青年オメガは変わり者アルファに恋をする

神谷レイン

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12 話し合い

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「……全く、総ちゃんってば変なところで抜けてるんだから」

 真里は隣に座る聡介に呆れながら言い、テーブルを挟んで目の前に座る鬼崎に謝った。

「ごめんなさいね、鬼崎さん」
「いえ、俺も聡介君に言っていなかったので」

 鬼崎は言いながら聡介に視線を向ける。でもその顔は少し膨れ面だ。そんな息子にやれやれというため息を吐きながら真里はそっと席を立った。

「どうやら二人で話す必要があるみたいだから私は席を外すわね」

 真里はそう言うと部屋を出て行こうとした。けれど、出る前に聡介に声をかける。

「総ちゃん、ちゃんとお話するのよ」

 真里はそれだけを言うと部屋を出て行った。そして残ったのは鬼崎と目を合わせない聡介の二人だけ。

「聡介君……怒ってる?」

 伺うように聞かれて聡介は少しだけ顔を上げ、正直に気持ちを吐露した。

「……怒ってます」

 聡介はそう言うとまたぷいっと視線を外した。なにせ今は騙された気分だった。

 ……鬼崎さん、最初から知ってたなら言ってくれても良かったのにっ!

 そう思わずにはいられなかった。勿論、釣書を見ず、相手の事を両親によく聞いていなかった自分も悪いとはわかってはいる。それでも怒る気持ちが抑えられない。でもそんな聡介に大人の余裕を見せるかのように鬼崎は謝った。

「ごめん、聡介君。お見合いする相手が俺だって黙っていて」

 鬼崎は頭を下げて謝り、聡介は少しじろりとした拗ねた視線を向ける。

「……どうして黙ってたんですか。俺の反応を見て面白がってたんですか」
「いや、そういうつもりはなかったんだけど。お見合いが決まったのに全然その事について触れてくれない聡介君にちょっとした意地悪心が働いてね」

 痛いところを突かれて聡介は言い淀む。

「そ、それは……」
「まあ、いつか気が付いてくれるかと思ったけど、最後まで知らなかったみたいだし?」

 鬼崎に言われて段々聡介の方が気まずくなってくる。責めていた筈なのに、いつの間にか責められている。

「聡介君、お見合いをするって聞いていた筈なのに何にも知らない相手とお見合いをしようなんてなー。その上、お見合いが決まってたのに俺とデートするんだもんなぁ」
「あれはっ、別にデートじゃ」

 聡介にとってもあれはデート気分だったけれど、鬼崎にとってはランチして買い物に付き合っただけだろうと思っていた。でも鬼崎もそのつもりだったのだと知って嬉しい、この状況でなければ。

「俺はデートのつもりだったんだけど聡介君は違った?」

 そう聞かれて聡介はもう誤魔化せない。

「俺も……そう、思ってました」

 聡介が正直に答えれば鬼崎はニコッと笑った。でも、そんな鬼崎に聡介は口を尖らせて尋ねた。

「でも、そういう鬼崎さんだってこの前女の子を連れてたじゃないですか」
「ああ、彰の事か。あいつは俺の弟みたいなもんだよ。子供の頃から一緒にいてね、俺が最近お店によく食べに行くから一緒に行くって聞かなくて、連れて行っただけ。テツさんもやよいさんも知ってるよ」

 鬼崎はそうあっさりと答えた。その答えに聡介は胸の奥にあったモヤが急になくなるのを感じた。でもある言葉に引っかかる。

「弟? 妹じゃなくて?」
「あー、あの日は変装して連れて行ったからな。聡介君、”アキラ”ってタレントを知ってる?」

 鬼崎に聞かれて、聡介は「はい」と答えた。なんなら今朝のテレビのCMに出ている姿を見たばかりだし、子役から活躍しているので大抵の人は知っているんじゃないだろうか? と聡介は思ったが、不意にあの時の女の子の顔立ちを思い出し、鬼崎の言葉の意味を理解した。

「あ! もしかしてあの時の女の子って!」
「そう、”アキラ”なんだ。普通の格好で出歩くと人が集まってきちゃうから」

 鬼崎はそう説明し、聡介もすんなり納得する。

 ……そう言えば鬼崎さんは芸能事務所の社長だって話しだった。だからあの”アキラ”とも。でも……え? もしかして鬼崎さんってあの人気俳優が多く所属してるって有名な大手芸能事務所の社長さん!?

