12 / 20
12 話し合い
しおりを挟む
「……全く、総ちゃんってば変なところで抜けてるんだから」
真里は隣に座る聡介に呆れながら言い、テーブルを挟んで目の前に座る鬼崎に謝った。
「ごめんなさいね、鬼崎さん」
「いえ、俺も聡介君に言っていなかったので」
鬼崎は言いながら聡介に視線を向ける。でもその顔は少し膨れ面だ。そんな息子にやれやれというため息を吐きながら真里はそっと席を立った。
「どうやら二人で話す必要があるみたいだから私は席を外すわね」
真里はそう言うと部屋を出て行こうとした。けれど、出る前に聡介に声をかける。
「総ちゃん、ちゃんとお話するのよ」
真里はそれだけを言うと部屋を出て行った。そして残ったのは鬼崎と目を合わせない聡介の二人だけ。
「聡介君……怒ってる?」
伺うように聞かれて聡介は少しだけ顔を上げ、正直に気持ちを吐露した。
「……怒ってます」
聡介はそう言うとまたぷいっと視線を外した。なにせ今は騙された気分だった。
……鬼崎さん、最初から知ってたなら言ってくれても良かったのにっ!
そう思わずにはいられなかった。勿論、釣書を見ず、相手の事を両親によく聞いていなかった自分も悪いとはわかってはいる。それでも怒る気持ちが抑えられない。でもそんな聡介に大人の余裕を見せるかのように鬼崎は謝った。
「ごめん、聡介君。お見合いする相手が俺だって黙っていて」
鬼崎は頭を下げて謝り、聡介は少しじろりとした拗ねた視線を向ける。
「……どうして黙ってたんですか。俺の反応を見て面白がってたんですか」
「いや、そういうつもりはなかったんだけど。お見合いが決まったのに全然その事について触れてくれない聡介君にちょっとした意地悪心が働いてね」
痛いところを突かれて聡介は言い淀む。
「そ、それは……」
「まあ、いつか気が付いてくれるかと思ったけど、最後まで知らなかったみたいだし?」
鬼崎に言われて段々聡介の方が気まずくなってくる。責めていた筈なのに、いつの間にか責められている。
「聡介君、お見合いをするって聞いていた筈なのに何にも知らない相手とお見合いをしようなんてなー。その上、お見合いが決まってたのに俺とデートするんだもんなぁ」
「あれはっ、別にデートじゃ」
聡介にとってもあれはデート気分だったけれど、鬼崎にとってはランチして買い物に付き合っただけだろうと思っていた。でも鬼崎もそのつもりだったのだと知って嬉しい、この状況でなければ。
「俺はデートのつもりだったんだけど聡介君は違った?」
そう聞かれて聡介はもう誤魔化せない。
「俺も……そう、思ってました」
聡介が正直に答えれば鬼崎はニコッと笑った。でも、そんな鬼崎に聡介は口を尖らせて尋ねた。
「でも、そういう鬼崎さんだってこの前女の子を連れてたじゃないですか」
「ああ、彰の事か。あいつは俺の弟みたいなもんだよ。子供の頃から一緒にいてね、俺が最近お店によく食べに行くから一緒に行くって聞かなくて、連れて行っただけ。テツさんもやよいさんも知ってるよ」
鬼崎はそうあっさりと答えた。その答えに聡介は胸の奥にあったモヤが急になくなるのを感じた。でもある言葉に引っかかる。
「弟? 妹じゃなくて?」
「あー、あの日は変装して連れて行ったからな。聡介君、”アキラ”ってタレントを知ってる?」
鬼崎に聞かれて、聡介は「はい」と答えた。なんなら今朝のテレビのCMに出ている姿を見たばかりだし、子役から活躍しているので大抵の人は知っているんじゃないだろうか? と聡介は思ったが、不意にあの時の女の子の顔立ちを思い出し、鬼崎の言葉の意味を理解した。
「あ! もしかしてあの時の女の子って!」
「そう、”アキラ”なんだ。普通の格好で出歩くと人が集まってきちゃうから」
鬼崎はそう説明し、聡介もすんなり納得する。
……そう言えば鬼崎さんは芸能事務所の社長だって話しだった。だからあの”アキラ”とも。でも……え? もしかして鬼崎さんってあの人気俳優が多く所属してるって有名な大手芸能事務所の社長さん!?
