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第百八十二話 仲間割れ

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 リカオンの手を振り払うと、スカビオサは高笑いをした。

「馬鹿な、この私が詐欺に加担していたとでも言うのか。確かにその貿易組織には別の要件で行ったことがある。そこへたまたまそのふたりが居合わせたのだろう。だが、私とてその施設が詐欺に関与しているとは知らなかったのだから、私も被害者と言える」

 そこへフィルブライト公爵が前に出ると言い放った。

「私もその詐欺に騙された一人だ。しかも教皇から孤児の子どもを買わないかと打診され断ったあとにな。ここまで問い詰められてそれでもなお言い逃れするつもりか? 見苦しいぞ」


「フィルブライト公爵、貴男には美しい宝石を見ませんかと声をかけたことはありましたが、子どもを売るなど……。しかもその後詐欺にあったとして、私とどう繋がりがあるというのかね」

 するとそこに背後からやってきた一人の審問官がスカビオサに近づいた。よく見るとその審問官はアルメリアを逃がしてくれたあの審問官だった。

 審問官はスカビオサの背後に行くとこう言った。

「あの箱が見つかり確保いたしました」

 その瞬間スカビオサは突然その場に泣き崩れた。

「違うのです、私もクインシー男爵令嬢に騙されていただけなのです。私は愚かでした、こうやってみなさんに問い詰められるまで、妄信的に彼女を信じてしまうなんてなんと情けないことか。彼女を更正させたいと思っていましたが、私にもそれが無理だと今やっと理解いたしました」

 ダチュラは目を見開いてスカビオサを凝視する。

「はぁ? あんた、自分でなに言ってるかわかってんの?」

 そう言うと、首にかけていたネックレスについた鍵を取り外し、スカビオサに突きつけた。
 スカビオサは不思議そうにその鍵にチラリと目をやるとダチュラの顔を見上げて言った。

「その鍵がどうしたのです?」

「いいのかしら、あれが見つかったときに困るのはあんたなんだから」

 それに対しスカビオサはにやりと微笑むと言った。

「『あれ』とはなんでしょう?」

「あんた、よくもそんなこと……」

 ダチュラがそう言った瞬間、会場の入り口付近がやけに騒がしくなった。それに反応し全員が振り返りそちらに視線をやると、そこにいた貴族たちが左右に割れた。
 誰が来たのか見つめると、そこにはルーファスとマニウスを引き連れたアウルスがいた。三人はこちらに向かってゆっくり歩いてくる。

 アウルスはその手にあの箱を持っていた。

 スカビオサは驚いて先ほど箱が見つかったと耳打ちした審問官を見上げる。
 審問官はアルメリアを見て微笑んでからスカビオサに向かって言った。

「だから『確保した』と申し上げたではありませんか」

 スカビオサは審問官を憎々しげに睨み付けると、アウルスに視線を戻し苦虫を噛み潰したような顔をした。
 その逆にダチュラは歩いてくるのがアウルスだと気づくと嬉しそうに瞳を輝かせる。

「なんだ、やっぱりゲームの通りじゃない!」

 そう言ってアルメリアに蔑むような視線を向けると、アウルスに駆け寄り腕にすがりつく。

「きて下さったのですね、お待ちしておりました。ちょうど今、この国の腐敗を正していたところなのです」

 アウルスは冷酷な眼差しでダチュラを見つめた。アウルスがなにも言わないのをいいことに、ダチュラは勝手にベラベラと話し始めた。

「最初から説明しますわ」

 そう言ってアルメリアを指差す。

「あの令嬢が政治や騎士団に口出しをして、貿易組織を作り教皇と組んで詐欺や人身売買を……」

「黙れ」

「はい? 陛下、なんですの?」

「黙れと言った」

 ダチュラは驚いてアウルスをまじまじと見つめた。そんなダチュラを振り払うとアウルスはアルメリアに視線を移し優しく微笑みかけた。

 そして真っ直ぐにアルメリアの前へ歩いて行くと跪き、その手を取った。

「アルメリア、遅くなってしまった私を許してほしい、申し訳なかった。だが、やっと、やっと昔の約束通り君を堂々と迎えに来ることができた」

 そう言ってアルメリアの手の甲にキスをすると、ギュッと手を握りアルメリアを見上げる。

 ダチュラは一瞬なにが起きたのかわからないといった様子でアウルスを見つめていたが、状況を理解すると突然叫んだ。

「なんで、なんで、あんたなのよぉぉぉぉぉ!!」

 アウルスは立ち上がると振り返りアルメリアを自身の背後に隠し、顔を覆ってしゃがみ込んだダチュラを見つめた。

「愚かだな」

 アウルスがそう呟くと、ダチュラはなにかを思い出したようにパッと顔を上げアウルスを見ると鼻で笑った。

「あら、わたくしにそんなこと言ってもいいのかしら? 皇帝がお持ちのその箱の中身、わたくしの協力なくしては見ることはできませんわよ? ちなみに、その箱の中身は皇帝にとっても重要なことが書かれていますわ。知りたいのではなくて?」

 そう言ってダチュラは立ち上がると、ネックレスになっている鍵をちらつかせた。

「見て、その箱の鍵はあたしが持ってるの。この状況がわかるかしら? あたしにそんな態度とったら困るのは皇帝の方かもしれませんわねぇ。でも、今謝るなら無礼な振る舞いを許しますわ。それに、あたしの恋人にして上げてもよろしくてよ」

 アウルスは苦笑して答える。

「その鍵でこの箱を開けることはできない」

「はぁ? やだ、なに言ってますの? 悔し紛れかしら。でもあたしは貴男のことをとても気に入ってますから、そんな無礼も許しちゃいますわ。だってそもそもあたしは貴男に会うために今日まで頑張ってきたんですもの」

 アルメリアはそれを聞いてやっとダチュラの動きについて理解ができた。ゲーム内で皇帝が出てくるのはバットエンディングのときのみだ。
 ダチュラはアウルスと会うためにバットエンディングを目指すと共に、帝国へ追放される悪役令嬢のアルメリアの存在が邪魔で排除しようとしていたのだ。

 そして、アウルスと結ばれたのちロベリア国を思うがままにする予定だったのではないだろうか。

 まともに考えれば荒唐無稽であり得ない話なのだが、ダチュラは自分が主人公なのだからそれが可能だと思い込んでいたのだろう。

 その口車に乗ってしまったのがスカビオサだったのだ。
 
 スカビオサは弱みを握られたこともあったのだろうが、転生者であるダチュラの知識に彼女の言ってることを少しは本気にしたのかもしれない。
 だが、最初から自分の立場が悪くなることがあれば、罪を着せる予定だったのだろう。
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