 芸能界に疎い聡介でも何度か耳にした事のある芸能事務所の名前を思い出し、目の前にいる鬼崎を見る。

 ……鬼崎さん、人材派遣会社だって言ってたのに。……いや、あながち間違いでもないかもしれないけど。でも所属している芸能人も顔負けのこんな格好いい人が社長さんなんて。

 テレビや雑誌で見るモデルにも引けを取らないスーツ姿の鬼崎を見て、つい聡介は見惚れてしまう。けれどそんな聡介に鬼崎は尋ねた。

「聡介君、納得してくれた? 他に聞きたい事はない?」

 鬼崎に聞かれて聡介は考えを巡らす。聞きたいことはまだまだ山のようにある。けれど一番に浮かんだのは樹の言っていた事だった。

「鬼崎さん……あの、樹兄ちゃんに『Ω嫌い』って聞いたんですけど」

 聡介がおずおずと聞けば、鬼崎はすぐにピンと来たようだ。

「ああ、高校の時の話を聞いたんだね?」
「……はい」

 勝手に聞いてしまった気がして聡介は少し気まずい。でも鬼崎は「まあ、あの頃の俺は尖ってたからな~。恥ずかしいけど」と照れくさそうにしつつも、話してくれた。

「ちょっと話が長くなるんだけど。……俺の親が今の芸能事務所を立ち上げてね、子供の頃からΩの子と会う機会が多かったんだ。ほとんどいい子ばっかりだったけれど、でもその中の一部にはαの俺に色目を使って来る人もいてね、俺はそれが本当に嫌で。だから、周りには『Ω嫌い』だと吹聴していたんだ。まあ、あんまり意味はなかったけど」

 鬼崎はあっさりした口調で言った。けれど、実際は大変だったんじゃないだろうかと聡介は想像する。だって目の前にいる鬼崎はこんなにも素敵だ。その上、樹が認めるほど優秀で、実家が大手芸能事務所だとすれば、きっとΩだけじゃない、βやα、老若男女問わずにモテたんじゃないだろうか。

 ……でも、それなら余計にどうして俺のことを?

 聡介が思わず視線を向ければ、鬼崎は優しく微笑んだ。

「正直今でもΩの子はちょっと苦手だ。でも聡介君は特別なんだ」

 淀みなく言われて聡介の胸はドキッと跳ねあがる。それなのに鬼崎はゆっくりと立ち上がると聡介の傍に歩み寄り、座ったままたじろぐ聡介の傍で腰を下ろした。

「き、鬼崎さん」
「聡介君、まだ俺の言葉を信じられない?」

 鬼崎はそっと聡介の手に自分の手を重ねて言い、心臓がドキドキしているのが手から伝わってしまうんじゃないかと聡介は余計胸が鳴る。

「し、信じられないというか、どうして俺なんだろうって思って。俺はΩらしくないし、俺はΩとしては」

 そこまで言った時、聡介は思い出した。両親が自分の体の不完全さをお見合い相手も了承していると。

「鬼崎さんは知っているんですよね? 俺が、発情期も迎えてないって」

 聡介が尋ねると鬼崎は「うん」と正直に答えた。

「この前のは突発的なヒートで、今後あるかもわかりません。そんな俺をどうして……もしかして、両親がこのお見合いを頼んだんじゃっ」

 聡介は不意に『自分を溺愛してくれている両親が無理にお見合いを鬼崎に頼んだのでは?』と思い当たったが、鬼崎はすぐに否定した。

「違うよ。確かにお見合いは聡介君のお父さんからの提案だったけど、そうして欲しいって俺が頼んだんだ」
「鬼崎さんが?」
「そうだよ。あの時は緊張した」

 鬼崎はその時の事を思い出したように笑って言った。

「お父さんが……。でもその時には俺の体の事、知らなかったんじゃ? もし断りにくくて困ってるなら」

 聡介がそこまで言うと鬼崎は「聡介君」と言葉を遮った。そしてちょっと怒っている。

「はい?」
「聡介君、俺の話を聞いてた?」
「え……聞いてましたけど」
「なら、なんで断りにくくて困ってる、なんて言葉が出てくるの。俺が頼んだって言ったよね?」
「いや、だって……」