芸能界に疎い聡介でも何度か耳にした事のある芸能事務所の名前を思い出し、目の前にいる鬼崎を見る。
……鬼崎さん、人材派遣会社だって言ってたのに。……いや、あながち間違いでもないかもしれないけど。でも所属している芸能人も顔負けのこんな格好いい人が社長さんなんて。
テレビや雑誌で見るモデルにも引けを取らないスーツ姿の鬼崎を見て、つい聡介は見惚れてしまう。けれどそんな聡介に鬼崎は尋ねた。
「聡介君、納得してくれた? 他に聞きたい事はない?」
鬼崎に聞かれて聡介は考えを巡らす。聞きたいことはまだまだ山のようにある。けれど一番に浮かんだのは樹の言っていた事だった。
「鬼崎さん……あの、樹兄ちゃんに『Ω嫌い』って聞いたんですけど」
聡介がおずおずと聞けば、鬼崎はすぐにピンと来たようだ。
「ああ、高校の時の話を聞いたんだね?」
「……はい」
勝手に聞いてしまった気がして聡介は少し気まずい。でも鬼崎は「まあ、あの頃の俺は尖ってたからな~。恥ずかしいけど」と照れくさそうにしつつも、話してくれた。
「ちょっと話が長くなるんだけど。……俺の親が今の芸能事務所を立ち上げてね、子供の頃からΩの子と会う機会が多かったんだ。ほとんどいい子ばっかりだったけれど、でもその中の一部にはαの俺に色目を使って来る人もいてね、俺はそれが本当に嫌で。だから、周りには『Ω嫌い』だと吹聴していたんだ。まあ、あんまり意味はなかったけど」
鬼崎はあっさりした口調で言った。けれど、実際は大変だったんじゃないだろうかと聡介は想像する。だって目の前にいる鬼崎はこんなにも素敵だ。その上、樹が認めるほど優秀で、実家が大手芸能事務所だとすれば、きっとΩだけじゃない、βやα、老若男女問わずにモテたんじゃないだろうか。
……でも、それなら余計にどうして俺のことを?
聡介が思わず視線を向ければ、鬼崎は優しく微笑んだ。
「正直今でもΩの子はちょっと苦手だ。でも聡介君は特別なんだ」
淀みなく言われて聡介の胸はドキッと跳ねあがる。それなのに鬼崎はゆっくりと立ち上がると聡介の傍に歩み寄り、座ったままたじろぐ聡介の傍で腰を下ろした。
「き、鬼崎さん」
「聡介君、まだ俺の言葉を信じられない?」
鬼崎はそっと聡介の手に自分の手を重ねて言い、心臓がドキドキしているのが手から伝わってしまうんじゃないかと聡介は余計胸が鳴る。
「し、信じられないというか、どうして俺なんだろうって思って。俺はΩらしくないし、俺はΩとしては」
そこまで言った時、聡介は思い出した。両親が自分の体の不完全さをお見合い相手も了承していると。
「鬼崎さんは知っているんですよね? 俺が、発情期も迎えてないって」
聡介が尋ねると鬼崎は「うん」と正直に答えた。
「この前のは突発的なヒートで、今後あるかもわかりません。そんな俺をどうして……もしかして、両親がこのお見合いを頼んだんじゃっ」
聡介は不意に『自分を溺愛してくれている両親が無理にお見合いを鬼崎に頼んだのでは?』と思い当たったが、鬼崎はすぐに否定した。
「違うよ。確かにお見合いは聡介君のお父さんからの提案だったけど、そうして欲しいって俺が頼んだんだ」
「鬼崎さんが?」
「そうだよ。あの時は緊張した」
鬼崎はその時の事を思い出したように笑って言った。
「お父さんが……。でもその時には俺の体の事、知らなかったんじゃ? もし断りにくくて困ってるなら」
聡介がそこまで言うと鬼崎は「聡介君」と言葉を遮った。そしてちょっと怒っている。
「はい?」
「聡介君、俺の話を聞いてた?」
「え……聞いてましたけど」
「なら、なんで断りにくくて困ってる、なんて言葉が出てくるの。俺が頼んだって言ったよね?」
「いや、だって……」
聡介は言葉に詰まる。そんな聡介の手を鬼崎は温かい手できゅっと握る。
