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第百二十九話 邪魔者は誰

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「リアムも忙しいでしょうに、こんなことに付き合わせてしまってごめんなさい」

「いいえ、君が私にお願いをしてくるなんてこんなに嬉しいことはありません。それに、いつも忙しくしている君とこうやって二人で並んで歩けるのですから、こんなお願いならいつでも歓迎します」

 アルメリアの手を引いて共用のドローイング・ルームへ向かう途中、リアムはそう言って微笑んだ

「ありがとう、リアム」

「ところでアルメリア、やはり殿下の誕生会には出席なさらないのですか?」

 その質問に、アルメリアはイタズラっぽく微笑むと答える。

「表向きには出席することになっておりますけれど、あとニ週間もすると麻疹になる予定ですもの、無理ですわ」

「それは覆ることはないのですか?」

「そうですわね、ありませんわ」

それを聞くとリアムは寂しそうに言った。

「お誘いしたかったのですが、とても残念です」

「あら、リアムならわざわざわたくしを誘わなくとも、お誘いを待っているご令嬢がたくさんいますわ」

 アルメリアはそう言ってリアムを見上げる。そんなアルメリアを見つめ返し、リアムは真面目な顔になった。

「なぜそう思うのです?」

 突然の質問にアルメリアは戸惑いながら答える。

「それは、リアムはハンサムで仕事もできますし、ご令嬢たちからとても人気がありますもの」

「本当にそう思ってますか?」

 アルメリアは、リアムは自分に自信がないのだろうかと思いながら答える。

「もちろんですわ」

「ならば、君は私のことをどう思いますか? 結婚相手として考えることはできますか?」

 この質問を、リアムが自分に自信がなくてしているのなら『考えたこともない』と答えてしまえば、ショックを受けるかも知れない。そう思いながら、どう答えようか考えていると目的の場所に着いた。

「リアム、ドローイング・ルームに着きましたわ。早く入りましょう」

 アルメリアは返事をせず、誤魔化すようにドローイング・ルームへ入ろうとしたが、リアムは立ち止まりアルメリアを握る手に力を入れ引き留めた。

「アルメリア、君は今までそんなこと考えたこともなかったのでしょう。だから、今日はそうやって逃げることを許します。ですが、いずれ必ずこの返事をいただきますね」

 そう言うと、アルメリアの手にキスをした。そして、微笑むと中へエスコートした。

 中に入り辺りを見回すとリアムは、空いている席へアルメリアをエスコートする。
 心なしか集まっている貴族たちがアルメリアを見ていることに気がついた。リアムは不躾にアルメリアに浴びせられる視線から、アルメリアを隠すようにして歩く。

「こうなるのはわかっていましたから、できれば君を多くの男性の目にさらすような場所には連れてきたくないのですが」

「ごめんなさい、登城するような令嬢は珍しいですものね。物珍しくて見てしまうのもわかりますわ」

 リアムはアルメリアを見つめると微笑んだ。

「謙虚なのですね。私は君のそういったところも大好きです。ですが、もう少しご自身の存在価値を知った方がよろしいと思います」

「え? あの、今なんと?」

 そのとき背後から声がかかる。

「クンシラン公爵令嬢、こんなところでお会いできるとは思いませんでした」

 振り向くとフィルブライト公爵が立っていた。

「こんにちはフィルブライト公爵。本当に、こんなところでお会いするなんて、奇遇ですわね」

「先日もルーカスの治療をしていただいてありがとうございます」

 アルメリアは優しく微笑むと言った。

「いいえ。ところで卿とお話ししたいこともありますし、ご一緒にいかがですか?」

 リアムは一瞬横で、あからさまに嫌な顔をしたが気を取り直したように微笑む。
 それを見て、フィルブライト公爵は苦笑した。

「パウエル侯爵令息、こんにちは。君もあまりこちらでは見かけないが、珍しいね」

「そうですね、私もあまりこちらは利用しませんから。今日はアルメリアと二人きりでお茶をするつもりでしたが、フィルブライト公爵もご一緒なさいますか?」

 フィルブライト公爵は申し訳なさそうな顔をしてリアムを見ると、アルメリアに向き直って言った。

「是非ご一緒させて下さい。たまには大勢でお茶を楽しむのもよいでしょう」

「そうですわね、では立ち話もなんですから早く座りましょう」

 アルメリアは乗り気ではなさそうなリアムをせっついて、空いているテーブルへ向かった。

 席についてお茶が運ばれてくると、しばらく何事もなく世間話が続いたが、突然そこでアルメリアが思い出したように言った。

「あら、わたくしってばうっかりしていましたわ。今日こちらに差し入れの軽食を用意いたしましたのに、持参しておりませんでしたわ」

 そう言ってリアムを見つめる。

「リアム、少しお願いがありますの。メイドにわたくしの執務室にいるペルシックにそれを伝えるように言ってくださらないかしら?」

 アルメリアは暗に、リアムに席をはずしてほしいと言ったつもりだった。リアムはとても空気を読むのがうまい。なので、アルメリアはリアムがすぐにでも席を外してくれると思っていた。

 ところがリアムの反応はアルメリアの予想を裏切った。

「アルメリア、そんな気を利かせて軽食を振る舞う必要はありません。それにどうしてもと仰るのなら、次回振る舞えばよろしいではないでしょうか?」

 アルメリアは思わずリアムの顔を見つめる。

「リアム?」

「はい、なんでしょう?」

 リアムは笑顔でアルメリアを見つめ返した。口元は笑っているが、その目からはここをテコでも動かないと言う意志が感じられた。

 そこにフィルブライト公爵が咳払いをして口を挟む。

「パウエル侯爵令息、少し席を外してほしいと言うことではないかな?」

 それに対しリアムは笑顔で答える。

「なぜです? 今日は私がここにアルメリアをエスコートしてきました。失礼を承知で申し上げますが、社交界のマナーを卿はご存知ですよね?」

 社交界ではマナーとして、エスコートされた令嬢はエスコートしている男性と離れてはならないことになっている。
 なのでリアムにそう言われてしまえばその通りなのだが、実際はそれも時と場合によりけりだった。正式な場では絶対に守られなければならないマナーかもしれないが、ここはそういった場かというと、なんとも判断ができない。
  
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