 聡介は言葉に詰まる。そんな聡介の手を鬼崎は温かい手できゅっと握る。

「聡介君、教えて?」

 優しく問いかけられて聡介は小さな声で伝えた。

「……だって、俺は……全然Ωらしくないし、発情期もまだだし、鬼崎さんみたいな素敵な人が俺の事を……どうしてって。そう思って」

 自信のなさを正直に言えば、鬼崎は呆れたようなため息を吐いた。

「ふー、聡介君は自分の事を過小評価し過ぎじゃない?」
「そんなことっ」
「俺は聡介君のスラッとした体形もつやつやな黒髪も涼やかな目元も、意外と気持ちが顔にでちゃうお茶目なところも可愛いと思ってるんだけど?」

 好きな人に次々に褒められて聡介は恥ずかしくなる。

「なっ!?」
「それに俺はΩだから聡介君を好きになったわけじゃない。好きになった人がたまたまΩだっただけだよ」

 鬼崎にハッキリと言われて聡介は胸の奥がきゅうっと締め付けられる。

「鬼崎さん、俺の事……ホントに?」

 聡介が思わず尋ねると、鬼崎はくすっと微笑んだ。

「何度も言ってるだろう? 俺は聡介君が好きだよ」

 鬼崎の告白に聡介はじわじわと嬉しさが胸の中をせり上がってくる。

 ……鬼崎さんが俺の事を好きだなんて。

 心の中で言葉にするだけでも照れ臭い気持ちになる。けれどそんな聡介に鬼崎は尋ねた。

「だからね、さっきの電話の答えじゃないけれど……この前の事は俺にとっては役得だったんだよ。でも聡介君はどう思った? あの日の事。俺も聡介君の気持ちを聞きたい」

 真剣な瞳で尋ねられて聡介は恥ずかしい気持ちを抑えて、乾いた唇を一度舐めると何とか声に出した。

「俺も……嬉しかった、です。……俺も鬼崎さんが、好き、だから」

 本人を目の前に言うのは顔から火が出るほど恥ずかしかったけれど聡介が何とか伝えると鬼崎は満面の笑みを見せた。その笑顔が眩しくて、聡介はただでさえ胸がさっきから忙しないのにもっとうるさく鳴ってしまう。
 それなのに鬼崎は躊躇いなく、ぎゅっと聡介を抱きしめた。

「嬉しいよ、聡介君」

 優しい手つきで引き寄せられ逞しい胸に抱かれて、その上鬼崎の匂いが濃ゆく香れば聡介は体温が上がる。

 ……鬼崎さんに抱き締められてる! ……いい匂ぃ。

 鬼崎らしい魅惑的なαの香りに聡介はうっとりしてしまう。そして段々体が熱くなって、うなじがちりちりと焦がれてきた。

 ……ん、暑いな。でもこのままでいたい。

 聡介は熱を感じながらも鬼崎から自ら離れたくはなかった。むしろ、もっと傍にいたい。もっと鬼崎の匂いを感じたいと大胆にも自ら首筋に顔を摺り寄せた。

「ん……鬼崎さん」

 聡介は甘い声で囁いた。けれど、その声を聞いた途端鬼崎はバッと聡介から体を離す。

 ……あ、なんで離れるの?

 聡介は名残惜しくて、鬼崎をじっと見つめる。でも鬼崎も聡介を見ていた。



「……聡介君、もしかしてまたヒートが来てる?」
「え?」

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