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誇りを捨てた王子の祈り
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静かな夜会の片隅。
ユウキは、再びルシファに呼び止められていた。
「…今日も来ていたんだな」
「社交の場に顔を出すのは、貴族の義務よ。それともに私のスケジュール管理でもしたいの?」
「…違う」
彼は、少しだけうつむいた。いつかの彼なら絶対にしなかった仕草。
周囲を気にするように人払いをし、そしてようやく口を開く。
「…最近のお前は、誰の前でも笑う。誰にでも、優しい。でもそれって…“俺じゃなくてもいい”って言ってるみたいで、たまらない」
ユウキは首をかしげる。
そして、静かに問いかけた。
「じゃあ、あなたが今私に向けてるその感情って本当に“私”に向いてるの?」
「….は?」
「完璧で、称賛されて当然の“王子様”だったあなた。そのあなたを、私は見なかったから。あなたの誇りを否定したから。だから今、“傷ついた自分”を見て欲しくなっただけじゃないの?」
ルシファの喉が、かすかに鳴る。
言葉が、出ない。
ユウキは微笑すら浮かべず、ただ、まっすぐに見つめていた。
「私を好きになったんじゃなくて、“見られなかった自分”が許せなかっただけなんじゃない?」
その瞬間、ルシファの顔が、確かに強ばった。
痛かったのだろう。
否定されたわけではないのに、真実を突きつけられたかのような痛みに、何も言い返せない男の姿だった。
ユウキは続けた。
「“好きって言葉に逃げれば、私は許すと思った?王子のあなたが”愛“という言葉で都合よく甘えるならそれはただの、自己愛よ」
沈黙。
ただ、彼の誇りが一枚、また一枚と剥がれ落ちていく音だけがーー夜の底に響いた。
夜の屋敷。
ルシファはユウキの屋敷に押しかけていた。
ユウキの執務室を、ドアを叩く音が何度も何度も打ちつけていた。
「…っ、ユウキ、お願いだ、開けてくれ…!俺は…もう、どうすればいいかわからないんだ…!」
何度も断ったはずだ。
冷たく突き放しても、遠回しに逃げても、それでも彼は諦めなかった。
けど今夜は、違った。
ドアの外にいるのは誇る高き王子ではなかった。
身なりも整えぬまま、息を荒げ、涙すら滲ませながら、跪くーーだだの、一人の男だった。
「ユウキ…っ、お前がいないと…っ、もう、自分が何だったのかもわからない…!」
ドアの隙間から覗く彼の姿は、見るも無残だった。
金系のような髪は乱れ、声は涙で震えている。
あれほど完璧で、高潔で、選ばれたものの象徴だった彼が、今はただ、泣きながら縋っていた。
「お前が…俺を見てくれないと、俺は…っ…もう”王子“じゃいられない…っ、ユウキ….好きなんだ….!」
床に手をつき、必死に顔を上げて縋る。
唇が震え、喉が詰まりながら、それでも止められず叫び続ける。
「全然失ってもいい!王位も、名誉も、周りの目も、未来も、…もうどうでもいい…お前が、俺を見てくれさえすれば…それだけで…」
あまりに、惨めだった。
すべてを投げ出してでも、愛だけを選ぼうとする姿。
それは、どんな栄光よりも、苦しく、そして切実なものだった。
扉の内側で、ユウキはただ静かに目を閉じた。
開けることはしなかった。
けれど。
初めて彼の声に”嘘がない“とーーそう感じてしまったのだ。
ユウキは、再びルシファに呼び止められていた。
「…今日も来ていたんだな」
「社交の場に顔を出すのは、貴族の義務よ。それともに私のスケジュール管理でもしたいの?」
「…違う」
彼は、少しだけうつむいた。いつかの彼なら絶対にしなかった仕草。
周囲を気にするように人払いをし、そしてようやく口を開く。
「…最近のお前は、誰の前でも笑う。誰にでも、優しい。でもそれって…“俺じゃなくてもいい”って言ってるみたいで、たまらない」
ユウキは首をかしげる。
そして、静かに問いかけた。
「じゃあ、あなたが今私に向けてるその感情って本当に“私”に向いてるの?」
「….は?」
「完璧で、称賛されて当然の“王子様”だったあなた。そのあなたを、私は見なかったから。あなたの誇りを否定したから。だから今、“傷ついた自分”を見て欲しくなっただけじゃないの?」
ルシファの喉が、かすかに鳴る。
言葉が、出ない。
ユウキは微笑すら浮かべず、ただ、まっすぐに見つめていた。
「私を好きになったんじゃなくて、“見られなかった自分”が許せなかっただけなんじゃない?」
その瞬間、ルシファの顔が、確かに強ばった。
痛かったのだろう。
否定されたわけではないのに、真実を突きつけられたかのような痛みに、何も言い返せない男の姿だった。
ユウキは続けた。
「“好きって言葉に逃げれば、私は許すと思った?王子のあなたが”愛“という言葉で都合よく甘えるならそれはただの、自己愛よ」
沈黙。
ただ、彼の誇りが一枚、また一枚と剥がれ落ちていく音だけがーー夜の底に響いた。
夜の屋敷。
ルシファはユウキの屋敷に押しかけていた。
ユウキの執務室を、ドアを叩く音が何度も何度も打ちつけていた。
「…っ、ユウキ、お願いだ、開けてくれ…!俺は…もう、どうすればいいかわからないんだ…!」
何度も断ったはずだ。
冷たく突き放しても、遠回しに逃げても、それでも彼は諦めなかった。
けど今夜は、違った。
ドアの外にいるのは誇る高き王子ではなかった。
身なりも整えぬまま、息を荒げ、涙すら滲ませながら、跪くーーだだの、一人の男だった。
「ユウキ…っ、お前がいないと…っ、もう、自分が何だったのかもわからない…!」
ドアの隙間から覗く彼の姿は、見るも無残だった。
金系のような髪は乱れ、声は涙で震えている。
あれほど完璧で、高潔で、選ばれたものの象徴だった彼が、今はただ、泣きながら縋っていた。
「お前が…俺を見てくれないと、俺は…っ…もう”王子“じゃいられない…っ、ユウキ….好きなんだ….!」
床に手をつき、必死に顔を上げて縋る。
唇が震え、喉が詰まりながら、それでも止められず叫び続ける。
「全然失ってもいい!王位も、名誉も、周りの目も、未来も、…もうどうでもいい…お前が、俺を見てくれさえすれば…それだけで…」
あまりに、惨めだった。
すべてを投げ出してでも、愛だけを選ぼうとする姿。
それは、どんな栄光よりも、苦しく、そして切実なものだった。
扉の内側で、ユウキはただ静かに目を閉じた。
開けることはしなかった。
けれど。
初めて彼の声に”嘘がない“とーーそう感じてしまったのだ。
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