「聡介君、教えて?」
優しく問いかけられて聡介は小さな声で伝えた。
「……だって、俺は……全然Ωらしくないし、発情期もまだだし、鬼崎さんみたいな素敵な人が俺の事を……どうしてって。そう思って」
自信のなさを正直に言えば、鬼崎は呆れたようなため息を吐いた。
「ふー、聡介君は自分の事を過小評価し過ぎじゃない?」
「そんなことっ」
「俺は聡介君のスラッとした体形もつやつやな黒髪も涼やかな目元も、意外と気持ちが顔にでちゃうお茶目なところも可愛いと思ってるんだけど?」
好きな人に次々に褒められて聡介は恥ずかしくなる。
「なっ!?」
「それに俺はΩだから聡介君を好きになったわけじゃない。好きになった人がたまたまΩだっただけだよ」
鬼崎にハッキリと言われて聡介は胸の奥がきゅうっと締め付けられる。
「鬼崎さん、俺の事……ホントに?」
聡介が思わず尋ねると、鬼崎はくすっと微笑んだ。
「何度も言ってるだろう? 俺は聡介君が好きだよ」
鬼崎の告白に聡介はじわじわと嬉しさが胸の中をせり上がってくる。
……鬼崎さんが俺の事を好きだなんて。
心の中で言葉にするだけでも照れ臭い気持ちになる。けれどそんな聡介に鬼崎は尋ねた。
「だからね、さっきの電話の答えじゃないけれど……この前の事は俺にとっては役得だったんだよ。でも聡介君はどう思った? あの日の事。俺も聡介君の気持ちを聞きたい」
真剣な瞳で尋ねられて聡介は恥ずかしい気持ちを抑えて、乾いた唇を一度舐めると何とか声に出した。
「俺も……嬉しかった、です。……俺も鬼崎さんが、好き、だから」
本人を目の前に言うのは顔から火が出るほど恥ずかしかったけれど聡介が何とか伝えると鬼崎は満面の笑みを見せた。その笑顔が眩しくて、聡介はただでさえ胸がさっきから忙しないのにもっとうるさく鳴ってしまう。
それなのに鬼崎は躊躇いなく、ぎゅっと聡介を抱きしめた。
「嬉しいよ、聡介君」
優しい手つきで引き寄せられ逞しい胸に抱かれて、その上鬼崎の匂いが濃ゆく香れば聡介は体温が上がる。
……鬼崎さんに抱き締められてる! ……いい匂ぃ。
鬼崎らしい魅惑的なαの香りに聡介はうっとりしてしまう。そして段々体が熱くなって、うなじがちりちりと焦がれてきた。
……ん、暑いな。でもこのままでいたい。
聡介は熱を感じながらも鬼崎から自ら離れたくはなかった。むしろ、もっと傍にいたい。もっと鬼崎の匂いを感じたいと大胆にも自ら首筋に顔を摺り寄せた。
「ん……鬼崎さん」
聡介は甘い声で囁いた。けれど、その声を聞いた途端鬼崎はバッと聡介から体を離す。
……あ、なんで離れるの?
聡介は名残惜しくて、鬼崎をじっと見つめる。でも鬼崎も聡介を見ていた。
「……聡介君、もしかしてまたヒートが来てる?」
「え?」
真里は隣に座る聡介に呆れながら言い、テーブルを挟んで目の前に座る鬼崎に謝った。
「ごめんなさいね、鬼崎さん」
「いえ、俺も聡介君に言っていなかったので」
鬼崎は言いながら聡介に視線を向ける。でもその顔は少し膨れ面だ。そんな息子にやれやれというため息を吐きながら真里はそっと席を立った。
「どうやら二人で話す必要があるみたいだから私は席を外すわね」
真里はそう言うと部屋を出て行こうとした。けれど、出る前に聡介に声をかける。
「総ちゃん、ちゃんとお話するのよ」
真里はそれだけを言うと部屋を出て行った。そして残ったのは鬼崎と目を合わせない聡介の二人だけ。
「聡介君……怒ってる?」
伺うように聞かれて聡介は少しだけ顔を上げ、正直に気持ちを吐露した。
「……怒ってます」
聡介はそう言うとまたぷいっと視線を外した。なにせ今は騙された気分だった。
……鬼崎さん、最初から知ってたなら言ってくれても良かったのにっ!
