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漂流編

探索 08

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□□□ マルヴァースの大森林:マルタ □□□



 この惑星に降下して既に4日経過した。大気圏突入の際に搭乗していたプルートは大気圏で空中分解してしまい俺達は戦艦の支援も無しに森を彷徨う事になった。

 ゲーム時代はもちろん、軍にいた時ならば常に艦の索敵マップが表示され、敵の位置も分かり安全に探索が出来た。支援が受けられない場所でも探索ドローンを使って事前に周囲の情報を得る事が出来た……もちろん仲間とはぐれてもマップを見ればすぐに合流出来る。

 だけど現在、俺達の視界には『NO DATA』と表示される四角い枠しか表示されていない。今更ながら支援が無ければ俺達はまともに森を歩く事すら出来なかったのだと気付かされた。

 それでも頑丈な降下ポッドの中で安全に夜を過ごせるし食料も切り詰めればもう1週間は持つと思う。果実などの森の恵みに食用に出来そうなモンスターも見つけているので最悪の事態では無い。
 DSのお陰で本来ならばとんでもない量の荷物を持ち歩かなければならない制約も無く、手に入れた戦利品も両手を塞ぐ事も無く持ち帰る事が出来ている。

 意味の無い仮定だけれど、仮想現実過去の状態でここに放り込まれたら1日でギブアップしている自信がある。



「マルタくん果物も採れたし、近辺のマッピングも終わったって」

「お疲れ様、そろそろポッドの方へ戻ろうか?」

 彼女はエリ、銀髪エルフのイクシア使い……だったんだけれど、現実ここに来てEXTの才能に開花した珍しいパターンの女の子だ。
 この惑星はイクシアの密度? 量? が多すぎるせいか、外から持ち込んだイクシアを利用する武具がまともに動かない。今の所は小型のモンスターしか遭遇していないから何とかなっているけれど、熊などの大型モンスターには彼女のイクシア魔法頼りだ。

 俺のイクシアを使ったロングソードは本来ならば両刃に当たる部分が光をまとい、重さと切れ味が高まるという武器なのだけれど一度の使用で煙を噴いた後、ただの長い棒となってしまった。
 救いなのは盾……イクシアは使えなくとも物理的な盾としては役立つので、今の所俺が敵の攻撃をガード、敵意ヘイトを引きつけている間に後衛がイクシアで攻撃という戦法を取っている。既に2日も過ごしているのでれなりに連携も取れてきたと思う。

 とりあえずマップは何も表示されなくとも基本システムからマッピング自体は手動で出来るので、果実の木の群生地などマーカーを打ちながら降下ポッドの周辺を探索して範囲を広げている。
 すると木の上からスタッと二人の男が降りてくる……身軽な彼等は木の上に生っている果実を取ってきて貰ったのだ。

「まさかこんな高い木に果物が生っているなんて思わなかった」

「本当だよな兄ちゃん、たまたま地面に落ちていたのを見つけてラッキーだったな」

 その黒髪の男達は瓜二つな顔をしている……彼等は兄弟で兄のマサキと弟のカズキ。ゲーム時代でも浪花兄弟と名が知られ、息を合わせたアクロバティックな連係攻撃が有名だ。

「暗くなる前にポッドに戻ろう、続けてで悪いけれど索敵も頼むよ」

「「任せとけよ」」

 彼等は索敵も得意で二人で広範囲を調べながら進めるからもの凄く助かっている。困難な状況と言う事もあって非常に協力的だ……彼等と一緒のポッドで本当に良かったと思う。

 周囲の探索と食糧の確保を終えた俺達はポッドに向かって歩き出す。マサキとカズキは既に先行してくれている。

「マルタくん、みんなは無事なのかな? また帰れるのかな?」

「俺達が何とかなんているんだ、みんなもきっと無事だよ」

 仲間は無事だと思うけれど戦艦の無い今戻る事は難しいと思う……思うけれどそれを彼女に言う勇気は無かった。
 すると前方から慌ててマサキとカズキが戻ってくる。一体どうしたんだ?

「まずい、やばいのはこの先にいる……どういうわけかこっちに一直線だ」

「亀の甲羅を背負った象……3メートルくらいのデカさで5体いた」

 今まで遭遇した事の無い巨大なモンスターか……イクシアの使えない今はあまりリスクを負いたくないな。

「迂回して戦闘を回避できないか?」

「駄目だ、かなり前からこっちを見つけているっぽい」

「戻る時も迂回してきたのに、こっちに一直線に向かって来てる」

「えぇ、なんで!? わたし達何もしてないよ!?」

 遠くからこちらを捕捉出来る理由は分からないけれど何かしらモンスターの敵意を引くトリガーがあったのだろうか?

