青年オメガは変わり者アルファに恋をする

神谷レイン

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6 初めてのデートで

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 ――――約束の土曜日、お昼前。

 ……俺の格好、おかしくないよな?

 空は晴れて雲一つない空の下、聡介はお気に入りの服に身を包み、駅前で待っていた。
 今日はついに鬼崎と二人で会う日。聡介はドキドキしながら腕時計を見る。

 ……待ちきれなくて早く着いたからな。でも、あと二十分すれば鬼崎さんが。

 そう腕時計を見ながら思った時、遠くから「聡介君!」と呼ぶ声が聞こえて、声のした方を見れば鬼崎がこちらに向かって駆け寄ってきた。

「鬼崎さん」
「お待たせ。俺も早く来たけど、聡介君も早かったんだね」
「あ、えっと、遅刻しないようにっと思ったら早く着いて」

 ……本当は楽しみ過ぎて待っていられなかった、だなんで言えない。

 聡介は嘘を吐きつつ鬼崎を見る。今日はチェリー柄のシャツを着ていてちょっと可愛い。でも初めて見る柄だった。その事が顔に出ていたのか、鬼崎はシャツの裾を軽く引っ張って聡介に見せた。

「今日は聡介君とお出かけだから、下ろしたての服を着てきたよ」

 鬼崎はふふっと笑って言い、その得意げな笑顔も可愛くみえて。でもそれ以上に自分と会う為に良いものを選んで来てくれた事が聡介は嬉しかった。

 ……鬼崎さんも楽しみにしててくれたのかな。そうだと嬉しい。

「良く似合ってます」

 聡介が褒めると鬼崎はにこっと微笑んだ。

「ありがと。……さて、ここで立ち話もなんだし、とりあえず行こうか」

 そう鬼崎は言った。昨日の内にメールのやり取りをしていて、今日は鬼崎おススメの定食屋でランチをして、それから服を買いに行く予定なのだ。だから聡介は「はい」と答えたのだが、その途端またうなじがチリリッと痛んだ。

「?」

 聡介は咄嗟にチョーカーの上からうなじを抑える。するとまた痛みが消えた。
 この現象はここ数日何回も起きていて、この痛みにちょっと悩まされていた。

 ……この痛み、まただ。一体何だろう? 今度バース診療科に行くから先生についでに聞いてみようかな。

 発情期がまだ来ていない聡介は一応定期的に病院に通っていた、なのでそう思うが。

「聡介君、どうしたの?」

 突然うなじを抑える聡介を不思議に思ったのか鬼崎が尋ねてきて、聡介は慌てて誤魔化した。こんな事で心配されて家に帰されたくない。

「あ、昨日の夜ちょっと寝違えたみたいで。でも大丈夫ですから」
「そう?」
「はい」

 心配そうに見つめる鬼崎に聡介は嘘の罪悪感を覚えたが、それを見ないことにした。

「それより鬼崎さん、行きましょう」
「そうだね……じゃあ、行こうか」

 聡介に言われて鬼崎は歩き出し、その横をついていくように聡介は並んで歩いた。

 ―――うなじの痛みが何なのか、気が付かないまま。




 ◇◇◇◇




「……うーん。聡介君はスタイルがいいから何でも似合うな」

 腕を組んだ鬼崎はまじまじと聡介を見て言う。その言葉がお世辞じゃないとわかるから聡介は恥ずかしくなる。
 そして二人はランチをした後、予定通りアパレルショップに来ていた。

「そ、そんな事ないですよ。スタイルがいいのは鬼崎さんの方です」

 聡介は目の前に立つ鬼崎を見つめ返して言った。

 自分より少し高い180㎝にスラッとした体格。その割には筋肉はしっかりとついていてモデルでも通用しそうだ。

 ……鬼崎さんって髪型と分厚い黒縁眼鏡と服装をちょっと変えたら、ものすごく格好良くなるんじゃないかな。

 鬼崎を見てそう思うけれど、好きな人がモテてしまうのは困るので聡介はその事は口にしなかった。けれど、その自覚があるのか鬼崎は「そう?」とだけしか答えなかった。

 ……もしかして鬼崎さんって気が付いてて、この格好をしてるのかな?

 その様子を見て聡介は何となくそう思うけれど、鬼崎に声をかけられてその考えは中断する。

「うん、やっぱりこれが一番似合うと思う! 聡介君はどう?」

 鬼崎はそう言うと胸元に王冠の刺繍がされているワンポイントのポロシャツを手に持って言った。それは鬼崎が着ているようなフルーツ柄ではなく、お揃いになれないのは少し残念だったけれど似合うと言われれば聡介にとってそのポロシャツが一番になる。

「はい、俺もこれがいいかなって」

 聡介が言いかけると鬼崎はにこっと笑って「じゃあ、これを買おうか」と言って持っているポロシャツをそのまま手に抱え、近くの店員に声をかけた。

「これをお願いします。支払いはカードで」

 鬼崎はそう言うとポケットから財布と取り出すとあっという間にクレジットカードを店員に渡してしまった。

「あ、鬼崎さん! シャツは自分で払いますから!」

 聡介は慌てて声をかけるけれど鬼崎は「いいのいいの。じゃ、それでお願いします」と言い、店員は微笑ましそうに聡介を見てポロシャツとカードを手にカウンターレジへと言ってしまった。

「鬼崎さん、お昼ご飯も驕ってもらったのに」

 聡介はランチも鬼崎に支払って貰い、申し訳なくなる。けれどそんな聡介に鬼崎は困ったような笑みを見せた。

「こらこら。ランチの時も言ったけど、俺が格好つけたくて払ってるんだから気にしないの」
「でも……」

 やっぱり申し訳なさが聡介の中で勝ってしまう。なにせ今回は自分が連れてきて欲しいと強請ったのだ。だからシャツぐらいは自分で払うべきだと心が言う。

「聡介君。いつもお店でいいサービスをしてくれるんだからチップ代わりだと思ってよ。それに」

 鬼崎はそこまで言うと少し聡介に近寄ると耳元で囁いた。

「好きな子にはこれぐらいさせて?」

 耳元で、その上いつもとは違う少し甘い声で囁くように言われて、聡介はドキッとしてしまう。
 そして鬼崎を見れば、大人の余裕の笑みを浮かべていた。だから本気で言われたのだと勘違いしてしまいそうになる。

「す、好きな子って。また冗談をっ」
「んー、冗談じゃないんだけどなぁ」

 鬼崎はいつもの様子でそう言った。そして手早く精算処理を終えた店員が紙袋を持って戻ってきた。

「お待たせいたしました」
「あー、いつもありがとう」
「いいえ。こちらこそいつもご贔屓にありがとうございます。でも鬼崎様がお連れ様を連れてくるのは珍しいですね、事務所の方ですか?」

 店員は預かったクレジットカードと紙袋を渡しながら鬼崎に尋ねた。けれどその言葉が引っかかる。

 ……事務所? 事務所って鬼崎さんが勤めてるところの? 事務所って事はなにか事務関係の仕事かな? でも俺を見て、事務所ってどうして思ったんだろう?

 鬼崎の仕事はまだ詳しく聞いたことがなかったので、聡介は気にかかる。

「ああ、いや、この子はそう言うのじゃないんだ」
「あ、そうなんですね、失礼しました」
「いや、大丈夫だよ。それより、また新作が入ったら教えて」
「はい、勿論です」

 そんなやり取りを終えて、鬼崎は聡介を見た。

「じゃあ聡介君、行こうか」

 鬼崎に言われて聡介は「はい」と答えた。それから店員に見送られて、二人は店を出た。
 けれど聡介の頭の中はさっきのやり取りがまだ気にかかっていて、その事が顔に出ていたのか鬼崎に尋ねられた。

「さっきの、気になる?」

 突然問いかけられて聡介は「え?」と聞き返したが鬼崎はハッキリと尋ねた。

「事務所がどうとかって話」
「あ、えーっと、その……はい」

 聞いていいものかわからなかったが、やっぱり好奇心に負けて聡介は素直に尋ねた。

「鬼崎さんのお仕事ですよね?」
「そっ、まあなんというか人材派遣事務所的なところに勤めているんだ。その関係であの店とも関りがあってね」
「そうなんですか」

 ……人材派遣事務所! だから店員さんは俺の事を事務所の人だと思ったのかな?

 聡介は店員の反応を思い出して納得する。けれどそんな聡介に鬼崎が尋ねた。

「そういう聡介君は、今大学に通ってるんだよね? 確か国際科だったかな。将来はそういった方面で就職するの?」
「それはまだ考え中で……通訳とかそう言った方面で働けたらとは思ってますけど」

 聡介は正直に答えた。元々父親の仕事で海外出張について行くことも多かった聡介は、子供の頃から外国語に興味があって国際科に進学した。だが、どういった仕事に就くかはまだ決めていなくて。通訳も翻訳家も気になるところだが、それよりも今は『羽山』で働く方が楽しかった。時折外国人のお客さんの相手もしたりして。

「そういえば、お店に来た外国人のお客さんに流暢に話していたね」
「そんな事ないです。俺はまだまだで」
「そうかな? でも夢があるっていいね」

 鬼崎に言われて聡介は少し照れくさく、そして『夢』と言われてちょっと気まずい。
 だって聡介の一番の夢はもっと別のところにあるから。それは子供の頃からのもので、普段胸の奥に閉まっているけれど大人になった今でも変わらない。

 ……俺の本当の夢は……。

 そう思いながら聡介は鬼崎に視線を向ける。

「ん? どうかした?」

 視線に気がついた鬼崎に言われて聡介は慌てて目を逸らす。

「いえ、なんでもないです」

 ……俺の本当の夢なんて言えないよな。でも鬼崎さんなら俺の夢を。

 そう思いながら歩いていたが、聡介はなんだか体が段々熱くなってきてポッポッと頬が火照る感じがした。

 ……気温が高いのかな? 今日。

 聡介は「ふぅ」と息を吐く。けれどそんな聡介の手を鬼崎は突然掴んで引き留める。

「聡介君っ」
「え、鬼崎さん?」

 聡介が鬼崎に視線を向けると、なぜか心配そうな顔でこちらを見ていた。

 ……鬼崎さん、急にどうしたんだろう?

「聡介君、大丈夫? 顔が赤いよ」
「え?」

 鬼崎に言われて額に手を当てれば、いつもより熱いような気がした。でもそれは額だけじゃなく体全身が。

「あ、今日は天気がいいから」
「そうかもしれないけれど……ちょっと触るよ」

 鬼崎はそう言うと聡介の額に触れた。そうすると聡介のうなじがまたチリリッと焦げ付くように痛む。

「んっ」
「熱いな、具合が悪かった?」
「いえ、そんな事」
「とにかく今日は早く帰ろう。タクシーを捕まえるから」

 鬼崎はそう言って道路の方を見てタクシーを目で探した。けれど折角の今日をこんなにも早く帰りたくなかった。
 だって、今日は最初で最後になるかもしれない好きな人とのデートなのだ。……けれど。

「鬼崎さん、俺、だいじょう」

 そこまで言った時だった、聡介は立っていられなくなってグラッと前のめりに倒れる。そんな聡介を鬼崎は咄嗟に支えた。だが、さっきよりも聡介の体はどんどん熱くなり、それ以上に傍にいる鬼崎のいい香りに引き寄せられた。

 ……体熱い、鬼崎さんいい匂い。もっと近くで嗅ぎたい。

 そうすれば体の熱が治まるような気がした。けれど聡介を見た鬼崎は慌てた様子で手で自分の鼻と口元を抑える。

「ぐっ、まさか聡介君っ」

 ……鬼崎さん? どうしたんだろう?

 何かを堪えるように言う鬼崎に聡介は頭がぼんやりとしてきてわからない。けれど周りを行き交う人の言葉で、今がどういう状況なのか聡介はようやくわかる。

「おい、これってヒートの匂いじゃ?」
「誰だよ。抑制剤、飲んでおけよっ」

 その言葉が聞こえてきて、聡介はやっと自覚した。

 ……ヒート? あ、え? もしかして……俺が?

 自覚はなかった。でもぼんやりとする頭で考えている内に鬼崎に手を引っ張られた。

「聡介君、行こう」

 鬼崎はそう言うとよたよたと歩く聡介を連れて、裏通りへ迷いなく入って行った。

 ……鬼崎さん、どこに行くんだろ?

 行き先も告げられずに、ただついて行く聡介は先を歩く鬼崎の背中を見つめる。でも鬼崎は裏通りにあるラブホテルに躊躇いなく入ると、聡介が戸惑っている間に部屋に連れ込んだ。

 ……ラブホ、どうして? まさか鬼崎さん……。

 ちょっとした怖さと期待が胸の中に入り混じる。けれど大きなベッドが目に入って、熱で浮かされていても聡介は目のやり場に困った。

「あ、の、鬼崎、さん」

 聡介は躊躇いがちに名前を呼ぶ。けれど鬼崎は聡介をそのベッドの前まで連れてくると座らせた。

「聡介君はベッドに座って」

 聡介を座らせながらも鬼崎はきつそうな顔で言い、すぐさま聡介から離れると部屋に置かれているミニ冷蔵庫から水のペットボトルを二つ取り出した。そして鞄から小さなポーチを出すと錠剤らしきものを手にし、鬼崎は水と共にぐいっと飲んでから、すぐに聡介に尋ねた。

「聡介君、抑制剤は持ってる?」
「え? あ、俺、持ってない。今まで、ヒート、来た事ないから」
「じゃあ、俺が持っているものをとりあえず飲もうか」

 鬼崎はそう言うとポーチからΩ用の抑制剤を手にすると聡介の手に小さな薬を渡した。けれど聡介は疑問が過る。

 ……どうして鬼崎さんが、Ωの抑制剤……持ってるんだろう。

 でもその疑問は鬼崎に声をかけられてうやむやになる。

「さ、これで飲んで。普通の市販薬だから安心して」

 さっき冷蔵庫から取り出した水のもう一本の方を聡介に渡して言い、聡介は訳がわからないまま言われた通りにする。

 ……俺が、発情期(ヒート)。これが?

 信じられない気持ちのまま渡された薬を飲む。でもすぐには体の熱が治まらない。むしろ、どんどん酷くなっている。

 ……体の中が疼くような、人肌恋しいような。体が、ムズムズする。触って欲しい。触りたい。服を脱いでしまいたい。鬼崎さんに触れてほしい。

 段々と聡介の思考から理性が飛んでいく。それなのに。

「聡介君、もう少ししたら抑制剤が効いてくると思う。ここはヒートにも対応している所で安全だからね。俺は今から外に出るけど落ち着くまでここにいるんだよ」

 鬼崎はそう言って出て行こうとする。けれど、でもこんな体に熱を持て余したまま一人でなんていられない。
 だから、聡介は鬼崎に抱き着いて引き留めた。


「鬼崎さん、待って!」







********************
みなさん、"いいね"をありがとうございます。
そして、お分かりですね?
明日はイチャイチャ回です(*´꒳`*)(笑)
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