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第百三十七話 とある貴族

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 それを受けてルーファスは苦笑すると言った。

「それはアルメリア、貴女が先ほど教えてくださった情報、すなわち船の拿捕による積み荷の件や、更にローズクリーンとキッドが繋がっているかもしれないという情報など、それらを知り得ていなければなんの役にも立たない情報だからではないでしょうか」

 確かに、言われてみればその通りかもしれない。ルーファスはそのまま続けて話す。

「私自身も教会本部のお手伝いで書類整理をしているときは、この書類をさほど重要なものとは思いませんでしたし。ですが、この書類だけでは現状証拠にしかならないのも確かです。お役に立てなくて申し訳ありません」

 アルメリアは慌てて首を振る。

「いいえ、これはとても大切な情報でしたわ。あとはその裏付けをとればいいことですもの」

 アルメリアがそう答えたとき、アウルスが軽く手を挙げ口を開いた。

「アンジー、君がこの件を調べることに注力しているのはよくわかっている。それを踏まえて、皆にツルスでの件を話しておくべきだ」

 そう言われて内心ドキリとした。

「話さなくてはだめかしら?」

 あまり周囲を心配させたくなかったので、この件については伏せるつもりでいた。許しを乞うようにアウルスを見つめるも、アウルスはただ首を振って答えるのみだった。

 アルメリアは気乗りしなかったが、仕方無しに話し始めた。

「先日ツルスに行った件ですけれど、実はツルスで不穏な動きがあったと報告を受けて、それでツルスに行くことにしたんですの」

 そうして帝国の脱走兵に殺されかけたことは話さず、彼らを捕らえてアウルスに引き渡したこと、その中でイーデンはこちらの味方についたことや、現在ローズクリーン貿易に潜入中であることも付け加えて話した。

 そこで今度はその話しに次いでアウルスが話し始める。

「その脱走兵を束ねていた男のことですが、後日私たちの尋問によって、ある事実を吐いた。それは今回の企てがチューベローズに依頼されたことだということ、そしてその本来の目的はアルメリアだったということをね」

 リアムやスパルタカス、リカオンはさっと顔を上げアルメリアに注目した。この事実を知っていたムスカリは、難しい顔をして目の前の一点を見つめていた。

 アルメリアは笑顔で言った。

「でも、ほらこの通りわたくしは無事ですわ」

 その後続く沈黙のあと、リアムが口を開く。

「アルメリア、君はいつその事を知ったのですか?」

 アルメリアは、少し戸惑いながらもその質問に答える。

わたくしも知ったのは最近ですわ」

「そうなのですか……、それを知ってさぞ怖かったことだと思います。ですが、それを知った今私たちは全力でお守りいたしますから、安心していてください」

 そう言うリアムの後ろでスパルタカスも大きく頷いて言った。

「そうです、私たちはそのためにいるのですから」

 その言葉にアルメリア以外の全員が頷いた。

「ありがとう。そう言ってくださったことわたくし忘れませんわ」

 そう言ってその場にいるものたちの顔を一人づつ見回した。すると、全員がアルメリアに優しく微笑み返した。

 アルメリアは、涙がでそうなのをなんとかこらえると、次にとある貴族が体験した宝石売買の一件を話し始めた。フィルブライト公爵の名を伏せたのは、彼の名誉のためだった。

 だがその場にいる全員がなんとなく、誰のことを言っているのか察しがついたようだった。

 チューベローズの人間が宝石を売ると偽って子どもたちに宝石を付けさせ、実質子どもたちを売ろうとしていたことを話したところで、全員が憤りを感じていることがわかった。

「おおよそ人間のすることとは思えない所業だ。自分の統治している国でそのようなことが行われていると思うと、本当に虫酸が走る。情けないものだ」

 吐き捨てるようにムスカリが言うと、リアムは頷き大きく深呼吸をしてそれに答える。

「いいえ殿下、奴らが卑劣すぎるのです。建国から騎士団と共に民衆にも馴染んでいた組織です。それが、信頼を裏切りこんな愚行を犯すなど、今までにも類を見ないことです」

「本当にその通りですわ。でも、卑劣な行いは更に続きますの」

 そう言ってその貴族がその後詐欺にあったこと、スカビオサがその後に言ったことを話すと、その場にいる全員が無言になった。
 スカビオサがそのときそう対応したということは、現教皇が悪事に手を染めているという事実に他ならないからだ。

 しばらく沈黙が続いたが、その沈黙を破ってアウルスが口を開いた。

「誰が黒幕か、証拠がない現状言及はできないが、その詐欺にローズクリーンか、その全身のエド・ローズが関わっているのは間違いなさそうだね」

 アルメリアは頷いて答える。

「そうなんですの。わたくしもそれを調べなくてはと思っているところですの。チューベローズは指示書などの書類管理が甘いところがありますわ。探せばどこかに詐欺の証拠も残っている気がしますの」

「それなら私が探しましょう」

 そう言って微笑むルーファスの顔をアルメリアはじっと見つめる。

「ルフス、大丈夫ですの? お願いしたい気持ちはありますけれど、クインシー男爵令嬢の罠ということはありませんの?」

「そういったことも考えられますが、それらを考慮しても、接触しなければ相手の出方もわかりませんから。でも、私も十分気を付けます」

「わかりましたわ。ありがとう、ルフス」

「アルメリア、一つ訊きたいことがあります」

 今度はリアムに声をかけられ、リアムへ向き直る。

「なんですの?」

「チューベローズに最初に目をつけられてしまった原因はわかっていますか?」

 そう質問され、アルメリアは改めて考えてみる。

「はっきりこれといった理由はわかりませんけれど、おそらくわたくしがやったことで彼らの悪事を妨害することになったのではないかと思いますわ」

 リアムは頷いた。



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