そう思わずにはいられなかった。勿論、釣書を見ず、相手の事を両親によく聞いていなかった自分も悪いとはわかってはいる。それでも怒る気持ちが抑えられない。でもそんな聡介に大人の余裕を見せるかのように鬼崎は謝った。
「ごめん、聡介君。お見合いする相手が俺だって黙っていて」
鬼崎は頭を下げて謝り、聡介は少しじろりとした拗ねた視線を向ける。
「……どうして黙ってたんですか。俺の反応を見て面白がってたんですか」
「いや、そういうつもりはなかったんだけど。お見合いが決まったのに全然その事について触れてくれない聡介君にちょっとした意地悪心が働いてね」
痛いところを突かれて聡介は言い淀む。
「そ、それは……」
「まあ、いつか気が付いてくれるかと思ったけど、最後まで知らなかったみたいだし?」
鬼崎に言われて段々聡介の方が気まずくなってくる。責めていた筈なのに、いつの間にか責められている。
「聡介君、お見合いをするって聞いていた筈なのに何にも知らない相手とお見合いをしようなんてなー。その上、お見合いが決まってたのに俺とデートするんだもんなぁ」
「あれはっ、別にデートじゃ」
聡介にとってもあれはデート気分だったけれど、鬼崎にとってはランチして買い物に付き合っただけだろうと思っていた。でも鬼崎もそのつもりだったのだと知って嬉しい、この状況でなければ。
「俺はデートのつもりだったんだけど聡介君は違った?」
そう聞かれて聡介はもう誤魔化せない。
「俺も……そう、思ってました」
聡介が正直に答えれば鬼崎はニコッと笑った。でも、そんな鬼崎に聡介は口を尖らせて尋ねた。
「でも、そういう鬼崎さんだってこの前女の子を連れてたじゃないですか」
「ああ、彰の事か。あいつは俺の弟みたいなもんだよ。子供の頃から一緒にいてね、俺が最近お店によく食べに行くから一緒に行くって聞かなくて、連れて行っただけ。テツさんもやよいさんも知ってるよ」
鬼崎はそうあっさりと答えた。その答えに聡介は胸の奥にあったモヤが急になくなるのを感じた。でもある言葉に引っかかる。
「弟? 妹じゃなくて?」
「あー、あの日は変装して連れて行ったからな。聡介君、”アキラ”ってタレントを知ってる?」
鬼崎に聞かれて、聡介は「はい」と答えた。なんなら今朝のテレビのCMに出ている姿を見たばかりだし、子役から活躍しているので大抵の人は知っているんじゃないだろうか? と聡介は思ったが、不意にあの時の女の子の顔立ちを思い出し、鬼崎の言葉の意味を理解した。
「あ! もしかしてあの時の女の子って!」
「そう、”アキラ”なんだ。普通の格好で出歩くと人が集まってきちゃうから」
鬼崎はそう説明し、聡介もすんなり納得する。
……そう言えば鬼崎さんは芸能事務所の社長だって話しだった。だからあの”アキラ”とも。でも……え? もしかして鬼崎さんってあの人気俳優が多く所属してるって有名な大手芸能事務所の社長さん!?
芸能界に疎い聡介でも何度か耳にした事のある芸能事務所の名前を思い出し、目の前にいる鬼崎を見る。
……鬼崎さん、人材派遣会社だって言ってたのに。……いや、あながち間違いでもないかもしれないけど。でも所属している芸能人も顔負けのこんな格好いい人が社長さんなんて。
テレビや雑誌で見るモデルにも引けを取らないスーツ姿の鬼崎を見て、つい聡介は見惚れてしまう。けれどそんな聡介に鬼崎は尋ねた。
「聡介君、納得してくれた? 他に聞きたい事はない?」
鬼崎に聞かれて聡介は考えを巡らす。聞きたいことはまだまだ山のようにある。けれど一番に浮かんだのは樹の言っていた事だった。
「鬼崎さん……あの、樹兄ちゃんに『Ω嫌い』って聞いたんですけど」
聡介がおずおずと聞けば、鬼崎はすぐにピンと来たようだ。
「ああ、高校の時の話を聞いたんだね?」
「……はい」
勝手に聞いてしまった気がして聡介は少し気まずい。でも鬼崎は「まあ、あの頃の俺は尖ってたからな~。恥ずかしいけど」と照れくさそうにしつつも、話してくれた。
「ちょっと話が長くなるんだけど。……俺の親が今の芸能事務所を立ち上げてね、子供の頃からΩの子と会う機会が多かったんだ。ほとんどいい子ばっかりだったけれど、でもその中の一部にはαの俺に色目を使って来る人もいてね、俺はそれが本当に嫌で。だから、周りには『Ω嫌い』だと吹聴していたんだ。まあ、あんまり意味はなかったけど」
鬼崎はあっさりした口調で言った。けれど、実際は大変だったんじゃないだろうかと聡介は想像する。だって目の前にいる鬼崎はこんなにも素敵だ。その上、樹が認めるほど優秀で、実家が大手芸能事務所だとすれば、きっとΩだけじゃない、βやα、老若男女問わずにモテたんじゃないだろうか。
……でも、それなら余計にどうして俺のことを?
聡介が思わず視線を向ければ、鬼崎は優しく微笑んだ。
「正直今でもΩの子はちょっと苦手だ。でも聡介君は特別なんだ」
淀みなく言われて聡介の胸はドキッと跳ねあがる。それなのに鬼崎はゆっくりと立ち上がると聡介の傍に歩み寄り、座ったままたじろぐ聡介の傍で腰を下ろした。
「き、鬼崎さん」
「聡介君、まだ俺の言葉を信じられない?」
鬼崎はそっと聡介の手に自分の手を重ねて言い、心臓がドキドキしているのが手から伝わってしまうんじゃないかと聡介は余計胸が鳴る。
「し、信じられないというか、どうして俺なんだろうって思って。俺はΩらしくないし、俺はΩとしては」
そこまで言った時、聡介は思い出した。両親が自分の体の不完全さをお見合い相手も了承していると。
「鬼崎さんは知っているんですよね? 俺が、発情期も迎えてないって」
聡介が尋ねると鬼崎は「うん」と正直に答えた。
「この前のは突発的なヒートで、今後あるかもわかりません。そんな俺をどうして……もしかして、両親がこのお見合いを頼んだんじゃっ」
聡介は不意に『自分を溺愛してくれている両親が無理にお見合いを鬼崎に頼んだのでは?』と思い当たったが、鬼崎はすぐに否定した。
「違うよ。確かにお見合いは聡介君のお父さんからの提案だったけど、そうして欲しいって俺が頼んだんだ」
「鬼崎さんが?」
「そうだよ。あの時は緊張した」
鬼崎はその時の事を思い出したように笑って言った。
「お父さんが……。でもその時には俺の体の事、知らなかったんじゃ? もし断りにくくて困ってるなら」
聡介がそこまで言うと鬼崎は「聡介君」と言葉を遮った。そしてちょっと怒っている。
「はい?」
「聡介君、俺の話を聞いてた?」
「え……聞いてましたけど」
「なら、なんで断りにくくて困ってる、なんて言葉が出てくるの。俺が頼んだって言ったよね?」
「いや、だって……」
聡介は言葉に詰まる。そんな聡介の手を鬼崎は温かい手できゅっと握る。
「聡介君、教えて?」
優しく問いかけられて聡介は小さな声で伝えた。
「……だって、俺は……全然Ωらしくないし、発情期もまだだし、鬼崎さんみたいな素敵な人が俺の事を……どうしてって。そう思って」
自信のなさを正直に言えば、鬼崎は呆れたようなため息を吐いた。
「ふー、聡介君は自分の事を過小評価し過ぎじゃない?」
「そんなことっ」
「俺は聡介君のスラッとした体形もつやつやな黒髪も涼やかな目元も、意外と気持ちが顔にでちゃうお茶目なところも可愛いと思ってるんだけど?」
好きな人に次々に褒められて聡介は恥ずかしくなる。
「なっ!?」
「それに俺はΩだから聡介君を好きになったわけじゃない。好きになった人がたまたまΩだっただけだよ」
鬼崎にハッキリと言われて聡介は胸の奥がきゅうっと締め付けられる。
「鬼崎さん、俺の事……ホントに?」
聡介が思わず尋ねると、鬼崎はくすっと微笑んだ。
「何度も言ってるだろう? 俺は聡介君が好きだよ」
鬼崎の告白に聡介はじわじわと嬉しさが胸の中をせり上がってくる。
……鬼崎さんが俺の事を好きだなんて。
心の中で言葉にするだけでも照れ臭い気持ちになる。けれどそんな聡介に鬼崎は尋ねた。
「だからね、さっきの電話の答えじゃないけれど……この前の事は俺にとっては役得だったんだよ。でも聡介君はどう思った? あの日の事。俺も聡介君の気持ちを聞きたい」
真剣な瞳で尋ねられて聡介は恥ずかしい気持ちを抑えて、乾いた唇を一度舐めると何とか声に出した。
「俺も……嬉しかった、です。……俺も鬼崎さんが、好き、だから」
本人を目の前に言うのは顔から火が出るほど恥ずかしかったけれど聡介が何とか伝えると鬼崎は満面の笑みを見せた。その笑顔が眩しくて、聡介はただでさえ胸がさっきから忙しないのにもっとうるさく鳴ってしまう。
それなのに鬼崎は躊躇いなく、ぎゅっと聡介を抱きしめた。
