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救いではなく、情けでもない
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朝日が昇る頃、ユウキは静かに扉を開けた。
その場にいた。
まるで置き去りにされた人形のように、扉の前で膝を抱えたまま、眠るように意識を落とした男が。
ルシファ。
完璧を纏っていたはずの王子の姿は、見る影もなかった。肩を覆うマントはずり落ち、頬はやつれ、唇は乾いていた。
蒼白な肌には夜露が張りつき、唇からはかすかに「ユウキ…」と夢の中のような言葉が溢れていた。
ユウキは無言のまま、彼の腕をとる。
その体は熱を帯びていて、指先は震えていた。
「…はぁ…ほんと、何やってんのよ…」
誰に訊かせるでもない、呆れを込めた独り言。
そのまま部屋に引きずり入れ、ソファへと寝かせる。
毛布を一枚。
水差しに、冷たい水を一杯。
それだけ。
看病などしない。
触れるのは最低限。
目覚めたときに、目の前に”命を繋ぐ最低限“があるように。
まるで捨て犬に向けるような態度で。
ユウキは俯いたまま、毛布を彼の胸元まで引き上げた。
それでも顔は見なかった。
「…勘違いしないで。別にあんたを許したわけじゃないから」
呟く声は、感情の色を殺していた。
「たまたま倒れてたから、死なれたら面倒って思っただけ」
毛布を撫でる指に、ほんの一瞬だけ迷いが浮かぶ。
けれどすぐ、指を引き、背を向けた。
ルシファの手が微かに動く。
けれど、まだ意識は戻らない。
ユウキはそのまま、ソファの前から去った。
冷たく、決して抱きしめることはない。
けれど、その命を見捨てることはなかった。
「….ユウキ…?」
乾いた唇が、微かに震えながら彼女の名前を呼んだ。
ルシファが目を覚ました時、天蓋のない見知らぬ天井が広がっていた。
熱のこもった体を覆う毛布と、枕元に置かれた一杯の水。
そして、椅子に腰掛けたまま、書類に目を通すユウキの姿が、視界の端に映った。
一瞬、夢かと思った。
けれど、彼女はそこにいた。
現実に。
「….助けて…くれたの、か….?」
彼女の名を呼ぶ声はかすれて、涙がにじむ。
だがーー
「…話しかけないで」
一言。
まるで刃のように、冷たく淡々と。
その声に、ルシファの心臓が小さく跳ねた。
「喉が渇いてるなら水はそこ。毛布もあなたが勝手にかぶってるだけ」
顔を上げないまま、淡々と書類を捲る手だけが動く。ルシファは黙ったまま水を手に取り、一口含んだ。冷たさが喉を潤しても、胸の中は焼けるように苦しいままだった。
「…それでも…ありがとう….ユウキ」
掠れた声で、そう言った瞬間だった。
ガタン。
ユウキが勢いよく椅子から立ち、振り返った。
その目に怒りも悲しみもない。
「言ったよね?話しかけないでって。あとそういう安っぽい感謝もいらないの。」
ユウキは背を向け、部屋を出て行こうとする。
情けなく、よろめくような足取りで、ルシファが立ち上がった。
「….待って….!」
「….」
ユウキは止まらない。
「俺…俺は….!もう、あの頃のお前を見下していたような男じゃない…!ただ….そばにいたくて…!見て欲しくて…..!」
「…..」
「従者でも何でもいい。….捨て駒でも、下僕でも、影でも、なんでもいい…どうか…..お願いだから、少しだけ…俺に、何かさせて….!」
ユウキの後ろで膝をつく音がした。
振り返れば、かつて王子と讃えられた男が、床に手をつき、頭を垂れている。
その姿にユウキは一言。
「…勝手にすれば」
その言葉は、許しではなかった。
ただの”放置“であり、”黙認“であり、”哀れみ“ですらない。
それでも、ルシファの目は涙に濡れながら、どこか微かに安堵していた。