「もしかしてさっきの果物を……縄張りを荒らして奴らの食べ物を奪ったからか?」

「原因は何であれ交戦が避けられない今、戦うしか無いな……いつも通りのポジションで行こう」

 俺はいつも通り前衛を受け持つ……敵を挑発して敵意を引きつけ、隙を見て浪花兄弟が攻撃、エリがイクシア魔法をぶつけるのがパターンだ。ズンズン地響きが聞こえてくる……メキメキ聞こえるのは木をなぎ倒している音か? どうやらかなり興奮しているようだ。

 やがてモンスターが姿を現した。

 「さあ、こっちだ!! 来い化け物!! 【シールドハウリング】」

 俺は盾を掲げるとギーーーーンッと盾が耳障りな音を立てる。狙い通り奴らはこちらに狙いを定めて襲ってくる。力がありそうだから馬鹿正直に相手をするのは得策じゃ無いな。

 甲羅を背負った象……面倒だから象亀とでも呼んでおこう……は、こちらに向かってその長い鼻を振り回してくるとそれを盾で受け流した。自分よりも小さな生き物に攻撃をいなされパオーーーンっと怒りの雄叫びをあげた。

 隣から2体目の鼻が飛んでくると、それはバックダッシュで躱す。再び1体目が鼻の両脇から突き出されている牙をこちらに向けて突撃してくるが、回り込んで躱すと甲羅で覆われたその横っ腹を剣で攻撃する。

 俺の剣はガツンっと堅い音を立てて弾かれダメージを与えられなかったが、敵意は継続して取れているようで、大きな体を一生懸命こちらに向き直そうとしているようだ。

「くそっ、俺達の攻撃も通らない!!」

「兄ちゃん!! 俺も駄目だ!!」

 浪花兄弟も敵の攻撃を紙一重で回避しながら攻撃するが、堅い装甲に苦戦している。

 そして俺には3体目、4体目が突っ込んでくる……あまり連携の無い攻撃だから何とかなっているけれど、これが長い時間続くと厳しいかも知れないな。そろそろエリの魔法が準備出来ると思うけれど。

 そう思った矢先、最初のこちらへ振り返った象亀の体を吹雪が包み込み、その勢いは隣にいる2体目も巻き込んだ。体の所々が凍り付いている……しかし、凍ったのは表面だけのようですぐに氷は砕け落ちてしまった。

「暑い所に住んでいそうな奴だから寒さに弱いかもと思ったんだけど……こっちだ!!【シールドハウリング】」

 エリに敵意が向かないよう再び敵を挑発すると、敵の攻撃がこちらに集中してきた。3連続で鼻を盾で弾くと4体目の角を間一髪で回避した……危ない、そう長い間持たないかもしれない。

「敵から離れて!!」

 エリの声が共に皆は敵から離れる。その瞬間に敵の体が白く光ると遅れて轟音が辺りに鳴り響いた……これは雷の魔法だろう。辺りに焦げ臭い匂いが漂ってくるが、依然動きは止まっていない。

「そんな、魔法が効かないの!?」

 ショックを隠しきれないエリの声が聞こえた……俺は再び盾を掲げて敵意を引きつける。

「諦めるな!! しっかりと敵を引きつけるから落ち着いて魔法を撃ち続けてくれ!!」

 エリを励ましたものの俺の心にも焦りが出てくる。いくら魔法を撃っても全く効かない相手なのだろうか? 一瞬思考が逸れたせいか死角からしなった鼻が飛んできた。攻撃に気付くのが遅れそれは俺の背中を強打した。

「うがっ!?」

「「「マルタ」」くん!?」

「大丈夫だ、攻撃を続けろ!!」

 やせ我慢をしながら回復メモリをボディアーマーにセットすると体内に循環する。元々タンクって訳じゃ無いからランカーのアーサーみたいに上手くいかないな。
 体の痛みはすぐに引いた……最悪、俺が引きつけてみんなを逃がすしか無いか?

 絶望的な気分を味わいながらも盾を掲げて敵意を引きつける。だが、今までは順番に攻撃してきた象亀は味方の攻撃が当たるのもお構いなしで3方向から一気に攻めてくる……これは駄目か!?

 俺は少しでも受ける面積を狭めようと盾を上に構えてその場に屈んだ。どういうわけかいつまで経っても敵の攻撃は落ちてこない……と思ったら、俺の側に落ちてきた。

 それは長い象亀の鼻だった。

「待たせたな……ヒーローがやって来たからにはもう大丈夫だ。……なんてな」

 そこには細身の白いボディーアーマー、艶のある白髪の男。長い刀を構えて立っていたその男がゆっくりとこちらを振り返る。

「エイジ!?」

「「エイジ!? EXTの!?」」

「エイジくん!!」

 エイジは俺に何か投げつけてくる……これは、エイジが持っているのと同じ刀。

日本刀ジゴロウなんてイクシアの使えないマニアックな武器をよく持っているな」

「おかしいか?」

「いや、最高だよ」

 今だ巨大な敵に囲まれている状況なのに驚くほど軽口が出る……それはまるでこの星に墜ちてから消えつつある俺の希望が再び芽吹いたかのようだった。

 エイジが刀を勢いよく振り下ろすと付着した血を払い落とされる。
 そしてニヤリと不敵に笑うと……



「そんじゃ、反撃開始と行きますか」



 ……反撃の狼煙を上げるのだった。



______________________________________

マルタは普通of普通なキャラなので極力特徴を出さないようにしているのです。
とりあえずモブ視点で主人公の救援シーンをやってみました。


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それを励みにより一層、頑張ります。
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