エルフェニウムの魔人

神谷レイン

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54 涙を止めるには……

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「シュリ! 落ち着け、魔力を抑えろ!」

 俺はシュリに叫ぶ。でもシュリは悔しそうに泣くばかりで、俺の話を聞いていない。
 そしてイーゲルは完全に腰を抜かし、シュリに戦いていた。

 ……どうにかして止めさせなければ!

「シュリ! やめるんだッ!」

 俺はシュリに再度言うが、シュリは怒りで我を忘れていた。

 ……どうしたらシュリは落ち着く? どうしたらシュリは泣き止むんだっ?!

 俺は必死に頭を巡らせる。だがこの時、焦っていた俺は愚かにも、母さんの書いた『愛の魔法』の言葉を思い浮かべてしまった。

『涙を止めるにはキスが一番だ☆』

 俺はその言葉が頭に浮かび、何も考えずにシュリの体を抱き込むと、その顎に手をかけ、唇を塞ぐように口付けていた。

「んっ!」

 突然の事にシュリは驚き、声を上げた。でも俺はシュリを止めるのに一生懸命で、口付けを続け……。

「んーっ! んんっ!」

 シュリはどんどんっと俺の胸を両手で叩き、同時に地鳴りと揺れが収まった。

 ……止まった?

 地鳴りも揺れもなくなったことに気がついた俺はようやくシュリから口を離した。

 ……もう大丈夫だな。

 俺はホッとし、息を吐いた。だがシュリを見ると、シュリはゆでだこみたいに顔を真っ赤にさせて俺を見ていた。

 ……あ。

「ななななっ、あ、あ、あれ、アレクシス」

 シュリは頭からぷしゅーっと湯気を出しそうな勢いだ。そんな顔を見ると、涙を止めるためにキスをした俺まで段々顔が赤くなってくる。

「あ、いや、シュリ、今のは」

 そう言い訳をしようとした。だが、ネイレンに「に、兄さん」と呟かれ、俺はハッと周りを見回す。そこで俺は初めてここがどこで、何をしてしまったのか気がついた。
 周りには呆気にとられた多くの賓客と騎士達。陛下さえ目を丸くしていた。

 ……俺は何てことッ!

「わわっ、悪い! シュリ!!」

 俺はシュリから離れて謝った。
 カァーーッと顔全体が赤くなるのを感じる。今すぐどこかに消えたい。しかし、こんな状況で逃げることなどできず。

 ……お、俺はどうしたらっ?!

 と困惑していると、そこでタイミングよく、ヒューーッ、パンッパンッ!! と花火が上がり始めた。どうやら時刻は七時を迎えたようだ。
 観客の視線は花火に移り、陛下が声を上げた。

「えー、コホン。とりあえず皆さん、花火を楽しみませんか。……誰か、明かりを」

 陛下が声を上げると、会場の明かりは薄暗くなり、空に上がる花火が綺麗に見えた。その花火に「まぁ!」と令嬢たちは声を上げる。
 その間にイーゲルはこそこそっと逃げ出し、俺とシュリの間には微妙な空気が流れる。シュリの顔が暗闇の中打ちあがる花火の色に染まる。

「あの、だな。……シュリ。落ち着かせようと、思って、だな。その、ごめん」

 俺が謝るとシュリは顔を赤くしながらも、首を横に振った。

「ううん。俺もその感情的になりすぎた。……ごめん」

 気まずい雰囲気が流れるが、シュリはふっと俺を見た。

「アレクシス……本当に怪我、大丈夫なのか?」
「大丈夫だ、ちょっと切れただけだから」

 俺は額に手を当てて、たらりと垂れた血を拭った。

「でも、何かあったら危険だ。ルクナに見てもらった方がいい。ルクナは医療魔術が得意なんだろう? 俺は得意じゃないから」
「ああ、そうするよ」

 俺が答えるとシュリはふいっと窓を見た。見事に窓ガラスは割れ、外の風が入ってくる。

 ……皆、忙しいから修理は明日かな。

 俺はそう思ったけれど、シュリの瞳がほのかに光り、手を上げた。すると床に落ちて割れたガラスが元通りに戻って行く。そして瞬く間にガラスは割れる前の姿に戻った。
 今はもう廃れてしまった修復魔術をシュリが使ったのだろう。

「折角のパーティーだからな。騒いだし」

 お詫びのつもりでシュリが直したのだとわかり、思わず笑ってしまう。そう言うところがシュリらしいから。それにやっぱりシュリは怒るよりも、いつもの方がいい。
 でも、俺の為に怒ってくれたこと。嬉しくないわけがない。

「ありがとう。シュリ、色々と」

 俺が言うとシュリは俺が何に対してお礼を言っているのか、わからないのか首を傾げた。

「窓の事か? 気にするな。これぐらい」
「そうじゃないよ」

 俺は笑ってシュリに伝えたが、シュリは不思議そうにまだ首を傾げていた。

 だがそんな俺達の元にある人物が近寄り、俺は後ろからばしんっと背中を力強く叩かれた。あまりの強さに俺はちょっとよろめくが、なんとか振り返ってみるとそこには両親、いや父さんがいた。
 なんだか生暖かい目で俺を見ている。

「いやー、熱烈だったな。アレクシス。これは責任を取らないといけないんじゃないか?」

 父さんは面白がって俺に言った。さっきのキスした事を言っているのだとわかって、俺は思わず顔を赤くする。

「何馬鹿な事言ってるんです!」
「なんだか見ちゃいけないもの、見ちゃった気分だわー」

 母さんにまで言われ、俺は恥ずかしくて恥ずかしくて。
 ということで、俺は逃げることにした。

「俺は医務室に行ってきます。外の警備にも確認を取ってきますからシュリの事見ていて下さい! いいですね!」

 俺が早口でまくし立てると、父さんは「おう、任せておけ」と呑気に言った。そして俺は逃げるようにシュリから離れた。



 ……あーーーーーーっ、穴があったら入りたいーーーっ!!



 俺は速足で歩き、心の中で叫んだのだった。


 そして、その後。パーティーは何事もなく無事に終わった。
 ただ……石を投げ入れた犯人を捕まえられなかった問題を残して。



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