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76 ロニーの一言
しおりを挟む手紙を見つけてから二日後。
「……お二人とも、大丈夫ですか? 最近、ぼんやりとして」
隊長室で俺とエルサードはそれぞれの席に着き、ぼんやりとしていた。そんな俺達にロニーが呆れ顔で尋ねてくる。
「ああ、大丈夫だ。なんでもねーよ」
そうエルサードは答えたが、顔は全然大丈夫そうじゃない。憂鬱として、どこか物憂げだ。でも、きっと俺も同じ顔をしているのだろう。ロニーはエルサードと同じように俺の方にも心配げな視線を送ってくる。
でも何も言わない俺に、ロニーは小さくため息を吐いた。
「……とりあえず、書類を提出してくるついでに気が安らぎそうな薬草のお茶を淹れてきます。それまでに手元にある書類ぐらいは終わらせてくださいね!」
ロニーはそれだけを言うと部屋から出て行った。それを見送ってから、俺はエルサードに声をかける。
「まだ過去から帰ってきて、本調子じゃないんじゃないか。エルサード」
「そういうお前こそ、こっちに来ていたエルサルの弟が帰ってから、ずっと調子悪いらしいじゃないか。俺は、帰ってこない方がよかったんじゃないか」
エルサードは軽口を叩いて言ったが、実際そう思った事があるので気まずさにすぐ返事ができなかった。でもそんな俺を見て、長年親友で、幼馴染で戦友でもあるエルサードは俺の心を簡単に読んだ。
「フン、俺が帰ってきて悪かったな」
エルサードは鼻を鳴らして俺に言った。だから俺も思わず言い訳がましく返事をしてしまう。
「いや、そういうわけじゃない。お前が帰ってきて良かったと思っている」
「本当かよ?」
エルサードは不貞腐れたように言った。こうなったら、もうエルサードは何を言っても聞かないだろう。だから俺は話を変えることにした。
「違うって言っているのに。……でも、そういうお前こそ、過去で何があったんだ。以前とはすっかり雰囲気が変わって……いい人でもいたのか?」
俺が何気なく尋ねるとエルサードは椅子から立ち上がり「ば、バカ言ってんじゃね! 誰があいつなんか!」と慌てて言い、途端口が滑ったという顔をした。
どうやら、本当にいい人がいたようだ。
「そうか。いたのか」
「違うって言ってんだろ」
エルサードはむすっとした顔で腕を組み、椅子に座りなおして、背にもたれた。
「ただ……今頃過去で何してんのかなーって思ってるだけだ。みんな、よくしてくれたし」
エルサードの言葉に俺も共感する。シュリも今、何しているのか。
「そうだな。……何をしているんだろうか。どんな……人生を歩んだんだろうな」
俺はぽつりと言い、そこへさっき出て行ったはずのロニーが「提出書類を一枚忘れていました」と言って戻ってきた。そして仕事をまだしていない俺達に一瞥をくれる。
その視線に俺は慌てて仕事をしているフリをする。けれどエルサードは何のそのだ。
ロニーは書類がちゃんとあるか、今度はきちんと確認した後、はぁーっと大きなため息をついて、俺とエルサードを見た。
「お二人とも。そんなに気になるなら調べられたらいかがです? 過去の事なんですから、調べたら何かわかるかもしれませんよ。さっさと調べて、さっさと仕事に戻ってください」
ロニーはそれだけ言うと、またさっさと部屋から出て行った。年下のロニーの言葉が身に沁みる。
でも、ロニーの言葉にエルサードは小さく「そうだよな。調べたらわかるかもしれないんだ」と呟いた。
そしてちょっと考えた後、ガタッと席を立った。そんなエルサードに俺は声をかける。
「おい、どこに行く気だ」
「俺は資料室に行ってくる! 知りたいんだ、あいつらの事」
エルサードはそう言って出て行こうとし、俺はそのエルサードを追いかけるように席を立ち、その腕を引き留めた。俺には一つの懸念があったからだ。
「待て! ……お前はそれで大丈夫なのか? ……もしかしたら、誰かが非業の死を遂げている可能性だってあるんだぞ! そもそも五百年前だ、みんな死んでいる。それを調べて、お前は辛くないのか?!」
俺はそうエルサードに尋ねた。そう、みんな過去の事だ。誰かが不幸になっている人生だってあるかもしれない。それはシュリも同じだ。
調べたらシュリの事は出てくるかもしれない。でも俺じゃない誰かと共に歩んだシュリの事なんか、俺は知りたくなかった。
でもエルサードは一瞬の躊躇いの後、はっきりと答えた。
「わかっている。それでも知りたいんだ、あいつの事。……アレクシスは知りたくないのか? エルサルの弟が、どう生きたのか」
エルサードに言われ、俺の心は揺れる。
シュリの事を知るのは怖い。でも、気にならないというのは嘘だ。そして俺はその好奇心に負けた。
「はぁ。わかった……俺も行く」
俺がため息交じりに答えると、エルサードは俺の肩をぽんっと叩いた。
「それでこそ、うぃり、じゃなかった。アレクシスだ!」
「……お前。今、名前を間違えそうになっただろう」
俺がじろりと見て言うと、エルサードは笑って誤魔化した。
「細かいことは気にすんなよ! ほら、行こうぜ」
エルサードはまるで俺を遊びにでも連れていくかのように誘った。
それから俺達は資料室にこもって、五百年前の事を調べ始めた。
すると色々な事がわかってきた。
確かに、残された古い文献にはエルサルには弟がいるような記載はされていた。けれど、それは明確ではなく、そしてある時期を過ぎると、シュリの存在はぷつりっと消えたように書かれていなかった。
死んだから? とも思ったが、そんな記述もなく、またそれはルサカ国王についても同じだった。
さすがに王族だけあって、ルサカ国王の記述は多く残っていた。けれど、それは子供の頃だけの話で、大人になってからはどんな人物と結婚し、次代の王に王位を継がせたのか、全く書かれていなかった。
ルサカ国王の場合、話がルサカ国王の青年期から急に次代の王のルイーナ女王に話が飛んでいるのだ。明らかに不自然で、誰かが意図的にやっているとしか思えなかった。
……けれど、一体どうして?
特にルサカ国王の伴侶である王妃については、全くの記載がなかった。ルイーナ女王が生まれたのだから伴侶はいるはずなのだが。
一方、エルサルについては事細かに書かれ、その伴侶であるウィリアについてもそこそこ書かれていた。
残されている部分と残されていない部分。
それが意味するのは……?
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