インキュバスの魅せる夢

中城アキ

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1 出会い

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 薫は俊哉のことをシュンと呼んでいた。背が高く、ピアノをやっていたからか白く細いきれいな指をしていた。腕の内側には青い血管が走って、しなやかな体つきだった。黒い縁をした眼鏡をかけて、整った顔つきをしていた。

 高校に入ったとき、たまたま同じゲームをしていたことから話が弾み、高校2年のころには休日となると、お互いの家に行き会うような仲になった。

 その日は俊哉の部屋で昼過ぎからゲームをして、3時ごろ、休憩がてらスナック菓子を齧っていた。

「そういや、シュン。彼女いないのか?」

「彼女?」

 意外そうに俊哉が言葉を反芻した。同じクラスの女友達から随分と俊哉のことを聞かれるところを見ると、相当評判がいいように思っていた。だが、誰かと付き合ったなんていう話を聞いた覚えがない。

「いや、お前結構告白とかされてるんじゃねえの? シュンの連絡先聞かれたのだって1回や2回じゃねえし」

「あぁ……」

 なんとも言えない苦笑いとともにスマホを眺めて、軽くうなずいた。

「まあそうだね。初めて会うような女の子からも、何度か」

「それじゃあ、オッケーしたのか?」

 俊哉はかぶりを振る。

「いや、全部お断りしたよ」

「断ったのか。どうして?」

 薫が尋ねると、少し不機嫌になったように、目を細める。俊哉は深く息を吸って、1つ吐き出した。

「好きな人がいるから、かな」

 意外だった。そんな話を聞いたことはなかった。随分長い付き合いになるような気がしたが、知らないことは多かった。

「そうか。そんなこと知らなかった。んで、誰だよ?」

 薫は俊哉の隣に移動して、肩を組む。体が密着して、俊哉がひんやりと感じる。

「誰、だって?」

 不服そうにそうつぶやく。見たこともないような目で、俊哉は薫を睨む。

「あっ、聞かれたくなかったか?」

 あきれるとも、あきらめるともつかない嘆息。

「……わかったよ。教えてあげる」

 俊哉はオレンジジュールを口に含んで、薫の両肩をつかんだ。

「……はっ?」

 2人の距離がゼロになった。唇が重なって、俊哉は自分の舌で薫の口を開けて、口の中身を注ぎこみながら、押し倒す。初めて感じる柔らかさ。細い腕から、信じられないくらいの力で床に敷き伏せられている。

 薫がそれを飲み込むと、俊哉が薫の口内に侵入する。唾液を吸い取るように舌で中を犯して、反対に俊哉の体液が流し込まれる。

 抵抗しようと必死にうごめいた腕は、観念したように俊哉になすがままになっている

 どれくらいの時間、2人は重なったのか。ようやく解放されたときには、お互いが荒い呼吸になっていた。

「これで……わかった?」

 そういった俊哉の目はあまりに悲しげで、泣き出しそうにも見えた。薫の心臓は痛いくらいに激しく脈を打っている。

「俺……だったのか……?」

「本当に気づいてなかったんだね」

 俊哉は床に寝ている薫を抱きしめるように、覆いかぶさる。

「ずっと、こうしたかったんだ。僕じゃ、だめか?」

 答えに詰まる。思ってもみなかった。頭の中がかき混ぜられたように、何も考えられない。

 ただ、はっきりとわかっていることがあった。もう、俊哉の顔が、匂いが、指が、記憶から消されることがない。そして、言いようもない多幸感が芯から広がっている
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