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満月の夜~始まりの日~
満月の日 第三話 -噂の場所-
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友人も家に帰り、一人、その場に立ち尽くす少年。
少年が我に返ったのはその十数秒後のことだった。
少年は急ぎ足で自宅に戻った。友人と自宅を繋ぐ道は、平坦な一本道で繋がっているため、行き来するのに一分も掛からない。
時は進み、10:50。親が寝ているのを確認し、そっと部屋を出る。
自室から顔を半分だけ覗かせ、周りに人がいないか確認し、さっと素早く部屋から出る。
少年はまるで忍者の如く、廊下の端を歩き、床の軋む音を最大まで軽減しながら玄関へと向かう。
「………(今日は気づかないのか…。いつもならもう気づかれて、布団へ強制送還されるんだが…今日は運が良いな……)」
無事、三和土まで辿り着くと、そっと腰を下ろし、急いで靴を履く。ちょっと行って帰ってくるつもりだったので、普段、学校に行く時に使っているスニーカーを履いた。
少年は、玄関の扉に手を掛け、鍵を開ける。
すると、ガチャッ、という大きな音を立て、鍵が開く。
「(ま、ですよね~)」
案の定、先ほどまで真っ暗だった部屋の一つから、灯りが点る。
そこからはもう、ただ、外へ逃げる事に集中する。一瞬でも見つかれば、その瞬間、11時には間に合わなくなる。少年はドアを勢い良く開け、走り出した。
予め、気付いた瞬間走ると決めていたのでそれほど焦ることはなく目的の場所に向かうことができた。向かう先は勿論、友人の家だ。
「おー?しょうじゃん、どしたの、そんな息切らして。ダッシュしたの?」
少年は、歩いて一分もかからない場所にあるにもかかわらず、息も絶え絶えで辿り着いていた。
「はぁっ…はぁっ…お、お前な……、いや、いい、今しんどい……」
少年は、その場で大きく深呼吸をして、息を整える。外の澄みきった空気は気持ち良くで、最高だ。それを目一杯、体全身で感じる。
「ふぅん、まぁいいけど。よく分かんないけど、もう行けるんだよね?」
「あ、ああ、さっさと行こう。遅くなって親に気づかれたら面倒だろ?さ、もう行こうぜ」
母さん、お願いだからそのまま気づかないでくれよ……。
少年は焦りを感じながら、友人の手を引っ張り、公園へと歩いていった。
「久々だねぇ、二人で来るのもさ~…」
二分ほど歩き、公園についた。昼には近所の小学生で賑わう公園も、夜になれば人ひとりいなくなり、聞こえるのは虫の音のみである。
ひどくこざっぱりとした公園で特に遊具があるわけでもなく、ベンチがあるだけの簡素な作りの公園となっている。強いて目立つのは隣接された集会所とそこで使う道具がしまわれている倉庫があるだけだ。
灯りが少なかったが、暫く外にいたので目が慣れたようだ。
公園に設置された時計を見れば、もう針は11:10を過ぎている。
「ねぇ昇悟、あそこにいるのってさ、もしかして恭介じゃない?あ、さと姉もいるじゃん!」
「あいつらも親に内緒で来てんのかな。まぁいい、いこう」
あいつら…、なんでこんな時間に?そういやあいつら付き合ってるんだっけ、なんか関係あんのかな……。
――でも俺には関係ないもんな。
「あのさー、昇悟?」
「ん、どうした」
「せっかくだしさ、あの二人も誘わない?」
「ええー、めんどくせぇなぁ…。それにデートだったら水差すだけだろ、止めとけよ」
「いいじゃん、友達だし多少の事は気にしないって、多分!ほら、行こうっ!」
彼はそう言いながら、弾む足取りで二人を誘いにいった。
「え……マジかよ……」
「いやー、なんか普通にOKくれたっ!」
そこには少年二人の他に手を絡め合っている二人の姿があった。
すると恭介と呼ばれた少年が口を開いた。
「なぁ昇悟や。あの噂を検証しにいくんだろ?俺らもちょっと気になってたし、お前らが行くんなら俺も付き合うぞ?」
ジーパンを履き、横縞のポロシャツの上から七分丈を羽織った、軽い服装で、いかにもちょっとした外出、といった格好だ。
その顔には余裕の色が窺えた。
「恭介、親はどうした。それにもし本当だったらどうするつもりだ?」
――いや俺も嘘だと思ってるけどな。
腕を前に広げ、ジェスチャーをしながら不安そうなふりをして恭介に尋ねる。
「いやー、怜寧がどーしても今夜デートしたいって言うからさー?親には10分ちょっとで帰ってくるって言ったら普通にいいよー、って言ってくれたぞ。あ、俺お化けとか信じてないから。そーゆーのあんま怖くないす」
「も、もー!違うでしょっ!?昇悟と渡が心配だから、恭介にもついてきてもらったの!」
恭介に訂正を入れているのは、さと姉と呼ばれた少女である。
「はは、ごめんごめん、まぁそういう事だ。女の子を一人で向かわせるのも忍びないしな…」
「もう……ありがとね……」
照れながら笑顔で答える恭介に、怜寧も照れながら返事をする。
「っそ、爆ぜろリア充が……」
皆に背を向け、そっと呟く昇悟の顔は、あからさまに目が引きつっている。
貧乏ゆすりをしポケットに深く手を突っ込み、まさに怒りを体で表す、と言うに相応しい恰好をしている。
――はは…昇悟が恐い……。
「(昇悟、二人には日頃から付き合ってもらってるんだし、楽しくいこうよ~…ね?)」
そっと昇悟の耳元でそう渡が囁く。
―――知らねぇよ、リア充は全員敵だっての……でも渡に余計な心配させるのは後からめんどくさいしな。
「(分かった、渡に免じて今日くらい楽しませてもらうわ、だから心配すんな)」
そう言うと、渡は安心したのか、いつもの笑顔に戻り、皆にこう言った。
「さて、皆さん!」
「わたりん声大きいー…!」
声高らかに三人に言い放つ渡に、怜寧が小声で注意する。
「あ、ごめんごめん…えー、改めまして今夜は…」
「近所の怪奇現象の検証を開始したいと思います…!皆さん、張り切っていきましょう!」
「おー♪」
昇悟は夢を見た。曖昧な夢だ。外的な刺激、感覚から一切隔絶された世界。
そんな世界で恐怖を感じる。その恐怖は、体を切り刻まれた後死にゆくような脱力感を与える。怖い何かがいて必死で逃げているような気がするのに逃げられない。寧ろその距離は縮まっていく。余裕なんてない。狭い空間に逃げ込むとその先は行き止まり。
自分の中の大切な何かを穢そうとするそれに心を撫でられ、『自分』が死んでしまいそうになる。
そんな、もう終わりを悟ったときに守護者は現れるんだ。
「それじゃあ皆さん?準備OK?」
渡が皆に声をかけ、各々心の整理を始めた。時間は11:58、もうすぐだ。
少年が我に返ったのはその十数秒後のことだった。
少年は急ぎ足で自宅に戻った。友人と自宅を繋ぐ道は、平坦な一本道で繋がっているため、行き来するのに一分も掛からない。
時は進み、10:50。親が寝ているのを確認し、そっと部屋を出る。
自室から顔を半分だけ覗かせ、周りに人がいないか確認し、さっと素早く部屋から出る。
少年はまるで忍者の如く、廊下の端を歩き、床の軋む音を最大まで軽減しながら玄関へと向かう。
「………(今日は気づかないのか…。いつもならもう気づかれて、布団へ強制送還されるんだが…今日は運が良いな……)」
無事、三和土まで辿り着くと、そっと腰を下ろし、急いで靴を履く。ちょっと行って帰ってくるつもりだったので、普段、学校に行く時に使っているスニーカーを履いた。
少年は、玄関の扉に手を掛け、鍵を開ける。
すると、ガチャッ、という大きな音を立て、鍵が開く。
「(ま、ですよね~)」
案の定、先ほどまで真っ暗だった部屋の一つから、灯りが点る。
そこからはもう、ただ、外へ逃げる事に集中する。一瞬でも見つかれば、その瞬間、11時には間に合わなくなる。少年はドアを勢い良く開け、走り出した。
予め、気付いた瞬間走ると決めていたのでそれほど焦ることはなく目的の場所に向かうことができた。向かう先は勿論、友人の家だ。
「おー?しょうじゃん、どしたの、そんな息切らして。ダッシュしたの?」
少年は、歩いて一分もかからない場所にあるにもかかわらず、息も絶え絶えで辿り着いていた。
「はぁっ…はぁっ…お、お前な……、いや、いい、今しんどい……」
少年は、その場で大きく深呼吸をして、息を整える。外の澄みきった空気は気持ち良くで、最高だ。それを目一杯、体全身で感じる。
「ふぅん、まぁいいけど。よく分かんないけど、もう行けるんだよね?」
「あ、ああ、さっさと行こう。遅くなって親に気づかれたら面倒だろ?さ、もう行こうぜ」
母さん、お願いだからそのまま気づかないでくれよ……。
少年は焦りを感じながら、友人の手を引っ張り、公園へと歩いていった。