彼は王子の冠を脱ぎ捨て、従者と這いつくばることを選んだ。
その場にいた。
まるで置き去りにされた人形のように、扉の前で膝を抱えたまま、眠るように意識を落とした男が。
ルシファ。
完璧を纏っていたはずの王子の姿は、見る影もなかった。肩を覆うマントはずり落ち、頬はやつれ、唇は乾いていた。
蒼白な肌には夜露が張りつき、唇からはかすかに「ユウキ…」と夢の中のような言葉が溢れていた。
ユウキは無言のまま、彼の腕をとる。
その体は熱を帯びていて、指先は震えていた。
「…はぁ…ほんと、何やってんのよ…」
誰に訊かせるでもない、呆れを込めた独り言。
そのまま部屋に引きずり入れ、ソファへと寝かせる。
毛布を一枚。
水差しに、冷たい水を一杯。
それだけ。
看病などしない。
触れるのは最低限。
目覚めたときに、目の前に”命を繋ぐ最低限“があるように。
まるで捨て犬に向けるような態度で。
ユウキは俯いたまま、毛布を彼の胸元まで引き上げた。
それでも顔は見なかった。
「…勘違いしないで。別にあんたを許したわけじゃないから」
呟く声は、感情の色を殺していた。
「たまたま倒れてたから、死なれたら面倒って思っただけ」
毛布を撫でる指に、ほんの一瞬だけ迷いが浮かぶ。
けれどすぐ、指を引き、背を向けた。
ルシファの手が微かに動く。
けれど、まだ意識は戻らない。
ユウキはそのまま、ソファの前から去った。
冷たく、決して抱きしめることはない。
けれど、その命を見捨てることはなかった。
「….ユウキ…?」
乾いた唇が、微かに震えながら彼女の名前を呼んだ。
ルシファが目を覚ました時、天蓋のない見知らぬ天井が広がっていた。
熱のこもった体を覆う毛布と、枕元に置かれた一杯の水。
そして、椅子に腰掛けたまま、書類に目を通すユウキの姿が、視界の端に映った。
一瞬、夢かと思った。
けれど、彼女はそこにいた。
現実に。
「….助けて…くれたの、か….?」
彼女の名を呼ぶ声はかすれて、涙がにじむ。
だがーー
「…話しかけないで」
一言。
まるで刃のように、冷たく淡々と。
その声に、ルシファの心臓が小さく跳ねた。
「喉が渇いてるなら水はそこ。毛布もあなたが勝手にかぶってるだけ」
顔を上げないまま、淡々と書類を捲る手だけが動く。ルシファは黙ったまま水を手に取り、一口含んだ。冷たさが喉を潤しても、胸の中は焼けるように苦しいままだった。
「…それでも…ありがとう….ユウキ」
掠れた声で、そう言った瞬間だった。
ガタン。
ユウキが勢いよく椅子から立ち、振り返った。
その目に怒りも悲しみもない。
「言ったよね?話しかけないでって。あとそういう安っぽい感謝もいらないの。」
ユウキは背を向け、部屋を出て行こうとする。
情けなく、よろめくような足取りで、ルシファが立ち上がった。
「….待って….!」
「….」
ユウキは止まらない。
「俺…俺は….!もう、あの頃のお前を見下していたような男じゃない…!ただ….そばにいたくて…!見て欲しくて…..!」
「…..」
「従者でも何でもいい。….捨て駒でも、下僕でも、影でも、なんでもいい…どうか…..お願いだから、少しだけ…俺に、何かさせて….!」
ユウキの後ろで膝をつく音がした。
振り返れば、かつて王子と讃えられた男が、床に手をつき、頭を垂れている。
その姿にユウキは一言。
「…勝手にすれば」
その言葉は、許しではなかった。
ただの”放置“であり、”黙認“であり、”哀れみ“ですらない。
それでも、ルシファの目は涙に濡れながら、どこか微かに安堵していた。
彼は王子の冠を脱ぎ捨て、従者と這いつくばることを選んだ。
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