「嬉しいよ、聡介君」
優しい手つきで引き寄せられ逞しい胸に抱かれて、その上鬼崎の匂いが濃ゆく香れば聡介は体温が上がる。
……鬼崎さんに抱き締められてる! ……いい匂ぃ。
鬼崎らしい魅惑的なαの香りに聡介はうっとりしてしまう。そして段々体が熱くなって、うなじがちりちりと焦がれてきた。
……ん、暑いな。でもこのままでいたい。
聡介は熱を感じながらも鬼崎から自ら離れたくはなかった。むしろ、もっと傍にいたい。もっと鬼崎の匂いを感じたいと大胆にも自ら首筋に顔を摺り寄せた。
「ん……鬼崎さん」
聡介は甘い声で囁いた。けれど、その声を聞いた途端鬼崎はバッと聡介から体を離す。
……あ、なんで離れるの?
聡介は名残惜しくて、鬼崎をじっと見つめる。でも鬼崎も聡介を見ていた。
「……聡介君、もしかしてまたヒートが来てる?」
「え?」
95
あなたにおすすめの小説
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*本編完結しました
【完結】巷で噂の国宝級イケメンの辺境伯は冷徹なので、まっっったくモテませんが、この度婚約者ができました。
明太子
BL
オーディスは国宝級イケメンであるにも関わらず、冷徹な性格のせいで婚約破棄されてばかり。
新たな婚約者を探していたところ、パーティーで給仕をしていた貧乏貴族の次男セシルと出会い、一目惚れしてしまう。
しかし、恋愛偏差値がほぼ0のオーディスのアプローチは空回りするわ、前婚約者のフランチェスカの邪魔が入るわとセシルとの距離は縮まったり遠ざかったり…?
冷徹だったはずなのに溺愛まっしぐらのオーディスと元気だけどおっちょこちょいなセシルのドタバタラブコメです。
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
いい加減観念して結婚してください
彩根梨愛
BL
平凡なオメガが成り行きで決まった婚約解消予定のアルファに結婚を迫られる話
元々ショートショートでしたが、続編を書きましたので短編になりました。
2025/05/05時点でBL18位ありがとうございます。
作者自身驚いていますが、お楽しみ頂き光栄です。
僕の、しあわせ辺境暮らし
* ゆるゆ
BL
雪のなか3歳の僕を、ひろってくれたのは、やさしい16歳の男の子でした。
ふたりの、しあわせな辺境暮らし、はじまります!
ぽて と むーちゃんの動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります。
YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
欠陥αは運命を追う
豆ちよこ
BL
「宗次さんから番の匂いがします」
従兄弟の番からそう言われたアルファの宝条宗次は、全く心当たりの無いその言葉に微かな期待を抱く。忘れ去られた記憶の中に、自分の求める運命の人がいるかもしれないーー。
けれどその匂いは日に日に薄れていく。早く探し出さないと二度と会えなくなってしまう。匂いが消える時…それは、番の命が尽きる時。
※自己解釈・自己設定有り
※R指定はほぼ無し
※アルファ(攻め)視点
籠中の鳥と陽色の君〜訳アリ王子の婚約お試し期間〜
むらくも
BL
婚約話から逃げ続けていた氷の国のα王子グラキエは、成年を機に年貢の納め時を迎えていた。
令嬢から逃げたい一心で失言の常習犯が選んだのは、太陽の国のΩ王子ラズリウ。
同性ならば互いに別行動が可能だろうと見込んでの事だったけれど、どうにもそうはいかなくて……?
本当はもっと、近くに居たい。
自由で居たいα王子×従順に振る舞うΩ王子の両片想いBL。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる