54 / 81
54 涙を止めるには……
しおりを挟む「シュリ! 落ち着け、魔力を抑えろ!」
俺はシュリに叫ぶ。でもシュリは悔しそうに泣くばかりで、俺の話を聞いていない。
そしてイーゲルは完全に腰を抜かし、シュリに戦いていた。
……どうにかして止めさせなければ!
「シュリ! やめるんだッ!」
俺はシュリに再度言うが、シュリは怒りで我を忘れていた。
……どうしたらシュリは落ち着く? どうしたらシュリは泣き止むんだっ?!
俺は必死に頭を巡らせる。だがこの時、焦っていた俺は愚かにも、母さんの書いた『愛の魔法』の言葉を思い浮かべてしまった。
『涙を止めるにはキスが一番だ☆』
俺はその言葉が頭に浮かび、何も考えずにシュリの体を抱き込むと、その顎に手をかけ、唇を塞ぐように口付けていた。
「んっ!」
突然の事にシュリは驚き、声を上げた。でも俺はシュリを止めるのに一生懸命で、口付けを続け……。
「んーっ! んんっ!」
シュリはどんどんっと俺の胸を両手で叩き、同時に地鳴りと揺れが収まった。
……止まった?
地鳴りも揺れもなくなったことに気がついた俺はようやくシュリから口を離した。
……もう大丈夫だな。
俺はホッとし、息を吐いた。だがシュリを見ると、シュリはゆでだこみたいに顔を真っ赤にさせて俺を見ていた。
……あ。
「ななななっ、あ、あ、あれ、アレクシス」
シュリは頭からぷしゅーっと湯気を出しそうな勢いだ。そんな顔を見ると、涙を止めるためにキスをした俺まで段々顔が赤くなってくる。
「あ、いや、シュリ、今のは」
そう言い訳をしようとした。だが、ネイレンに「に、兄さん」と呟かれ、俺はハッと周りを見回す。そこで俺は初めてここがどこで、何をしてしまったのか気がついた。
周りには呆気にとられた多くの賓客と騎士達。陛下さえ目を丸くしていた。
……俺は何てことッ!
「わわっ、悪い! シュリ!!」
俺はシュリから離れて謝った。
カァーーッと顔全体が赤くなるのを感じる。今すぐどこかに消えたい。しかし、こんな状況で逃げることなどできず。
……お、俺はどうしたらっ?!
と困惑していると、そこでタイミングよく、ヒューーッ、パンッパンッ!! と花火が上がり始めた。どうやら時刻は七時を迎えたようだ。
観客の視線は花火に移り、陛下が声を上げた。
「えー、コホン。とりあえず皆さん、花火を楽しみませんか。……誰か、明かりを」
陛下が声を上げると、会場の明かりは薄暗くなり、空に上がる花火が綺麗に見えた。その花火に「まぁ!」と令嬢たちは声を上げる。
その間にイーゲルはこそこそっと逃げ出し、俺とシュリの間には微妙な空気が流れる。シュリの顔が暗闇の中打ちあがる花火の色に染まる。
「あの、だな。……シュリ。落ち着かせようと、思って、だな。その、ごめん」
俺が謝るとシュリは顔を赤くしながらも、首を横に振った。
「ううん。俺もその感情的になりすぎた。……ごめん」
気まずい雰囲気が流れるが、シュリはふっと俺を見た。
「アレクシス……本当に怪我、大丈夫なのか?」
「大丈夫だ、ちょっと切れただけだから」
俺は額に手を当てて、たらりと垂れた血を拭った。
「でも、何かあったら危険だ。ルクナに見てもらった方がいい。ルクナは医療魔術が得意なんだろう? 俺は得意じゃないから」
「ああ、そうするよ」
俺が答えるとシュリはふいっと窓を見た。見事に窓ガラスは割れ、外の風が入ってくる。
……皆、忙しいから修理は明日かな。
俺はそう思ったけれど、シュリの瞳がほのかに光り、手を上げた。すると床に落ちて割れたガラスが元通りに戻って行く。そして瞬く間にガラスは割れる前の姿に戻った。
今はもう廃れてしまった修復魔術をシュリが使ったのだろう。
「折角のパーティーだからな。騒いだし」
お詫びのつもりでシュリが直したのだとわかり、思わず笑ってしまう。そう言うところがシュリらしいから。それにやっぱりシュリは怒るよりも、いつもの方がいい。
でも、俺の為に怒ってくれたこと。嬉しくないわけがない。
「ありがとう。シュリ、色々と」
俺が言うとシュリは俺が何に対してお礼を言っているのか、わからないのか首を傾げた。
「窓の事か? 気にするな。これぐらい」
「そうじゃないよ」
俺は笑ってシュリに伝えたが、シュリは不思議そうにまだ首を傾げていた。
だがそんな俺達の元にある人物が近寄り、俺は後ろからばしんっと背中を力強く叩かれた。あまりの強さに俺はちょっとよろめくが、なんとか振り返ってみるとそこには両親、いや父さんがいた。
なんだか生暖かい目で俺を見ている。
「いやー、熱烈だったな。アレクシス。これは責任を取らないといけないんじゃないか?」
父さんは面白がって俺に言った。さっきのキスした事を言っているのだとわかって、俺は思わず顔を赤くする。
「何馬鹿な事言ってるんです!」
「なんだか見ちゃいけないもの、見ちゃった気分だわー」
母さんにまで言われ、俺は恥ずかしくて恥ずかしくて。
ということで、俺は逃げることにした。
「俺は医務室に行ってきます。外の警備にも確認を取ってきますからシュリの事見ていて下さい! いいですね!」
俺が早口でまくし立てると、父さんは「おう、任せておけ」と呑気に言った。そして俺は逃げるようにシュリから離れた。
……あーーーーーーっ、穴があったら入りたいーーーっ!!
俺は速足で歩き、心の中で叫んだのだった。
そして、その後。パーティーは何事もなく無事に終わった。
ただ……石を投げ入れた犯人を捕まえられなかった問題を残して。
0
あなたにおすすめの小説
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
【完結】第三王子、ただいま輸送中。理由は多分、大臣です
ナポ
BL
ラクス王子、目覚めたら馬車の中。
理由は不明、手紙一通とパン一個。
どうやら「王宮の空気を乱したため、左遷」だそうです。
そんな理由でいいのか!?
でもなぜか辺境での暮らしが思いのほか快適!
自由だし、食事は美味しいし、うるさい兄たちもいない!
……と思いきや、襲撃事件に巻き込まれたり、何かの教祖にされたり、ドタバタと騒がしい!!
精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる
風見鶏ーKazamidoriー
BL
秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。
ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。
※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
白金の花嫁は将軍の希望の花
葉咲透織
BL
義妹の身代わりでボルカノ王国に嫁ぐことになったレイナール。女好きのボルカノ王は、男である彼を受け入れず、そのまま若き将軍・ジョシュアに下げ渡す。彼の屋敷で過ごすうちに、ジョシュアに惹かれていくレイナールには、ある秘密があった。
※個人ブログにも投稿済みです。
騎士は魔石に跪く
叶崎みお
BL
森の中の小さな家でひとりぼっちで暮らしていたセオドアは、ある日全身傷だらけの男を拾う。ヒューゴと名乗った男は、魔女一族の村の唯一の男であり落ちこぼれの自分に優しく寄り添ってくれるようになった。ヒューゴを大事な存在だと思う気持ちを強くしていくセオドアだが、様々な理由から恋をするのに躊躇いがあり──一方ヒューゴもセオドアに言えない事情を抱えていた。
魔力にまつわる特殊体質騎士と力を失った青年が互いに存在を支えに前を向いていくお話です。
他サイト様でも投稿しています。
竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜
レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」
魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。
彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる