合は何も言わずに大人しくしている。本当は僕の所に来たいだろうに……もう少し待っていてね。そしてダンジョン消去の【YES】を選択する。

 目の前がホワイトアウトしたかと思うと城の入り口に立っていた。どうやら転送されたのは僕達だけのようで他の救助者は2階までいた人達のみだったようだ。

【ダンジョン消去を開始します。速やかに退避してください。 残り時間:598秒】

「何とかなったな……だが、10分以内にここを出ないとダンジョンもろとも運命を共にする事になる」

「軽い怪我人だけですんで本当に良かったわ……それにしても本当にダンジョンが消えるのかしら?」

 彼女はポーチから少し大きめな銀の懐中時計……【ダンジョンレーダー】を取り出してダンジョンの反応を確認しているようだ。

「ダンジョンの反応が点滅している……ダンジョンが消える瞬間はこんな反応なのね」

 彼女はこの状況に感慨深いものがあるようだ……世界の安全を考えてスレイヤーズになったアイシャなら無理も無いよね。

 それにしてもエナジーコアっていつ手に入るのだろう? 砂時計の砂は残っているけれど関係ないよね? 砂時計から視線を上げるとそこに

「っっ!?」

 咄嗟の不意打ちを僕は避ける事が出来なかった。大きく太い腕でなぎ払われると壁まで飛ばされてしまう。

「きゃあっ!?」

 続けてアイシャの悲鳴が聞こえたかと思うと、僕の近くに歪んだ銀の懐中時計が転がってくる。アイツがなんで生きているんだ!? ダンジョンを消去したはずなのに!? 僕は混乱していたけれど体だけは動き剣を装備して立ち上がっていた。

 僕とアイシャは魔獣の薙ぎ払い攻撃を受けて吹き飛ばされたようだ。そして奴はそのまま美百合を肩に抱え込んだ。必死に暴れているが魔獣の腕はビクともしない。僕は未だに重い体に鞭を打って魔獣に向かって走り出した。

 魔獣も無傷とはいかず先程の戦いで受けたダメージはそのままのようだ。体に不釣り合いな王子服はズタズタに破れて最初は美しかった毛並みもボロボロになっている。

 魔獣はそのまま美百合を抱えて階段を上がろうとしている……このまま美百合がさらわれてしまったらダンジョンと一緒に消えてしまうのか?

 駄目だ!! そんな事絶対に許さないぞ!!

「おにぃっっっ!!」

「美百合を返せぇぇぇぇぇっ!!」

 アイシャは倒れたままだ……気を失っているのかな? 援護は期待出来そうに無い。自分でやるしか無い。僕は自分にバフをかけ魔獣に迫る。魔獣も満身創痍のため先程のような機敏な動きが出来ないようだ。

 僕から逃げられないと悟ると美百合を……意外にもそっと……地面に下ろしてこちらを向いた。

 気に入らないな……お前が僕から大事な妹を奪おうとしているくせに、その態度はまるで僕が魔獣王子様からヴェルヒロインを奪うガリクソン悪役みたいじゃないか? どちらが悪役なのか白黒つけようじゃないか!!



【残り時間:485秒】




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第15回ファンタジー小説大賞にエントリーしました。
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火、木、土(ストックにゆとりがあれば日)の週3~4回更新となります。

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