「久々だねぇ、二人で来るのもさ~…」
二分ほど歩き、公園についた。昼には近所の小学生で賑わう公園も、夜になれば人ひとりいなくなり、聞こえるのは虫の音のみである。
ひどくこざっぱりとした公園で特に遊具があるわけでもなく、ベンチがあるだけの簡素な作りの公園となっている。強いて目立つのは隣接された集会所とそこで使う道具がしまわれている倉庫があるだけだ。
灯りが少なかったが、暫く外にいたので目が慣れたようだ。
公園に設置された時計を見れば、もう針は11:10を過ぎている。
「ねぇ昇悟、あそこにいるのってさ、もしかして恭介じゃない?あ、さと姉もいるじゃん!」
「あいつらも親に内緒で来てんのかな。まぁいい、いこう」
あいつら…、なんでこんな時間に?そういやあいつら付き合ってるんだっけ、なんか関係あんのかな……。
――でも俺には関係ないもんな。
「あのさー、昇悟?」
「ん、どうした」
「せっかくだしさ、あの二人も誘わない?」
「ええー、めんどくせぇなぁ…。それにデートだったら水差すだけだろ、止めとけよ」
「いいじゃん、友達だし多少の事は気にしないって、多分!ほら、行こうっ!」
彼はそう言いながら、弾む足取りで二人を誘いにいった。
「え……マジかよ……」
「いやー、なんか普通にOKくれたっ!」
そこには少年二人の他に手を絡め合っている二人の姿があった。
すると恭介と呼ばれた少年が口を開いた。
「なぁ昇悟や。あの噂を検証しにいくんだろ?俺らもちょっと気になってたし、お前らが行くんなら俺も付き合うぞ?」
ジーパンを履き、横縞のポロシャツの上から七分丈を羽織った、軽い服装で、いかにもちょっとした外出、といった格好だ。
その顔には余裕の色が窺えた。
「恭介、親はどうした。それにもし本当だったらどうするつもりだ?」
――いや俺も嘘だと思ってるけどな。
腕を前に広げ、ジェスチャーをしながら不安そうなふりをして恭介に尋ねる。
「いやー、怜寧がどーしても今夜デートしたいって言うからさー?親には10分ちょっとで帰ってくるって言ったら普通にいいよー、って言ってくれたぞ。あ、俺お化けとか信じてないから。そーゆーのあんま怖くないす」
「も、もー!違うでしょっ!?昇悟と渡が心配だから、恭介にもついてきてもらったの!」
恭介に訂正を入れているのは、さと姉と呼ばれた少女である。
「はは、ごめんごめん、まぁそういう事だ。女の子を一人で向かわせるのも忍びないしな…」
「もう……ありがとね……」
照れながら笑顔で答える恭介に、怜寧も照れながら返事をする。
「っそ、爆ぜろリア充が……」
皆に背を向け、そっと呟く昇悟の顔は、あからさまに目が引きつっている。
貧乏ゆすりをしポケットに深く手を突っ込み、まさに怒りを体で表す、と言うに相応しい恰好をしている。
――はは…昇悟が恐い……。
「(昇悟、二人には日頃から付き合ってもらってるんだし、楽しくいこうよ~…ね?)」
そっと昇悟の耳元でそう渡が囁く。
―――知らねぇよ、リア充は全員敵だっての……でも渡に余計な心配させるのは後からめんどくさいしな。
「(分かった、渡に免じて今日くらい楽しませてもらうわ、だから心配すんな)」
そう言うと、渡は安心したのか、いつもの笑顔に戻り、皆にこう言った。
「さて、皆さん!」
「わたりん声大きいー…!」
声高らかに三人に言い放つ渡に、怜寧が小声で注意する。
「あ、ごめんごめん…えー、改めまして今夜は…」
「近所の怪奇現象の検証を開始したいと思います…!皆さん、張り切っていきましょう!」
「おー♪」
昇悟は夢を見た。曖昧な夢だ。外的な刺激、感覚から一切隔絶された世界。
そんな世界で恐怖を感じる。その恐怖は、体を切り刻まれた後死にゆくような脱力感を与える。怖い何かがいて必死で逃げているような気がするのに逃げられない。寧ろその距離は縮まっていく。余裕なんてない。狭い空間に逃げ込むとその先は行き止まり。
自分の中の大切な何かを穢そうとするそれに心を撫でられ、『自分』が死んでしまいそうになる。
そんな、もう終わりを悟ったときに守護者は現れるんだ。
「それじゃあ皆さん?準備OK?」
渡が皆に声をかけ、各々心の整理を始めた。時間は11:58、もうすぐだ。
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